ワーナーミュージックの全世界の音楽カタログを取り仕切るティム・フレイザー-ハーディング氏は、レッド・ツェッペリンやフリートウッド・マックらが残した名作の宣伝戦略を担った人物だ。

ストリーミングのおかげで、昔の音楽にも数多くのチャンスが巡るようになってきた。
フレイザー-ハーディング氏はローリングストーン誌の取材に対し、過去のヒット曲をリバイバルさせる際の苦労と喜びを語ってくれた。

ー音楽業界全体におけるご自身の役割をどのように見ていらっしゃいますか?

音楽業界に携わることかれこれ30年経つが、カタログ・ビジネスをやるなら今が最高に面白い時期だよ。バランスを考えなくてはいけない仕事だからね。ストリーミングはどんどん拡大し続け、音楽業界全体の成長に貢献している――。だが、媒体(CDやアナログ盤など)の売上が高い伝説的なアーティストもいる。加えて消費者の幅も広がって、常に特定のアーティストを応援するコアなファンもいれば、初めてそのアーティストを知ったという人もいる。

カタログ部署の業務も、ワーナーの他の部署とは全く一線を画するようになったと思う。ワーナーの主力アーティストの大半はもうこの世にいなかったり、解散したり、他のレーベルに移籍していたりする。あるいは単に、世間から忘れられたか廃盤になっているかだ。我々は多くの時間をかけて、アーティストがいなくても話題が作れないかと知恵を絞っている。誰か別の人間に話題にしてもらうとか、シェアしてもらわなくてはいけない。今までさんざん目にしてきた楽曲の単なる焼き直しじゃない、本当にすごいぞ、とね。
場合によっては、全くのゼロから始めるということもある。

ー時代を経て、音楽カタログはどう変わりましたか? もはや節目に合わせてボックスセットを売る、という単純な手は通用しません。

今の時代は、マーケティングと商品開発に同じ労力をかけるようにしなくてはいけない。ストリーミングに最適なレパートリーを最大限に活かすことが重要なんだ、若いオーディエンスの獲得につながるからね。だが同時に、自分たちが抱える偉大なアーティストは40年間音楽を作り続けていて、今もアナログ派だということも頭に入れておかないといけない。例えばフリートウッド・マックは、急激にストリーミングで人気を伸ばしているアーティストだが、いまだにツアーでCDも売っている。年齢層に関していえば、彼らは以前にも増して幅広い層にアピールしている。若年層を啓蒙しつつ、高い年齢層とのつながりも維持する術を心得ているんだよ。

ー若年層は売上の点でも、より魅力的なんじゃありませんか?

僕らに味方しているのは、ストリーミングという環境だ。そこでは、どんな楽曲であろうとその日の人気曲に若者がアクセスして、1日に30回は聴いてくれる。だが彼らの親世代は、「ホテル・カリフォルニア」が生涯のベストソングかもしれないが、熱の入れようは同じでも、1年に3~4回聴けばそれで満足する。ストリーミングに若者層が集まっていることは分かっているから、あとは彼らをどうやって自分たちの音楽に呼びこむかだ。


ーワーナーは膨大なバックカタログを所有していますよね。様々なジャンル、様々な楽曲ごとに対し、どのように戦略を適用しているのですか?

当然ながら、自分たちの強みを生かして、誰もが聴くであろうメジャー級のアーティストを、来る日も来る日もプッシュする。だが同時に、1990年代や2000年初期、しいて言うなら、大して長続きしなかったアーティストもいる。だけどそういうアーティストも2~3曲爆発的ヒット曲を抱えていて、ストリーミングでは今でも大人気だったりする。我々としては、そうしたヒット曲に注目して、ストリーミングでの人気を上げることが重要だ。どこでユーザーにこれらの曲を思い出させるか。最終的には、ファン層や持ち曲の人気度に応じて、楽曲ごと、アーティストごとに戦略を立てている。

ーCDやレコードの宣伝方法は、デジタルにどう活かされていますか?

我々はマーケットとともに進んでいくが、同時にマーケットよりも常に一歩先を行かなくてはいけないんだ。正しい人材配置をすることが大事になってくる。クリエイティヴな宣伝戦略や今日の消費者の動向、以前とは違うやり方で人々をどうエンゲージさせればいいか、しっかり理解できる人間を起用しながらね。アナログ盤のボックスセットを作ったとして、それをそのままストリーミングに移行しても上手くいくとは限らない。ユーザーの反応を予測して、どういう流れで商品をリリースするべきか、頭を使わないと。
今年はレッド・ツェッペリンのプレイリスト・ジェネレイターを作ったけど、最近ではあれが一番成功した例だね。

ー以前よりも早いペースで取りかかるというのもポイントですね。

今は迅速に世の中に対応しなくてはならなくなった。楽曲がいきなり映画の予告編や、世界的に有名な広告に使われたり、あるいは流行のものと結びついたりするからね。我々の仕事は、そうした話題を大々的に拡散して、認知を高めることだ。例えば、ラモーンズの楽曲を使った広告がYouTubeで世界中に拡散して、何百万回も再生されたなら、広告のブランドと組んで、広告で流れている音楽が一体何なのか、彼らの顧客に伝える手段を考えることが重要になる。今では我々がしていることの大半が楽曲単位だ。ビッグな伝説的アーティストでも、はたまた一発屋で終わったアーティストでも、同じようなやり方だ。

去年はスピナーズの「ラバーバンド・マン」が『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の挿入曲として使われた。我々がそれを知ったのは日曜の夜で、月曜の昼にはすでに、スピナーズの新規プレイリストを作成して、いつでも公開できる状態だった。そのあと映画会社に協力してもらって、アーティストの名前を宣伝してもらった。楽曲もアーティストもマイナーだったからね。
CDオンリーの時代にはこうはいかなかっただろう。今の時代だからこそ成り立つことだろうね。昔と比べると、旬の時期もあっという間に終わってしまうから、素早く立ち回らないとチャンスを逃してしまう。すぐに行動しなくてはならないんだ。

ー過去の楽曲を宣伝するにあたり、他にクリエイティヴを発揮していることはありますか?

他のアーティストを巻き込んだりはしている。アーティストが時々、もっとも影響を受けたアーティストはジョニ・ミッチェルです、とか、アレサ・フランクリンです、と言うのを見るだろう。昔だったら、「OK、実に興味深い、だけどこの記事を読んだ人々はレコード店に行ってアレサのアルバムを買うだろうか?」という感じだった。だが今では、「じゃあ、そのアーティストをチェックしてみよう」という話になる。グリーン・デイはコンサートの前に必ずラモーンズの「ブリッツクリーグ・バップ」を流していて、観客はみな「ヘイ、ホー、レッツゴー」って歌うんだけど、誰もバンドの名前を知らない。まずは彼らに情報を伝えるツールを用意しなくてはいけないんだ。自分が影響を受けたアーティストについて、熱心にファンに語ってくれるアーティストがいれば最高だ。そうすれば僕らも世代を超えて、より幅広い人々にアピールすることができるようになるからね。


他にもっとはっきりしていることがある。我々には素晴らしい楽曲が揃っていて、それだけでも非常に恵まれている。あとやるべきことは、最善のリリース方法を考えることだけ。新しいビデオを作るでもいいし、リミックスを作るでもいい。ちょうど去年プリンスでやったみたいに、誰も存在を知らない未発表曲を発掘するとかね。そうやって人々をあっと言わせることができた時こそ、より幅広いファン層を開拓できたなと実感できる瞬間だ。

ー再発見された過去の楽曲が、現代の音楽シーンに変化をもたらすと思いますか?

たしかに、現在のリスニング状況を見ると、若い世代は好きな音楽の選び方に私たち以上にずっとオープンなようだ。80年代は私自身、音楽に関しては完全にコアだった。自分好みのジャンル以外は聴かないという人もいた。今の時代はそうじゃない。「この曲はどうだろう? おお、いいね。もういっぺん聴いてみようかな」。
そうやって、普段自分がよく聴くジャンルとは明らかにかけ離れた一風変わった曲を、映画やゲームの中で発掘している。もしそれがミュージシャンなら、彼らはきっと昔よりも幅広い音楽を取り入れることになるだろうね。
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