今年4月2日に発売された書籍『I LIKE YOU 忌野清志郎』(河出書房新社)。没後10年が経ち、忌野清志郎の音楽を知らない世代にもその魅力を伝えるべく刊行されたもので、様々な形で清志郎の作品、ライブに携わった人物が、それぞれの視点で時代ごとの清志郎の活動について証言している。
そこで今回、書籍にも語り手の1人として登場している高橋Rock Me Babyと書籍の編者・フリーライターの岡本貴之により「忌野清志郎とローリングストーンズ」をテーマに対談を行った。3回に亘ってお届けする今回の対談、第2回では、忌野清志郎が他のミュージシャンと違ったのはどんなところなのか? にフォーカスした。最終回となる今回は、清志郎がライブ、レコーディング作品を通して伝えた洋楽アーティストについて、そして音楽界に残した功績について総括してもらった。


岡本:RCのラストアルバムになった『Baby a Go Go』は、レニー・クラヴィッツの共同制作者だったヘンリー・ハーシュ、デイヴィッド・ドマニッシュを日本に呼んで制作されました。それがきっかけとなって、レニー・クラヴィッツ来日公演の際には清志郎さんがオープニングでMCをしたりしていましたよね。あれは、当時話題になっていたレニー・クラヴィッツの1stアルバム『Let Love Rule』を清志郎さんが好んで聴いていたからなんでしょうか。

高橋:あれは、ギターテックの青山さんが、『Let Love Rule』を清志郎さんに渡したんです。それを聴いてすごく良いという話になって。

岡本:それによって、『Baby a Go Go』はそれまでの作品の音と、極端に変わりましたよね。

高橋:チャールズ・ハロウェルは、もともとニューウェイヴの音作りが得意だったんです。それが功を奏して『THE TIMERS』は、ペイル・ファウンテンズやSHACKのようなネオ・アコースティック・ニューウェイヴ・サウンドになりました。その後の『Baby a Go Go』では、もっとダウン・トゥ・アースな音が必要になり、ヘンリー・ハーシュとデイブ・ドマニッシュとやることになったのです。
彼らはチャールズ・ハロウェルとは対象的で、アナログ・レコーディングで、彼ら曰く”『Baby a Go Go』は69年のロック”の音になった。デジタル全盛期の1990年にはそれがとても新鮮で、いまも新しいインスピレーションを与えてくれます。

岡本:チャボさんの2ndソロアルバム『絵』は、『Baby a Go Go』に近い気がします。
忌野清志郎がレコーディング作品を通して現代に残したものとは?


高橋:チャボさんのアルバムには世界中の様々な音楽が入っています。音色からアンサンブルに至るまで、たとえばレス・ポールとニルス・ロフグレンとジョン・フルシアンテがチャボさんを通してひとつになるようなマジック。またチャボさんの中にもアバンギャルドな要素はあって、「ぼくはタオル」や「Hungry」のギタープレイとか、普通の人が弾くとセカンドラインのアーシーな曲になっちゃうんですけど、チャボさんが弾くからああいうアバンギャルドな曲になるんです。

岡本:「君を呼んだのに」のライブでの間奏なんかもすごいですもんね。

高橋:完全復活祭の「GOD」のソロ。全く違う方向からやってくるギタープレイ。ロックンロールの宇宙ですね。あとは、カバーではありますが、チャボさんのオリジナルのようなナンバー「俺は電気」もブッ飛んでます。

岡本:「俺は電気」って誰がオリジナルなんですか?

高橋:イギリスのバンド、レッド・ノイズです。
ビ・バップ・デラックスに在籍していたビル・ネルソンが結成したバンドで、1979年の名盤「Sound-on-Sound」に入っている「Dont Touch Me(Im Electric)」のカバーになります。アルバムの邦題が「触れないで! 僕はエレクトリック」でした(笑)! この曲を取り上げたチャボさんのセンスに脱帽します。当時、バンドブーム前夜だったのですが、若いバンドマンがみんな驚くぐらい先鋭的なサウンドでした。僕もあれを聴くまでレッド・ノイズを知らなかったです。僕はかなり聴いているほうだと思っていたのですが、このバンドを知らなかった。それぐらい日本ではマイナーな曲だったんです。あの曲は『MARVY』に収録されています。エンジニアはチャールズ・ハロウェル。PILやABC、そして、あのパワーステーションのドラムの音を作ったエンジニアです。チャボさんとチャールズのセンスがバチッとフィットしたRC史上最もブッ飛んだ作品になりました。RCサクセションは東京のオリジナル・バンドのムードにあふれていたので、欧米のエンジニアとあわさると、世界中のどこにもない、洋楽の真似ではない、でも日本人にはないセンスで洋楽リスナーを唸らせるCOOL SOUNDを鳴らすことができたんです。僕はRCのこのような隠れた魅力が大好きです。
岡本:RCがバンド編成でブレイクしてから、活動休止するまでの作品、ライブについて振り返って総括すると、どんなことが言えると思いますか。

高橋:レコードは、『PLEASE』の頃からトータルの作品性を追求しているように思います。以降の作品はあんまりライブにはそぐわない作りになっており、それは、ライブとレコーディングを切り離していたという表れだと思います。主にレコーディングの方にクリエイティビティを割いていて、ライブはコミュニティみたいな感じで。レコーディングは相当高い位置で考えていたと思います。

岡本:忌野清志郎がレコーディング作品に於いて今の時代に残したものって、どんなものでしょう。

高橋:ライブは消えものですが、レコーディングは100年先にも200年先にも残る作品になる。ライブ盤や映像もありますが、それはあくまでも記録で、作品ではない。それをよくわかっているからこそ、レコードとライブでそれぞれ最高のパフォーマンスができたのだと思います。RCも清志郎さんもライブにはいろんなエッセンスや音が入っていて、とても豪華で、たった数時間のショーを永遠に記録していくことに集中している、正にライブの魅力をストレートに体現していました。レコーディング作品はいつ聴いてもそこに音楽が立ち上がり、若い子たちには新しい音楽として新鮮に響く。たとえ50年前の作品でも、新しくプレゼンテーションすることにより、新譜になる。
だから、清志郎さんのレコーディングのほとんどの作品には、ライブとは真逆のメカニズム、つまり、必要な音しか入っていない。流行や世代、時代性に左右されることなく、いまも1年後も10年後も30年後もそのあともずっと聴き継がれていく作品として作っている。

一方、ライブはすぐに過去になるから思い出になる。レコーディング作品は再生された瞬間に今になり、新しく更新されていく。岡本さんの本でも話しましたが、僕は清志郎さんの全ての活動をレコーディング・アーティストとしてとらえているので、ライブよりレコーディング作品のほうが好きです。また清志郎さんのレコーディング作品には裏テーマとして、一粒のマニアックが入っています。それがジミー・ペイジならロイ・ハーパーにチェット・アトキンス、ジャンゴ・ラインハルトだったように、清志郎さんはオーティス・レディング、サム&デイブ、またはウィルソン・ピケット、つまりサザン・ソウルになる。忌野清志郎の音楽の特徴はレコーディング作品の中に顕著に表れていると思います。
忌野清志郎がレコーディング作品を通して現代に残したものとは?

岡本:本当そうですよね。サム・クック、エディ・フロイドなんかもそうだと思います。

高橋:それらのアーティストは、一部のマニアだけのものでした。白人のシンガーだと思って、レコード屋に買いに行ったら、『ヨーロッパのオーティス・レディング』のジャケットを見て、黒人シンガーだったことを知って驚いたぐらい。
当時はそんな音楽を聴いたことがなかったですからね。知ってるのはせいぜいJBとかスティービー・ワンダーぐらいで。それで聴いてみたら、白人のロックとはサウンド構成が全然違うので、正直アジャストするまでに相当時間がかかりました。90年以降にアシッド・ジャズが流行し、→ブッカー・T&ザ・MGsの「GREEN ONIONS」をネタにしたDJやトラックメーカーとかが出てきて、やっとロック・リスナーに少しづつフィットするようになってきました。はじめて聴いてから20年ぐらい経って、だんだんわかってきた。ソウル・ミュージックを日本のリスナーに紹介したことは、清志郎さんのひとつの功績で、それはレコーディング作品において強烈なセンスになり、”オルタナティブな創作意欲”に溢れていたと思います。

岡本:”オルタナティブな創作意欲”ですか。

高橋:『RHAPSODY』を作ったら、普通は次の作品も同一のラインでいくと思うんですけど、思いっきりポップな作品にして(『PLEASE』)。その次は練習スタジオに録音機材を入れてレコーディングするなんて、当時は考えられない(『BLUE』)。『BEAT POPS』ではシンセを思いっきり入れていたり、オーケストレーションを入れたり、『OK』でハワイにレコーディングに行ったら南国サウンドになっていて。『FEEL SO BAD』の「不思議」ではダブをいち早く取り入れていたり。ダブをやったのはすごく早かったし、画期的だったと思います。
その後もどんどんレコーディング作品は変わっていきましたし、常にチャレンジ精神を持って作品作りをしていたと思います。ストーンズから影響を受けて、そこに色んなマニアックな要素を入れて表現してきたのが、清志郎さんの音楽だと思います。だから僕にはブルースやソウル、またはディランやニール・ヤングと言われてもピンとこなくて、やはりストーンズが一番ピタッときます。あえてもうひとりなら迷わずにジョン・レノンですね!

◾️関連記事
第1回「RCサクセションの音楽性から読み取るローリング・ストーンズの影響」
第2回「ローリングストーンズから影響を受けた日本のバンドと比較する忌野清志郎の特異性」


<書籍情報>
忌野清志郎がレコーディング作品を通して現代に残したものとは?


『I LIKE YOU 忌野清志郎』岡本貴之 編有賀幹夫 / 太田和彦 / zAk / 佐野敏也 / 角田光代 / 近藤雅信 / 高橋靖子 / 高橋 Rock Me Baby / 蔦岡晃 / 手塚るみ子 / のん / 日笠雅水 / 宗像和男 / 森川欣信 / 百世 / 山本キヨシ / 渡辺大知 (五十音順)
発売元:河出書房新社現在発売中224ページ ソフトカバー並製本体定価:1400円http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309290188/
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