―今回の『Drown / You & I』は2019年3月のデビューから早くも4作目。前作『us』は夏っぽい感じでしたけど、今回のアーティスト写真は冬の装いですね。
milet:実はこれ、今年の2月には撮影してありました。その時点で『ヴィンランド・サガ』のお話もすでに決まっていて。
―かなりの長期プラン! 今回のEPも素晴らしかったです。
milet:ありがとうございます! 今回は内容的にもまとまっていると思います。特にテンポ感。どの曲も早い/遅いというより、ミドル感のあるテンポでビートも効いてて、全体的に浮いた曲がない。
―たしかに今回は、全4曲の流れがいい。
milet:最近は、制作中もリラックスできるようになってきたんですよ。前作までは「がんばるぞ!」って力みすぎていたというか。もちろん、今回もがんばったんですけど(笑)。いい意味で、肩の力を抜くことができている。その感じが(曲にも)出ているような気がしますね。
「Drown」MVはアメリカのカリフォルニア州で撮影
―1曲目の「Drown」、大自然を思わすスケール感でいきなりかっこよかったです。『ヴィンランド・サガ』のエンディング映像にもしっかりハマっていました。
milet:そうなんです。私も実際に見たのは、リアルタイムの本放送(新EDとなった10月6日放送の第13回)が初めてで。まさか、あそこまで血まみれとは……って驚きましたけど、かっこよかった~。
―「血がすごい」ってツイートしてましたよね(笑)。
milet:原作はかなり意識しました。全巻を読み込むのはかなり時間がかかったんです。絵が細かいし、いろんな登場人物が出てくるじゃないですか。話も難しいから何度も戻ったりして。
―ボリュームも結構ありますし(既刊22巻)。
milet:でも、すっごく面白かった! 時代背景は今と全然違うけど、やっぱり人間の気持ちというのは変わらないんだなって。風景も緻密に描かれているし、何より人物の表情がすべてを物語っていて。幸村誠先生の描く絵、胸に迫るような表情から感じ取りつつ曲にしていきました。今回は本当に「安産」でしたね(笑)。原作の絵と自分のイメージしている音がうまくハマって、するすると産まれてくれました。
―アニメの主題歌を手がけたのは2度目ですが、『バースデー・ワンダーランド』の時と比べてどうでしたか?
milet:大体は変わらなかったけど、今回はもっとフリーダムでしたね。『バースデー・ワンダーランド』でもオーダーは少なくて、オーケストラと合唱を使ってほしいというくらいでしたけど、「Drown」に関しては細かいリクエストはなかった。
―miletさんはリスナーとしてもドライな曲を好んでいるイメージがあって。それがいよいよ、自分のサウンドにも表れたのかなと。
milet:そうですね。ここまでドライな曲はこれまでなかったかも。「Drown」は私が「ドック」と呼んでいる、Ryosuke"Dr.R"Sakaiさんと一緒に作った曲で。彼もだいぶドライな感じが好きだから、何も言わなくてもドライに施されてました(笑)。そのドライ感が冬の寒さ、白い息が出るような空気感を演出して、自分の声を際立たせてくれたと思います。
―あと、毎週木曜に出演しているJ-WAVEのラジオ番組「SONAR MUSIC」でブラック・サバスの「Iron Man」やスリップノットの「Vermilion Pt. 2」をかけてたじゃないですか。あの2曲が持つ黄昏たムードも連想させられました。
milet:たしかにそうかも。乾いて突き放すような音とか、生々しいドラム、広がりのある音像……ダークな雰囲気のメタルっぽいサウンドは、もしかすると自分の中でアイデアをもらってたかもしれない。
―そもそも、miletさんがメタル好きなのも意外でした。
milet:スリップノットはもともと顔が好きで。顔から入っても好きになれるんですもんね。音楽。
―くるりの岸田さんもそうだと前回のインタビューで言ってましたよね(笑)。スリップノットの場合は被ってるマスクも好きだったそうですが。
milet:うん。でも今は曲が好き。そうそう、ラジオが自分のルーツを探る時間になっていて。ああやってラジオのネタ探しで曲を選んでると、「昔はああいうの聴いてたな」って引っ張り出すうち、その当時の感情まで思い出すんですよね。
―いい話! 最近もそういう再発見はありました?
milet:8月の「つい口ずさんでしまう鼻歌ソング」の回で、ベア・ミラーの「burning bridges」を紹介したのをきっかけに、彼女の曲を聴き直すようになって。そこから「brand new eyes」のMVが記憶に焼き付いたのが、今作の「You & I」に繋がっていますね。勢いや開放感がある一方で、ミドルテンポなんだけど落ち着いていて、声のトーンも張っていない。「You & I」は花王「フレア フレグランス &SPORTS」っていう新しい柔軟剤のCMソングなので、そちらの映像にも合いそうだなと。
―今回のEPだと、個人的にはその「You & I」が特に好きです。
milet:そうですか。乙女~!
―(笑)。この曲ではどんなことを歌おうとしたんですか?
milet:付き合う前の初々しさというよりは、お互いの気持ちも知ったうえで「ついに触れるよ」っていう瞬間の弾ける感じ。気持ちが一番高まるところでふと息を呑んでしまう、触れた瞬間に時が止まったみたいな。そんな一瞬のこと。
―そんなキュンとする曲が、石田ニコルさん出演のCMで流れるなんて最高ですね。
milet:ふふ(笑)。タッチすると軽やかにふわっとして、匂いが広がるようなイメージですね。いい香りって可視化するとしたら綺麗な色をしていると思うんですよ。CMのほうもちょっと大人っぽいけど可愛い色をしてたので。そんな色が出せる曲にできたらと思って。この曲のMVも素敵な色合いになりました。
―前回のインタビューでは、ラブソングを書くことの気恥ずかしさを語ってましたけど。
milet:今回は何も恥ずかしい!って思うことなく……書いちゃったな。(歌詞には)第三者の視点もあって、相手のことも知ってるから、気持ちに余裕をもって歌えた気がします。
―3曲目の「Fine Line」は、躍動感のある弦アレンジが印象的です。
milet:3、4曲目は去年作ったもので、この時のセッションは遊んでいるような感覚でした。デビューも決まってなかったし自由に作ってましたね。で、「Waterfall」(1st EP『inside you』収録)を作ったあと、「暗い曲ができたから、そろそろ明るい曲も作ろう」ということで出来上がったのが「Fine Line」です。ただ、”Fine”には元気という意味もあるけど、ここでの”Fine Line”は細い線という意味。その上を綱渡りみたいに渡って生きていく、みたいなニュアンスですね。
―この「Fine Line」や「Drown」もそうですけど、「前進する」「戦う」っていうのは、miletさんの歌詞で毎回出てくるテーマですね。
milet:最近はそうじゃないって思い始めているけど……それまでの私は、一人で背負ってるものがすごく大きかった。それは音楽だけでなく、自分自身のこと、家族とのことだったり。当時もまったく一人じゃなかったけど、あまりに余裕がなさすぎて、周囲に誰もいないような気がしていたんです。そのことによる警戒心とか緊張感が歌に出てたのかなって。
―なるほど。
milet:当時の歌詞に出てくる「一人」は、周りの見えてない孤独感だったと思うけど、今歌ってる「一人」っていうのは相手を見てるなって思いますね。「You & I」も相手のことを見ているし、自分の見方が変わったなっていうのはすごく思う。
―「一人」もよく出てきますもんね。
milet:そうなんですよ。「航海前夜」(2nd EP『Wonderland』収録)の頃は、孤独でも進んでいくという感じで、それこそ周りを見れてなかったと思う。それに対して、「Drown」も一人の歌だけど、ここには誰かを背負って生きていくっていうメッセージがあって。誰かと一心同体みたいな「一人」で、周りを見てる「一人」だと思います。
―最後の4曲目「Imaginary Love」は、ストレートなラブソングというよりも……。
milet:当時、妄想恋愛が私のなかで流行ってて。寝る前にいつもしてたんです。その勢いのままセッションに向かって、ノリで生まれた曲だけど、すごくお気に入りなんですよ。あまりのクセの強さにキープが続いてたんですけど、ついに出せました。ライブで歌いたい!
―妄想の中身が気になりますが。
milet:恋愛の話とはちょっと違うけど、好みなのは獣のフェイスで人間の体みたいなのがたまらなく好きなんですね。これはMAN WITH A MISSIONのみなさんと出会う前からもずっとで、もはや趣味に近いですね!(笑)。
―スリップノットの見た目が好きなのと一緒で、ファンタジー趣味なんですね(笑)。でもまさか、miletさんとマンウィズと共演するとは。
milet:私もびっくりしました!

Photo by Daisuke Sakai
―アーティスト写真でも、マンウィズの5人に真顔のmiletさんが囲まれていて。いったい何が起きてるんだって。
milet:(笑)。でも会ったら怖かったですよ。やっぱり獣でした。
―理想のシチュエーションじゃないですか!
milet:思い出すとめちゃくちゃゾクゾクしますね。もちろん嬉しかったです。いろんな意味で本当によかった。私の好みが現実になりました!
―共演までの経緯も気になります
milet:それが、誰か大人がやれって感じじゃないんです。レコーディング現場に行ったら、Kamikaze Boyさんが「『inside you』の時からずっと聴いてました!」と言ってくださって。それで今回コラボした「Reiwa」の制作中に、私にオファーをしてくださったと。そんなことあるんだなって。本当に嬉しかったです。
MAN WITH A MISSIONのニューシングル『Dark Crow』、3曲目の「Reiwa」にmiletがゲストボーカルで参加
―レコーディングのほうはどうでした?
milet:すごく楽しかったです。ただ、メロディは数本だけ録ってすぐ終わったんですけど、ハーモニーが難しくて。私もハモりを歌うのは好きなんですけど、彼らのハモが独特なのと、生音のバンドサウンドで歌うのは「inside you」以来そんなになかったから、なかなか苦戦しましたね。でも、すでに本人たちの声も入った状態でのレコーディングで臨場感もあったし、マンウィズさんの仲間になったような気持ちで歌えました。「生音には生音に対抗できる声で歌わないと」って意識が働いたぶん、いつもと違う歌声になっていると思います。
―「Reiwa」という曲に対する印象は?
milet:しっかり地に足がついた感じで、バラードみたいな広がりと疾走感を兼ね備えていますよね。”令和”というタイトルだしどんな曲だろうと思ったけど、どこでもドアを開いて真っ白な世界が広がり、光がパァーって差し込むなか、自分も足を踏み入れていく瞬間を切り取ったような感じ。世界が広がるような爽快感のある曲だなと。明るいんだけど、ただ明るいだけじゃないところは私と似通ったものを感じました(笑)。
―それにしても、2019年は夢がどんどん現実になっていった1年じゃないですか。
milet:いや、夢にも思ってなかったことばかりです!
―少し気が早いですが、この1年を振り返ってみていかがでしょう?
milet:まずは今の環境に慣れることを目標にしていたんですけど、ちょっと慣れた気がします。曲作りの仕方や緊張との向き合い方もそうだし、初めて会った人との打ち解け方とか、仕事以外のことでもそう。成長しているのかはわからないけど、楽しい1年でした! 何年分くらい濃密な時間を過ごしたんだろう。あとは出会いにも恵まれましたね。たくさんの人と出会ったけど、みんな顔が思い出せると思います。
―すっかり名前や歌声が知れ渡って、デビュー前とはだいぶ違う人生になったんじゃないですか。
milet:うん、本当に。ただやってることは変わらないですけどね。テレビに出たりもしてるけど、曲作りの仕方も変わってないし、クセも変わってない。そう考えると何も変わってないです。
―ちなみに、2019年の音楽で何か印象的なものはありましたか?
milet:この1年は自分のデモをとにかく聴いてました。新曲を聴かないことで有名な私なんでね(笑)。だからどうだろう……最近よく聴いてるのはモードセレクター。
―懐かしい名前ですね。レディオヘッドのトム・ヨークともコラボしてた、ベルリンのエレクトロ・ユニット。
milet:そうそう。「この人たち最近何やってるんだろう?」って調べたらニューアルバムを出してて。しかも、メチャクチャかっこいいんですよ! 何も考えたくない時とかに、「Wealth」って新曲をよく聴いてます。あとは意外かもしれないけど、米津玄師さんの「パプリカ」とか。
―今時の小さい子どもは「パプリカ」を聴きながら踊るそうですよね。ウチの甥っ子もそうで。
milet:そうなんですよ! 仲良くさせていただいてる女優さんのお子さんが、「パプリカ」で踊ると聞いて仲良くなりたくて。毎晩のように練習してます。親戚のおばさんみたい(笑)。
―音楽以外だとどうです?
milet:武蔵野美術大学美術館の「スタシス・エイドリゲヴィチウス:イメージ──記憶の表象」(11月9日まで開催)。最近、たまたま行ったんですけど、すーっごいよかった! 知らない人が作ってるはずなのに、共感できるところが多すぎて気持ち悪かったです(笑)。
―たしかに好きそうですけど、どこに共感したんですか?
milet:目の奥の暗さ。たぶんスタシスさんは、テーマがあるものもあるけど、何でもないものをたくさん描いてる人で。見る人が勝手に考えればいいって作品が多くて、そこがよかった。いい意味で他人任せ。私もたまに絵を描くと「これ何?」って言われるんですけど、別に何でもないんですよ。その感じがすごく似てる気がしました。
―前々回のインタビューでも「孤独を知らない音楽は信用できない」と話してましたけど、どこか闇のある表現に惹かれやすいのは、miletさんの信頼できるところだなと。
milet:なんでですか(笑)。目の奥の暗さって、生きてる人間にはないものがあるんですよ。私は人間にはないものが好き。魚の目とかがすごく怖いけど、でも同時に綺麗だなとも思うんです。私は呆然とした表情をしてると「死んだ魚の目」てよく言われますけど、あそこまでの漆黒さはないと思う。やっぱり私にはないものなんですよ。
―「Imaginary Love」とマンウィズのくだりにも通じる話ですね。畏怖の念を覚えるからこそ、より美しく思えてくる。
milet:そう、あの(魚の眼の)暗さには踏み込めないし理解もできないけど、だからこそ惹かれるものがあるというか。
―最後に、ワンマンライブ”eye”についても聞かせてください。9月末に「セットリスト練り中」とツイートしてましたよね。
milet:セットリストはできました! これまで30~40分くらいのステージしかやってないので、スタミナと歌詞が覚えられるかが不安ですけど……(笑)。まっさらな気持ちで聞き返しながら、「いい曲作ってきたな~!」って我ながら思ったりもして。
―ライブといえば、驚いたのはサマソニですよ。miletさんの出番は朝イチの午前10時だったのに、駆けつけたら(1万人収容の)SONIC STAGEが超満員。
milet:私もビックリしました! (ステージの)上から見たら後ろまでビッチリで。

―周りのお客さんもみんな「可愛い~」「歌上手い~」と興奮ぎみで。かくいう僕自身、音源よりも遥かにダイナミックなボーカルに驚きました。
milet:いやー、嬉しい。今年は夏フェスに3回出演して(ROCK IN JAPAN FESTIVAL、サマソニ大阪・東京)、サマソニが最後の出演だったんですけど、先の2回を経てやり方が掴めたというか。自分のなかでどういうエネルギーの使い方をしながら動くのか、音響周りのコンディションの合わせ方、お客さんがどこらへんで元気になるかとか、ちょっとずつコツが見えてきたんです。それもあって、サマソニ東京ではやりきることができました。今回のワンマンはどうなるんだろう? ステージの緊張感にはだいぶ慣れたつもりなんですけど。
―ステージ上のmiletさんは、むしろ楽しそうに堂々と歌ってるように見えますよ。
milet:それはもう、一度ステージに出たら戻れないっていう諦め(笑)。でもやっぱり、(客席の)みなさんの顔を見るとホッとしますね。
―実際にMCでも言ってましたよね。
milet:そうなんですよ、久々の友人に会ったような感じ。私のことを最近知った人もたくさん来てくれると思うし、どういうノリ方になるのかな。私自身も探っていきたいし、お客さんのことも見ていきたい。
―そして、2020年もすでに予定は盛りだくさん?
milet:そうなんです。だからまた会いましょう!
〈リリース情報〉
milet
『Drown / You & I』
2019年11月6日発売
初回生産限定盤(CD+DVD) 価格:¥1,500+税
通常盤 価格:¥1,250+税
期間生産限定盤(CD+DVD) 価格:¥1,500+税
〈CD〉
M1「Drown」※TVアニメ『ヴィンランド・サガ』エンディング・テーマ
M2「You & I」※花王「フレア フレグランス &SPORTS」CMソング
M3「Fine Line」
M4「Imaginary Love」
〈DVD〉
初回生産限定盤:「us」「Fire Arrow」MUSIC VIDEO
期間生産限定盤:「ヴィンランド・サガ」ノンクレジットエンディングムービー

初回生産限定盤

通常盤

期間生産限定盤
〈ライブ情報〉
milet first live "eye"
2019年11月7日(木)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2019年11月11日(月)東京・恵比寿LIQUIDROOM
※全公演ソールドアウト
milet公式サイト:
https://www.milet.jp/