ジーザス&メリーチェインやモグワイ、フランツ・フェルディナンドらを生み出したUKインディーの聖地、スコットランドはグラスゴーの至宝ティーンエイジ・ファンクラブ(以下、TFC)が今年2月、およそ2年ぶりの来日公演を東名阪にて行なった。
一度聴いたら誰もが口ずさみたくなるグッド・メロディと、シンプルなバンド・アンサンブル。USオルタナの雄ドン・フレミングのプロデュースによるセカンド・アルバム『Bandwagonesque』を1991年にリリースし、同郷プライマル・スクリームの『Screamadelica』やマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』と共にクリエイション・レコーズの最初の黄金期を築き上げ、ブリットポップ・ムーヴメント真っ最中には『Thirteen』や『Grand Prix』といったアルバムを投下し元祖パワーポップの面目を躍如したかと思えば、続く『Songs from Northern Britain』ではノーマン・ブレイク、レイモンド・マッギンリー、ジェラルド・ラブという3人のコンポーザーがそれぞれのルーツに立ち返った珠玉の名曲を持ち寄った。その後もジョン・マッケンタイア(トータス)をプロデュースに迎えた『Man-Made』など、アルバムごとに新たな試みに挑戦し続けながらも常にエヴァグリーンな楽曲を作り続け、今なお世界中から愛され続けている。
実際、ツアー初日の東京公演に駆けつけたのはリアルタイム世代のみならず、20代と思しき男女も大勢いたようだ。昨年、結成時からのオリジナル・メンバーであるジェラルドが脱退し、ベル&セバスチャンのサポートでも知られるデイヴ・マッゴーワンがサポート・ベーシストとして加わるなど、バンドとしての大きな転換期を迎えた彼ら。今後の方向性がどのようなものになるのか確かめる意味でも、今回の来日公演は貴重なものだった。
そこで今回RSJでは、ノーマンとレイモンドにバンドの要である「ソングライティング」について改めて聞いてみた。初めて曲を作った頃のことや、曲作りのプロセス、”あの名曲”が生まれたエピソードなど、時間の許す限りたっぷりと語ってくれた。

Photo by Kazumichi Kokei
―今日は、お二人に曲作りについてお聞きしたくて。
ノーマン:いいね!
レイモンド:なんでも聞いてくれ。
―まず、初めて曲を作った時のことを教えてもらえますか?
レイモンド:音楽を始めた頃は、アイデアが浮かんでもそれが曲として完成してなかったりするからなあ。
ノーマン:俺は、思いついた断片をBMXバンディッツのダグラス(・T・スチュワート)にあげた記憶がある。「欲しい」って言うからさ、それが最初の曲なのかもしれないな(笑)。まだBMXバンディッツを結成する前だったはずだけど、とにかくダグラスにあげたんだ。
レイモンド:俺が最初に書き上げたのは「Escher」だね。アイデア自体はギターを弾き始めたばかりの頃だから80年代のアタマにはあったんだけど、しばらくこの曲のことを忘れててさ。で、『Thirteen』(1993年の3rd)用の曲出しをしている時に、ふと「そういえば、あの曲はどんなだったかな」と思って一生懸命に思い出し、それをスタジオに持って行ったんだよ。なので最初に浮かんだ時とは、だいぶ違っているかもしれないけど。
―ソングライティングのプロセスそのものは、この30年で変化してます?
ノーマン:変わったね。若い頃って、自分が影響を受けた音楽がそのまま反映されてしまうことが結構あって。誰だってきっとそうだよね。ボブ・ディランだって最初は模倣から始まったと思うし、ビートルズもそう。
「One After 909」はビートルズのラスト・アルバム『Let It Be』に収録されているが、ジョン・レノンが10代の頃に作った楽曲である。
レイモンド:曲を作るには、自分自身をそういうモードに持っていく必要があるんだけど、若い頃はなかなか上手くいかなくてね。自意識が邪魔をしてしまうというか、曲作りに浸りきることができなかったんだよ。自分らしい曲が作れるようになったのは、そういう自意識に邪魔されなくなってからのことなんだよね。うーん、ソングライティングのプロセスを、口で説明するのって結構難しいな(笑)。
―お互いの作風については、どう思ってます?
ノーマン:レイはギターが上手いから、例えばアルペジオを弾きながら、それに絡むようなメロディとか自由に紡ぎだすことができるけど、俺はギターがそんなに上手くないからね。よくやるのは、ギターのチューニングを変える方法だ。例えば、6弦のEをDに落としてストロークすると、レギュラー・チューニングとは違う響きが生まれてインスピレーションを得やすくなる。ニール・ヤングも同じようなことをやっているみたいだよ。
―なるほど、響きを変えることで自分のモードを変えてるわけですね。
レイモンド:俺が思うにノーマンの作る曲は、ちょっと構成が変わっているものが多い気がするな。コーラスパートが曲の最後に再び登場するとか、割と当たり前のようにやっているけど、実は風変わりだと思うよ。
―「The Concept」(1991年の2nd『Bandwagonesque』収録)とかはまさにそうですね。
ノーマン:それってレイ・デイヴィスもよくやる手法だよね。彼の作る曲はいたってシンプルだけど、構成が変わってるんだ。確かに、俺の曲もそういうところがあるかもしれない。ただ、別に意識して「よし、変わった構成にしてやれ」って思ってるわけじゃなくて、作っているうちにいつの間にかそうなっていることが多い。ビートルズもそうだよね。よく聴くと実は摩訶不思議な構成や、変拍子を使った曲が多いけど、おそらく「なんであんなこと思いついたんだ?」ってジョンに聴いても、「別に? 作ってたらああなっただけだよ」って答えると思う。
だから、例えば5+4+4拍子の曲や、気づいたらキーが変わってる曲が僕らにはあるけど、意識して作風が出来上がったというよりは、作り続けているうちに、自然と身についたものなんだよ。


Photos by Kazumichi Kokei
―アレンジについての考え方も変わりました?
ノーマン:うん。昔は曲ができた時に「ギターはこうして、ベースはこうなって」みたいなことも考えてたんだけど、最近はそれもなくなった。ブライアン・ウィルソンなんて、細かいフレーズまで全て自分でスコアに書き込んでコントロールしてると聞くけど、他のメンバーに任せるところは任せてしまって、それぞれがクリエイティブに取り組んでくれた方が、結果的にいい曲に仕上がると僕は思うな。最近は、そういうプロセス自体を自分でも楽しめるようになったね。そうそう、2週間前にハンブルグでレコーディングをしたんだけど、その時は僕の作った曲に、レイがメチャメチャいいベースラインを付けてくれてさ。
―「ダメ出し」される事もある?
レイモンド:もちろん(笑)。その瞬間は「なんだよ、せっかく考えたギターフレーズなのに」って思うけど、まあそういう時もあるって最近は思えるようになったな。とにかくノーマンの曲は、あまり頭で難しく考えずに思いついたフレーズを、片っ端から試すようにしている。
―例えば「About You」(1995年の4th『Grand Prix』収録)は、レイモンドにとって、初めてアルバムのリードトラックになった曲ですが、あれはどんな風に作ったんですか?
レイモンド:ちょうどドラムがブレンダン・オハラからポール・クィンに変わった時で。新しいメンバーで曲を作りたいと思ったんだよね。確かツアー先のホテルだったかな、場所は忘れちゃったけど、「明日のライブでは新曲を披露しようぜ」って盛り上がってさ。とりあえず手っ取り早く完成させなきゃっていう気持ちもあって、あんなシンプルな楽曲になったんだよ。
―確かにシンプルですが、ライブでもメチャメチャ盛り上がりますよね。コーラスから始まるのもインパクトあるし。
レイモンド:思いついた順に並べたらああなっただけで(笑)、「コーラスから始まったらびっくりして盛り上がるはず!」みたいな作為的な気持ちがあったわけではないんだよ。
―なるほど。じゃあ、ノーマンの「Everything Flows」(1990年の1st『A Catholic Education』収録)は?
ノーマン:最も初期の楽曲の一つだね。実はボーイ・ヘアドレッサー(TFCの前身バンド)時代に書いたんだ。あのバンドでやろうと思って書いたんだけど、レコーディングする前に解散してしまった。TASCAMの4トラックMTRを使って、レイと一緒にデモテープを作ったんだけど……。
レイモンド:どっちのアパートでだっけ。忘れちゃったな、MTRはノーマンのだったね。僕も結構、アイデアを出したんじゃないかなあ(笑)。で、それを他のメンバーに聴かせたら「いいんじゃない?」ってなってレコーディングした。
ノーマン:それほど時間もかけず、パパッと出来た気がする。それを未だにやっているんだから不思議だよね(笑)。もちろん、今やっても相変わらず楽しいし、最後の長いギターソロも毎回エキサイトする。
―あの、延々と続くようなチョーキング・ギターは誰のアイディア?
ノーマン:あれはレイだね。
レイモンド:プリプロの段階ではまだ入ってなかったんだけど、本チャンのレコーディングでドラムがフランシス(・マクドナルド)からブレンダンに変わって、彼のドラミングを聞いていたら思いついたんだよ。
ノーマン:そういえば20年くらい前、ジョン・ピール・セッションに出演したJ・マスキス(ダイナソーJr.)が、この曲をカヴァーしてくれたのは驚いたな。しかもギターはロン・アシュトン(ストゥージズ)だったしさ。その時のJのチョーキングも凄まじかったよ。
―「About You」も「Everything Flows」も20年以上前の曲なのに、未だにライブの人気曲であり続けているのは何故だと思いますか?
ノーマン:なんでだろう?(笑) 基本的に、俺たちの姿勢がずっと変わってないからじゃないかな。強力なメロディと、それを支えるドラムとベース。そういう曲をずっと書き続けているから、昔の曲も今の曲も同じように愛されているのかも知れない。でも、正直なところ自分でもよく分からないよ。
レイモンド:「自分たちらしさ」を大事にしてきたからだと思う。小賢しいことを一切やらず、自分たちのために、自分たちが納得のいく曲を、直感に従って書いてきたからね。そのおかげで、何人かの支持者を得ることが出来たんだ。
―「何人か」って(笑)。では最後の質問です。昨年からジェラルド・ラブがバンドを離れました。TFCって、あなたたちとジェリーという3人のソングライターがいて、「自分で作った曲を自分で歌う」というやり方をこれまで貫き通してきたわけじゃないですか。これからジェリーの曲は、ライブでどうするつもりですか?
ノーマン:そう、君の言う通りだよ。だからジェリーの曲は、今後ライブではやらなくなるだろうね。本人とも話し合ったんだけど、彼以外の人が「Star Sign」(『Bandwagonesque』収録)や「I Need Direction」(2000年の6th『Howdy!』収録)を歌うのは違うんじゃないかなと思ってさ。実はこの間、ジェリーが抜けた後に作った新曲(※)を彼にEメールで送ったら「いい感じだね!」って言ってくれて、それを(来日ツアーの前にライブした)香港でも披露してみたんだ。今日もやってみるつもりだよ。
今、ツアーのサポートには俺と「ジョニー」というユニットをやっているユーロス・チャイルズ(ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ)がキーボードで、ベル&セバスチャンのサポートもやっているデイヴ・マッゴーワンがベースで入ってくれて。バンドとしてもすごくいい状態だよ。まあ、僕ら2人だけでもたっぷり曲はあるから、それを引っ張り出してくるチャンスなのかなと思ってる。もちろん、ライブの後半にはいつもの楽曲も演奏するつもりだから、是非とも楽しんでほしいな!
※おそらく「Everything Is Falling Apart」と「Im More Inclined」のこと。この2曲は日本でも披露された。

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