【写真を見る】「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」ライブ写真(記事未掲載カット多数)
新世代ジャズフェスティバルと謳ったこのフェスは、ジャズ、ソウル、ファンクを横断する上質で洗練された音楽を楽しむことができるのが特徴で、今の音楽シーンを牽引するアーティスト、未来のシーンを担う新鋭アーティスト、今聴きたい、観るべきアーティストが「THEATRE STAGE」「GREEN STAGE」「DJ TENT」でパフォーマンスを繰り広げた。
5月14日(土)、このフェスの開幕を告げたのは、青空が広がる「GREEN STAGE」での地元・秩父農工科学高校吹奏楽部の演奏だった。その音色は、地元・秩父で世界的な音楽フェスが開催される歓び、そしてこれからライヴを繰り広げる全てのアーティストへのエールにも聴こえた。「THEATRE STAGE」でイベントアンバサダーのモデル・堀田茜が、このフェスの魅力を紹介した後、いよいよトップバッター、シンガー・ソングライターkiki vivi lilyが登場。「80dinier」「Blue in Green」などを披露し、そのスウィートかつクールな声と、MELRAW(Sax、Gt)率いる若手実力派ミュージシャンによるアコースティックジャズセッションで楽しませてくれた。

kiki vivi lily(Photo by 中河原理英)
SIRUPは「自由に踊って」と語り、「CHANGE」「LOOP」など色気が薫り立ってくるようなソウルフルな歌とサウンドで、リスナーの腰を揺らす。Ovallはまず極上のバンドアンサブルでその唯一無二の世界に客席を引き込む。そしてさかいゆうと「サマーアゲイン」~マイケル・ジャクソン「Rock With You」をセッションし、佐藤竹善「Rise」をジャジーなアレンジでコラボ。Shingo Suzuki(Ba)は「エネルギーを吸い取られました」とそのパフォーマンスに脱帽。さらに「Find you in the dark feat. Nenashi」ではNenashiがサプライズと登場。

SIRUP(Photo by 中河原理英)

Ovall feat. 佐藤竹善(Photo by 中河原理英)
一方「GREEN STAGE」では、まず2020年結成の注目の4ピースバンド・チョーキューメイが、その圧倒的な演奏力の高さとボーカル・麗の突き抜けた存在感を放つボーカルで「3月の花嫁」などを披露。トランぺッター・黒田卓也率いるaTakは、馬場智章(Sax)など凄腕ミュージシャン15人がステージに登場。1stシングル「ZASU」などを披露し、緑の木々に囲まれたステージに圧巻のホーンが響き渡り、集まったリスナーは思い思いに体を揺らしていた。御年81歳のセルジオ・メンデスが登場すると、雲が消え太陽を連れてきてくれ、青空が広がる。サンバ、ボサノバのラテンのリズムが最高に心地いい。「SABOR DO RIO」ではSKY-HIとコラボ。高速ラップが炸裂し客席が沸く。ラストは「MAS QUE NADA」で大団円。

チョーキューメイ(Photo by 岸田哲平)

aTak(Photo by 岸田哲平)

セルジオ・メンデス feat. SKY-HI(Photo by 岸田哲平)
この日のヘッドライナーはDREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、クリス・コールマン、古川昌義、馬場智章。
ドリカムと上原の共演は約13年ぶりで、吉田、中村、そして上原はもちろん、メンバー全員がとにかく楽しそうだ。中村正人は「俺以外は神」と話すが、クリス・コールマンとの最強リズム隊が繰り出す厚く太いビートに乗り、演奏も歌も自由に泳ぎ、深くクールなグルーヴを作りだしていた。それぞれのパートのソロもたっぷりと見せてくれ、名手と名手のセッションは鳥肌モノで、指定席エリアだけでなく、後方の芝生エリアも総立ちだ。吉田のアドリブと上原のピアノが”かけ合い”、そして”溶け合う”。全身でピアノを弾く上原のピアノの音には血が通い、吉田の説得力を纏う歌と交差すると、得も言われぬ感動が湧き上がってくる。

DREAMS COME TRUE(Photo by 中河原理英)

DREAMS COME TRUE(Photo by 中河原理英)
サックスとピアノの美しい掛け合いが印象的だった「涙の万華鏡」を歌い終わると、吉田は「涙が出そう、感動」と語っていた。圧巻のセッションで放熱を続けるステージ。上原ひろみが薄暮の中、ソロで短いジャジーな曲を演奏し少しクールダウンし、美しいピアノのイントロが印象的な曲で切々と歌う吉田の歌に、客席では涙を流す観客の姿も。「これが音楽、これがジャズの楽しさ」と、このセッションが届けたい思い、このフェスの真髄を中村が言葉にする。
この素晴らしいセッションをもっと多くの人に届けるべく、『LOVE SUPREME presents』として5月21日(土)神戸ワールド記念ホール、5月26日(木)東京ガーデンシアターでの追加開催が発表されている。(出演:WONK、DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、クリス・コールマン、古川昌義、馬場智章)
2日目、5月15日(日)も曇りながら時折日が差す絶好のフェス日和。「THEATRE STAGE」のトップバッターはWONKだ。長塚健斗(Vo)が「ゆっくりまったり楽しんでいただければ」と言うように1曲目、5月11日にリリースされたばかりのニューアルバム『artless』から「Cooking」を演奏し始めると、会場に上質で柔らかな空気が流れる。「Orange Mug」に続き披露された「Migratory Bird」も、アコギと長塚の柔らかなボーカル重なり、まさに日曜の午後にピッタリのムードに。「Real Love」では石若駿がゲストで登場。荒田洸とのツインドラムで強烈なグルーヴができあがったところに、さらにJUAが登場しラップが炸裂すると、テンションが加速していく。ラストは「全てを包み込んでくれるような曲を作りたかった」(長塚)という「Umbrella」を投下。その伸びやかな声と、温もりのある懐の深いサウンドは、まるで全てのことを浄化してくれるかのようだ。

WONK feat. 石若駿(Photo by Takahiro Kihara)
Vaundyは、今誰もが一度はそのライヴを観たいアーティストの一人だ。登場前から手拍子が起こり、期待感が会場を包む。オープニングナンバーは「不可幸力」。

Vaundy(Photo by 岸田哲平)
Nulbarichは「5年間活動をしてきて、そのうち2年はコロナだったので実質3年目ということでいいかな」とJQ(Vo)が語り、「フェスが動き始めたことに生きる希望を見いだせた」と吐露した。思うように活動ができなかった悔しさをぶつけるように「Spread Butter On My Bread」「Super Sonic」「STEP IT」など、「踊れる曲のみ」で構成したセットリストで、客席を盛り上げた。太いビートとリズム、JQのボーカルが作るグルーヴは”腰にクる”。「時代はも戻らない。新しい時代の幕開けにこの曲を」と披露した「NEW ERA」では客席に感動が広がっていくのが伝わってきた。

Nulbarich(Photo by 岸田哲平)
「GREEN STAGE」のトップバッターは注目のオーディション「THE FIRST」に参加し注目を集め、SKY-HI主宰のマネジメント/レーベル BMSGから今年1月にデビューしたAile The Shotaが登場。ブラックミュージックをベースにした最先端のトラックと、親しみを感じるメロディが融合した楽曲のカッコ良さが際立っていた。

Aile The Shota feat. SKY-HI(Photo by 中河原理英)

Answer to Remember feat. KID FRESSINO(Photo by 中河原理英)
SOIL&”PIMP”SESSIONSが登場すると、待ち侘びたファンから割れんばかりの拍手が沸き起こった。社長も「待ちに待ったこの瞬間」と興奮を抑えられない。6月8日に発売されるオリジナルアルバム『LOST IN TOKYO』から、ひと足先に新曲「Acknowledgement(A Love Supreme, Pt.l))「Todoroki」を立て続けに披露。踊れるジャズに客席は身を委ね、音を全身で感じている。ステージ袖ではこの日のヘッドライナー、ロバート・グラスパーがソイルのライヴを見守っている。「御大がそこにいるだけで背筋が伸びる」と社長が語り、さらに演奏に気合が入る。Awich、長塚健斗(WONK)をゲストボーカルに迎え、さらにSKY-HIとは5月25日にリリースするデジタルシングル「シティオブキメラ feat. SKY-HI」を初披露し、大きな歓声が起こった。

SOIL&PIMPSESSIONS feat. Awich(Photo by 中河原理英)
大トリは「THEATRE STAGE」でロバート・グラスパーだ。まずはDJのジャヒ・サンダンスが登場し盛り上げる。「Love Supreme」のサンプリングも使い、このフェスへの愛とリスペクトを表し、さりげなく”伏線”を回収。大歓声に迎えられ主役が登場。まずはレディオヘッドのカバー「Packt Like Sardines In a Crushd Tin Box」から。いきなり深く濃密なジャズの宇宙に招かれたような感覚になる。「No One Like You」でのジャスティン・タイソンのドラムソロは、タイトで変幻自在、圧倒的な音数を刻む人間業とは思えないプレイに、誰もが息を飲む。音が一音一音明確で、飛び込んでくる。さらに、ベースのデヴィッド・ギンヤードとの鉄壁リズムセクションが作り出すリズムに、心と体が躍る。これはジャズファンならずとも否応なく引き込まれ、感動したはずだ。
このフェスはジャズのブランディングを感じてもらいつつ、20代、30代の若い人達に音楽を楽しんで欲しいという思いが、根底に流れている。そこが他のジャズフェスと違うところだ。2日間、若い人の姿が目立った。若い人達が聴いて楽しいジャズを提供し、それを演奏するアーティストが影響を受けたアーティストの音楽を気軽に体感して欲しい、そんな思いも込められている。ロバート・グラスパーの存在がそうだ。世界最高峰の現代ジャズアーティストの世界に触れ、何かを感じて欲しいのだ。

ロバート・グラスパー(Photo by 岸田哲平)

ロバート・グラスパー(Photo by 岸田哲平)
現代ジャズの深淵な世界にひきこまれる「Let It Ride」は、新鮮な空気をたっぷり吸いながら聴いていると、細胞が喜んでいるような感覚になる。「Freeze Tag」は一緒に口笛を吹こうと、ステージから煽る。最新アルバム『Black Radio III』に収録されている、ティアーズ・フォー・フィアーズのカバー「Everybody Wants To Rule The World」は、アルバムではレイラ・ハサウェイ&コモンをフィーチャリングしているが、この日は自らがボーカルをとる。
ロバート・グラスパーとテラス・マーティンを中心にしたプロジェクトR+R=NOWの「Resting Warrior」に続いて、最後はハイエイタス・カイヨーテの「Red Room」のカバーで締めくくった。緊張とリラックス、ドープな世界とクールな時間を演出し、まるでアートを見て感じているような、約70分のステージだった。そして前日、ドリカム中村正人が言った「これが音楽、これがジャズの楽しさ」という言葉を思い出した。
ジャズファンはもちろん、ジャズ初心者の入門編として、さらにこれをきっかけにジャズを好きになるであろう音楽ファン、全ての人が満足できるのがこの『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL』だ。来年のラインナップが今から楽しみだ。
(文:田中久勝)

LOVE SUPREME presents
DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章
WONK
2022年5月21日(土)神戸ワールド記念ホール
17:00 OPEN / 18:00 START
詳細:https://www.kobe-spokyo.jp/world-kobe/
2022年5月26日(木)東京ガーデンシアター
18:00 OPEN / 19:00 START
詳細:https://www.shopping-sumitomo-rd.com/tokyo_garden_theater/