──まず、このタイミングでベスト・アルバムを出そう、という話になったのは?
どんどん動いていきたい、何かリリースしてライブをやっていきたい、というのがまずあって。でも、アルバムが去年の7月に出て、またアルバムっていうにはタームが早すぎたのと、このご時世ですから、シングルとかEPを単発的に出していくっていうのは、あんまり戦略的じゃない。じゃあ何があるかな、って考えた時に、ベスト・アルバムはどうかと…… まあ、ストリーミングで聴いてる子たちからすると、自分でプレイリスト組んじゃえば、ベストなんていらなかったりするじゃないですか?
──(笑)。まあそうですね。
でもそういう意味では、逆に、僕のファンじゃない人に、プレイリストを作ってあげる、という意味合いならありかな、と思って。そこで、レーベルに提案したら、「新曲を入れるなら」っていう話になって。それで2曲入れて。
──はい。
そうです。あと、ソロで(アルバムを)4作出して、これで一段落、みたいなのも感じたんですよ。ソロのファースト・アルバム(『emotion』2013年11月リリース)は、ツアーとかがあんまりうまくいかなくて、そのあと2年ぐらい潜伏期間を経て、Base Ball Bearのサポートで、シーンに戻って来た感じがあって。それでセカンド・アルバム(『And Im a Rock Star』2017年1月リリース)を出して、サード・アルバムは、TGMXさんのプロデュースで作って(『Yesterday Today Tomorrow』2018年1月リリース)。その時にデビュー15周年のイベントをやって(2018年 1月28日、新木場スタジオコースト)、そこで一夜限りのDOPING PANDA再結成もあったり。それで「ああ、人と一緒にやるのって楽しいな」と思って、次はいろんな人とコラボして4枚目を作る(『epoch』2019年7月リリース)。同時期に、LOW IQ 01のサポートも始まって……だから、ひとりで始まって、挫折もあって、仲間が増えて、みたいなストーリーが、なんとなくあったので、「ここでひとつ区切りを付けたいな」というのはあったかもしれないです。
──それぞれの曲に関して、「この時期はこんなことを考えてたなあ」って、思い出したりすることはあります?
それは、ありますね。全然違いますからね、アルバムごとに。ファーストはすごく…… 歌詞の内容もですけど、ミックスのドラムのリバービーな感じとか、ギターにもリバーブかかってるのって、「大きなところを想像できるようなミックスにしてくれ」って、エンジニアさんに言ったからなので。それはつまり、ドーパン(DOPING PANDA)の時より大きな会場でライブをやるぞ、っていう野望みたいなのが、あったんですよね。
──その時期は、どんなことを考えて、どんなふうに過ごしてたんですか?
自分の音楽人生の中で、いちばんの地獄はその2年間だったかもしんないですね。ソロになった時、一回事務所を離れたんだけど、ファーストのツアーのあと、事務所に戻って。お給料はもらってたから、生活はできるし、音楽以外の仕事をしてたわけでもないんですよ。って、ハタからきくとすげえ幸せにきこえるかもしれないけど…… 健康で、おカネはもらえていて、制作はしてるんだけど、ライブができないという時期が2年弱あった、それは想像を絶する大変さでしたね、ほんとに。
──それは状況的にライブができなかった?
そうですね、当時のマネジメントの方針でした。事務所には戻れたんだけど…… 僕は、ライブをやりたいとか音源を出したいとか、何回も言ったんですよ。
──その時期から抜け出せたきっかけは、Base Ball Bearにサポートを頼まれたこと?
完全にそれですね。俺、当時、ホームページにブログを書いていて。ベボベ(Base Ball Bear)に誘われる直前のブログ、チャーハンの作り方とか書いてるんですよ。音楽で書くことないから。で、最後に「ライブしたいライブしたいライブしたい!」って書いて、終わっていて。ベボベに誘われた後からは、ブログの内容も変わるし、BARKSでコラムも始まって、今に至るんですけど。あの時ベボベに誘われなかったら、どうなってたんだろうな、と思います。
──で、確かに、そのあと作ったサード・アルバム『Yesterday Today Tomorrow』から、ガラッと変わるんですよね。
そう、TGMXさんにプロデュースしてもらったのもあるけど、セカンドとは違って、曲を寄せ集めたんじゃなくて、アルバムを作るっていうコンセプトがしっかりあるんですよ。ガラッと変わります、そこは。
──聴いていると…… 変な言い方だけど、音楽をやっているのが楽しい、ということが伝わってくる楽曲になっているというか。
いや、本当にそうじゃないですか? DOPING PANDAも、インディーの頃は、楽しいかどうかもわかんないところからスタートして。で、メジャー・デビューして楽しそうになって、サードぐらいからどんどん苦しそうになっていくんですよ(笑)。だから、山と谷が、僕のキャリアにちゃんとあるなと思っていて。それで今、山に向かっているところなんだな、と思ってますけどね。
──「Yesterday Today Tomorrow」という、2つ前のアルバムと同じタイトルの新曲を、今になって書こうと思ったのは?
これ、歌詞を、ジョシュ・ワッツっていうイギリス人の作詞家の友達と書いていて。最初に、今の自分から過去の自分への手紙みたいな内容の詞にしたい、っていう話をしたんですよ。それで、話しながら作っていったら、結局手紙みたいにはならずに、未来と過去を見据えている現在の自分が、大人になって、苦しんでるけど、人生はそういうものだよ、みたいな歌詞になったんです。けっこうサラッと書けたんですけど、最後に「タイトル付けなきゃね」ってなった時に、いいのが思いつかなくて。っていうか、ジョシュが「When I」って仮タイトルを付けていて、「すっごいいいタイトルじゃん!」って言ったら、「そうなんだけど、すっごい売れてる曲と同じタイトルなんだ」と。
──でも、時期によっていろいろ状況は違っただろうし、メンタルも違っただろうけど、こうして『傑作選』を通して聴くと、一貫していいメロディを書いてきたんだな、というのは思いますね。
ああ、ありがとうございます。そうですね、思うんですよ、俺はやっぱりメロディだなって。自分の売りは。ループとか、四つ打ちとか、ドーパンの時はいろいろやりましたけど、そこでもメロディは捨てないようにしてたし。
──で、「Yesterday Today Tomorrow」の「Tomorrow」の部分、今後のツアーについてもうかがいたかったんですが、コロナがねえ。
そうですねえ。今年は、大きな目玉としては、1年かけて47都道府県を回る、っていうのがあって。
──ああ、なるほどね。
それを経たあとに、きっと本当の意味でのセカンド・シーズンが始まるんだろうなっていう。それで47都道府県を回りましょう、っていう、美しいコンセプトだったんですけど。バンドでも行くし、アコースティックでひとりで回る場所もあるし、アコースティックに関しても、the band apartの荒井(岳史)とか、アスパラの忍さん(渡邊忍/ASPARAGUS)とかと一緒に回るところもあるし。その間に、今年は市川さん(LOW IQ 01)のツアーもあるし、飛び回りたいなと思ってるんですけどね…… どうなるか……。
──ソロになってからいちばん活発な1年になるはずだったんですね。
そう、全部合わせると、おそらく、ライブ100本超えるんじゃないかと思ってたんですけどね。さっそく延期になってる公演も多いから、LOW IQ 01も含め。ここから先は、まだ見えてないです。やれることを願うしかないですね。
<リリース情報>

フルカワユタカ
ベストアルバム『傑作選』
発売日:2020年3月25日(水)
価格:2545円(税抜)
=収録曲=
1. Yesterday Today Tomorrow *録り下ろし新曲
2. コトバとオト feat.Base Ball Bear
3. クジャクとドラゴン feat.安野勇太(HAWAIIAN6)
4. ドナルドとウォルター feat.原昌和(the band apart)
5. 僕はこう語った
6. busted
7. days goes by
8. シューティングゲーム
9. slow motion(2020mix)
10. プラスティックレィディ
11. I dont wanna dance
12. サバク
13. next to you
14. too young to die
15. Beast
16. farewell
17. 密林*録り下ろし新曲