新たなK-POPグループ、がついに全米にお披露目された。「ほかのグループを踏みつけてまでトップに立ちたいとは思わない」と語る、メンバーは、4つの人気K-POPボーイズバンドのメンバー7人で構成された精鋭部隊だ。


髪をばっちりセットした新たなK-POPのスーパーグループ、SuperM(スーパーM)のメンバーが米カリフォルニア州ロサンゼルスのキャピトル・レコードの会議室のテーブルを囲んで座っている。LAで何かやり残したことはないか、と思いを巡らせながらーー。

この日の2日前、4つの人気K-POPボーイズバンドのメンバー7人で構成されたSuperMはハリウッドのど真ん中の交差点を閉鎖し、5000人以上もの熱狂的なファンの前でデビューライブを行った。ファンのなかには、SuperMを最高の場所から観ようと、何日も前から並んでいた人もいたほどだ。

何カ月もの沈黙を経て、今回の野外ライブ(※ライブの様子はYouTubeで全世界にストリーミングされた)でようやくSuperMが正式なデビューを果たした。

「ファンのみんなの前でSuperMとしてライブを行うのは本当に緊張した。僕たちはこの業界で何年も活動しているから、そんなふうに感じることは滅多にないんだけどね」とEXOからSuperMに加入した、キュートな唇が印象的な美形シンガーのカイは言う。「もっとああすればよかったとか、あそこはもっとこうすればよかった、とか言うメンバーもなかにはいたけど、大丈夫だったよ」と笑顔を見せた。「何よりも、ずっと準備していたことをようやくみんなに披露できて、誇らしい気持ちでいっぱいだった」。

SuperMは韓国のマネージメント会社、SMエンターテイメント(SuperMというグループ名はここに由来するのだろうか)による最新プロジェクトだ。韓国では”Mr. Lee”の名で知られているエンターテイメント業界の巨人、イ・スマン氏が1995年に創始した同社は、ティーンポップ隆盛の中、2000年初頭の北米に韓国のアーティストを初めて紹介したことで世界中のK-POPムーブメントの先駆的存在とされている。

K-POP界のアベンジャーズ「SuperM」待望の全世界デビュー、その正体は?

イ・スマン氏(写真中央)と並ぶSuperMのテン、ベッキョン、ルーカス、テミン、テヨン、カイ、マーク(Photo by Shutterstock)

SMエンターテイメントの目的は、SuperMとともに米国市場に爪痕を残すことだ。
アジアであらゆる記録を打ち立てながらも米国では比較的知名度が低かったK-POPだが、BTS(防弾少年団)やBLACKPINKらの太平洋の向こうでの成功が同社のようなエンターテイメント会社にグローバル市場に乗り出す新たな勇気を与えたのだ。そのための重要な出発点が米国である。

SuperMはゼロからはじまったグループではない。むしろ、トップからスタートしたと言っていいくらいだ。それぞれのグループを総合すると1400万枚以上のアルバムを売り、出演するミュージック・ビデオもオンラインで40億近い視聴回数を叩き出すSMエンターテイメント屈指の人気グループからメンバーを集めているのだ。ファンたちは、愛情を持ってSuperMを「K-POP界のアベンジャーズ」と呼ぶ。そこには、それぞれのグループからもっとも人気と才能のあるメンバーが集まっている、という想いが込められているのだ。

ベッキョンとカイはEXOからSuperMに加入した。スタイリッシュで魅力的なボーイズバンドEXOは、2018年には韓国でBTS以上のCDを売っていた(2019年4月にBTSがリリースした『MAP OF THE SOUL : PERSONA』を踏まえて2019年度のセールスが公表されれば、最終的な軍配はBTSに上がるかもしれないが)。27歳のベッキョンはSuperMの最年長メンバーで、非公式ではあるが、グループのリーダーという肩書も持っている。

ベッキョンに続く年長メンバーは、26歳のテミンだ。SHINee出身のテミンは、2008年デビューということもあり、K-POP界ではすでにベテラン扱いだ。
2017年、SHINeeのオリジナルメンバーである故ジョンヒョンが自殺とみられる死を遂げたのをきっかけにSHINeeは知名度を上げた。その際、若いアーティストたちの労働環境や、デビューの”訓練”のために学校に行けない彼らに課せられる、高すぎる期待などの問題が大いに議論された。

SuperMのほかの4人は、NCT(常に新しいメンバーが入れ替わるため、イ・スマン氏はNCTを”無限”のボーイズバンドと呼ぶ)という21人のメンバーからなる大所帯K-POPグループのサブユニットから集められたメンバーだ。テヨンとマークはNCT 127、テンとルーカスは中国を拠点とするNCTのユニット、WayVの出身者だ。

K-POP界のアベンジャーズ「SuperM」待望の全世界デビュー、その正体は?

(Photo by Shutterstock)

2019年初春のレコーディングまでメンバー7人は顔を合わせていないが、オールスターグループという構想は2018年からすでにあった。SMエンターテイメントは毎年恒例でSMTOWN LIVEというツアーを企画しているので、メンバー同士は初対面ではないものの、一緒に仕事をするのはSuperMが初めてだった。SuperMのデビュー・ミニアルバムは、10月4日にリリースされており、5曲からなるこのミニアルバムの最初を飾るのが”ジャンプ”と”ポップ”の現在進行形を組み合わせた造語が由来のリードシングル「Jopping」だ。(SuperMの広報担当は「クレイジーだけどキャッチーなタイトルだ」とため息をついた)。ヒップホップとEDMをミックスしたこの高速トラックでは、メンバー入れ替わりながら英語と韓国語を交えてソロを歌う。さらに、夏にドバイで撮影されたミュージック・ビデオは、すでにオンラインで2200万人以上が視聴している。シングルとアルバムの勢いに乗り、SuperMは北米ツアーの開催も発表。ツアーの皮切りは、11月11日のテキサス州フォートワース公演だ。


ラジオでの楽曲の安定したオンエア回数、深夜のトーク番組への出演、さらにはグラミー賞の話題もあってBTSがメインストリームで爆発的な人気を博したのに対し、SuperMは自分たちなりの成功を追求しようと意気込みを見せている。

「もちろん競争はあるし、それを無視することなんてできない」とテミンは言う。「でも、ほかのグループを踏みつけてまでトップに立ちたいとは思わないんだ。SuperMとして自立し、K-POPシーンに何かフレッシュで新しいものをもたらしたいと思ってる」。

そのためにも、SuperMはデビューアルバムに向けてグループならではと呼ぶべきサウンドを切磋琢磨し続けてきた。アルバムはヒップホップ/ポップス/R&Bコーナーに堂々と陳列されるが、シングル1曲をとってもさまざまなジャンルをこなしていることがうかがえる。BTSやBLACKPINKなど、ほかのK-POPグループが主に韓国語でパフォーマンスを行うのに対し、SuperMは彼らよりも多くの英語の楽曲をリリースする可能性だってあるのだ(カナダ生まれのマークは流暢に英語を話すが、そのほかのメンバーは現在英語のレッスンを受けている、とSuperMの広報担当が断言した)。

SuperMのメンバーは、ちゃんと宿題だってこなしている。LA滞在中はラジオやストリーミングを通じてH.E.R.、エラ・メイ、ダニエル・シーザー、ビリー・アイリッシュなどのさまざまなアーティストの楽曲を聴いているのだ(「コラボできないかな!?」とテミンが興奮しながら声を上げていた)。

さらに、韓国のマネージメント会社がグループのイメージをコントロールし、抱えるアーティストを目の届く場所に置きたがることで有名なのに対し(筆者がEXOにインタビューするためソウルまで行くと、メイク前だから直接インタビューには応じられない、と断られたことがある)、SuperMに関してはこうした縛りが随分緩い印象を受けた。

先日のLA滞在では、ロサンゼルス空港に到着するや否やホテルに直行したのではなく、有名ハンバーガー店In-N-Outを訪れたことをSuperMのメンバーは明かしてくれた。セレブが集うマリブのレストランでのディナーはもちろん、南カリフォルニアの24時間営業の手頃なチェーン店BCD Tofu Houseで食べた韓国の伝統的な豆腐の煮込み料理も絶賛していた(「韓国で食べるより、マジでおいしかった」とテヨンは絶賛)。
インタビュー中もメンバーはレザージャケットとオーバーサイズのスウェットをスマートに着こなし、スターバックスのアイスコーヒーをストローで飲んでいた。ツアー後は休暇をとってメンバーでどこに旅行に行こう? とあれこれ話しながらスマホをいじる姿は、普通の20代そこそこの若者と変わらない。今回は通訳が同行しているが、メンバーは果敢にも英語で受け答えに応じようとする。ただ、かならずどこかで言葉を見失い、爆笑に終わってしまうのだ。SuperM以前に所属していたグループが音楽業界の超集中講座だったとするなら、SuperMでは自分らしさを保ち、そうすることで成長する場を与えられているようだ。

「プレッシャーなんて感じていない、と言えば嘘になる」とカイは言う。「僕たちはみんな成功を経験し、しっかりとしたキャリアを築いてきた。でもある意味、僕たちはまだ無名なんだ。特に、このメンバー構成においては。でも、こうしたプレッシャーがあるからこそ、新しいレベルの興奮が味わえる。だって、数え切れないほどたくさんのことに挑戦できるし、可能性は無限だから」と付言した。

「僕たちみたいなグループはたくさんあるし、競争も熾烈だ」とテヨンは認める。
「でも、僕たちの目標は、K-POPをもっと光り輝く存在にすることなんだ。競争精神はかならずしも悪いとは限らないよ。だって、もっと良くしたいって気持ちを後押ししてくれるんだから」。

カイにはもっと具体的なビジョンがある。「SuperMの使命は、K-POPというジャンルをレベルアップさせること」と主張する。「そのための準備もできてる」。
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