現代のUKロックの粋を集めたとも言えるサウンドが歓迎され、名実ともに揺るぎない人気を確かなものにしてからもナッシング・バット・シーヴスの挑戦は止まらなかった。

2020年10月にリリースした3rdアルバム『モラル・パニック』ではソングライティングにさらに磨きを掛けるため、R&Bの影響を大胆に取り入れるという試みが支持され、アルバムはUKアルバム・チャート最高3位を記録する大ヒットになった。


そして、それから約3年ぶりにリリースする4thアルバム『デッド・クラブ・シティ』でも、今回、イギリスからリモート・インタビューに応じてくれたコナー・メイソン(Vo)ら、5人のメンバー達は『モラル・パニック』で打ち出した自分達のサウンドをアップデートしながら、新境地を開拓することに挑んでいる。

その新境地とは何か? それは1960年代から連綿と続くコンセプト・アルバムというロックの伝統の1つに挑戦することだった。もっとも、「プレイリスト・カルチャーの最前線にいる」と語る彼らだから、コンセプト・アルバムという様式にそこまで固執しているわけではないのだが、彼らがどんなふうに彼らなりのコンセプト・アルバムを作り上げたのかは、ぜひコナーの発言に耳を傾けていただきたい。

おもしろいのは、楽曲面では前作からさらにダンサブルかつポップなものになりながら、持ち前の社会批評的なメッセージはコンセプトを立てたことで、より辛辣になったことだ。その意味では、ナッシング・バット・シーヴスは物言うロック・バンドとしての心意気はこれっぽっちも失っていないのだった。

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―最新4th アルバム『デッド・クラブ・シティ』が”デッド・クラブ・シティ”という架空の都市を舞台にさまざまなキャラクターが登場するコンセプト・アルバムになった経緯について教えてください。


前作『モラル・パニック』の曲を書いていたとき、すごく長い間曲を書いていた気がしていたんだ。イギリスについて書いていたんだけど、内容が壮大になって、終わりが見えない感じがしてね。新しいアルバムの曲を書こうと集まった時も、『モラル・パニック』と同じ心境で書いていた感じだった。コンセプト・アルバムにしようという話になって、ストーリーの伝え方が大きく変わったんだ。曲を書いたり、遊んだりするにはとても楽しいエクササイズだったよ。内容はシリアスなんだけど、遊び心のあるクリエイティヴなやり方で曲を書くことができた。
初めはそうだね、大いに楽しむところから始まったんだ。

―なるほど。ソングライティングのエクササイズとしてコンセプトに沿って、曲を作るということをやってみたわけですね。ところで、”デッド・クラブ・シティ”というコンセプトを立ててから全11曲を書き下ろしたのでしょうか、それとも何曲か作ったところで、楽しみながら曲を書くならコンセプト・アルバムに発展させるべきだと考えたのでしょうか?

その両方が組み合わさった感じだったと言えるね。すでに書き始めていたり、頭の中にあった曲がいくつかあったりしたんだけど、”City”という言葉が何度も出てきたんだよね。ロンドンに住んでいて、常に都会のライフスタイルを経験しているからかもしれない。
先に数曲あって、コンセプトができてきた時に、すでにあった曲の歌詞をコンセプトに合わせて一部書き換えたけど、僕達としては、コンセプトがあっても1曲1曲を独立したものとして聴けるようにしたかった。コンセプトが裏にあるって知らなくてもちゃんと聴けるようにね。それが僕達にとってはとても大事なことだったんだ。コンセプトのことなんて気にしないカジュアルなリスナーもいるからね。そういうリスナーがいるのはいいことだと思う。だから、コンセプトそれを知らなくても聴いていられる曲にすることが大事だった。
と言いつつ、そうだね、コンセプトが決まってから書いた曲があるのは間違いない。コンセプトを立てよう!というのはパッと閃いたんだ。それで「Welcome To The DCC」を書いた。コンセプト・アルバムにすることを決めてから最初に書いたのがその曲だった。コンセプトへのイントロダクションとしてね。

―なるほど。
それで「Welcome to the DCC」(DCCへようこそ)なんですね。

あの曲はかなり早くできたよ。そのコンセプトに入り込めるってことですごくワクワクしていたからね。ほとんど特権みたいに感じていた。おふざけなくらい壮大な感じでさ。でもこの曲はイントロダクションとして作っていただけで、リリースすることになるとは思っていなかったんだ。


―その「Welcome To The DCC」では、「If you dream it, you can have it. If you believe it, it can happen.」と歌っていますね。なんとなくメタバースやヴァーチャル・リアリティを連想させるのですが。

全体としてのアイデアは、人間の貪欲さだったんだ。このDCC(Dead Club City)という会員制クラブのメンバーは何でも欲しがる、そしてすべてを手に入れて上級国民でいたい人達なんだ。手に入れられるものだったら何でも持っていたいんだ。そういうオートクチュールなライフスタイルを送っている。そんな世界にいるとき、あるいは外からそういう世界を見て、本当に望んでそこにいるのか!?と疑問を投げかけるのがコンセプトだね。会員制クラブの一員ではあるけど、本当にそこにいることに満足しているのか!?と言うか。何もかもが外の世界よりもいいところという概念は本当なのか、欲しいものがすべて手に入った状態というのは果たしていいものなのか!? 基本的にはイギリス国内のエリート意識や階級意識をおちょくっているんだ。または世界全般のね。というのも、イギリスは階級問題がものすごく大きいからね。実際、上流階級に身を置いたところで、手に入るからと言って本当に欲しいものなのか、夢に見るようなものが手に入って本当にハッピーなのか。豊かになって大金持ちになっても本当に幸せなのかっていう。

―エリート意識や階級意識をおちょくっているそうですが、あくまでも疑問を投げかけているわけですね?

そうだね。僕自身もそうだけど、別に要らないって人達もいれば、そういう富が欲しい人達もいるからね。

―アルバム全体を貫く1つのストーリーがあるんだとしたら、どんなストーリーなのか、簡単に教えていただけますか。コンセプト・アルバムとして楽しむだけじゃなくて、1曲1曲楽しむという人もいるとおっしゃいましたが、逆にコンセプト・アルバムとしてこのアルバムを楽しもうという人にとって、1つのストーリーの流れがわかると、アルバムのことを理解しやすいと思うんですよ。

うん。さっきも話したけど、どの曲も単品としても意味のあるものとして聴けるものにするという考えがあったんだ。コンセプトのことは別に考えなくても「ああ、この歌詞が好きだ。ここのメロディが好きだ」って思える曲が素晴らしい曲だと思うし、とても大事なことだからね。と言いつつ、全体を繋げる”糸”があるのは間違いない。DCCというのは街サイズの会員制クラブで、みんなが一員になりたがるけど、本当に入りたいものなのかっていう。各曲にはそれぞれストーリーラインがあるんだけど、1つ例を挙げるよ。DCCの話を聞いたカップルがDCCに入るために車を走らせているという内容の曲が、最新シングルの「Overcome」なんだ。

その他にもいろいろなストーリーがあるよ。どれもそれぞれの曲の登場人物の意見なんだ。クラブの一員だったり、入りたい人だったり、本当に入りたいと思っているのか……入りたいと心から思っている人もいるだろうし、そうでない人もいる。そんなライフスタイルが欲しいという人もいるけど、そうじゃない人もいるからね。ただ、僕達からみんなに「このストーリーはこういうことなんだ」と説明するよりも、まずは曲を聴いてほしい。まずは、その曲を”呼吸して”どんなストーリーなのか自分で考えられるのがいいと思うしね。

―わかりました。日本盤がリリースされたら、歌詞の対訳を読みながら、改めて聴いてみたいと思います。コンセプト・アルバムということにこだわるのもどうかと思うので、コンセプト・アルバムにまつわる質問は次で最後にしたいと思います。これまでコンセプト・アルバムと呼ばれる作品が多数作られてきましたが、その中で今回インスピレーションになったアルバムはありましたか?

あるよ。今回のインスピレーションになったのは『ジギー・スターダスト』だったんだ。(デヴィッド・)ボウイのね。あのアルバムの中でコンセプトに実際に沿っていた曲は正味2、3曲しかなかったと思う。だけど、あのアルバムを取り巻いていたものすべて……アート・ディレクションだったり、MVだったり、服のスタイリングだったり、彼が温めていたグッズのアイデアだったり、そういうのがすべて1つの世界にリンクしていた。そういうところが僕達にとってすごくインスピレーションになったね。それで、僕達も1つの世界を作ることにしたんだ。僕達のMVもアートワークも、ライブのステージ演出もそうだし、僕達の着ているもののスタイリングも、みんな細かいところで繋がっているんだ。たとえば、僕達が現実世界で作ったパンフレットがMVの中でも使われていたりする。『ジギー・スターダスト』はそういう意味で一番大きなヒントになったんだ。実際にコンセプトに当てはまる曲は2、3曲しかなかったけど、彼が作った”世界”があったってことだね。すごく強いインスピレーションを受けたよ。お陰で僕達もクリエイティヴな姿勢で臨むことができたし、MVやアートワークなど、いろいろなものをリンクしようと考えたんだ。

―なるほど。『ジギー・スターダスト』は僕も大好きなアルバムなんですけど、おっしゃるとおりコンセプト・アルバムでもありつつ、1曲1曲聴いてもどの曲もかっこいいアルバムだと思います。そういう意味では今回の『デッド・クラブ・シティ』と通じるものがあるんじゃないかというふうに今お話を聞いて思いました。

ありがとう。僕達はキッズの頃にバンドを始めて以来、アルバムの1曲1曲が、どんなプロダクションを施したとしても、どんなひねりをきかせたとしても、MVも曲も素晴らしいものにしたいという気持ちが強いんだ。とても大切なことだと思っている。どの曲もアコースティック・ギター1本でプレイしても聴けるようないい曲でないといけない。ボウイはそういう意味でいつもインスピレーションを与えてくれるんだ。彼はいつもクリエイティヴなアイデアが素晴らしかったし、プロダクションのアイデアも豊富だった。でも、その根底にはいつだって素晴らしい曲があったからね。それが一番だよ。

―サウンド面の話も聞かせてください。今回のアルバムはR&Bやポップの要素を導入した前作の『モラル・パニック』の延長上にある作品だと思うのですが、今回、シンセ・サウンドの比重が増えたという印象がありました。今回のアルバムを作る上で、サウンド面ではどんなテーマがあったのでしょうか?

シンセ・サウンドの比重が増えたっていうのは、ドム(・クレイク/Gt, Key)が新たに買ったシンセの影響だね。80年代の、すごいヴィンテージなんだ。でも、こういうサウンドを作りたいというのはなかった。僕達はずっとそうやってきた。初めてのアルバム(2015年の『ナッシング・バット・シーヴス』)の曲を書いた時の目論見も、僕の声に合った素晴らしい曲を、全力で書こうということだった。どんなスタイルでやろうということはあまり考えなかったんだ。だから、あのアルバムはいろいろなジャンルがミックスされているんだと思う。僕達はいろいろなものを試していただけだったからね。それがその後、ナッシング・バット・シーヴスらしさになったんだ。

僕達はいわゆるプレイリスト・カルチャーの最前線にいる。僕個人はジャズからヘヴィメタルまで何でも聴くんだ。膨大な音楽の大ファンだよ。僕は1つのジャンルからだけ影響を受けているわけではない。いろいろなものから多大なインスピレーションを得ているんだ。リズム&ブルース、ソウル、ジャズ、ポップ、R&B。ジョー(・ラングリッジ・ブラウン/Gt)はアメリカーナ、トム・ペティ、70年代のロックの影響が強くて、ドムはジャスティスというフランスのハウス系デュオや、80年代のプリンスみたいなプロダクションが大好きだね。だからそんな3人が集まると、お互いに「こういうのをすごくやってみたい」とか「これで遊んでみたい」とか言い合えるし、何でもトライすることにすごくオープンなんだ。ナッシング・バット・シーヴスのフォーマットというのは1つのジャンルに固執するものではなくて、常に実験から生まれるものなんだ。

だけど、なぜかナッシング・バット・シーヴスらしい音というのがある。思うに、その要因の1つは僕の声がすべてを結び付けているということ。そして2つ目は、バンド内にドムというプロデューサーがいるということじゃないかな。あいつの中にナッシング・バット・シーヴスのサウンドというのがあって、ナッシング・バット・シーヴスのサウンドの作り方を心得ているんだ。あいつが自分で作ったものだからね。そのサウンドがあるから、ソウルだろうとR&Bだろうと、ロックやヘヴィメタルであろうと、どんな曲でも、あいつにはあのサウンドを作る術があるし、僕もその上に自分の声を乗せることができる。だからやりたいことが何でもできるような感じなんだ。

ただ、僕自身は壮大なロックのヴォーカルやロックのメロディを歌うのはちょっと飽きてきた。だから、よりソウルフルなメロディやヴォーカルで実験してみたいと思ったんだ。自分が聴いてきたものを見せるいい機会だと思ってね。僕はソウル・ミュージックを聴いて育ってきたから、それを取り入れるのもいいなと考えたんだ。

―最後の質問です。UKを代表するロック・バンドに成長した自分達は今後、どういうふうに音楽を作っていくべきだと考えているのでしょうか?

(照れ笑いしながら)いい質問だね。その質問は、メンバーそれぞれ答えが違うんじゃないかな。僕の場合は、バランスを取りたいという夢があってね。このバンドを続けて、アリーナでライブをやったり、フェスのヘッドライナーを務めたりして、思いのままに曲を書きたい。基本的には今やっていることだね。それを成長させ続けたい。

一方で僕には別の夢もあって(照れ笑い)、僕はこのクレイジーなキャリアを続けながらでも家庭を持って、普通の生活を送ることができると信じているんだ。僕は今までロック・スターになりたいとひたすら願いながら育ってきた。それだけだったんだ。でも30歳になった今は、もちろん今もその夢は持ち続けているけど、同時にそれとバランスが取れるものも望むようになった。だからメンバーそれぞれ答えが違うと思うんだよね。メンバーの中には、50歳までひたすら働きたい奴もいるかもしれない。それはそれでクールなことだしね。

バンドとしてはイギリス国内でフェスのヘッドライナーをやりたい。そんなに遠い先のことじゃない気がしているよ。アリーナの動員数もどんどん大きくしていきたいし、ヨーロッパだけでなくアジアやアメリカにも勢力を拡大していきたいね。とにかく自分達の心の赴くままに書いていきつつ、最高の曲を作っていくことが大前提だ。勤勉さはキープしていかないとね。僕個人としては、そういうものを実現するためには、休息とライブ活動のきちんとしたバランスが必要だという思いが強いんだ。成長し続けていくためにはね。もう12年やっているし、僕にとってはとても大切なことだよ。僕はこのグループのお母さん的存在で、みんながちゃんと休息を取っているか、しっかりと食事も摂っているか、いつも目を光らせているんだよ(笑)。

<リリース情報>

ナッシング・バット・シーヴスが語る「人間の貪欲さ」をテーマにしたコンセプト・アルバム


ナッシング・バット・シーヴス
『デッド・クラブ・シティ』
2023年6月30日発売
https://NBT.lnk.to/DeadClubCityJP
=収録曲=
1. Welcome to the DCC
2. Overcome
3. Tomorrow Is Closed
4. Keeping You Around
5. City Haunts
6. Do You Love Me Yet?
7. Members Only
8. Green Eyes :: Siena
9. Foreign Language
10. Talking To Myself
11. Pop The Balloon

https://www.sonymusic.co.jp/artist/nothingbutthieves/