8月8日、indigo la Endが結成10周年を記念した野外ライブ『indigo la End 10th Anniversary Visionary Open-air Live「ナツヨノマジック」』を開催した。

無観客で行われ、CSで生中継された後に配信もされたこのライブは、今年発表された「チューリップ」や「夜漁り」のミュージックビデオも手掛ける映像ディレクターの大久保拓朗が演出を担当し、ライティングやVJを駆使して映画のような世界観を展開。
クライマックスとなった「夏夜のマジック」では〈打ち上がった花火を見て笑った 君を思い出したよ〉という歌詞通り、大輪の花火が何十発と打ち上げられて、華々しいクライマックスを作り上げた。

アンコールではフュージョン感たっぷりのシンセをフィーチャーした新曲「夜風とハヤブサ」が初披露され、その数時間後には配信もスタート。すでにタイトルがアナウンスされているアルバム『夜行秘密』のリリースに向けて動いている川谷絵音(Vo, Gt)、長田カーティス(Gt)、後鳥亮介 (Ba)、佐藤栄太郎(Dr)の4人に、結成10年目の現在地について話を聞いた(取材はライブ前の7月30日)。

―6月にリリースされた「夜漁り」は、オンラインミックスでかなり苦労したとか。

長田:8時間くらいかかったよね(笑)。

後鳥:迷走したね(笑)。


川谷:聴いてる環境によって音質が違っちゃうから、さんざんやった挙句「無理だ」ってなって、最終的にはスタジオに行って確認しました。コロナじゃなかったら、このやり方はやってなかったと思うんですけど、この曲は特にミックスが難しい曲だったんですよ。サビでハットを開いてるんですけど、そのハットの音とヴォーカルの帯域が結構被っちゃって、弦もわりと高いところにいて。なので、ヴォーカルを録り直して、ダブルにして、開くようにしたりとか、かなり試行錯誤をしました。

―曲そのものはサビのメロディを家で弾き語りで作って、最初は地味かなと思ったけど、バンドで合わせてみたらよくなったそうですね。

川谷:弾き語りだと地味に聴こえるメロディが、バンドでやると意外とよかったりすることってあるんですよね。
逆に、「夜風とハヤブサ」はガチガチに作り込んだんですけど。

―最後の転調とか、何となくでやってたらああはならないですよね。

川谷:あそこはめっちゃ難しかったです。歌の途中で半音上がるんで。まあ、何も考えずにパッとやるのと、作り込んでやるのと、どっちがいいのかは何とも言えないですけど……「通り恋」はスタジオで最初にやったときのメロディからわりとそのままで、「チューリップ」もスタジオでやったAメロとサビのメロディからほぼほぼ一緒なんで、ファーストテイク感があるやつの方が聴かれてるっていう結果にはなっていて。「夜風とハヤブサ」みたいに最初からがっつり作り込むことは今まであんまりなかったんで、これがどう受け取られるのかはまだわからないんですけど。


自分の中での決め事をひとつ破った「夜風とハヤブサ」

―「夜漁り」も「夜風とハヤブサ」も、次のアルバムに向けて作られた曲だと思うんですけど、アルバムとしての青写真はどの程度ありますか?

川谷:『濡れゆく私小説』は「思いっ切りシティ・ポップに行こう」みたいな感じがありつつ、結局行き切らなかったアルバムではあって、今回は……行くやつは行くけど、行かないやつは行かない(笑)。「夜漁り」はわりとノリで作った感じなんですけど、「夜風とハヤブサ」は完全に狙って、サウンドも最初から決めて、ギターのカッティングも、シンセのフレーズも、ほぼほぼ決め込んで。でもアルバム全体がこういうコンセプトってわけではなく、今回もいろんなエンジニアさんで録ってて、(井上)うにさんの曲もすでに2曲上がってて、それもまた全然違うし。でもどちらかっていうと、「夜風とハヤブサ」みたいなファンクなノリっていうか、長田くんがカッティングしてるみたいな曲が結構多いかも。

―4月に絵音くんにストロークスについての取材をしたときに、高中正義さんが参加してた時期の井上陽水さんの話をしていて、「夜風とハヤブサ」はそのことを思い出しました。

川谷:そうですね。
その頃そればっかり聴いてたんで(笑)。

―ギターの録音はラインですか?

長田:ソロも含めて全部ラインです。今回アルペジオは封印しました。カッティングはしんどいんでやりたくないんですけど(笑)。

川谷:でもこれ初めてリードがシンセなんですよね。今までは後ろでピアノが鳴ってても、コーラスが目立ってても、なんだかんだ言ってほぼほぼギターがリードフレーズを弾いてて。
でも、今回はがっつりイントロがシンセなので、そこはかなり挑戦というか。僕の中で言うと、「インディゴはギターが2本、ゲスの極み乙女。はキーボードとギター」っていう違いがあったけど、その決め事をひとつ破ったというか、そこはインディゴとしては目新しいことで。今のインディゴは「夏夜のマジック」、「チューリップ」、「通り恋」とかがすごく聴かれてるけど、別の側面も見せていかないとつまらなくなっちゃうと思っていて、だから「夜風とハヤブサ」がリードなのはある意味挑戦なんですよね。俺サビ録ったあと何回も「これキャッチーかな?」って、メンバーに確認しましたもん。

「関係ない」と突き放すのではなく、どうにか納得させたい

―絵音くん以外の3人は「夜風とハヤブサ」をどう受け止めましたか?

佐藤:BPMが110前半で、かつバラードじゃないって、あんまりないんですよね。
「軽快さは歌に任せて、こっちは重みを出す」みたいなバランスも珍しくて、この間ひさしぶりにリハーサルに入ったんですけど、叩きながらすごい顔になっちゃって(笑)。

長田:すげえガチガチに、めっちゃタイトに叩いてたもんね。機械みたいな感じで。

後鳥:もともとサビは全然違うベースだったんですけど、録る直前にスラップがいいってなって、結構時間かけて作って。そうしたら、オケの時点でめちゃめちゃかっこよくて、帰りの車の中でめっちゃ聴きました(笑)。

川谷:俺もこれはかなり新鮮だし、よくできたと思って、逆に「このアプローチで誰かが俺らよりも前に新曲出したらどうしよう?」ってずっと思ってて。で、少し前に米津と会ったときに、「次の新曲ジャズファンクなんだよね」って言ってたから、「怖い怖い」とか思って(笑)。でも恐る恐る聴いてみたら、全然違うアプローチで。

―「感電」はむしろゲスの極み乙女。の新作とのリンクを感じたりもしました。

川谷:米津は邦洋の折衷案というか、それぞれの一番良い部分を上手く合わせてますよね。「夜風とハヤブサ」の日本のシティ・ポップど真ん中みたいなアプローチではなかったから被らなくて良かったなと。

indigo la Endが語る10年目の現在地「やっぱり椅子はひとつしかない」

Photo by Masato Morimoto

―「夜風とハヤブサ」は歌詞もキレキレですよね。「夜漁り」は「シンプルだけどシンプルじゃない」っていう良さがあったのに対して、「夜風とハヤブサ」は強いフレーズをどんどん放り込みつつ、でも悪目立ちせずにトータリティがあって、すごくいいなって。

川谷:サビのメロディと歌詞はめっちゃ時間かけました。いつも歌詞先行で、母音の響き方とかあんまり考えないで作っちゃうんですけど、今回はリズムが重要だと思ったので、そこをかなり意識しながら作って、よくできたなって。

佐藤:すごくリズミカルで、ABとか歌がもう一個のドラムと言っても過言ではないですよね。TUBEの「あー夏休み」とか、サザンの「勝手にシンドバッド」みたいな、サンバ的なトライバルな感じと、日本語的なものが混ざってるというか。ああいう魅力をこの曲のABでもすごく感じました。

川谷:マジでタイラー・ザ・クリエイターがサンプリングしてくれないかなあ。

佐藤:そうなれば話が早いっていうか、いろんな人が黙ってくれるのに。

川谷:俺わりと大人になったんですよ(笑)。SNSとか見てもあんまり何も思わなくなって、一周回って、俯瞰で見れるようになったんですけど、でもやっぱり少しくらいは怒ってる自分がいないとダメだなと思って。栄太郎ともよく言うんですけど、何か言ってくるような人たちを「関係ないわ」ってするんじゃなくて、その人たちをどうにか納得させたいとまた思い始めて。なので、「夜風とハヤブサ」を今出せるのはちょうどいいタイミングというか。僕らも少しずつ一般的になってきた中で、「そこのラインに乗せよう」って感じもあったけど、ここでそのラインから逸脱しつつ、それでも逸脱しないんじゃないかって自信もあるというか、今はそういうタイミングだなって。

インスト盤では楽器の呼吸感がちゃんと聴こえてきた

―米津くんもそうだし、星野源さんとかもそうだと思うけど、大衆的なポップスとしての期待に応えつつ、ときどき逸脱してみせるからこそ面白くて、それができる音楽的なポテンシャルっていうのはインディゴにも十分あると思います。それこそ7月に発表されたインスト盤の『藍楽無声』はバンドのポテンシャルの証明になっていて、「歌詞やメロディの良さだけじゃない」っていうのを改めて示す作品にもなっていたと思うし。

川谷:こんなアルバム普通出さないと思いますし、出してもカラオケ盤みたいにサラッとした感じになっちゃうと思うけど、俺ら自分で聴いて改めて「だいぶ歪だな」って思って。

―今世の中的に一番聴かれてるインディゴの曲は「夏夜のマジック」なわけだけど、やっぱりどう考えても普通のドラムじゃないしね(笑)。

長田:打ち込みって言われてたもんね(笑)。

佐藤:打ち込みです。自分から言っていこうかなって(笑)。

川谷:もともとカップリングだったから、ちょっとふざけた感じもあって、でもあの時代のオケも良かったりして。「悲しくなる前に」のリズム隊とか、ベースのバキッとした感じとかもあれはあれですごくいいし。「チューリップ」とか、最近のインストはめちゃ完成度高いですけど、でも過去のインディ感もいいなって思いますね。

佐藤:楽器の呼吸感みたいなのがあるじゃないですか? 楽譜に「音符をここまで伸ばす」ってなってても、その前のピックが弦に当たる音とか、ベースのグリッサンドとか、ドラムにしてもそれがあって、いま高山(徹)さんがそこをめちゃめちゃクローズアップしてくれた曲がストックとしてあるんです。そういうのも含めて、呼吸感がちゃんとコンパイルされてるバンドってホントいないんで、それがちゃんと聴こえてきたから、間違ってなかったなって。しかもそれを作為的じゃない形で残せたっていうのは、誇りとして持っていいと思うし、他のバンドとは違う部分かなって。

―その呼吸感は「夜風とハヤブサ」からもちゃんと感じられて、さっき「リハでは機械みたいにガチガチに叩いた」って話もあったけど、少なくとも音源はマシンファンクみたいなものとも違って、ちゃんとバンドの呼吸感が伝わるものになっていて。

佐藤:めちゃくちゃ怒ってる人がスペクトラムを叩いたって気分(笑)。スペクトラムにはなれてなくて、ずれてるっていうか、ハットの開く閉じるも再現できないのが縦横無尽に入ってて、それをガチガチには……やれないんですけど(笑)、そういう押し引きの面白味が残せてるのを確認できたし、今後もそういうのが残せたらなって。

川谷:なので、『藍楽無声2』があってもいいし、次のアルバムを丸ごとインスト盤で出すとかでもいいなって。今回の『藍楽無声』はストリーミングで聴かれてるランキング順に25曲選んでるだけで、ファンアイテムみたいな意識がこっちにもあるので、ちゃんと新しい自分たちをコンパイルしたものであれば、より自信を持って、作品として出せるなって。

「ナツヨノマジック」について

―配信ライブを行うことの意義についてはどのように考えていますか?

川谷:「ライブの代わりとしての配信」じゃなくて、配信は配信として、映像として見せられる、ミュージックビデオみたいな感覚というか。普通のライブ配信2時間とか観れないんで、映画みたいに楽しめるものにしようっていうコンセプトは最初からありました。まあ、10周年だからっていうのもすごく大きくて、「ここから配信ライブをガンガンやっていこう」っていう気は全然ないです。

長田:2度とやりたくない(笑)。今からめっちゃ緊張してるもん。

川谷:収録の人多いですけど、俺ら生配信なんで。

―作り込んだライブを生でっていう人はあんまりいないですよね。

川谷:ホントに10周年じゃなかったらやってないかもしれないです。もともと『ナツヨノマジック』っていう野外ライブをやろうとしてて、それがコロナでできなくなっちゃったから、「じゃあ、どうしよう?」っていう始まりだったんで。

―「夏夜のマジック」のミュージックビデオの監督でもある大久保拓朗さんが演出を担当しているんですよね。

川谷:だから、俺ら中心っていうよりも、映像中心で、俺らはBGMです(笑)。でも、BGMだからこそ、ちゃんとやらないといけなくて。

後鳥:それが半年ぶりのライブっていう(笑)。

佐藤:会場には2時間かけて行くんですけど、それも演出のためで。

川谷:FKJが湖の真ん中でやってたやつを観て、やっぱりロケーションだなって思って。なので、野外にはこだわって探して、いい場所が見つかりました。

―大久保さんは最近だと「チューリップ」のミュージックビデオも監督されていて、歌詞と映像のリンクが絶妙でしたよね。内容に関して、どの程度やりとりをしたんですか?

川谷:打ち合わせは1~2回やりましたけど、あんまり入り過ぎないようにはしてます。任せるとこはその道のプロに任せた方がいいものになるんで。歌詞に関しては、たまに質問はされますけど、基本監督の解釈というか。チューリップの花言葉とも合わせて、歌詞の色が変わるのは監督のアイデアで、流石だなって。

―歌詞自体も想像力を広げられるものだし、そこに映像が別の角度から解釈を加えることで、より広がりが生まれますよね。で、コメント欄やSNSが考察合戦になるっていう。

川谷:「チューリップ」は歌詞に仕掛けを施し過ぎたんで、考察合戦になってますけど、あれやり過ぎちゃうと歌詞にギミックがないとダメなバンドになっちゃうんで、そこは難しいんですよね。深読みする人が結構いて、全然違うのになって思うこともあるし。

ちゃんと評価されて、日本語で国境を越えたい

―ちょっと流行りでもありますよね。今サブスクでよく聴かれている、ずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカ、YOASOBIの3組が好きな人のことを「夜好性」と呼ぶ流れがありますけど、彼らに共通してるのが物語性のある歌詞だったり、ミュージックビデオとの連動だったりして、それを考察するのがひとつのカルチャーになってるというか。

川谷:コンセプトを立てすぎると、それが崩れたときが怖いっていうか。インディゴも「失恋の曲が多い」とかはありますけど、でもそんなに決め込まずにやってきた10年だったから、そこまで大きく変化することもなくやってきて、今ちょっとずついろんな人に聴いてもらえるようになってきたのは、よかったなって思うところではありますね。

indigo la Endが語る10年目の現在地「やっぱり椅子はひとつしかない」

Photo by Masato Morimoto

―ちょうどインディゴのリリースが「夜」シリーズになってるから思うことではあるけど、さっき挙げた3組の複雑なアレンジとポップス的なメロディの組み合わせだったり、エモーショナルな歌詞だったりは、インディゴであり、絵音くんがやってきたことの影響下にあるようにも思えるんですよね。直接的にしろ、間接的にしろ。

川谷:俺らも10年やってるんで、聴いてくれてる子はたくさんいて、ずとまよのACAねちゃんがメッセージくれたり、YOASOBIのプレイリストに「通り恋」が入ってたりしたのは嬉しかったですね。あとフェスで若いバンドに「聴いてました」ってCDをもらうこととかも多くて。だからこそ、俺らが同じことをしててもしょうがないから、違うところに行かないとなって。Suchmosみたいなバンドはいっぱい出てきたけど、「STAY TUNE」以上の曲は出てきてないし、サカナクションみたいなバンドも誰もサカナクションにはなれてなくて、やっぱり椅子はひとつしかないわけで。結局遡ったときに行きつくのが達郎さんとユーミンさんで、そこに寄り添いつつ、自分たちのいい部分を出していく……って、それがすげえ難しいんですけどね。自分たちの色を出すことで、ちょっとキャッチーじゃなくなっちゃう部分もあったり、でもやっぱりユーミンさんとかすごくキャッチーで……そこは悩みどころだなって。

―ユーミンさんにしろ、あるいはサザンにしろ、キャリアの中ではかなり音楽的な変遷があって、でもそれを10年どころか20年、30年、それ以上やってきた結果、今は大枠の「ポップス」になってるってことだと思うんですよね。インディゴもそうなって行く可能性はあると思うし、そのためにはバンドとしての軸がぶれないことが大事なのかなって。

川谷:その意味でも、「夏夜のマジック」が4~5年経って評価されたのはいい流れな気がしていて。まだまだ俺らのことを知らない人も多いとは思いますけど、知ってる人が増えてきた中で、今度はどうしたらまたそこから脱却できるかが勝負かなって。

―その一手として、「夜風とハヤブサ」はバッチリだと思います。

川谷:さっきの「タイラー・ザ・クリエイターが使ってくれないかな」っていうのは全然冗談じゃなくて、そういう椅子を目指したいんですよね。デカいことを言いたいわけじゃないけど、ちゃんと評価されて、日本語で国境を越えたい。竹内まりやさんだって、昔の曲が今になって鳴ってるわけで、サブスクの時代は何が起きてもおかしくないから、そこは信じたいなって。音楽が好きな自分は捨てたくないので、配信サービスがどうのみたいな話は一回忘れて、まずは「夜風とハヤブサ」の反応を見てみたいです。

「夜風とハヤブサ」
Indigo la End
Warner Music Japan
サブスクリプション音楽配信ストリーミングサービスで配信中
https://indigolaend.lnk.to/yth

<INFORMATION>

indigo la End 10th Anniversary Special Edition in Billboard LIVE「Only that vol.1」

【会場】
ビルボードライブ東京

【時間】
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
(1日2回公演)

【チケット】
サービスエリア ¥7,900-
カジュアルエリア¥6,900-(1ドリンク付き)
※ご飲食代は別途ご精算となります。

【お問い合わせ】
ビルボードライブ東京 03-3405-1133
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=12173&shop=1