ファンの間では「飯伏幸太の再来」とまで評される身体能力、そして”デタラメさ”を持つMAO。彼が破天荒なスタイルにこだわる理由はどこにあるのか? 数千人クラスの大会場となる東京・大田区総合体育館で開催される、全席無料のプロレス興行「Wrestle Peter Pan 2019」参戦を前に、その胸中を聞いた。
YouTubeでデビューのチャンスを掴んだネット世代のプロレス少年
奇しくも、DDTプロレスリングの旗揚げと同じ1997年生まれのMAO。プロレスと出逢ったのは、13歳のときである。
MAO:同世代のレスラーの大半がそうだと思うんですが、僕も深夜に放送されていた新日本プロレスの番組で、初めてプロレスを知ったんです。最初に観たのは、真壁刀義さんと中邑真輔さんのシングルマッチ。中邑さんが真壁さんを裏切ってCHAOSを結成するきっかけになった試合でしたね。裏切られてもやられても、挫けずに立ち上がり闘い続ける真壁さんの姿に感動してしまって。
「何に対してもボーっとしているタイプ」だったという少年が、初めて夢中になれるものを見つけた。その日からMAOは、YouTubeで手当たり次第にプロレス動画を観まくった。
MAO:そのうち、案の定自分でもプロレスがしたくなって(笑)。
気付けば、自分の”試合映像”をYouTubeにアップするようになっていた。そして、この動画がDDTでのデビューにつながっていく。

(C)株式会社DDTプロレスリング
MAO:プロレスごっこの動画をアップしている子って、当時から全国に結構いたんです。で、その中のひとりがプロテストを受けたって、(DDT代表の)高木(三四郎)さんがツイートしているのを見つけるわけですよ。
そこで早速、自分も動画をアップしていることを高木へのリプライでアピール。高木も即座に反応し、メールのやり取りをする間柄となる。とはいえそれ以前から、すでにDDT以外の団体は眼中になかったという。
MAO:本格的にプロレスラーになりたいと思ったのは、両国国技館で行われた高木さんとザ・グレート・サスケさんとの試合を動画で観てからなんですよね。
一定時間ごとに公認凶器がリング上に投入される「ウェポンランブル」形式で行われたこの試合は、熱々のおでんや自転車、スチール製のロッカー、さらには両者の夫人までもが精神的ダメージを与える(夫に襲い掛かる)凶器として用いられた、破天荒な内容で今なお語り継がれる伝説の一戦だ。
MAO:いい歳をした大人がすることじゃないな、って子供心に衝撃を受けて(笑)。この試合もそうなんですけど、DDTの試合って観客として見て楽しいっていうこと以上に、誰もが本当に楽しそうに輝いて闘っているように見えたんです。
プロレスごっこ動画をYouTubeにアップしたことで掴んだ夢。ネット世代のプロレス少年がDDTという”輝きの中へ”飛び込みデビューを果たすのは、2015年8月の両国国技館大会だった。
”デタラメさ”を追求するためには、社長を轢くことも辞さず
MAOがデビューした当時のDDTは、恒例となった両国国技館に加え、さいたまスーパーアリーナ(コミュニティアリーナ)にも進出したほか、新たな試みとして若手主体のサブブランド団体「DDT NEW ATTITUDE(DNA)」を設立するなど、勢力を大きく拡大させていた。同時に、団体としての”ファイトスタイル”も大きな変革を迎えた時期にあたる。
MAO:僕がデビューしたころから、従来のエンタメ路線に加えて、竹下(幸之介)さんを中心にアスリート志向の高い「強いDDT」へのシフトが加速していくんですよね。プロレス団体としての成長を考える上では自然な流れだと思うんですけど、一方で僕が衝撃を受けたウェポンランブルのような”デタラメさ”が、以前のDDTに比べ薄れてきたと感じるファンも多かったはず。僕自身も、そこにジレンマを感じていましたし。

(C)株式会社DDTプロレスリング
”強さ”と”デタラメさ”を兼ね備えた稀代のゴールデン☆スター、飯伏幸太はMAOとすれ違うようにDDTから巣立っていた。そこで照準を当てたのが、選手としてはほぼ一線を退き「大社長」として経営手腕を振るうことに注力する高木三四郎だった。
MAO:ファンが求める”デタラメさ”が薄れているなら、自分ら若手がそこを再び盛り上げないとダメだなって。

(C)株式会社DDTプロレスリング
俺がやらなきゃ誰がやる。それからのMAOは、ハードコアマッチや路上プロレスなどで、高木を相手に”あの頃のDDT”を想起させるハチャメチャなファイトを展開。なかでも、2018年の新木場1stリング大会でみせた、試合中に社用車のワゴンで高木三四郎を轢く暴挙は、ネットニュースにも取り上げられる話題となった。
MAO:会場の外に止めてあったワゴンを見て、これで会場に突っ込んだら面白いだろうなぁとヒラめいて(笑)。雪国出身の人ならわかると思うんですけど、雪道発進のテクニックってのがあるんですよね。短い距離で一気に加速させてから、安全な速度まで急ブレーキで調整するんですけど。観客を巻き込まず、周囲の器物も破損しないで高木さんにだけダメージを与えるために、思いがけず役立ちましたよ(笑)。
現在MAOがひとつの目標としているのが、若手選手だけで開催する路上プロレスだ。
MAO:これぞDDTって誰もが思う試合形式じゃないですか、路上プロレスって。
「飯伏の影」を払拭し、DDTの歩みをその先の未来へと向ける
もちろん、追求するのは”デタラメさ”だけではない。試合を観たことがある人ならわかるように、通常ルールの”強さ”においても非凡な才能を示すMAO。特に、マイク・ベイリーとのタッグチーム「ムーンライト・エクスプレス」は、飯伏幸太&ケニー・オメガの「ゴールデン・ラヴァーズ」を彷彿させる存在として、高い評価を得ている。

(C)株式会社DDTプロレスリング
MAO:ベイリーとのタッグ結成当初から、ゴールデン・ラヴァーズと比較されてしまうことは覚悟の上でした。光栄なことだと思うけど、彼らを意識すれば、ただの焼き直しになってしまいますからね。そんな形で”あの頃のDDT”を取り戻したいとは、僕もベイリーも思っていないですし。
選手としてのプロレス観も、どちらかといえば地味なほうだとも。
MAO:YouTubeプロレス動画を検索すると、歴史を問わず様々な試合が見つかるじゃないですか。その中でDDTをのぞいて特に好きだったのが、90年代のみちのくプロレスでした。TAKAみちのくさんやディック東郷さん、獅龍(カズ・ハヤシ)さんたちが在籍していた頃の。

Photo by Takuro Ueno
そう言われてみれば、デビュー4年目。まだ22歳なのである。DDTの急激な変革期とキャリアがシンクロしていることもあるのだろうが、MAOというプロレスラーの構成要素は、年齢に対して過剰に濃密で、深い。余談ながら、プロレス以外に興味を持っているのは音楽。ビートダウン・ハードコアなる、ごくマニアックなジャンルにハマっているという。
MAO:上京してからバンドもやってたんですよね。パートはギター。ドロップダウンチューニングとかしちゃうような(笑)。でも、デビューが決まってから忙しくなって続けられなくなってしまって。
当人曰く「素の自分は至って常識人。だからこそ高木さんたちのような”デタラメさ”に惹かれてしまうのかも」というMAO。その爽やかな笑顔に隠された芯の強さと狂気が、DDTを”デタラメ”な新世界へと導いていく。
<大会情報>
Wrestle Peter Pan 2019
2019年7月15日(月・祝)
東京・大田区総合体育館
開場12:30 開始14:00
※全席無料(DDT公式FC「DDT UNIVERSE」への加入が必要)
【MAO選手参戦カード】
○第七試合 30分一本勝負
クリス・ブルックス&高梨将弘 vs MAO&マイク・ベイリー
【その他主要カード】
○メインイベント BLACK OUT presents KO-D無差別級選手権試合
<王者>遠藤哲哉 vs 竹下幸之介<挑戦者>
○セミファイナル 総研ホールディングス presents KO-Dタッグ選手権試合 60分一本勝負
<王者組>佐々木大輔&高尾蒼馬 vs HARASHIMA&ヤス・ウラノ<挑戦者組>
○ドラマティック・ドリームマッチ 30分一本勝負
青木真也 vs 男色ディーノ
○初代O-40王者決定戦~ウェポンランブル 60分一本勝負
高木三四郎 vs スーパー・ササダンゴ・マシン
他全11試合予定
【団体公式サイト】
DDTグループの生中継&過去の試合はこちら。
DDT UNIVERSE(月額900円で初月無料)
https://www.ddtpro.com/