岡本:RCのラストアルバムになった『Baby a Go Go』は、レニー・クラヴィッツの共同制作者だったヘンリー・ハーシュ、デイヴィッド・ドマニッシュを日本に呼んで制作されました。それがきっかけとなって、レニー・クラヴィッツ来日公演の際には清志郎さんがオープニングでMCをしたりしていましたよね。あれは、当時話題になっていたレニー・クラヴィッツの1stアルバム『Let Love Rule』を清志郎さんが好んで聴いていたからなんでしょうか。
高橋:あれは、ギターテックの青山さんが、『Let Love Rule』を清志郎さんに渡したんです。それを聴いてすごく良いという話になって。
岡本:それによって、『Baby a Go Go』はそれまでの作品の音と、極端に変わりましたよね。
高橋:チャールズ・ハロウェルは、もともとニューウェイヴの音作りが得意だったんです。それが功を奏して『THE TIMERS』は、ペイル・ファウンテンズやSHACKのようなネオ・アコースティック・ニューウェイヴ・サウンドになりました。その後の『Baby a Go Go』では、もっとダウン・トゥ・アースな音が必要になり、ヘンリー・ハーシュとデイブ・ドマニッシュとやることになったのです。
岡本:チャボさんの2ndソロアルバム『絵』は、『Baby a Go Go』に近い気がします。

高橋:チャボさんのアルバムには世界中の様々な音楽が入っています。音色からアンサンブルに至るまで、たとえばレス・ポールとニルス・ロフグレンとジョン・フルシアンテがチャボさんを通してひとつになるようなマジック。またチャボさんの中にもアバンギャルドな要素はあって、「ぼくはタオル」や「Hungry」のギタープレイとか、普通の人が弾くとセカンドラインのアーシーな曲になっちゃうんですけど、チャボさんが弾くからああいうアバンギャルドな曲になるんです。
岡本:「君を呼んだのに」のライブでの間奏なんかもすごいですもんね。
高橋:完全復活祭の「GOD」のソロ。全く違う方向からやってくるギタープレイ。ロックンロールの宇宙ですね。あとは、カバーではありますが、チャボさんのオリジナルのようなナンバー「俺は電気」もブッ飛んでます。
岡本:「俺は電気」って誰がオリジナルなんですか?
高橋:イギリスのバンド、レッド・ノイズです。
高橋:レコードは、『PLEASE』の頃からトータルの作品性を追求しているように思います。以降の作品はあんまりライブにはそぐわない作りになっており、それは、ライブとレコーディングを切り離していたという表れだと思います。主にレコーディングの方にクリエイティビティを割いていて、ライブはコミュニティみたいな感じで。レコーディングは相当高い位置で考えていたと思います。
岡本:忌野清志郎がレコーディング作品に於いて今の時代に残したものって、どんなものでしょう。
高橋:ライブは消えものですが、レコーディングは100年先にも200年先にも残る作品になる。ライブ盤や映像もありますが、それはあくまでも記録で、作品ではない。それをよくわかっているからこそ、レコードとライブでそれぞれ最高のパフォーマンスができたのだと思います。RCも清志郎さんもライブにはいろんなエッセンスや音が入っていて、とても豪華で、たった数時間のショーを永遠に記録していくことに集中している、正にライブの魅力をストレートに体現していました。レコーディング作品はいつ聴いてもそこに音楽が立ち上がり、若い子たちには新しい音楽として新鮮に響く。たとえ50年前の作品でも、新しくプレゼンテーションすることにより、新譜になる。
一方、ライブはすぐに過去になるから思い出になる。レコーディング作品は再生された瞬間に今になり、新しく更新されていく。岡本さんの本でも話しましたが、僕は清志郎さんの全ての活動をレコーディング・アーティストとしてとらえているので、ライブよりレコーディング作品のほうが好きです。また清志郎さんのレコーディング作品には裏テーマとして、一粒のマニアックが入っています。それがジミー・ペイジならロイ・ハーパーにチェット・アトキンス、ジャンゴ・ラインハルトだったように、清志郎さんはオーティス・レディング、サム&デイブ、またはウィルソン・ピケット、つまりサザン・ソウルになる。忌野清志郎の音楽の特徴はレコーディング作品の中に顕著に表れていると思います。

岡本:本当そうですよね。サム・クック、エディ・フロイドなんかもそうだと思います。
高橋:それらのアーティストは、一部のマニアだけのものでした。白人のシンガーだと思って、レコード屋に買いに行ったら、『ヨーロッパのオーティス・レディング』のジャケットを見て、黒人シンガーだったことを知って驚いたぐらい。
岡本:”オルタナティブな創作意欲”ですか。
高橋:『RHAPSODY』を作ったら、普通は次の作品も同一のラインでいくと思うんですけど、思いっきりポップな作品にして(『PLEASE』)。その次は練習スタジオに録音機材を入れてレコーディングするなんて、当時は考えられない(『BLUE』)。『BEAT POPS』ではシンセを思いっきり入れていたり、オーケストレーションを入れたり、『OK』でハワイにレコーディングに行ったら南国サウンドになっていて。『FEEL SO BAD』の「不思議」ではダブをいち早く取り入れていたり。ダブをやったのはすごく早かったし、画期的だったと思います。
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第1回「RCサクセションの音楽性から読み取るローリング・ストーンズの影響」
第2回「ローリングストーンズから影響を受けた日本のバンドと比較する忌野清志郎の特異性」
<書籍情報>

『I LIKE YOU 忌野清志郎』岡本貴之 編有賀幹夫 / 太田和彦 / zAk / 佐野敏也 / 角田光代 / 近藤雅信 / 高橋靖子 / 高橋 Rock Me Baby / 蔦岡晃 / 手塚るみ子 / のん / 日笠雅水 / 宗像和男 / 森川欣信 / 百世 / 山本キヨシ / 渡辺大知 (五十音順)
発売元:河出書房新社現在発売中224ページ ソフトカバー並製本体定価:1400円http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309290188/