「家でじっとしていたらこんな曲ができました」「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」
さる4月2日、自身のInstagramに「うちで踊ろう」をアップした星野源。彼の呼びかけはネット上で瞬く間に広がり、著名アーティストや芸能人、クリエイター、一般の人々まで現在進行形でコラボの輪を広げ続けている。プロアマ関係なく、音楽以外にもジャンル不問で参加できる自由度の高さもあって、参加者それぞれのカラーが豊かに反映されているのもこのムーブメントの魅力。今では海外でも連鎖反応を巻き起こし、多くの人々を楽しませ、勇気づけながら、無数の”重なり”を生み出している。
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最近は多くのアーティストが自宅で撮影した演奏動画をアップしているが、ここ日本でそういった動きの始まりであり、起爆剤となったのも「うちで踊ろう」に他ならない。iPhoneで録画されたアコギ弾き語り楽曲がここまでの反響をもたらしたのは、この国のポピュラー音楽史においても画期的な出来事と言えるだろう。
特に海外では、InstagramやTikTokを着火点に、ユーザーの共鳴を生み出しながらヒットソング化していくケースはもはや珍しくない。生粋のポップフリークでもある星野は、そういったトレンドも把握していたことだろう。しかし、「うちで踊ろう」を語るうえで重要なのはプラットフォームを巡る方法論ではない。この1分ジャストの曲が人々を惹きつけ、社会現象にまで発展したのは、苦しい現状と誠実に向き合いながら、誰もが楽しめるうえに誰一人傷つけない形で、音楽や表現の楽しさ、人と人とが繋がる喜びを思い出させてくれたから。そして、この曲が生まれた背景には、星野が2010年のソロデビューから今日までの活動で貫き続けた、表現者としてのアティテュードも関係している。
それにしても、まさか国民的スターにZoomで取材する日が来ようとは。直前には緊張したムードが漂っていたが、星野がブラウザ越しに現われ、あの笑顔とともに第一声を発すると場の空気がたちまち和みだす。そこからおよそ1時間、星野は「うちで踊ろう」を撮ったのと同じ部屋で、嬉しそうな表情を浮かべたり、シリアスに考え込んだりしながら、こちらの質問に答えてくれた。
※このインタビューは2020年4月9日(木)に収録しました。
星野源の近況報告
ー今回は「うちで踊ろう」が大きなムーブメントになっているなかで、星野さんが現在、どういったことを考えているのか伺えたらと。
星野:よろしくお願いします……この取材、不思議っすね(笑)。
ーいや、本当に(笑)。
星野:僕も自宅だけど、(Zoom取材に立ち会った)みんなの自宅らしき場所が見えるのもおもしろい! こういう家に住んでるんだって生活が見える。こういう時、背景も家の中の一番おしゃれな場所を選んじゃうでしょ(笑)。
ーいやー(笑)。世の中はこんな感じですけど、星野さんは最近いかがお過ごしですか?
星野:ずっと家にいます。テレビドラマ『MIU404』の撮影が3月31日でストップして、その翌日からずっといますね。
ー本当にすごい量がアップされてるみたいで。
星野:いやー、すごい。インスタだけで1万5千くらい投稿されてるので(取材時点、現在は4万超え)。Twitter、YouTube、TikTokなんかも含めると、相当な数になっていると思います。
この投稿をInstagramで見るGén Hoshino 星野源(@iamgenhoshino)がシェアした投稿 - 2020年 4月月2日午前9時45分PDT
ーそれ以外は、自宅でどんなことをしてるんですか?
星野:掃除、洗濯、炊事(笑)。あとはインスタライブをやったり、渡辺直美さんの YouTubeライブに出たり……それと、友だちとか、最近会えてない人に電話する機会が増えましたね。「あの人元気かな?」みたいなことをすごく考えるようになりました。音沙汰がないと不安になってくるというか。特にSNSをやってない人には連絡を取って、世間話をするようになりましたね。
ー星野さんは以前からインドア派と公言してますし、仕事から遊びまで、家でやりたいことが山積みなのかなとも思ってましたが。
星野:本当はやりたいゲームとか、曲を作りたいとか、ピアノの練習がしたいとか山ほどあるんですけど、まったくできてないですね。今は正直、「うちで踊ろう」のことで24時間ずーっと働いてる感じ。メディアからの問い合わせもとんでもない数が来てるので、レコード会社やマネジメントのみんなもテレワーク上でフル稼働してくれてます。そのやり取りもあるので、ずっと家で過ごしてますけど、忙しい仕事がずっと続いてるという状態のまま今日まで来てます。
ーアップする前、各方面に相談とかしたんですか?
星野:マネージャーとディレクターにはもちろん連絡したんですけど、全部完成して、動画も撮ってから、「これ上げたいんだけど」と訊いてから「いいっすね」となってアップするまでは10分くらいです(笑)。
「うちで踊ろう」のアイデアが閃くまで
ーでも実際、多くのミュージシャンが「自分たちは何をやればいいんだろう?」と悩まざるを得ないなか、「うちで踊ろう」が公開されてから、「こんなやり方があったのか!」と驚いたり勇気づけられたりした人が大勢いると思うんですよ。
星野:うんうん。
ーこの曲のアイデアをどのように閃いたのか、改めて教えてもらえますか?
星野:3月後半に、土日2日間の外出自粛があったじゃないですか。その辺りから何かできないかと考え始めました。世界の状況を見ても、もう少ししたらもっと長期で外出できなくなるだろうから、家の中に居ても面白がれる仕組みってないかなって。その後ドラマ撮影が止まって、次の日の4月1日からまた改めて考え始めて「あ、これ歌でできるな」と思いついて、4月2日に曲を作り始めて、その深夜にInstagramにアップしました。僕が歌を作って、それを動画として載せる。
ー”僕らそれぞれの場所で 重なり合うよ”という歌詞には、そんな背景もあったんですね。
星野:そうですね。僕は、昔から「みんなでひとつになろう」的な言い方が好きじゃないんです。人と人はひとつにはなれない。死ぬまで1人だと思う。でも、手を取り合ったり、想いを重ね合うことはできる。そこに一つの大事なものが生まれるんだと思うんです。「ばらばら」という曲でも(2010年作『ばかのうた』収録)、”重なり合ったところに たったひとつのものがあるんだ”と歌いましたし。
ー”世界はひとつじゃない ぼくらはひとつになれない”けど、どこかしら重なることはできる、ということですね。
星野:だから今回、重ね合うことでみんなと繋がってる感覚になりつつ楽しめるもの、多様なアプローチができるもの。そういうことをこの一曲でやろうと思ったんです。
ーあの動画はiPhoneで録画したんですよね?
星野:そうです。
ーそこも大胆ですよね。世の中の状況やご自身の影響力なども踏まえつつ、「自分がやらなければ」という使命感みたいなものはあったりしたんですか?
星野:世間に対する使命感はあまりなかったです。さっき話したようなアイデアを思い付くと、こんなふうに(手を動かしながら)ゾーンに入っていくんですよ。で、そうなったら音楽家として、自分がやりたいことや面白そうと思ったことは実現しなければならないというか。この面白いことを他の人はまだやってなくて、すぐにでも俺がやらねばならない……というより、俺がやる!っていう(笑)。そういう集中力みたいなのはありました。
ーなるほど。
星野:実際、前例がないから、どれぐらいの反響になるのかわからないし心配してもしょうがないなって。現在のような状況は理想的には思い描いていましたけど、今は「ここまでだろう」っていうのが毎日塗り替えられていくような感じ(笑)。
ー11人編成による賑やかなラテン・バージョン。
星野:感動しました。あの大人数がそれぞれの家で録ったのも労力ハンパないし、それが「重なり合って」ひとつの動画になってることが、コンセプトをこれ以上なく示してくれていて。見てるほうも楽しくなるし、演奏してるみなさんも楽しそうにやってくださっていたので、嬉しかったです。
「自分にもできる!」から輪が広がる
ー本当におっしゃる通りで、アーティストやクリエイター、一般の方々までプロアマ問わずどんどん反応して、すごい勢いで拡散されていくなかで、それぞれの個性が発揮されているところも素敵だと思ったんですよね。
星野:そうなんですよ。
ーきゅうりにエフェクターを通して楽器代わりにするとか、そんな発想もあるんだなって。
きゅうりでコラボしました。#うちで踊ろう#星野源#きゅうりにエフェクター通した pic.twitter.com/Bgbb8giHIH— さのみきひと@MIKISARA (@mikihitokun) April 5, 2020
星野:うんうん。でも、大喜利大会にもなるだろうとも思ってたんですよ。音楽を重ねる方向もあれば、面白くする方向もあったりしたほうが絶対にいいと思ったので。バナナマンさんの動画を自分のアカウントで投稿したのも、「音楽じゃなくても、あなたにできることならなんでもいい」っていうのを示したかったから。大泉(洋)さんのもそう。
ー大泉さんのは斬新でしたね。寝癖頭でぼやくだけ(笑)。
星野:僕のほうでピックアップして(インスタの)ストーリーズに載っけているのも「こういう形があるんだ」というのを知ってもらえたら、それまで見ていた人たちに「自分にもできる!」「もしかしたらやれることがあるかもしれない」と思ってもらえる気がしたから。ただ見てるだけでも楽しいし、動画を上げたほうもいいね!を押してもらったりすれば嬉しいですよね。それってWin-Winの関係だし。
ーたしかに。
星野:そもそもの発祥が「ご自由にどうぞ」なので、「全員が自由に楽しむ」というのが条件になってるんですよ。観た人を嫌な気分にさせたり怒りを煽ったりするようなものは論外。僕の歌に重ねた誰かが上げた動画を引用してもいい。そういう根底にあるルールが楽しいから、それが大きな広がりの要因になったのかなと思います。あとはYouTubeの字幕もそう。まさか28言語も訳してもらえるとは思わなかったけど。
ー有志の方々が、歌詞の字幕を翻訳してくれてるんですよね。手話をアップする人もいたり、動画を上げなくても参加する方法がたくさんある。
星野:盛り上がりますよね。
ー実際に今では日本だけでなく、いろんな国の方々が動画をアップしている。こんなふうに国境を超えていくこともできるんだなって、その広がり方にも感動しました。
星野:海外からもいい動画がいっぱい上がってますよね。今はこういう事態になって、世界共通の危機感を持ってるし、この状態にはある種の連帯感がある気がしていて。もちろん大小の違いはあるにせよ、どの国でもどの場所でも、誰もがみんな苦しんでいる。こういう状況を経験しているのは、人類史上でも初めてだと思うんですよ。インターネットだったり気分を共有するためのテクノロジーも整っているから、今までにない一体感が生まれている。
その一体感は悲しかったり苦しかったりする要素が多いけど、だからこそ、一体感によって開通した回線に、面白いものや楽しいものを流せるんじゃないかって予感があって。
ーすっかり当たり前のような感覚になってましたけど、オンラインで繋がることができるのは大きいですよね。そのなかで何ができるのか、どんなふうに楽しめばよいのか。
星野:みんなそれぞれのやり方で発信したり、同じ時間をただ共有するだけで、人は安心しますよね。それこそ、ただ画面に向かってご飯を食べるだけでホッとするものなので。それは大きいですよね。
「おうち」ではなく「うち」、その真意
ー取材前にインスタのストーリーズでも見かけましたが、「うちで踊ろう」の英語タイトルは「Dancing on the inside」なんですよね。「”おうちで”踊ろう”」ではなく、「心の”内で”踊ろう」という想いがタイトルにも込められている。そういう発想はどこから出てきたんですか?
星野:今の状況下でも、どうしても外に出なきゃいけない人はいて。それは会社の命令だったり、あとは医療の方や保育関係や食関係、配送の職業の人だったり。今、国民全員がただ家にいたら、家にいる人たちは生活できないわけで。インフラだってそうだし。表に出て働かなきゃいけない人っていうのは絶対にいて、そのなかで「家にいましょう」とは言えないと思ったんです。その人たちに向けて言ってるつもりじゃなくても、本人たちにはそう届いてしまうだろうから。
ーそういう人たちに「外に出るな」というのは酷ですよね。
星野:そうなったら、その人たちもわかっていても辛いだろうし、しんどいだろうし。だとしたら、不要不急の外出をしてる人たちにだけ届けばいいけど、なかなかそうもいかない。そこで、もし何かやるとしたら、自分は自分の言い方で言わなければと思ったんです。僕は音楽家なので、ただ言葉で呼びかけるのではなく、詩と音楽で表現したいと考えたときに、一番最初に思いついたのが「うちで踊ろう」って言葉で。「いよう」ではなく「踊ろう」。
僕は「踊る」という言葉は「生きる」というのと同義だと思っています。「うちで踊ろう」というのは、心が躍るという意味でもある。「おうちで踊ろう」ではなく「うちで踊ろう」なのは、家にいたほうがいいと思ってる人は「うち=家」として解釈できて、外に出なきゃいけない人はその場所の「内側」や「心の内」の「うち」という解釈ができるから。
ー星野さんも「オールナイトニッポン」で話していたように、医療従事者の方々やスーパーやコンビニで働いてる人たちも、仕事から帰ってきた時に素敵なアレンジやカバーが上がっていたらその時間を楽しみにできるし、いろんな事情で踊りたくても踊れない人だって「心の内」で踊ることができる。家にいる人たちは思いついたことをどんどんやれる。そういう発想には、辛い時に見失いがちなやさしさとか、他人を思いやる想像力を感じずにはいられないのですが。
星野:ありがとうございます。……やさしさもあるかもしれないですけど、僕にとってはクリエイティブの面白さが大事です。思いやりでそうする部分もあるけど、「おうち」から「お」を取って「うち」にするだけで伝わる人が増えるってアイデアを思いついた時、面白くてしょうがないんですよね。こういう作業って自分が普段からやってることで、僕はそういうもの作りが面白くてしょうがないんです。楽しいと思ってもらえたり、グッと来たり、聴いてくれる人が増えたりするともっと楽しくなる。そこで笑顔だったりホッとしたりが増えることが僕の楽しみです。
ーRolling Stone Japanとしても、不安が蔓延してるような時代だからこそ、形や届け方は変わるかもしれないけど、音楽や映画、本、アートといったコンテンツがこれからいろんな人々に勇気や元気を与えることになるのかなと思っていて。星野さんは今、そういった文化の可能性についてどんなふうに考えていますか?
星野:うーん……。苦しい時に対抗できるのは、僕は楽しむことだと思っていて。自分のやりたいことをやったり、好きなものや面白いものを見たりする。僕は昔からそうやって危機を乗り越えてきたんです。学校に行けなくなった時はテレビのコントを見ることで乗り越え、一人暮らしを始めたハタチぐらいの頃の極貧生活も、辛い時は歌を作って乗り越えてきた。自分が好きなことや楽しいことを奪われると、人は生きていけないと思うんですよ。なぜなら、人間は余計なことをするために生まれてきたから……というより、余計なことをしちゃう生き物なので。それは想像力があるからですよね。余計なことを考えるようにできてる。昔からずっとそういう種族だったわけで。
だから、衣食住以外の余計なことを人間から奪うと、そもそも人間は人間でいられなくなる。娯楽だけじゃなくても、自分が好きだと思うものとか、なんか楽しいと思うものとか、絶対に大事だと思っています。
今はこういう状況で、そういうものとどう向き合ったらいいのか、みんなわからなかったと思う。でも、「うちで踊ろう」の広がりによって、こうすればいいんだって道を作ることができたと思う。それは本当によかったです。
自分の作品にいろんな人が重ねていくというのは、これまでにはない現象ですし、たくさんお礼のメッセージをもらったりもして、逆に僕の方がすごく元気をもらっています。自分の曲がみなさんのアイデアや楽しさだったり、好きだという気持ちでどんどん大きくなってるのが非常に嬉しいです。
これからの生き方、過ごし方、その先
ー星野さんは昨年末、Rolling Stone Japan Vol.9のカバーストーリーで「時代の空気がギスギスしているからこそ、2020年代は『志』とか『矜持』、いわゆる『生き方』がより大事になっていくんじゃないかな」とも話していました。こういう状況のなかで読み返した時に、この言葉が改めてグッときたんですよね。
星野:そうですね。
ーこれからの「生き方」について、今どんなことを思いますか?
星野:自分はどう生きたくて、どんな人間でありたいか。そういったことが、今はすごく大事だと思います。「みんながやってるから」「社会はこうだから」をやっていると面白いことには巡り合えない世の中ですよね。今は「自分で考えて行動しよう」というのを、みんな言わずとも自覚しなきゃいけないと思うし、そういったことが大事になってくると思います。
今の状況は大変ですけどね、本当に。この状態も早く改善されてほしいですけど……これをきっかけに、良い方向に進むものも絶対にありえると思います。
ーたしかに今、こうやって取材してるのも、これまでだったらありえないわけで。すべてが解決したら、ただ元どおりにするのではなく、こうして経験したことをその後に活かしたいものですね。
星野:うん、そうありたいですね。この辛い状況が終息したら、友だちと遊ぼうぜって外で会ってハグするだけで、たぶん俺は泣くと思いますよ。今は乗り越えないといけないけど、こうならないと感じ得なかった人との触れ合いの大事さってありますよね。それは今、全員が感じていることだと思う。例えばこの取材だったり、インスタライブだったり、「うちで踊ろう」で繋がったり重なったりしながら、みんな常に実感してるんじゃないかな。これだけで生きていけるというか、ちょっと楽しくなれるのはいいことだなって。
ー最後に、今後についてはどのように考えてますか?
星野:みんなで盛り上がっているこの現象こそが僕の作品なので。この広がりや楽しい空間を苦しい時期が終わるまでは広げていきたいですね。新しく何かするというのは今のところないです。「新・うちで踊ろう」とかも出さないし。「マジで? 欲が出てきてない?」ってなるでしょ(笑)。
ーハハハ! パソコンの前で長時間お疲れ様でした!
星野:ありがとうございました! みなさん、健康にお気をつけて!
※今後Rolling Stone Japanでは「いま家で何してる? 何を考えてる?」という点にフォーカスを当て共通質問で取材していくインタビュー企画を随時アップしていく予定。

「うちで踊ろう」
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星野源 オフィシャルサイト
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