1978年、ロジャー・ウォーターズがアルバム『ザ・ウォール』の曲作りを行なっていたときのことだ。このアルバムは戦死した父親がインスピレーションの一つだったこともあり、ウォーターズはヴェラ・リンと彼女が具象化したイギリスの歴史の中で特異な時代について思いを馳せたのである。そして、これがアルバム中盤で登場するたおやかなバラッド曲「ヴィーラ」の誕生へとつながった。ロックスターであるピンクの幻想から覚醒し、テレビに映し出された第二次世界大戦を扱った映画『空軍大戦略』の映像と共にストーリーを告げるナレーションが始まる。
「ここにいる誰かはヴェラ・リンを覚えているか」と彼は歌う。「覚えているか、彼女がどんなふうに/再び会おう/晴天の日にと言ったかを/ヴェラ、ヴェラ/君はどうなってしまったんだ?」と。
ピンク・フロイドの楽曲「ヴィーラ」がきっかけとなって再び注目を集めたことは、リン本人にとっては奇妙だったに違いない。アルバム『ザ・ウォール』がリリースされた当時も彼女は相変わらず世間の注目の的で、その2~3年前に放送が終了したBBCの人気バラエティ番組の司会も務めていた。この頃、誰も予想していなかったことは、彼女はその後41年も生き続け、103歳で大往生することだろう。
1940年代の音楽チャートに登場した楽曲を歌い、最も偉大な世代(第二次世界大戦で十分した兵士とそれを影で支えた人々のこと)の文化的中心人物で、まだ存命中の数少ない歌手の一人が彼女だった。
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