かつてはBase Ball Bear、現在はLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSのサポート等、各所で頼られるギタリストとしての腕や、プロデューサー・アレンジャーとしての手腕も確かだが、やっぱりこの人をこの人たらしめているのは、ソング・ライター/メロディ・メーカーとしての天賦の才だ。ということを、改めて思い出させてくれるのが、フルカワユタカのベスト・アルバム『傑作選』である。
自分でよく付けるなそんなタイトル、とも言いたくなるが、聴くと、「うん、まあ、確かにそうね」と同意したくなる、歴代のグッド・メロディが並ぶ17曲(新曲2曲あり)。DOPING PANDAを解散し、ソロになってからの7年間・アルバム4作をこうしてまとめた意図や、ここまでの道程について、本人に訊いた。なお、このインタビューを行ったのは2020年3月6日、日本中のライブ・コンサート・演劇等が続々と延期・中止になっていくタイミングだった。ということも含めてお読みいただけると幸いです。

──まず、このタイミングでベスト・アルバムを出そう、という話になったのは?

どんどん動いていきたい、何かリリースしてライブをやっていきたい、というのがまずあって。でも、アルバムが去年の7月に出て、またアルバムっていうにはタームが早すぎたのと、このご時世ですから、シングルとかEPを単発的に出していくっていうのは、あんまり戦略的じゃない。じゃあ何があるかな、って考えた時に、ベスト・アルバムはどうかと…… まあ、ストリーミングで聴いてる子たちからすると、自分でプレイリスト組んじゃえば、ベストなんていらなかったりするじゃないですか?

──(笑)。まあそうですね。

でもそういう意味では、逆に、僕のファンじゃない人に、プレイリストを作ってあげる、という意味合いならありかな、と思って。そこで、レーベルに提案したら、「新曲を入れるなら」っていう話になって。それで2曲入れて。

──はい。
1曲目の「Yesterday Today Tomorrow」と、ラストの17曲目「密林」。

そうです。あと、ソロで(アルバムを)4作出して、これで一段落、みたいなのも感じたんですよ。ソロのファースト・アルバム(『emotion』2013年11月リリース)は、ツアーとかがあんまりうまくいかなくて、そのあと2年ぐらい潜伏期間を経て、Base Ball Bearのサポートで、シーンに戻って来た感じがあって。それでセカンド・アルバム(『And Im a Rock Star』2017年1月リリース)を出して、サード・アルバムは、TGMXさんのプロデュースで作って(『Yesterday Today Tomorrow』2018年1月リリース)。その時にデビュー15周年のイベントをやって(2018年 1月28日、新木場スタジオコースト)、そこで一夜限りのDOPING PANDA再結成もあったり。それで「ああ、人と一緒にやるのって楽しいな」と思って、次はいろんな人とコラボして4枚目を作る(『epoch』2019年7月リリース)。同時期に、LOW IQ 01のサポートも始まって……だから、ひとりで始まって、挫折もあって、仲間が増えて、みたいなストーリーが、なんとなくあったので、「ここでひとつ区切りを付けたいな」というのはあったかもしれないです。

──それぞれの曲に関して、「この時期はこんなことを考えてたなあ」って、思い出したりすることはあります?

それは、ありますね。全然違いますからね、アルバムごとに。ファーストはすごく…… 歌詞の内容もですけど、ミックスのドラムのリバービーな感じとか、ギターにもリバーブかかってるのって、「大きなところを想像できるようなミックスにしてくれ」って、エンジニアさんに言ったからなので。それはつまり、ドーパン(DOPING PANDA)の時より大きな会場でライブをやるぞ、っていう野望みたいなのが、あったんですよね。
ドーパンの解散は、やっぱりすごくしんどかったですけど、その反面、希望みたいなのもあって。「案外ひとりでうまくいっちゃうんじゃないか?」みたいな、甘い考えがあってですね。その感じが出てるんですよね。だからちょっと歌謡曲チックな歌詞もあるし、全編日本語詞だし。で、セカンドは、潜伏期間を経てのBase Ball Bearのサポートの後、とにかくもう一回音源を作ってツアーをやりたい、っていう動機で作ったから…… その期間に作ってたデモを寄せ集めたせいでから、アルバムのために曲を作ってない感じがあって。潜伏期間は、2年間ぐらいほぼ動いていなくて、ライブも3本とかしかやっていなくて。

──その時期は、どんなことを考えて、どんなふうに過ごしてたんですか?

自分の音楽人生の中で、いちばんの地獄はその2年間だったかもしんないですね。ソロになった時、一回事務所を離れたんだけど、ファーストのツアーのあと、事務所に戻って。お給料はもらってたから、生活はできるし、音楽以外の仕事をしてたわけでもないんですよ。って、ハタからきくとすげえ幸せにきこえるかもしれないけど…… 健康で、おカネはもらえていて、制作はしてるんだけど、ライブができないという時期が2年弱あった、それは想像を絶する大変さでしたね、ほんとに。

──それは状況的にライブができなかった?

そうですね、当時のマネジメントの方針でした。事務所には戻れたんだけど…… 僕は、ライブをやりたいとか音源を出したいとか、何回も言ったんですよ。
言ったんだけど、ビジョンがないままやるわけにはいかない、それだと状況的に下がっていくだけだから、という話で。その時期にミニ・アルバムは1枚出してるし、ワンマンもやってるんですけど、それはDOPING PANDAの曲をやるっていう、『無限大ダンスタイム』という企画で(2015年12月4日、リキッドルーム)。ああいう企画だから、やらせてもらえただけで。とにかくあの2年弱は、なかなかライブができなかったですね。

──その時期から抜け出せたきっかけは、Base Ball Bearにサポートを頼まれたこと?

完全にそれですね。俺、当時、ホームページにブログを書いていて。ベボベ(Base Ball Bear)に誘われる直前のブログ、チャーハンの作り方とか書いてるんですよ。音楽で書くことないから。で、最後に「ライブしたいライブしたいライブしたい!」って書いて、終わっていて。ベボベに誘われた後からは、ブログの内容も変わるし、BARKSでコラムも始まって、今に至るんですけど。あの時ベボベに誘われなかったら、どうなってたんだろうな、と思います。

──で、確かに、そのあと作ったサード・アルバム『Yesterday Today Tomorrow』から、ガラッと変わるんですよね。


そう、TGMXさんにプロデュースしてもらったのもあるけど、セカンドとは違って、曲を寄せ集めたんじゃなくて、アルバムを作るっていうコンセプトがしっかりあるんですよ。ガラッと変わります、そこは。

──聴いていると…… 変な言い方だけど、音楽をやっているのが楽しい、ということが伝わってくる楽曲になっているというか。

いや、本当にそうじゃないですか? DOPING PANDAも、インディーの頃は、楽しいかどうかもわかんないところからスタートして。で、メジャー・デビューして楽しそうになって、サードぐらいからどんどん苦しそうになっていくんですよ(笑)。だから、山と谷が、僕のキャリアにちゃんとあるなと思っていて。それで今、山に向かっているところなんだな、と思ってますけどね。

──「Yesterday Today Tomorrow」という、2つ前のアルバムと同じタイトルの新曲を、今になって書こうと思ったのは?

これ、歌詞を、ジョシュ・ワッツっていうイギリス人の作詞家の友達と書いていて。最初に、今の自分から過去の自分への手紙みたいな内容の詞にしたい、っていう話をしたんですよ。それで、話しながら作っていったら、結局手紙みたいにはならずに、未来と過去を見据えている現在の自分が、大人になって、苦しんでるけど、人生はそういうものだよ、みたいな歌詞になったんです。けっこうサラッと書けたんですけど、最後に「タイトル付けなきゃね」ってなった時に、いいのが思いつかなくて。っていうか、ジョシュが「When I」って仮タイトルを付けていて、「すっごいいいタイトルじゃん!」って言ったら、「そうなんだけど、すっごい売れてる曲と同じタイトルなんだ」と。
UKのヒップホップの曲と一緒で、「だから、それは俺が恥ずかしいからイヤだ」と(笑)。で、「どうしよう?」ってなってる時に、「”Yesterday Today Tomorrow”なら最高なんだけどね」ってポロッと言ったら、「それでいいじゃん! 前のアルバムのタイトルを持ってきちゃいけない、ってこともないし」って。そうか、逆にいいかもな、と思って。ここまでのソロの4作のまとめが『傑作選』だとしたら、『Yesterday Today Tomorrow』っていうのは象徴的なタイトルになるな、新曲だし、1曲目だし、と。

──でも、時期によっていろいろ状況は違っただろうし、メンタルも違っただろうけど、こうして『傑作選』を通して聴くと、一貫していいメロディを書いてきたんだな、というのは思いますね。

ああ、ありがとうございます。そうですね、思うんですよ、俺はやっぱりメロディだなって。自分の売りは。ループとか、四つ打ちとか、ドーパンの時はいろいろやりましたけど、そこでもメロディは捨てないようにしてたし。

──で、「Yesterday Today Tomorrow」の「Tomorrow」の部分、今後のツアーについてもうかがいたかったんですが、コロナがねえ。

そうですねえ。今年は、大きな目玉としては、1年かけて47都道府県を回る、っていうのがあって。
要は、自分の中のコンセプトだと、DOPING PANDAをずっと3人でやっていて、解散してひとりになって、ソロを始めて、本当の壁にぶち当たって、潜伏期間があって、それからベボベのサポートをして、セカンドがあって、サードはインディーの時のプロデューサー、TGMXさんと一緒にやって。その時、自分の15周年イベントがあって、仲間に出てもらって、っていう。それを経たら、仲間とやるっていうことがすごくおもしろかった、ってことで、コラボシリーズが始まりますよね。勇太(安野勇太/HAWAIIAN 6)、まーちゃん(原昌和/the band apart)、ハヤシくん(POLYSICS)、で、最後にBase Ball Bearとやって、それを全部入れて4枚目のアルバムを作って。っていうところで、ソロの一区切りとしてベストが出る、じゃあ次はなんだ?っていうと、みんなに会いに行くっていうことですよね、今度は。

──ああ、なるほどね。

それを経たあとに、きっと本当の意味でのセカンド・シーズンが始まるんだろうなっていう。それで47都道府県を回りましょう、っていう、美しいコンセプトだったんですけど。バンドでも行くし、アコースティックでひとりで回る場所もあるし、アコースティックに関しても、the band apartの荒井(岳史)とか、アスパラの忍さん(渡邊忍/ASPARAGUS)とかと一緒に回るところもあるし。その間に、今年は市川さん(LOW IQ 01)のツアーもあるし、飛び回りたいなと思ってるんですけどね…… どうなるか……。

──ソロになってからいちばん活発な1年になるはずだったんですね。

そう、全部合わせると、おそらく、ライブ100本超えるんじゃないかと思ってたんですけどね。さっそく延期になってる公演も多いから、LOW IQ 01も含め。ここから先は、まだ見えてないです。やれることを願うしかないですね。

<リリース情報>

フルカワユタカの挫折と仲間との出会い、ソロ活動7年間を振り返る


フルカワユタカ
ベストアルバム『傑作選』

発売日:2020年3月25日(水)
価格:2545円(税抜)

=収録曲=
1. Yesterday Today Tomorrow *録り下ろし新曲
2. コトバとオト feat.Base Ball Bear
3. クジャクとドラゴン feat.安野勇太(HAWAIIAN6)
4. ドナルドとウォルター feat.原昌和(the band apart)
5. 僕はこう語った
6. busted
7. days goes by
8. シューティングゲーム
9. slow motion(2020mix)
10. プラスティックレィディ
11. I dont wanna dance
12. サバク
13. next to you
14. too young to die
15. Beast
16. farewell
17. 密林*録り下ろし新曲
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