ー「Mad at Disney」や「Coke & Mentos」などのヒット曲でセイレムを知った人は多いと思うのですが、このニューEP『(L)only Child』に対しては、どういうリアクションが得られそうですか?
セイレム:プロダクションに関しては少しダークなところもあって、驚く人がいるかもしれない。でも変わらないのが、私のリリック面における拘りで、言葉の綴り方やコンセプトなど、すごく私らしいスタイルじゃないかと思っている。私って少し”言葉オタ”みたいなとろこがあって、とにかくいつも言葉のことばかり考えている。韻を踏んだり、あれこれ綴りで遊んでみたり。パズルみたいに、ひとりで長時間考え込んでいる(笑)。じつはそのプロセスが曲作りの中で一番好きなところだったりするのだけれど。
ーパートナーのベンディック(・ムラー)とは、どんなふうに共作を?
セイレム:演奏に関しては、ほぼ全て彼が担当している。私がピアノやウクレレを弾いて作曲していると、彼がギターやベースを持ち出して、曲の途中などでも合わせて演奏してくれる。もう3年くらい一緒に活動しているから、ほとんど以心伝心ね。言わなくても分かるし、2人の音楽嗜好も似通っている。
ータイトルトラック「(L)only Child」は、セイレムの実体験から生まれた曲だそうですが、一人っ子だった影響が大きかったと?
セイレム:ええ、そうだと思う。一人っ子だったのは、私の性格に大きく影響しているし、私という人間を「だからそうなんだ!」と上手く説明できたりする。この曲のリリックにもある通り、両親とはすごく親しいし、父や母とは他の誰よりも頻繁にメッセージのやりとりしているほど。あと私がルームメイトとして最高ではなかったというのも事実かな(笑)。同居していた友達とは、いまでも友人だけど、そうとう我慢してくれたはず。一人っ子だと、食器の後片付けや掃除などがね……もちろん私も努力はしたけれど。
ー親元を離れたのはボストンのバークリー音楽院に入学するために?
セイレム:そうなの。あの頃は、そうとう辛かった。両親からあんなに遠く離れたことはそれまでなかったし、一人暮らしをしたこともなかったから苦労したのは確か。でも、おかげで自立できたと思うし、自分自身についていろいろと知ることができた。あの2年があったから、アーティストとして、ミュージシャンとして心構えをすることができた。
ー当時はどういうアーティストを目指していましたか?
セイレム:ノラ・ジョーンズのようなシンガーソングライターになれたらと考えていた。入学してオープンマイクのステージに立ったときは、ピアノを弾きながらバラードを歌っていた。でも、そこでベンディックをはじめ音楽プロデュースを手掛ける人たちと出会ったの。それまでアコースティック楽器しか演奏したことがなかった私は、電子音楽に開眼した。デモ制作の授業を取ったり、LogicやProToolsなどエレクトロニックな機材について学んだり。バンド活動を通してはライブのノウハウも身に付けた。そうした中で、私が目指しているのはポップアーティストだと次第に確信していった。進むべき道はバラードシンガーではなく、ポップシンガーなんだって(笑)。
オリヴィア・ロドリゴとポップミュージックの未来に思うこと
ー先行シングルの「about a breakup」では、別離について歌っているようでありながら、じつはそうではないんですよね。
セイレム:そう、曲名は「別離について」。でも別れの曲ではなくて、しかも恋人と作ったのが笑えるでしょ(笑)。別れを嘆き悲しみ、世の終わりみたいに感じることってあるかもしれないけれど、世の中にはもっと大きな問題があるというのがテーマ。
ーシリアスなテーマだけれど、笑い飛ばすかのような。そんな作風は、セイレムの性格を反映しているのでしょうか?
セイレム:きっとそうだと思う。私の歌詞はディープな意味が秘められていたとしても、どこかコミカル。その方が上手くメッセージが伝わると思うの。社会的に影響を及ぼす音楽を作りたいと考えているの。ただし、みんなが飲み込みやすい形で、分かりやすくてポップな音楽を作りたい。じっくり歌詞を読んだら、深い意味合いが込められていたっていう、そんな感じが理想かな。
ー「good, not great」は、比較的シリアスなトーンですよね?
セイレム:ええ、少しシリアス。マグス・デュヴァルとグラント・アヴェリルという才能豊かなソングライターたちと共作した。すごく自然に、3時間ほどで完成したわ。
ーそういう言い回しが、やはりコミカルですよね。その対局ともいえる、オリヴィア・ロドリゴの激ストレートな感涙バラード「drivers license」のようなナンバーがチャートを席巻していますが、どんなふうに見ていますか?
セイレム:私はあの曲を、それほど感涙的とは思ってないけれど、でも驚いたのが、メチャクチャ超バラードってこと。バラードがこんなに人気を博したのっていつ以来? アデル以来とか? そういう意味で、とっても新鮮だと感じた。共作者でプロデューサーのダン・二グロの手腕も天才的だと思う。それにあの曲で描かれるのは、すごく誠実な体験でしょ。そういう誠実さこそが大切だと思う。

ーポップソングは他のジャンルと折衷したり、あらゆる方向に向かえる可能性を秘めていますが、ポップミュージックの未来はどうなると予想していますか? その中でセイレムとしては、どういう方向を目指したいと考えていますか?
セイレム:すごく大きな命題よね。私もいつも考えていること。次にやってくるトレンドを見極めようとしても絶対に分からない。ちょうどいまはパンクロックが突然脚光を浴びているけど。私が思うに、これからはもっと生楽器を使った音楽が増えていくような気がするの。アッシュ(Ashe)のアルバム(『Ashlyn』)がいい例ね。彼女はとても巧みにギターやピアノといった生楽器を取り入れている。かつてのポップミュージックの良さを、新しい解釈で表現している。私もロックダウン中には、懐かしいポップソングをたくさん聴いていた。みんもそうじゃないかと思う。
ー生楽器といえば、MAXとのライブ共演が素晴らしかったです。セイレムの「Mad at Disney」とMAXの「Blueberry Eyes」のマッシュアップは、誰のアイデアで?
セイレム:MAXがInstagramでメッセージを送ってきてくれたの。子どもの頃から彼もディズニーが大好きで、私はといえば彼の大ファンだったから、すっかり舞い上がってしまったわ。すごく興奮した。どちらの曲も同じ音程でテンポも近いから、マッシュアップしようってことになったの。ボサノバ調のアレンジはMAXの思いつき。さすがよね。彼ってとにかくズバ抜けた才能の持ち主だし、それにとっても優しい人。
ーアラン・ウォーカーともコラボ「Fake A Smile」を発表されていますよね。
セイレム:あれも先方から打診があって実現したもの。「ねえ、この曲を歌ってみない?」というメッセージをくれたの。その時点で曲はほぼ完成していたから、私は少しアドリブを付け加えたり、メロディを捻ってハーモニーを付けていった。そうそう、クローゼットの中でレコーディングしたのよ。パンデミック中は、よくクローゼットでレコーディングしていた。ダンス系アーティストとのコラボは、今後も幾つか発表していく予定。普段私が曲を作るときのスタイルとは違っているでしょ。安全地帯から飛び出して冒険しているみたいでワクワクするわ。
ー今後の予定を教えてもらえますか?
セイレム:まずはニューシングル「Dinosaurs (S4E7)」を5月19日にリリースの予定。私のお気に入りの曲で、ビデオも最高に楽しいわ。その後EP『(L)only Child』をリリースして、できれば夏頃にもう1枚リリースできればと考えている。フルアルバムに関しては2022年頃のリリースを目指して、全力投球するつもり。曲はもう書き始めているし、書き上げた曲もいっぱい揃ってるわ。でも、すぐに気が変わっちゃう方だから、まだ内容は秘密にしておくわ(笑)。
ーところで、ディズニーから何か苦情を言われたり、おとがめはありましたか?
セイレム:アハハハ! それが全然なくって、ちょっと驚きなの。連絡もないし、まったく何も言われてないの。だって、もしあの曲のせいで不快に感じていたりしたら、申し訳ないでしょ。とはいえ、私がディズニーランドに行ったら、追い出されちゃうのかしら? とりあえず当分は行かないでおくわ!(笑)

セイレム・イリース
『(L)only Child』
2021年5月21日配信(デジタルのみ)
試聴リンク:https://virginmusic.lnk.to/LonlyChild