【動画を見る】TOOBOE「浪漫」ミュージックビデオ
—アニメ化される1年くらい前にRolling Stone Japanの誌面で「チェンソーマン」の特集を掲載して、その時に藤本タツキ先生と担当編集の林士平さんのインタビューをしたんです。その後アニメを見て、TOOBOEさんのエンディング曲(「錠剤」)が作品の世界観を一番理解しているなと自分は感じました。
ありがとうございます。僕も原作が大好きですし、原作解像度では誰にも負けたくないって想いもあって、自分の持っているサウンド感も出しつつ原作愛をめっちゃ詰め込んだ一曲です。
—SNSを見てると、林さんとは一緒にゴハンしたり連絡を取り合ったりしているそうですが、お二人が波長が合うのもなんとなくわかる気がします。
林さんは話が面白いんです。たまにご飯に行ったりしてますね。他にもPEOPLE 1のDeuくん、syudouくんらを交えて、みんなで遊んだりもしました。
—syudouさんにもインタビューしたことがあるので、今回こうしてjohnさんに話が聞けるのを楽しみにしてました。
今回、東名合わせてざっくり1300人ぐらいのオーディエンスの顔を見たんですけど、そんなことは人生でまず経験しないじゃないですか。しかもネットで活動してるとずっとお客さんの顔が見えなくて、本当に自分の音楽を聴いてる人がいるのか分からないまま活動が進むんですけど、たくさんのお客さんの顔を見れたので、そういう意味ではやっとお礼参りができたなっていう感覚ですね。
—今回のツアーと去年の初ワンマンライブ「解禁」を比較して、自分の中で成長を感じた部分はどこですか?
去年の5月にやった「解禁」とは、明らかにしゃべる量が変わったなと思いました。それはラジオに出たり、文化放送で自分の番組(『TOOBOEのわるあがき』)がはじまったり、ライブ経験を積んだりしたおかげでもありますし、今回はTOOBOEの事務所チームとバンドメンバーのみんなで集まって、TOOBOEってそもそも何なんだ?ってところから話し合ったんですよ。例えばアイドル的なノリなのか、バンド的なノリなのかっていろいろ話し合った結果、簡単に言うと陰キャ的な感じなのかなと。陰陽どちらかっていうと、陰の人たちにとって希望になるような人間を目指すことをテーマに構築しました。去年のライブでは、例えば武道館公演とかを見据えてはいなかったんですけど、今回のツアーはその原型となるようなライブを作れたかなって感じています。
—いわゆるアマチュアバンドだと、お客さんが全然いない時からライブをやり続けて、その積み重ねでリリースしていくっていう段階があると思いますが、TOOBOEの場合は先にネットを通じて曲が広がって、多くの人に周知した後にお客さんの前でライブをするわけじゃないですか。普通のバンドとはプロセスが全く違いますよね。だからこそ他とは違う強みもあるんじゃないですか?
でも僕はどちらかっていうと、ライブハウスで着実に名前が売れてCD等の全国流通で曲が広がってメジャーに行く、っていう形態を見て育ってる世代なので、長期で見ると結局そっちの方が強いと思ってしまうんですよ。現場力も高いし、ファンダムをしっかり作れてるところもある。一方ネットシンガーは、急にライブをやっても200人ぐらいのキャパでワンマンをはじめられたりする。
—現場力っていうのは、ライブ演奏およびライブパフォーマンスってことですか?
そうですね。今回のワンマンで特に目指したのが、音源通りに歌わないってことでした。その現場でしか見られないものを意識して、例えばあえてメロに添って歌わないとか、遊びを多く取り入れたんです。そもそもTOOBOEはコロナ禍で声出しができなくなってからライブ活動がはじまってるようなものなので、今回声出しも初めてだったし、地方でお客さんとローカルな話をしたのも初めてで。
—空間を通してオーディエンスとコミュニケーションするっていう点において、声出しやコール&レスポンスが可能になってくると、現場力が一気に試されますよね。
声出しできないライブって、僕らがいいなと思って組んだセトリとか演出が正しいかって実はよくわからなくて。バーン!って登場した時もシーンとしてるし、アンコールもシーンとしてるんですけど、今回のライブでは、次はあの曲やりますとか言うと、うわー!って盛り上がってくれる感じがあって。自分たちの作った構成は合ってたんだってやっと思えたライブでした。
「ボカロP出身」は利点であり弱点
—ボカロの曲も織り混ぜたセトリでしたが、そのバランスも違和感なくできましたか?
そうですね。去年のワンマンの次ぐらいのライブからは、比較的ボカロ曲はやっていなかったんですよ。
—今回リリースした最新シングル「浪漫」では、ライブの臨場感がうまくフィードバックされていて、ギターとドラムのガレージっぽい生々しさも聴きどころだなと思いました。この曲はどういったプロセスで出来上がったんでしょうか?
「浪漫」は今年の頭ぐらいから作りはじめた曲で。ワンマンツアーのフックとなるような、アップテンポな曲を作ろうっていうのが最初のコンセプトでした。ライブに来てくれた人に対しての感謝になるような、ポジティブなメッセージを送りたいということで、「浪漫」っていうタイトルをつけて。浪漫っていう言葉には「憧れ」とか「明るい未来」っていう意味があるらしいんですね。僕の曲って比較的ネガティブなものが多いんですけど、皆さんに明日から頑張ろうって思ってもらえる曲があったらいいなと思って作りました。
—それをライブでも披露できて、狙い通りに伝わった実感も持てたんじゃないですか?
はい。
—途中でストリングスが入ってきますが、生々しさが損なわれないままストリングスの煌びやかさと融合していて、ユニークだなと思いました。
今回初めてライブを念頭に曲を作って、キーボード以外のギターとドラムとベースを、いつもやってるTOOBOEバンドの方に弾いてもらったんです。「With ensemble」っていうYouTubeのチャンネルがあって、そこで「錠剤」と「チリソース」って曲をオーケストラアレンジで披露させていただいたんですけど、その時「チリソース」の編曲をしてくれた森田悠介さんが、僕の好みにガチッとハマったんですね。そのストリングスの感じを、別の曲でも演奏含めてぜひお願いしたいって話を現場でもしてて。その時期に「浪漫」を作っていたので、この曲に生のストリングスを入れたら面白いことが起きるかなと思って入れてみました。生ストリングスは初めてですね。
—ストリングスもフックになっているけど、ギターとドラムがカッコいい曲だなと。
イメージとしては、2000年代ぐらいのバンド感。例えばポルノグラフィティみたいな熱量をイメージしています。今ってシニカルな曲が多いんですけど、そうじゃないものをのをあえてやるのは面白いかなってことでやってみました。
—歌詞の世界観はポジティブだけど、ワードのチョイスにボーカロイドカルチャーのバックグラウンドを感じさせるところがあって、それもTOOBOEさんの個性になっているように思いました。
歌詞がフィクション性を持ってしまうのは、よくも悪くも僕の特性なんです。自分の話をすることがあまりないので、曲の主人公を自分には置かないんですよ。今回の歌詞も漏れなく自分から出た言葉ではあるんですけど、テーマは応援歌であり、大正くらいのレトロな世界観をイメージしてワードチョイスをしましたね。
—言葉のインプットは、例えば小説とか漫画にもルーツがあるんでしょうか?
小説は、もともと奥田英朗さんって方の作品をよく読んでますね。
—「チェンソーマン」の時のように、原作を自分の中で消化して、解像度を上げて言葉にしていくことは得意ですか?
そうですね。どちらかっていうと、原作ありきのものを、原作ファンの方が喜んでくれるように作る作業の方が好きで。『往生際の意味を知れ!』っていうドラマの主題歌(「往生際の意味を知れ!」)を作った時も原作を読み込んで、原作のファンとかドラマから入るファンの人がニヤリとできるような要素を入れたり、さらに詳しい人にしか気づかれないようなサブストーリーを入れたりしていました。作者の米代(恭)先生からもお礼を言われて。そういったクライアントを喜ばせる作業はけっこう好きですね。
「心臓」前と以降で変わった歌詞の考え方
—M2の「SOSをくれよ」はタイアップ曲ではないですよね。
「浪漫」がA面曲だとしたら、B面の曲はどちらかというと、自分の最近思っていることを歌うことが多いかもしれないです。
—今回の「SOSをくれよ」も、johnさんの思っていることを歌ってるんですか?
シングルを作る時は毎回、A面の曲ができてから肩の力を抜いてB面を作るんですけど、その2曲のバランスを見つつやっていて。
—馴染みのない言葉を歌詞にしていく作業って大変じゃないですか。
最初のとっかかりのフレーズが出るまでは苦戦するというか。自分発信で言いたいことって意外とあんまり多く出てこないんですよね。ボカロ文化の癖だと思うんですけど、カッコいいカタカナのフレーズとかを誰かに歌われちゃったらもうそれは使えなくなってしまう。いい単語フレーズってボカロ界隈で取り合ってるイメージがあって。そういうのを避けて、面白いフレーズが出るまでマイクに向かって、仮歌レベルでいろんなフレーズを出して、比較的いいんじゃないかなってものを採用して1行目ができるんですよ。そこからどういう風に続いたら面白いかなって感じでいつも作ってます。
—歌いながら浮かんだ言葉を磨いていくんですね。
語感重視なので、最初のガイドボーカルは日本語か英語か分からないような言葉を入れてます。なんとなくその発音に近い言葉をはめ込んでみてやってますね。あと歌詞に関しては、「心臓」前と以降で変わったと思います。恥ずかしがらないようにしようと思ったんです。こういう言い回しって臭いかしら、とかも思うんですけど、恥ずかしいなって思う言葉も頑張って歌おうと。そこをコーティングすると聴いてる人に届かないって、他人の曲を聴いていても感じます。カッコつけようとしてる曲は届かないので、恥ずかしいこともちゃんと表に出すようにしてますね。
ーギターもTOOBOEの武器の一つだと感じました。「浪漫」はカッティングの切れ味もかっこいいですが、ギターはずっと同じものを使っているんですか?
そうですね。「心臓」とか「浪漫」は、TOOBOEバンドのメッシーさん(飯田”MESHICO”直人)に弾いてもらって、メロはその都度相談するんですけど、うちで録ってるギターは同じテレキャスを使ってます。
—johnさんのエレキギターとの出会いは?
本当に普通なんですけど、学生の時、実家にあったクラシックギターを弾いたのがギタリストとしてのスタートで。ぶっとい弦からスタートしているので、エレキに行き着いた時はすげー簡単だって思いました。逆にそれがよかったのかな。当時は浜田省吾さんとか斉藤和義さんとかが好きだったので、どちらかというとアコギのジャーニー感が好きで、今も家で暇な時はアコギを弾くんですよ。ただ、今のロック文脈でいうとアコギが前に出た曲って少ないので、ポイントで使う以外ではエレキギターに頼りがちですね。
—アコギから入って、いわゆるシンガーソングライター然としたアーティストではなく、ボカロクリエイターの方に行ったんですね。
ミュージシャンとして将来どうしようか悩んでる時、YouTubeでバルーンさんの「シャルル」って曲とかを聴いて、邦ロック系の曲もボカロに存在するんだってことを知るんですよ。当時はボカロに対して、初音ミクのキラキラしたポップス、みたいなイメージを勝手に抱いていたので、すごい衝撃を受けて。ボカロで渋いロックやってる人もいるんだと思って興味を持ちはじめて、初音ミクを衝動買いしました。当時、スガシカオさんみたいにギターを背負う憧れはあったんですけど、自分で歌っていくビジョンは考えてなくて。yamaさんに「麻痺」って曲とか「ブルーマンデー」って曲を提供したタイミングで、レーベルの方に声をかけられなかったら、多分今も歌ってなかったですね。
「海外ロック好きだった少年が大人になって作った日本のポップス」
—johnさんのルーツには、音楽に限らず海外のポップカルチャーからの影響もあるんでしょうか?
今に活かされているかっていうと微妙なんですけど、ボブ・ディランとかビートルズはめっちゃ聴いてました。あとはボーイズ・タウン・ギャングの「君の瞳に恋してる」とか、いわゆるレトロな洋楽のポップスは好きです。「ウィーアー・ザ・ワールド」に出てくるようなアーティストの曲というか。そこらへんはインプットになってるかもしれないです。でも洋楽をがっつりディグることってなくて、どちらかっていうと日本の歌謡曲を、50年代から90年代、2000年代、2010年代ってできる限り聴いていたので、そこらへんがルーツになっていますし、その時代の人たちがルーツにしてた海外の音楽が好きですね。桑田佳祐さんのアルバムを聴いた時に面白い曲があるなと思って調べたら、ビートルズのリスペクトだってことを知ってビートルズを聴く、とか、スガシカオさんの曲を聞いて、ファンクを意識してるって言ってたらそれを聴く、みたいなことをやってますね。
—なるほど。すごく納得です。
海外ロック好きだった少年が大人になって作った日本のポップスが好きなのかもしれないですね。エレカシ、斉藤和義、山崎まさよし。それを僕はボカロ文化っていう今のセンスとのミクスチャーでアウトプットしてるんだと思います。
—johnさんが昔の楽曲に惹かれるのはなぜだと思いますか?
日本人って絶対、演歌の血が流れてると思うんですよね。その演歌から引き継がれた歌謡曲って、日本人が本能的にいいなと思うものなんだと思います。僕は90年代の頭って生きていないですけど、当時の曲をCD屋でレンタルして聴くといい曲だなって思うし、売れた曲ってオーラでわかるんですよ。そういうのは日本人の血に流れているものだと思うので、それを僕が作れば、今の若い子たちにも本能的にいいものだって思ってもらえると思うし、逆に当時の歌謡曲を聴いてた年齢の方には懐かしいと思ってもらえるんだと思います。
—TOOBOEのライブに来てくれるファンは若い層が多いんですよね。
そんな人たちにとって新しいと思ってもらいたい。でもその子たちも、自分が生きてない時代の曲でもメロが懐かしいってわかると思うんですよ。なんで懐かしいか言語化できる話ではないんですけど、本能的なものがあるんだと思います。僕もそれが好きだからやってるって感じですね。
—DNAレベルで反応するものがあるのかもしれないですね。
僕は絶対あると思ってます。
—そう言われてみると、ボーカロイドの曲ってメロディが和風な印象を受けます。
多いです、多いです。
—そういう旋律が日本人の哀愁に刺さるのかなって、いま言われて気づきました。
日本語にも相性がいいのかもしれないですね。
—そうですよね。今後はTOOBOEでどういった表現をしていきたいですか?
お仕事は好きなので、引き続きお仕事をもらえるよう頑張りつつ、今はまだメジャーになってからの名刺ができてない印象をツアーで感じたので、そこを頑張りたいです。「美味しい血液」ってワンマンをやっても、売ってるものって去年出したインディーズのアルバムと「錠剤」のEPくらいなので、「これがメジャー以降のTOOBOEだ」って言えるものを作り上げることが今年の目標ですね。願わくばそれを携えて来年ツアーとかができればいいなって思います。今回たくさんの気づきがあったので、今回のツアーをTOOBOEのライブのひな形として、次はポップスっぽくやるか、ロックみたいにやるか、ファンクみたいな感じにやるかって、カスタマイズできるようになったと思います。
—これから場数を重ねていって、バンドはバンドとしての見せ方ができそうですね。
そうですね。TOOBOEバンドとしての意識はもうみんな持っているので、これからもっとバンド然とした表現ができればいいなと思ってます。
<INFORMATION>

Digital Single
「浪漫」
TOOBOE
MASTERSIX FOUNDATION
配信中
M1. 浪漫
M2. SOSをくれよ
配信リンク:
https://TOOBOE.lnk.to/romanIn
>>記事に戻る