「子々孫々、"語り"伝えるべき唄が此処にある──。『語りという表現方法で、次なる世代へ"唄"を語り伝えていこう!』そんなビジョンをもったイベント」(公式サイトより)という主旨のアコースティック・イベント『語り-gatari-』が、11月25日(日)東京・世田谷区民会館にて開催された。


出演はフルカワユタカ、大木伸夫(ACIDMAN)、the LOW-ATUSの3組。さらに、一般公募のオープニングアクトオーディションで選ばれた3組が、彼らの前に2曲ずつプレイした。

開演時刻は14:00、終演は17:40予定(結果、1時間近く押したが)という設定といい、場所が普段ロック系のライブで使われることはあまりない世田谷区民会館であることといい(おそらく立地・防音の問題でバンド編成でのライブは不可能なのだと思う)、屋内のライブ・イベントとしてはちょっとめずらしい形態。1200人キャパの客席は満員御礼、当日券なし。家族連れの参加者も多い。

まずオープニングアクト。
花海はサポートのピアニストとふたりでスタンドマイクで熱唱、とみぃはなこはアコースティック・ギターで弾き語り、Kacoはピアノ弾き語りで2曲ずつ。ほとんどのお客さんが初めて知るであろうにもかかわらず、そのたびに大きな拍手が広がる。その後、20分の休憩をはさんでから、メインアクト3組の出番になる。

「エントリーナンバー4番、東京からやって来ました、フルカワユタカです」というあいさつでひと笑い取ってから、「よろしく」と「too young to die」でライブがスタート。ギターのカッティングが鮮やかに響く「busted」、以前からよくカバーしているユニコーンの「すばらしい日々」、DOPING PANDA時代の「Crazy」等、全10曲を歌っていく。最初のMCでフレディ・マーキュリー・スタイルで「♪エーオ!」とコール&レスポンスを求めたり(映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観たから、とのこと)、「今日は細美くんに久しぶりに歌を聴いてもらえるかと思ったら、いないんです。
でも僕は歌います」と宣言するなどのパフォーマンスを受けて、客席もリラックスした空気。

the LOW-ATUS、大木伸夫、フルカワユタカが「唄」で競演 『語り-gatari-』レポート

Photo by Azusa Takada

が、「すばらしい日々」終わりのMCで、「(the LOW-ATUSのふたりが)いらっしゃったようですね」などと言っていたら、当のTOSHI-LOWと細美武士が手をつないで下手(ステージ左)から登場。フルカワをにらみながら無言でそのまま上手(ステージ右)に去り、客席は爆笑に包まれる。

一瞬あっけに取られたフルカワ、しかしすぐ立ち直ってオーディエンスにハンドクラップを求め、それをスネア代わりに、12月5日リリースのニューシングルの収録曲「クジャクとドラゴン」に突入。HAWAIIAN6の安野勇太とコラボし、メロコアに(実は)初めて挑戦したこの曲は、すでにラジオ等でのオンエアが始まっているので、それを聴いた人は、このアコースティック・バージョンの新鮮なアレンジに驚いたのではないか。

そこから「Crazy」「シューティングゲーム」「ドナルドとウォーター」でピークを迎え、終了。
去り際にフルカワは、オフマイクでもう一度「♪エーオ!」のコール&レスポンスを付け加えた。

このイベント、1アクト終わるたびに、「フルカワユタカさんでした」というふうにアナウンスが入る。それを受けての「発表会みたいですね。僕のときも言ってくださいね」というひとことからの「FREE STAR」で、大木伸夫のステージがスタートする。

初期の代表曲である「赤橙」や「アイソトープ」から2014年のシングル「世界が終わる夜」、2010年の「ALMA」など7曲をプレイ。2曲目に「赤橙」を歌い終わったときのMCでは「昨日まで、1000人以上入るところだと知らなくて。
私服でいいかと思ってたけど、こんな大きなとこだって知って、セットアップを用意しました」。のちに登場するthe L0W-ATUSも「100人ぐらいのとこだと思ってた」とのこと。

the LOW-ATUS、大木伸夫、フルカワユタカが「唄」で競演 『語り-gatari-』レポート

Photo by Azusa Takada

the LOW-ATUSと言えば、3曲目、さだまさしが書いた山口百恵の1977年のヒット曲「秋桜」を大木が歌い、オーディエンスがすっかりいいムードになったところで、それをぶち壊すようにステージに乱入。大木のハットを奪おうとするなどの狼藉を働いて去るが、大木、慌てず騒がず、「大好きです、筋肉以外は」と返す。

「世界が終わる夜」「ALMA」と、10年代のACIDMANにとってとても重要なポイントとなった曲が続く後半では、リリックにこめた意志を言葉にしてから歌に入っていく大木。ラストの7曲目は、「ある人から電話が来て、『セッションやれよ』って」と、フルカワユタカを呼び込み、ふたりで井上陽水玉置浩二の「夏の終わりのハーモニー」をデュエット。
上のパートと下のパートが入れ替わったりしながら響くふたりの美しいハモリに、大きな拍手が広がった。

the LOW-ATUS、大木伸夫、フルカワユタカが「唄」で競演 『語り-gatari-』レポート

Photo by Azusa Takada

そしてトリ、the LOW-ATUS。ステージの途中で「ここまでスヌス(SNSのこと)に書いていいからね、ここからはおまけだから書かなくていいから」などとTOSHI-LOWが言っていたのだが、まさにそんな具合で、どこまで書いていいのかいけないのか判断にとても困るステージだった。なので、以下、特徴的だったことをいくつか書きます。

ふたりとも大木のハットをかぶって登場、ギターを鳴らしながら大木のMCのモノマネからスタート。思わず大木、止めに入ったが、このモノマネはその後何度も何度もくり返された。
にしても、ギターの響きが大木のそれと同じであることに感心していたら、その何度目かのときにTOSHI-LOW、「いやあ、大木のエフェクター、おもしろいわ!」。大木、ステージに出て来て「ええっ、これ俺のなの?」。勝手に拝借していたそうです。

本来の持ち時間は50分だったそうだが、結果、90分超え。途中で「ほんとはこのへんで終わりです」「90分に延長します、止められるまでやります」などと宣言しながら進行。で、歌ったのは全部で7曲。フォーク・クルセダーズ「イムジン河」、河島英五「酒と泪と男と女」、CCR「雨を見たかい(Have You Ever Seen the Rain)」、BRAHMAN「今夜」、ELLEGARDEN「Make A Wish」、ソウル・フラワー・ユニオン/ヒートウェーヴ「満月の夕」、アンコールでザ・ブルーハーツ「青空」。

「青空」にはフルカワユタカと大木伸夫も参加。フルカワ自身「昔はこんなふうにイヤな奴だった」という鉄板エピソードで細美にいじられた上に、曲後半のギターソロでは、終わろうとするたびに「もっと!」と延々と弾かされる。

そもそも、ふたりでステージに上がってから最初の1曲目を歌うまでに、約30分を要した。まず長々とMC、そして細美が観に来ていた仲間の某ミュージシャンを突然ステージに呼んで歌えと要求。しかもセッションとかではなくて、彼が腹を決めて歌い始めると、ふたりはステージを去る。彼の2曲にオーディエンス大喜びでした。なお、アンコールでも細美、観に来ていた某知人をステージに上げた。

the LOW-ATUS、大木伸夫、フルカワユタカが「唄」で競演 『語り-gatari-』レポート

Photo by Azusa Takada

まだまだあるけどこれくらいにしておきます。というわけで、TOSHI-LOWと細美武士、ふたりのあまりの自由さに、もう本当に終始爆笑に次ぐ爆笑のステージだったのだが、ただし──この日の選曲にも表れているが──その爆笑の合間合間に、細美の語りと楽曲で、今の世の中や今の政治、今の人の心の動きなどに対する、ふたりの思いを伝えていくライブでもあった。

the LOW-ATUS、大木伸夫、フルカワユタカが「唄」で競演 『語り-gatari-』レポート

Photo by Azusa Takada

the LOW-ATUS、大木伸夫、フルカワユタカが「唄」で競演 『語り-gatari-』レポート

Photo by Azusa Takada

たとえば、「雨を見たかい」を歌う前。彼らが以前から歌い続けているこの曲は、ベトナム戦争で米軍が用いたナパーム弾のことを歌ったものであること、それにTOSHI-LOWが日本語詞を付けて自分たちは歌っていることを、細美がていねいに説明する。今日ここで初めてthe LOW-ATUSを観る人たちにもしっかり伝えたい、という意志を感じる。

特に後半の「今夜」「Make A Wish」「満月の夕」のブロックは、本当に感動的なものがあった。「Make A Wish」では大きなシンガロングが巻き起こり、「満月の夕」では「♪イーヤーサーサー」と合いの手が飛ぶ。アンコールの「青空」も、(フルカワをいじり倒して笑いを取りながらだったのに)、29年前に真島昌利が書いた「生まれた所や皮膚や目の色で いったいこの僕の何がわかるというのだろう」のラインが、改めて切実に響くように感じた。

the LOW-ATUS、大木伸夫、フルカワユタカが「唄」で競演 『語り-gatari-』レポート

Photo by Azusa Takada

冒頭に書いたこのイベントの趣旨をもっとも体現していたのは、やはり、このふたりだったということだろう。

終演後、フルカワユタカに「お疲れ様でした。大変でしたね」と声をかけた。フルカワ、「いやいや、全然大丈夫ですよ。前からいつもああいう関係だから。俺がパッとそのモードに入ればすむことですから」と言ったあと、しばらく間を置いてから「……いや、でも、疲れてるな……」とひとこと。笑いました。改めて、お疲れ様でした。