昨年のサマーソニックに続いて、クーラ・シェイカーが単独公演で日本に戻ってきた。しかも昨年12月にキーボード奏者、ジェイ・ダーリントンが電撃復帰! オリジナル・メンバーが揃うのはバンドが一旦解散した1999年以来、実に23年ぶりのことだ。


ジャパン・ツアー初日の2月13日、東京・恵比寿ガーデンホールは、7年ぶりの単独公演とあって見事にソールドアウト。「Hey Dude」で爆発的にスタートし、「Hush」で締め括った怒涛の本編は、おなじみの人気曲はもちろん、最新作『1st Congregational Church Of Eternal Love (And Free Hugs)』収録曲の魅力も存分に開花していた。

バンド・グルーヴに拍車をかけるジェイのオルガンは、やはり効果絶大。曲に疾走感を与える「Whatever It Is (Im Against It)」や、ピンク・フロイドのリック・ライトを彷彿させる「Gingerbread Man」でのプレイを見ていると、彼が末期オアシスにサポートメンバーとして抜擢されたことが頷けるし、長い間失われていたパズルのピースがようやく埋まった、と実感もさせられた。

ジェイが戻ってきたことで同窓会気分も少しあるのか、アンコールで「Govinda」のカップリング曲だった「Gokula」をプレイする際、クリスピアン・ミルズは初期にこの曲を書いたときのエピソードを語り始めた。「実はジョージ・ハリスンの曲(『Wonderwall Music』に収録された「Ski-ing」)からギターリフをまんまもらってきて作った曲なんだ」と屈託なく話す表情が、50歳になった今もロック少年丸出しで微笑ましい。
演奏中、背景にジョージ・ハリスンの姿が投影される演出も絶妙だった。

クーラ・シェイカーが語る新作の展望、日本と家族にまつわる話、スピリチュアルであること

左からジェイ・ダーリントン、クリスピアン・ミルズ(Photo by Kazumichi Kokei)

インタビューは東京公演の当日、リハーサル終了後に楽屋で行なった。クリスピアン、ジェイと、リズム隊の要であるベーシスト、アロンザ・ベヴァンが出席。ジェイが復帰することになったいきさつや、すでにレコーディングが進んでいるというニュー・アルバムの話題、これまで訊く機会がなかったパーソナルな話題にも踏み込んで話してもらった。

特に訊いてみたかったのが、クリスピアンの両親について。クリスピアンの母で女優兼歌手のヘイリー・ミルズが、のちにクリスピアンの父になるロイ・ボールティング監督と組んだ1966年の映画『ふたりだけの窓(The Family Way)』でサウンドトラックの作曲を担当したのは、何を隠そうあのポール・マッカートニーだった。
単にビートルズのファンというだけでなく、クリスピアンは”ビートルズ関係者”の息子とも言えるのだ。

デビュー当時の鼻っ柱が強いクリスピアンからは想像もできないが、近年は母が自伝を出版した折に親子でメディアの取材を受けるなど、母の活動を積極的にサポートしている。今ならそういう話題もありだろうと思い、まずはヘイリー・ミルズの話から始めてみた。

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クーラ・シェイカーが語る新作の展望、日本と家族にまつわる話、スピリチュアルであること


―今日はクリスピアンにお母さんのレコードをプレゼントしようと思って持ってきました。きっと日本盤は見たことがないと思うので。

クリスピアン:「Let's Get Together」(1961年に全米8位)じゃないか!(物珍しそうに眺めながら)そうそう、B面は「Cobbler Cobbler」というかわいらしい曲だった(笑)。


―お母さんが2021年に出した自伝『Forever Young: A Memoir』は、あなたが書くように励ましたそうですね。

クリスピアン:うん、母の子役時代を振り返った感じの本なんだ。なんとニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに選ばれてさ、うれしかったよ。母は今ちょうど映画『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』の舞台版に主演していて、イギリス国内を回っているところさ。元気にしてるよ!

―クーラ・シェイカーにオリジナルメンバーのジェイが復帰したことは、うれしい驚きでした。どのようにしてバンドに戻ってくることになったのか、経緯を教えてもらえますか?

ジェイ:僕は冷凍されていたんだ。
ハン・ソロさ(笑)。彼らが連絡をくれたので参加することにした。いたってシンプルだよ。

クリスピアン:こういう運命だったんだ。僕らそれぞれが変わったけれど、ジェイと一緒に演奏してみると、途中にブランクがあったとは信じられないほどしっくりきた。すぐに昔の感覚を取り戻せたよ。


クーラ・シェイカーが語る新作の展望、日本と家族にまつわる話、スピリチュアルであること

ジェイ・ダーリントン(Photo by Kazumichi Kokei)

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アロンザ・ベヴァン(Photo by Kazumichi Kokei)

―去年の夏の時点で「もう次のアルバムを作り始めている」という話でしたが、それにもジェイは参加しているのでしょうか?

ジェイ:ノー……いや違う、イエスだ(笑)。

―それはいいニュースです。ニュー・アルバムの作業はどの辺まで進んでいますか?

クリスピアン:もう4曲録ったよ。去年から曲を書き始めて、レコーディングは年末にスタートした。多分9月にはリリースできるんじゃないかな。UKツアーから新曲を試しに演ってるんだ。


ジョン・レノンへの共感、昨年のサマーソニックを振り返る

―昨年カバーしたジョン・レノンの「Gimme Some Truth」は、今回のセットリストにも組み込まれていますね。この曲を取り上げようと思ったのは何故ですか?

クリスピアン:タイムレスな歌詞だと感じた。今人々が感じていることとも通じる内容だと思うな。「Gimme Some Truth」は、ビートルズの「All You Need Is Love」と同じ種類の感情を抱えた曲だと思う……何故なら、真実抜きで愛は成り立たないし、愛のない真実もまた成り立たないから。心を開いて人々と接することが必要なんだ。自宅で子供たちにこの曲を歌って聞かせたときに、レコーディングしてみようと思い立ったんだよ。

―だからクーラ・シェイカーの「Gimme Some Truth」は、穏やかに語りかけるような歌い方になったんですかね。ジョン・レノンのオリジナル・バージョンは怒りを吐き出すような歌い方でした。

クリスピアン:そうかも。僕はレノンのオリジナル・バージョンが大好きで、確かにあの曲には怒りが詰まっている……英語で言うところの”rant”(わめく)という表現がふさわしいほどに。あの時期の彼はアメリカに対して激怒していたからね。それと同じように、今人々は世の中に偽善がまん延しているのを感じて、いら立っていると思うんだ。政府やメディア、あらゆるところにね。それは”愛と真実”の対極にある……愛は正直であることを求められるものだから。

―1月は全英ツアーをみっちり回りましたが、手応えはどうでした?

アロンザ:とてもいい感じだよ! ジェイが戻ってすぐ人前に立って演奏したことで、バンドの結束力も高まったと思う。

クリスピアン:僕らはデビューしてから短期間で大会場でのコンサートにジャンプアップしてしまったんで、今回のようなクラブギグ中心のツアーは最初期のバンドを思い出させてくれる。ステージに立っていると、過去のさまざまな場面がフラッシュバックするよ。

ジェイ:大昔のスリッパを見つけて、はいてみたら心地よかった、という感じ(笑)。

アロンザ:そいつは臭いそうだ。なんせ20年ものだから(笑)。

クーラ・シェイカーが語る新作の展望、日本と家族にまつわる話、スピリチュアルであること

Photo by Kazumichi Kokei

―昨年のサマーソニック出演は日本のファンにとってうれしい出来事でした。あのフェスは楽しめましたか?

クリスピアン:大阪会場は暑さとの闘いだった。僕らが外国から来たからそう感じるのかなと思ったけど、楽屋では日本人の若いバンドも皆とろけそうな顔でぐったりしていたから、こっちの人たちがそうなら仕方ないなと思ったよ。会場でカサビアンのサージと会ったんだけど、彼が全身にぴったりフィットする衣装を着ているのを見て、「グッドラック!」と思った(笑)。

アロンザ:あいつ、汗びっしょりだったよな。

クリスピアン:衣装の裾から汗がしたたり落ちてたよ(笑)。

―ライブではmiletとの共演も話題になりましたが、あのときの印象はどうでした?

クリスピアン:素晴らしかったね。オーディエンスの反応も良くて、こういうフェスの雰囲気っていいなと思った。ただ、僕らのステージはかなり大きい音量でサウンドを作っていて、普段の彼女のステージとは全然違うと思うんだ。だから彼女が登場するとき、ノイズの壁に直面して一瞬動揺したのか、フリーズしたように見えた。「これってマジ?」って顔をしてたな(笑)。でもいざ出てくると、彼女は見事にやり切って立派だったよ。事前にメールでアレンジなどの打ち合わせはしてあったから、スムーズに本番に臨めた。

自分の子供にまつわる話、スピリチュアルであること

―ちなみに、若手のミュージシャンで仲がいい人たちは誰かいますか?

クリスピアン:息子たち(笑)。アロンザはベルギーの若いバンドをプロデュースしているよ。

アロンザ:うん、ザ・スタンフォーズという、ブリティッシュ・ロックに強い影響を受けたバンドなんだ。彼らはまだ20代だけど、ビートルズやガレージ・ロック、ザ・ジャムにも影響されている。

―ジェイは数多くのセッションをこなしてきたので、若いミュージシャンの友達も多いのでは?

ジェイ:うーん……仲がいい若手は、自分の子供かな(笑)。

―今では3人とも父親なわけですが、子供ができてから自分の中でどんな変化がありましたか?

クリスピアン:子供たちを見ていると、まるで鏡を見ているようだね。良いところも悪いところも、不思議に自分と似てきてしまって。

アロンザ:本当に鏡を見ているみたいだ。子供たちが何かやらかして叱るときは、「俺と同じようなことをするんじゃない!」と言うことが多いよ(笑)。

クリスピアン:ジェイの息子と会うのは今回が久々だったんだけど、いつの間にか父親そっくりになっててさ。髪型から何からまるっきりジェイそのものなんで驚いたよ。

―しかもお子さんたちは、それぞれ音楽をやっているそうですね。特にそういう道をすすめた訳でもなく、自然とそうなったんでしょうか?

クリスピアン:避けられなかったと思う。皆、音楽に囲まれて育ってきたからね。僕も父の後を追うつもりはなかったけれど、映画の世界を横目で見ながら育ったから、気がつくと自分でも映画を作るようになっていた。環境が及ぼす影響は大きいよ。

アロンザ:うちの子たちは今どきのエレクトロニックな曲も聴くけど、自分が聴くようなタイプのロックも聴いている。こっちから無理強いして古い音楽を聴かせていたら、反抗して聴かなかったかもしれないな。クリスピアンの子たちは音楽の趣味がいいよね。

クリスピアン:うちの子たちはホームスクールで殻に閉じ込められているから、ラジオもYouTubeも聴けないんだよ。それに友達もいない(笑)。

―お子さんたちから何かアドバイスされたりもしますか?

クリスピアン:それはないな。ただ、お互いに聴かせ合ったりはしている。家族が最初のオーディエンスになってくれる、という点では参考になるね。僕らが2ndアルバム『Peasants, Pigs & Astronauts』(1999年)をレコーディングしたときは、プロデューサーのボブ・エズリンと殻の中に閉じこもって、その世界にだけ集中して作り上げた。良いアルバムができたけれど、完成する前にオーディエンスがどう感じるか想像して、また違う選択肢を考えてみてもよかったと今は思う。他の人の視点、というのは大事だよ。

―ちなみに、最近は主にどんな曲を好んで聴いてるんでしょう?

ジェイ:ツアー中はプレイするのに忙しくて、無音を好んで聴いているかな(笑)。相変わらず、昔から同じものを聴いている気がする。ビートルズ、ストーンズ、その他もろもろ。

アロンザ:ツアーの移動中は、ドラマーのポール(・ウィンターハート)が選んだ曲をよく聴いていて、アフロビートをたっぷり聴いたよ。クレイジーで刺激的な音楽だね。

クーラ・シェイカーが語る新作の展望、日本と家族にまつわる話、スピリチュアルであること

ポール・ウィンターハート(Photo by Kazumichi Kokei)

クリスピアン:うちの子供たちが作ったプレイリストを見てみると、大部分はオールドスクールなんだ。80s、70s、60sがメインで、彼らはリアルタイムの音楽に興味を持っていない。音楽が持つ危険さやエッジがどこかで失われてしまったと感じるから、ヒップホップにせよロックにせよカントリーにせよ、彼らは自然と古いものを選んで聴くみたいだ。

飛行機の中で見かけた若い女の子は、スマートフォンで聴いている音楽の80%ぐらいが古い音楽だった。テレビやなんかで気に入った曲をShazamで調べて、似たような曲でプレイリストを作る……という行動がループしてるんだろう。そうやって若い子たちがフリートウッド・マックやブラック・サバスなんかを見つけてどんどん聴いてくれるのは結構なことだし、ぶっちゃけ僕らのようなバンドにとって良いことだけれど(笑)。これって音楽産業が新人開発、人材育成を怠ってきたひとつの結果なわけで、代償は大きいよね。

そんなことがいつまでも続くわけはなくて、そろそろ音楽はもう一度大きな爆発を起こすんじゃないかな。旧来の音楽産業はすっかり死んでしまったけど、また新しい爆発が起こるタイミングなんじゃないかと最近は感じてるよ。インターネットやコミュニティを通じて、結構すぐに……多分今年、何かが起きそうな気がする。

―状況は90年代の音楽シーンとは全然違うけれど、クーラ・シェイカーがデビューしたときも、既存のシーンをひっくり返してやる、という気概を感じました。

クリスピアン:他のバンドと僕らが大きく違っていたのは、多くのバンドがバーチャルな感覚でロックをやっていたことだ。僕らがデビューしたとき、スピリチュアルなバンドであるという姿勢を打ち出したら、最初はジョークだと思われて面白がられた。そして僕らが真剣にそういうバンドであるとわかったら、人々は途端にめちゃくちゃ怒り始めた(笑)。バーチャルなロックの世界、決まりごと……そういうものとは異質だったから。

スピリチュアルであることは僕らにとってとても重要で、音楽を聴くことでハッピーになれるし、それによって何かが自分にもたらされ、魂を自由にすることができる。自由な魂……それこそが、今人々が求めていることだと思うし、さっき言ったように音楽がもう一度爆発するのではと予感していることにも繋がってくる。

クーラ・シェイカーが語る新作の展望、日本と家族にまつわる話、スピリチュアルであること

クリスピアン・ミルズ(Photo by Kazumichi Kokei)

―何度も来ている日本ですが、この国での想い出や、接した人々とのエピソードがあったら聞かせてください。

クリスピアン:大昔のことだけど、ツアーで東京に来たとき、かなり疲れ果てていてね。ちょっと公園に行って、タバコでも喫ってのんびり休みたいと思ったので、レコード会社の人にそう言ったんだ。彼らはピカピカと輝く寺院に連れて行ってくれたんだけど、芝生に入って休もうとしたらそこは立ち入り禁止で、寝転ぶこともできなくて(笑)。あれはおかしかったな。

日本はホームのように思っている。ファンの人たちとも長年にわたって密な関係を持ち続けてこれたと感じているよ。ヨーロッパや他の国とも違う、特別な関係を築くことができたと実感しているし、ここでプレイできるのは僕らにとって本当に意味があることなんだ。

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新作の展望、日本と家族にまつわる話などを語る

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