キース・リチャーズは、直近の海外ツアーでの数々のハイライトについて語ってくれた。
同世代のポール・サイモンやエルトン・ジョンがツアー生活に別れを告げる中、ストーンズはコンサート回数を増やしている。ノー・フィルター・ツアーの最後の日程がスタートしたのが4月20日、マイアミのハード・ロック・スタジアム公演だった。そこから6月25日のシカゴでのツアーファイナルまで、2ヶ月間で14都市をまわり、おおよそ100万人の前で演奏したのである。1964年にステーションワゴンで各地をまわりながら、初めてアメリカをツアーした頃を思い出しながら、「ここ(アメリカ)が俺たちの最初の猟場だったのさ」と、リチャーズがローリングストーン誌に教えてくれた。「正直に言うと、こんなに長いこと生きていられるなんて、俺自身が一番驚いている。
2016年のデザート・トリップ以来のアメリカツアーのために、ストーンズは長めのリハーサルを行い、セットを見直した。「それこそ、9ヶ月くらい車庫に放置していた車を引っ張り出す作業って感じだった。もう一度、慣れる必要があったね」とリチャーズが言う。しかし、彼らがリハーサルを続けた一番の理由は楽しかったからだ。リチャーズは、彼らがカバーしたソロモン・バークのソウル曲「クライ・トゥ・ミー/Cry To Me」もライブでやりたいとすら言う。
ギタリストのロニー・ウッドも最近バンドのセットリストのことを考えることが多いという。老練のアーティストであるウッドは、『Set Pieces(原題)』というコーヒーテーブル本を出版する。これには過去20年間、ウッドがツアー中の楽屋で描いた400点以上のセットリスト画が収められている。「最終的なセットリストが決まると、それをキャンバスに描くだけだよ」と、楽屋で必ずやっている作業についてウッドが教えてくれた。自分で描いたセットリストを見直してみて、ウッドは今回のツアーで演奏する曲のアイデアがたくさん浮かんだらしい。特に「ビースト・オブ・バーデン/Beast of Burden」と、最近ドイツのハンブルグで約30年振りに演奏した「プレイ・ウィズ・ファイア/Play With Fire」が入ることを願っている(ウッドは「ミックは『プレイ~』がどれだけ良い曲か、わかっちゃいなかった」と言う)。
バンドのセットリスト作りを担っているのはジャガーだが、サウンドチェックやホテルでメンバーのアイデアに耳を傾けてもいる。「ヤツはけっこう正直で、『前にこの曲をここで演奏している』とか、『ここではこの曲はウケない』とか、はっきり言うんだよ」とウッド。「そうじゃなきゃ、『ああ、それはいいな』って返事する。ミックの反応は予想できないけど、やらないにしても、その理由は理に適っている」と教えてくれた。また、ウッドはツアー直前の小さなクラブでのウォーミングアップ・ライブができることを願っているとも言った。
リチャーズにとって、個人的な理由で今回のツアーはいつもと違うらしい。その一番の理由とは、彼がほとんど酒を飲まなくなったことだ。「もう1年になるよ」と、リチャーズが静かに話した。「アルコールから撤退したのさ。もう十分飲んだからね」と。とは言いつつ「ワインをグラス1杯、あとビール1缶かな」と、まだ時々飲酒することは認めるも、快楽主義者として名高いリチャーズにとっては大きな第一歩だ。「やめ時だったのさ。他のことと同じだよ」と、リチャーズが言った。それが人生の修正かと問うと、「そんなふうに言うこともできるよ、うん」と笑って、「でもな、俺的には何も変わっちゃいない。酒を飲まないだけでね。
何十年も薬物乱用を続けて、2010年にやっとクリーンになったウッドにとっても、リチャーズのほぼ禁酒は嬉しいことだった。そして、ウッドはリチャーズの大きな変化を感じているという。「仕事していて楽しい男になった」とウッド。「前よりもかなり落ち着いていて、他人のアイデアにも耳を貸すようになった。以前のヤツなら、俺は『こう言ったらヤツはきっとめちゃくちゃ言い返すな』って考えて、歯を食いしばって我慢していたけど、今のヤツは『ああ、それ、クールだぜ』だからね」と、リチャーズの変化を喜んでいるようだ。

2018年6月19日のロニー・ウッドとキース・リチャーズ。イギリスのロンドンにて。
「飲むことのメリットがなくなったってことだよ」と、ウッドが酒を飲んでいた頃のリチャーズについて教えてくれた。「俺たちがよく知っている愛すべきキースというがいて、そのキースには酒をやめるべきタイミングというのがあった。つまり、もう1杯飲むと限界を超えて、一直線に最低な酔っぱらいになるっていうポイントさ。そして、歳を取るにつれて、そのポイントまでの距離がどんどん短くなる。
ウッズはクリーンになったことで、人生に大きな変化をもたらすことへの心の準備ができたと言う。彼の人生に大きな変化をもたらしたこととは、2016年に誕生した双子の娘アリスとグレイシーと、その2年後に彼を襲ったガンの恐怖だ。「あのときにクリーンになる決心をしてラッキーだった。その後、俺に起こる出来事すべてをちゃんと受け止められたから。ガンも何もかも、すべてね。ガンは転移していなかったおかげで、一ヶ所を切除するだけで済んだし、人生を取り戻すこともできた。セカンドチャンスに恵まれて、娘たちにも恵まれて、今の俺の人生は素晴らしいの一言さ。キースも今後、同じような感覚を覚えるはずだ。ビールはしばらく飲むかもしれないけど、徐々に量を減らしていって……上手く行くことを祈っているよ。もし完全に禁酒するなら、俺は全力でサポートするね」とウッド。
リチャーズも2018年のツアーの初めに、ステージで違いに気付いたという。
ストーンズはこの良好な雰囲気をスタジオにも持ち込もうと計画している。彼らは2005年の『ア・ビガー・バング/A Bigger Bang』以来のオリジナル・アルバム制作を続けるつもりだ。ここ3年ほど、ジャガーとリチャーズは一緒に楽曲を作り、レコーディングを続けているが、最近12曲ほど新曲を聞いて、作業を続けることにしたとウッド。「ミックとキースが確実にいい曲じゃなきゃダメだと思っている。だから、俺たちは一歩下がって、進展を見守っているのさ。曲を聞いてみて何かが足りなければ、足りないスパイスを加えるって感じでね」と言う。
2017年に、バンド最年長のドラマーのチャーリー・ワッツ(現在77歳)が、バンドが活動をやめたらどうするかと聞かれて、「俺はそれでもいいと思う」と言って、引退をほのめかしたと言われている。しかし、ウッドは、それは間違っていると主張した。「彼の生きがいは音楽だよ。彼自身が認めようが、認めまいがね。バンドと一緒にプレイしていると彼の体調が良くなるし、見るからに健康そうになる。面白さも増すし、普段よりも人生を謳歌している。彼の仕事は本当にハードだよ。ライブの後は毎回マッサージが必要になるくらいだもの。ほんと、俺たちのライブでドラムを叩くって、とんでもなく体力がいるから」と、ウッドが説明してくれた。
一方、リチャーズは、将来的にツアーは「一度に一回」にすると言うが、今のところは大丈夫のようだ。ストーンズの関係者の話によると、次のツアーのチケットは2015年のジップ・コード・ツアーのときよりも早くソールドアウトになっているらしい。「今回が最後になるかもしれないな」と、そうじゃないことを祈ると言いつつ、リチャーズが認めた。そして、「これが俺の天職さ。5万人の観客の目の前が俺の居場所だよ。ステージに行く前にロニーと『ステージで演奏して、平和と平穏を感じようぜ』ってよく言うんだよ」と付け加えることも忘れなかった。