ファンクやソウルのリズムを取り入れたビートに、等身大で耳に引っかかる歌詞を載せて歌う4人組ロックバンド、トリプルファイヤーの音楽ブレインであるギタリスト・鳥居真道による連載「モヤモヤリズム考 − パンツの中の蟻を探して」。クルアンビン、ジェイムス・ブラウンの楽曲考察に続き、第3回となる今回は本連載タイトルの本ネタを生み出した細野晴臣の楽曲を徹底考察します。


3回目の今回は当連載のタイトル「モヤモヤリズム考」の元ネタとなった「下半身モヤモヤ」というキーワードの生みの親、細野晴臣の楽曲を取り上げたいと思います。昨年シアトルのレーベルLight In The Atticからリイシューされ、今年『Hochono House』というタイトルで本人よってリメイクされたことも記憶に新しいあの名盤、『Hosono House』から「CHOO-CHOOガタゴト」を取り上げます。そういえば、細野にリスペクトを送るマック・デマルコの新作『Here Come The Cowboy』に「Choo Choo」なんていうスワンプっぽい曲が入っていましたね。もうお聴きになりました?

『Hosono House』は曲も良いしキャラメル・ママの演奏もとっても素晴らしい。あまりこういう言い方をすると良くないのかもしれませんが、どこを取っても「音楽的」と言ってしまいたくなる作品です。さて、今回取り上げる「CHOO-CHOOガタゴト」ですが、特に林立夫の端正かつ躍動感のあるドラムがなんともクールではありませんか。一寸ハネてるバスドラム。あれはいいね。

ところで、「一寸ハネてる」とはどういう状態なのか。まず100%ハネてるリズムから見ていきましょう。ハネたリズムというとシャッフルやスイングなどがありますが、ここではシャッフルを扱います。シャッフルというのは「タッカタッカタッカタッカ」というあのリズムです。
非常にポピュラーなリズムで、例えば、セブンイレブンでよく耳にする「Daydream Believer」で使われています。

シャッフルというものは「3連の中抜き」と解説されることが多いです。これをピザを使って説明していきます。1つの小節をピザに見立てて、まず4等分します。1切れのピザが1拍にあたります。続いて4切れのピザをさらに3等分します。1拍につきピザが3切れある状態です。これを3連とします。そして、1拍ごとに真ん中の一切れを取り除きます。12等分したピザから4切れ抜き取ったので全部で8切れになりました。これがいわゆる「3連の中抜き」と呼ばれるものです。取り除いたピザが占めていたスペースが「タッカタッカ」の「ッ」にあたります。
早い話が休符のことです。

一方、ハネていない状態を先程の例を用いて説明すると、ピザを8等分した状態になります。しかし、ここでは以下のように考えてみます。「タッカ」の「ッ」が消滅し、その分「タ」と「カ」が大きくなった状態であると。次の様子を想像してみてください。3人がけのソファーの両端に2人の人間が1人分のスペースを空けて座っています。時を経るとともに彼らはどんどん太っていき、遂には二人の体が密着するようになってしまいました。つまり「タッカタッカタッカタッカ」から休符の「ッ」が消えて「タカタカタカタカ」に変化したわけです。このリズムをイーブンだったりストレートなんて呼んだりします。

そして本題である「一寸ハネてる」とはどういうものなのか。これは「タッカ」の「ッ」が占めるスペースを小さくなりイーブンに近いた状態のことを言います。先述のソファーの例で云えば、二人の間にスペースは残ってはいるものの、もう一人座れるほどのスペースは残っていない状態となります。
「ッ」の大きさには幅があるので、これをコントロールすることでハネ具合に濃淡をつけることができます。

アメリカン・ポップス史的には「タカ」よりも「タッカ」のほうが歴史が古いです。言い換えればソファーに座る二人が痩せていた時代が長かったということです。「ッ」が小さくなり「タカ」に近づいたリズムが流行り出すのはロックンロールの黎明期である1950年代の中頃のことでした。その頃はまだミュージシャンによってシャッフルやスイングの癖が抜けない人がいました。同じアンサンブルの中でハネてる人、ハネてない人、少しだけハネてる人が混ざりあった演奏が録音物として多く残されています。やや時代は下りますが、ジェイムス・ブラウンの「Think」は良い例で、ドラムがハネてて、その他の演奏陣はハネていないというアンサンブルになっています。他にも、ロックンロールの代表選手であるリトル・リチャードの「Tutti Frutti」は本人のピアノはハネていませんが、ボーカルはハネています。あの有名な一節「Wop bop a loo bop a lop bom bom!」は特にハネており、それがあの躍動感に寄与していると感じます。一方、他の楽器隊はスイング的なフィールで演奏しています。

「Tutti Frutti」でドラムを叩いているのはニューオーリンズが生んだ偉大なドラマー、アール・パーマーです。彼の場合は癖で演奏するというよりシャッフルとイーブンの混ざり具合を積極的にコントロールしているように思えます。
例えばリトル・リチャードの「Slippin & Slidin」ではハットがストレートですが、キックが微妙にハネています。また、ロックンロールの代表選手、エディ・コクランの「Summertime Blues」でもアール・パーマーがドラムを叩いていますが、得も言われぬ微妙なハネ具合で聴いていると非常にモヤモヤするものがあります。この曲なんかは特に一寸ハネてるリズムといえるでしょう。

こうしたイーブンとシャッフルが混ざった微妙なニュアンスのリズムを細野晴臣は「おっちゃんのリズム」と呼びました。また、ドラマーのスティーブ・ジョーダンもストレートとシャッフルの間で行われる押し合い、引っ張り合いこそがロックンロールの真髄だと語っています。

細野晴臣や林立夫に多大な影響を与えたザ・バンドのドラマー、そしてボーカリストであるリヴォン・ヘルムにスティーブ・ジョーダンがインタビューした際に彼はこんなことを言いました。「リヴォン、あなたはドラムを叩きながら歌うけど、それぞれが独立していてまるで別人のようだよね」と。「例えば、その曲のリズムがストレートだったら、シャッフルっぽく歌いたいんだよね。そうすることで摩擦が起きるんだよ」と答えると、スティーブが「それこそがロックンロールだよ」と指摘します。リヴォンは「これはアール・パーマーから学んだことなんだ。彼はシャッフルとストレートを同時に演奏するんだよね」と返します。

ザ・バンドの曲にはイーブンとシャッフルが混じったアンサンブルのものがあります。
例えば「Up On Cripple Creak」です。低音を担うドラムのキックとベースはかすかにハネていますが、その他の楽器はあまりハネていません。本当に微妙なグルーヴの曲です。ちなみにリヴォンは「Up On Cripple Creak」はダンサブルにしたかったからハーフタイムで演奏したとインタビューで語っています。さらに、同じ手法を「The Weight」でも使ったとも言っています。また「The Night They Drove Old Dixie Down」はハーフタイムのシャッフルだといえます。

ハーフタイムというのは端的に言えば、テンポを半分で取ることです。BPMが180であれば90と解釈して演奏するということになります。歌のテンポはそのままにして演奏だけ半分のテンポにするといえばわかりやすいでしょうか。ウーン? と思った方は、ロックンロールの代表選手、ジェリー・リー・ルイスの名曲「Great Ball Of Fire」をジョー・ママという個人的にとても贔屓にしている70年代前半のバンドがハーフタイム・フィールでカバーしているのでそのふたつを聴き比べてみてください。

さて、「Up On Cripple Creak」のドラムは本人が言うようにダンサブルで非常にファンク的だと感じます。この曲は「ファンク再生工場」という側面も有したヒップホップのトラックメイカーにも取り上げられています。
ギャング・スターのDJプレミアがこの曲をサンプリングして作ったのが「Beyond Comprehension」という曲です。DJプレミアといえばハネたキックが特徴です。

細野晴臣の「CHOO-CHOOガタゴト」もハーフタイムでハネているわけですが、ここで改めてキックを聴くとほとんど90年代の東海岸ヒップホップ的なハネ方に感じられないでしょうか。間奏の盛り上がる箇所などプレミアがプロデュースしたナズの「Nas Is Like」のようです。

林立夫は小坂忠とフォー・ジョー・ハーフに参加していた頃、ザ・バンドのリズムを洗練させた感じを目指していたそうです。「CHOO-CHOOガタゴト」のベースとキックによる拍をまたいだ「ボボッ」というフレーズは「Up On Cripple Creak」や「King Harvest」でも聴くことができます。キャラメル・ママの二人は、こうしたフレージングの直接的な影響に加えて、リック・ダンコが言うところの「何を空白のまま残しておくか」というアレンジメントの基礎となる考えも消化しているように感じられます。

林立夫とリヴォンを比べると、林立夫のほうがタイトで跳ねはするけど揺れはしないという感じがあります。端正と言いましょうか。『Hosono House』の歪み感も相まって、サンプラーを手打ちしたような質感があるように感じてしまいます。

「CHOO-CHOOガタゴト」にはニューオーリンズが生んだ偉大なファンクグループ、ミーターズの「Cissy Strut」のニュアンスも感じられます。また、ニューオーリンズということでいえば、細野がはっぴいえんどのLA録音の際にレコーディングを見学して衝撃を受けたと言うリトル・フィートの影響もあるでしょう。彼らはLAのバンドですが、ヴァン・ダイク・パークスの『Discover America』のレコーディングに参加した際に、そこで取り上げられていたニューオーリンズが生んだ偉大なミュージシャン、アラン・トゥーサンのペンによる「Occapella」、「Riverboat」を通じて彼の地の音楽に惹かれたそうで、『Dixie Chicken』でニューオーリンズ的なリズムの実践に取り組んでいます。ちなみに、「Occapella」と「Riverboat」のオリジナルはプロデュースをアラン・トゥーサンが、バッキングをミーターズが担当したリー・ドーシーの『Yes We Can』に収められています。

細野はインタビューで「CHOO-CHOOガタゴト」はリトル・フィートのレコーディング見学の際に彼らが演奏していた「Two Trains」のニュアンスが強いと発言しています。『Dixie Chicken』では「Dixie Chicken」や「Fool Yourself」がわりとニューオーリンズ風のハネ方をしているように思います。「Dixie Chicken」でも例の「ボボッ」というフレーズを聴くことができます。ちなみに、「Fool Yourself」のドラムブレイクをア・トライブ・コールド・クエストが「Bonita Applebum」でサンプリングしています。

『Hosono House』がリリースされた1973年はニュー・ソウルやファンクが定着してきた時期でした。そうしたジャンルにハネた16ビートとでも呼ぶべきリズムの曲が多く残されています。少し挙げてみましょう。カーティス・メイフィールド「Freddies Dead」、ダニー・ハサウェイ「Whats Going On」、スティーヴィー・ワンダー「Superstition」、ビル・ウィザーズ「Lonely Town, Lonely Street」、ファンカデリック「Loose Booty」、ジェイムス・ブラウン「Talking Loud and Saying Nothing」などがあります。すべて1972年にリリースされた曲です。

ところで「CHOO-CHOOガタゴト」には下敷きになった曲があったようです。フレディ・キャノンが1959年にリリースした「Way Down Yonder In New Orleans」という曲です。たしかに歌い出しのメロディが似ています。そもそもこの曲はティン・パン・アレイ華やかなりし頃の1922年に出版された曲で、最初にレコーディングしたのはザ・ピアレス・カルテットというボーカル・グループでした。その後も度々取り上げられる機会があったようですが、出版から27年後にロックンロール版として大ヒットしたのでした。

「CHOO-CHOOガタゴト」はリアルタイムのブラック・ミュージックやロックを消化し、自分たちのものにした演奏であると言えますが、歌そのものはフィフティーズのロックンロールの雰囲気を感じます。実際、歌詞にも「ロックンロール」という単語が出てきます。細野の歌唱もちょっとエルヴィスがかったところがありませんか。サビの「疲れたよ」と歌った後のスキャットはエルヴィスの「All Shook Up」調だし、その前の「やめるさ」の後の裏声はリトル・リチャードの「Long Tall Sally」の真似をしているようにも感じられます。

「CHOO-CHOOガタゴト」は新幹線の歌ですが、細野晴臣は他にも乗り物の曲を作っていましたね。「CHATTANOOGA CHOO CHOO」? あれはカバーなのでカウントしません。はい、『泰安洋行』収録の「Pom Pom 蒸気」です。この曲の歌い出しは「おっちゃんのリズムでスイスイ」です。リズムの微妙なハネ具合がまさにおっちゃんのリズムです。『Hosono House』の時点で既に細野がおっちゃんのリズムを発見していたかどうかは定かではありませんが、「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズムの前哨戦だったのではないか、曲が出来上がった時点ではロックンロール調だったものがキャラメル・ママでアレンジを練っていくうちにハーフタイムフィールのファンクになっていったのではないか、そんなことを妄想してしまいました。

そんな妄想から転じて、一寸ハネてるロックンロールをハーフタイムにすると一寸ハネてるファンクになるよな、ファンクはロックンロールの成れの果てという面もあるよな、ということを考えたわけです。「えー? ロックンロールって昔の単純な音楽でしょ? 言ってみりゃロックの第一形態じゃん。いやいやいや、ロックは進化してなんぼでしょ~」なんて考えるむきも未だにあったりもするのかもしれませんが、そうした考えは一旦捨て置いて、例えばその後のファンク的なグルーヴを内包した深いコクのある音楽としてロックンロールを捉え直してみることでまた違った魅力がみえてくるのではないか。そんなことを思った2019年の夏なんです、なのでした。


鳥居真道
細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」

<ライブ情報>

トリプルファイヤー
「アルティメットパーティー7-1」
2019年11月22日(金)渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:トリプルファイヤー(ワンマン)
時間:開場18:30/開演19:30

トリプルファイヤー
「アルティメットパーティー7-2」
2019年11月29日(金)渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:トリプルファイヤー(ワンマン)
時間:開場18:30/開演19:30

前売(1日券)3500円(ドリンク代別)
チケット:7月21日(日)10:00より発売
ぴあ(Pコード:159-985)
ローチケ(Lコード:73830)
e+:https://eplus.jp/triplefire/
O-nest店頭

トリプルファイヤー公式tumblr
http://triplefirefirefire.tumblr.com 
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