世界中が新型コロナウイルスと闘うなか、米ローリングストーン誌はお気に入りのアーティストたちが前代未聞の状況をどのように過ごしているか知るため、自主隔離に関する質問を投げかけた。今回はメタリカのラーズ・ウルリッヒが隔離生活の様子や、最近お気に入りの映画や音楽について語る。


ラーズ・ウルリッヒにとってパンデミック中の隔離生活とは、妻と子どもたちと一緒に過ごす時間が増えることを意味する。数日前に彼は二人の息子マイルスとレインの動画を共有した。ニューヨーク大学から帰省中の二人は、この動画でビートルズの「エリナー・リグビー」をファジーでノイジーなインスト・カバーに仕上げている。メタリカはこの春には南米で、夏には数多くのサマー・フェスティバルで演奏する予定だった。しかし、安全なライブ演奏ができるまですべての計画を保留することにした。現時点の次の予定はサンフランシスコでメタリカが主催するAll Within My Hands Helping Hands Concert & Auctionで、開催日は9月12日となっているが、これも状況次第でどうなるかわからない。ローリングストーン誌が投げかけた隔離生活の質問にラーズは答えてくれた。彼も家族も創造力を発揮する方法を見出してこの時期を乗り切っているという。

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―予期しなかった自宅での時間をどのように過ごしていますか?

ラーズ:健康と正気を保つように務めているし、できるだけ生産的にしようとしている。数カ月前に比べると自宅内で積極的に身体を動かしているね。カウチでダラダラする代わりにワークアウトしたり、楽器をプレイしたり。そうする方が気分がスッキリするからね。


―忙しくしているとのことですが、余暇には何をしていますか?

ラーズ:音楽を聴き込んでみたり、音楽を通じて子どもたちとつながったりする以外だと、夜に家族みんなで映画鑑賞をやっている。家族の一人が映画を1本選ぶのだが、他の家族は選んだ映画に一切口出しできない。この方法だと、観る作品を決めるだけのために30分も話し合う手間が省ける。俺は自分に影響を与えた映画を選んでみたし、子どもたちとジェス(妻)も同じような感じで選んでいる。この”家族みんなで上映会”は週5~6回やっているよ。

―これまで観た映画をいくつか教えて下さい。

ラーズ:俺はトマス・ヴィンターベアの映画を2作品選んだ。『セレブレーション』と『光のほうへ』。それと16歳のときに観て初めて衝撃を受けた映画『ミッドナイト・エクスプレス』も。ジェスは『天国の口、終りの楽園』を選んで、これは子どもたちがかなり気に入っていた。あとフランス映画『アメリ』も選んでいたよ。

息子たちが選んだ映画はクレイジーでクールな映画ばかりさ。
マイルスはゴダールの『勝手にしやがれ』で、レインはイングマール・ベルイマンの『第七の封印』だった。『スリング・ブレイド』『潜水服は蝶の夢を見る』『プラトーン』も観たかな。『プラトーン』はクレイジーだった。公開直後に観ただけでしばらくぶりで観たけど、この映画は経年で豊かさが増していて、みんな唖然とした。今の時代にも通じるし、まったく色褪せていないよ。

―テレビは観ていますか?

ラーズ:ほとんどテレビは観ないが、ジミー・キンメルは定期的に観るようになった。彼は今一番のトーク番組ホストだよ。毎晩録画して一日に2~3回分をまとめて観ているね。今の俺には24時間放送のニュース局は耐えられないよ。観るだけで気が滅入ってしまう。だから観るのはキンメルだけだね。現在の世界の温度を最も的確に表しているのが彼の論調だ。
発言内容も良いし、謙虚さと誠実さもありながら面白さもあるし、観察眼も鋭い。今の時世に最適な強さを感じるんだ。

―それ以外に家族でどんなことをしていますか?

ラーズ:毎日つながりを持つようにしているし、興味深い活動をしている人を調べてみたり、慈善団体を通して行動を起こしたりという、この状況に変化を与える方法を話し合ったりしている。日々この状況に貢献していると少しでも思えるように、何をしたらいいかも話し合っているよ。大事なのは貢献度の高さではなくて、自分にできることで貢献しているという事実だと思う。だから、貢献しないこと以外は称賛されるべきだね。俺たち家族もしっかり貢献するように意識しているんだ。

―ウルリッヒ家で今一番かかっている音楽は何ですか?

ラーズ:レディオヘッドがかなりの確率で流れている。レディオヘッドが始めたことってメタリカがやっていることと少し似ている。つまり、レディオヘッドもコンサートの配信をしているんだよ。うちは家族全員がレディオヘッド・ファンなのさ。

※編注:メタリカは3月後半より「#MetallicaMondays」と題し、毎週月曜日(日本時間火曜日午前9時)に過去のライブ映像をYouTubeでフル配信している。


―個人的に夢中になっている音楽は何ですか?

ラーズ:そうだな、フィオナ・アップル(『Fetch the Bolt Cutters』)がとにかくスゴイ。少し前にこのアルバムが出たんだけど、リリース日に3~4時間ノンストップで聞いてしまったし、聞きながら歌詞も読んだ。正直なところ、この作品は型破りで、その奇異さと素晴らしさにマジで面食らったよ。大抵、2~3年ごとにそれまでとはまったく違うサウンドのレコードが出てくるし、2年前のアークティック・モンキーズ(『Tranquility Base Hotel & Casino』)もそれと同じような効果が若干あった。つまり、聞いた音が予想とまったく違っていて、それを聞いたあとで「うわぁ、今でもユニークで、新鮮で、予想外の音楽を作ることができるぞ!」と思う音楽だ。フィオナ・アップルの新作は確実にそう思わせてくれる作品さ。あと、エド・オブライエンのアルバムも大好きだね。1週間前に彼がキンメルの番組でパフォーマンスしたんだけど、これを何度か繰り返してみているよ。

ラーズ:それ以外だと、みんなもそうだと思うが、昔好きだった音楽を聞き直している。たぶん、ここ2~3カ月で最も聞いているのがレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンだね。彼らの音楽が日々どんどん今の状況に合ってきていると思うのは俺だけかな?(笑)今の世界の状況を的確に表わしていると思うんだよ。まるであの4枚のアルバムが先週作られたばかりって感じすらするもの。
ワークアウト中に彼らのアルバムをかけるんだけど、必ず「うっ、ヤバイ」ってなる。だって「カーム・ライク・ア・ボム」とか「スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアー」とか「Bombtrack」とか、それまで全然気づかなかったものを発見して「マジか? なんだコレ? こんなもんがどこから来たんだ?」って思ってしまう。やっぱり、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンはいつだって裏切らない音楽ってことだな。

―レイジの再結成ツアーを楽しみにしていたのですが、今現在あのツアーのスケジュールは宙に浮いた状態ですよね(編注:その後、バンドは全日程を1年後に延期すると発表)。

ラーズ:当初、俺たちはエルパソで初日を観る予定だった。彼らが2011年にやった最後のライブを観たから、次のライブもジェスと息子たちと一緒に行くつもりだったんだ。いつにしろ、彼らがライブをするときには必ず観に行くけどな。

―今、あなたのファンに伝えたいことは何かありますか?

ラーズ:世界中の人たちが健康なことを願っているし、彼らの愛する人たちも元気で、こんな状況でもみんながちゃんと暮らしていることを願っている。俺が今感じていることの一つが、世界はどんどん狭くなり、コミュニティがどんどん深くつながっているってこと。そして、この大変な時期にメタリカの音楽がみんなの助けになっているという事実に感謝しているよ。

毎週ライブを配信している#MetallicaMondaysに寄せられるフィードバックは、みんなが今後の楽しみに目を向けるきっかけになるし、人々が集まってビューイング・パーティーを開く機会にもなっている。そこで人々が交流し、自分の気持ちや考えを話し合っているんだ。
実際に音楽が何らかの変化を起こせることも、この未曾有の状況下で人々を助けていることも最高だね。それと当時に、俺たちは今後のツアー復帰の方法を考えているし、そのときに直面するであろう状況がどんなものかも考えている。もし、もうしばらく外に出られない時間が続くのであれば、音楽でみんなとつながる次の方法を見つけ出すし、これまでとは異なる新たな状況下で音楽作りに精を出すことになると思う。

メタリカは5月1日、メンバーそれぞれの自宅から「Blackened」をパフォーマンスする映像を公開
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