米女優のエリザベス・バンクスは、映画『チャーリーズ・エンジェル』(2019年)や『ピッチ・パーフェクト2』(2015年)といった作品で監督業にも挑戦しているが、次回作として構想しているのは「コカインを食べた熊」にまつわる実話らしい。ヴァラエティ誌が報じている。


「1985年、ケンタッキーで起きた2つの実話をヒントにしたスリラー」と称されたこの作品の仮タイトルは、その名もずばり『Cocaine Bear(原題)』。大量のドラッグを積んだ飛行機からパラシュートで落下して死亡した、麻薬密輸犯の実話をもとにしているらしい。問題の熊は、コカインが入った40個の容器を偶然見つけ、過剰摂取で死んだ。

【動画を見る】死亡後は剥製にされドライブインに展示、CMにも出演している

世にも奇妙なコカイン・ベアの話は、アンドリュー・カーター・ソーントンの話から始まる。何不自由なく暮らしていたケンタッキーの馬のブリーダーの息子は、空軍士官になって名誉負傷章を授かった後、麻薬取締警官になった。1977年、ソーントンは弁護士になるためにケンタッキー州レキシントン警察署を退職した。


法に縛られた生活は彼には合わなかったらしい。1981年、彼はカリフォルニア州の海軍基地から銃を盗もうとした疑いと、アメリカに453キロのマリファナを密輸しようとした疑いで、25人の男たちとともに逮捕された。1980年の連邦起訴状によれば、ソーントンはドラッグと武器の密売組織、通称「カンパニー」の一味だった。この組織には彼の他にもケンタッキー州の元警察官が関与していたという噂もある。

当初ソーントンは規制薬物の密輸および売買を共謀したとして2件の重罪で起訴されたが、本人はいずれも無罪を主張した。州外に逃れたが、ノースカロライナ州で重武装しているところを見つかり、カリフォルニア州に連れ戻されて情状酌量の軽罪を求刑された。
彼は不抗争の答弁を行い、禁固6カ月と罰金500ドルを科された。刑罰の一環として、弁護士資格も剥奪された。

だがソーントンの麻薬密輸の日々はとどまることを知らなかった。1985年9月11日、テネシー州ノックスビルの高速で、パラシュートを装着した彼の死体が発見された。彼は約77ポンドのコカインを所持していたが、これはのちに1400万ドル相当であることが判明した。大量の武器で武装し、防弾チョッキを着ており、所持品にはマイアミ競馬場の会員証もあった。
のちに当局は約60マイル先で、自動操縦で飛んでいた彼の飛行機を発見。警察は、彼が飛行機からジャンプしようとしたものの、パラシュートが開かなかったものと断定した。享年40歳だった。

彼の死をとりまく奇妙な状況に加え、ソーントンはおそらく意地の悪い死亡記事を書かれたことでも有名だ。「彼のパラシュートが開かなくて喜んでいます」とは、1981年にマリファナ密輸容疑でソーントンを起訴した地方検事が、彼の死後にLAタイムズ紙に語った言葉だ。「きっとあの世で死ぬほどハイになっているでしょう」 もっとも、ソーントンの死体には二重引用符つきで「唯一変わらない兵法:それは最短の時間で、敵に最大限の傷と死、破滅をもたらすこと」など複数の警句が刻まれていたことを踏まえれば、この男が生涯に決して少なくない敵を作っていたことはさして驚くことでもあるまい。


ソーントンの死から2年後の1987年、当局はコロンビアからテネシー州にコカインの密輸を共謀した罪で彼の恋人を起訴した。だが、コカイン密輸カルテルのメンバーだと捜査官に嘯いた彼女の自白は強要されたものだ、という判事の判決により、起訴は取り下げられた。

熊はいったいどこに出てくるのか?

ソーントンが死んでから数カ月後、ジョージア州チャタフーチー国立森林公園にいたハンターが、79キロのアメリカクロクマを発見した。ダッフルバッグの中に入っていた34キロの純度95%のコカインを食べたことが原因で死亡していた。

実際に熊がどのぐらいコカインを食べたのかは今も定かではない。後に解剖の結果、熊は3~4グラム程度しか摂取していなかったと断定された。
しかしダッフルバッグが発見されたとき34キロのコカインはすべて消えていた。「熊の胃袋は文字通り、コカインで満タンでした」。熊の解剖を担当した職員はのちにこう語った。「そんな状態で生き延びられる哺乳類は、この地球上にはいません。脳出血、呼吸不全、高熱、腎不全、心不全、脳卒中。原因は何であれ、それがあの熊の死因です」

驚いたことに、話はそこで終わらない。
熊は詰め物をされ、剥製として展示されたのだ。数々の人の手にわたり――ある時はカントリースターのウェイロン・ジェニングスが所有していた――最終的には2015年にドライブイン「Kentucky for Kentucky Fun Mall」へ行き着き、そこでパブロ・エスコベアと改名された。「コカイン・ベアではあらゆる年代向きとは言えないでしょうが、子供たちの人気者です」と、オーナーの1人は情報サイトRoadside Americaに語っている。「誰もがコカイン・ベアと写真を撮りたがります」。熊は2016年、シュールなモールのCMにも友情出演している。

麻薬密輸犯の話と熊の話、いずれも1985年に起こったコカイン絡みの実話という共通点だけだ。果たして映画化される日は来るのだろうか?

from Rolling Stone US