「サマーソニック東京初日のベストアクト」との呼び声も高いゲイブリエルズ(Gabriels)。ヴィンテージ・ソウルを現代的に響かせる手腕はステージ上でも遺憾なく発揮され、長いマントをなびかせるジェイコブ・ラスクの絶唱と、ゴスペルを基調とするグルーヴィーな演奏でMOUNTAIN STAGEの観客を圧倒した。


ジェイコブは米コンプトン出身でチャーチ出身のシンガー。過去にはオーディション番組「アメリカンアイドル」に出演し、ダイアナ・ロスのバッキングコーラスを務めたこともある。鍵盤奏者のライアン・ホープは英サンダーランド生まれの元DJ/映像監督。ヴァイオリン奏者のアリ・バロウジアンはアメリカ系アルメニア人の作曲家で、映画サントラの世界でも名を馳せてきた。そのようにバラバラの出自をもつ3人が、2016年にLAで出会って意気投合。2021年のEP『Love and Hate in a Different Time』はエルトン・ジョンから「過去10年間に聴いた中で最も将来性を感じるレコードの一つ」と絶賛され、二部構成のデビューアルバム『Angels & Queens』も重厚感のある傑作となった。


そんな彼らをサマソニでのパフォーマンス直後に幕張メッセ内で取材。運命の出会いとソウルへの愛情、ティナ・ターナーが特別な理由、世界初公開となる(!)ケンドリック・ラマーとの関係について語ってくれた。

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Gabrielsが語るソウルへの深い愛情、ティナ・ターナーやケンドリック・ラマーとの繋がり

左からアリ・バロウジアン、ジェイコブ・ラスク、ライアン・ホープ(Photo by Masato Yokoyama)

—日本での初ライブを終えていかがですか?

ジェイコブ:最高だったよ! ちょっとしたトラブルはあったにしろ、全体的には素晴らしかった。

—ソウルフルな歌声と演奏、楽曲が持つエネルギーに圧倒されました。3人とも過去にいろいろとキャリアを積んできたそうですが、どのように知り合ったのでしょう?

ライアン:僕らは最初、キャスティングで知り合った。とある映像プロジェクトの制作で一緒になったんだ。
僕はもともとロマン・コッポラの会社、The Directors Bureauで映像監督をしていた。そのときはコマーシャルの仕事に携わっていて、そこでキャスティングされたのがジェイコブだったのさ。それがきっかけだよ。

アリ:僕とライアンは映像業界で働いてたんだ。短編映画とかCMとか、そういう類のね。ライアンの創作意欲、作曲家やアレンジャーとしてのセンスには、ただ驚かされたね。
それで、今後も一緒に仕事がしたいと思ったから、彼の後を付きまとったりもした(笑)。そこから、僕らが担当していたCM制作を通じてジェイコブと出会った。彼は自分のクワイア(聖歌隊)を率いていたんだ。

ライアン:ジェイコブは、少し前から歌手としてのキャリアをスタートしていたけど、そのことは知らなかった。まさに偶然の出会いだったんだ。

ジェイコブ:彼らはクワイアをブッキングしようとしていたんだ。
てっきり、僕が必要とされてると思ってたから、「なんだ、クワイアが欲しかったのか」とがっかりした(笑)。その時から2人と仲良くなって、ただ自分たちで楽しむために音楽を作ったりするようになったんだけど、今みたいになるなんて想像もしてなかったよ。

ライアン:ああ、別にバンドをやるつもりはなかった。ジェイコブは郊外にある僕の家に、ただ遊びに来てたんだ。1~2カ月に1回くらいの頻度で会ってたかな。そのおかげで、お互いのことを知ることができたよ。


アリ:ライアンの家にジェイコブが来るようになって、曲づくりを始めたんだ。2~3日ほど滞在しながら、のんびり曲を作って、自分たちの人生について語ったりもして。僕らの音楽は、それぞれが歩んできた人生が強く反映されていると思う。

Gabrielsが語るソウルへの深い愛情、ティナ・ターナーやケンドリック・ラマーとの繋がり

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—「この3人ならやっていける」という運命的な要素をどこに感じたのでしょうか?

ジェイコブ:もちろん運命もあるけど、やっぱり音楽への愛だね。僕らは本当に音楽が好きなんだ。素晴らしい才能の持ち主で、共通の情熱を持っている相手を見つけたら、何もアクションをしないほうがおかしいだろう? それに僕らにとって、このバンドはセーフスペースにもなっていると思う。
それぞれが音楽やその他の分野でキャリアを積んできているから、このバンドでは「やりたいことを自由にできる」っていうふうに捉えてる。周りからのプレッシャーもないし、叶えるべき目標もない。歌いたいことを好きに歌えるんだ。僕らは長い付き合いじゃないからこそ、「秘密を誰かに話すんじゃないか?」って余計な心配もいらない(笑)。僕の友達のことを2人は知らないし、僕も、彼らの友好関係には首を突っ込まない。何のためらいもなく正直に話せるんだ。

ライアン:ああ、たしかにそうだ。僕らにとってこのバンドは、いつもの居場所から距離をとれるセーフスペースになってる。今、ジェイコブが言うまで気づかなかったな……変な言い方だけど、僕とアリにとっては、これまでの経験や交友関係とは別に、誰からジャッジされることもなく自分たちを表現できる。それはとても新鮮で、まるで真っ白なキャンバスを手に入れたような気分なんだ。

—そして、ソウルミュージックへの愛を3人で共有しているわけですよね。

アリ:ああ。僕らは常識を超えるような、超越したものを求めてるんだ。宗教音楽はもちろんだし、それだけに限らず、その要素はポピュラーミュージックにも存在する。つまり、ゴスペルの影響を受けたソウルや、その他の音楽は、心に響く何かを含んでいる。ステージに立っている時、音楽を聴いている時、自我を忘れて、その感覚に浸っていくような……僕らは、そういった音楽を作りたいと思っている。

ソウルへの愛情、ティナ・ターナーへの想い

—ジェイコブとアリはLA、ライアンはUKの出身ですよね。今日のライブではティナ・ターナー「Private Dancer」のカバーも印象的でしたが、6月のグラストンベリーではソウル・II・ソウルの「Back to Life (However Do You Want Me)」を取り上げていました。同じソウルでもアメリカとイギリスでまた違った文脈があるように思いますし、そこを行き来できるのがゲイブリエルズの魅力かなと思ったのですが、その辺りはどのように考えていますか?

ジェイコブ:全般的に、ヨーロッパではアメリカ人のソウル・シンガー、たとえばティナ・ターナーのような人が好まれていると思う。彼女はイギリス進出がきっかけで新たなキャリアを築いていったよね。当時、イギリスの音楽シーンには、アメリカほど強い差別意識がなかったから。ソウルミュージックは世界共通の音楽だと思うよ。ただ、ソウルミュージックを愛してるかどうかだと思う。

ライアン:ああ、そうだね。「ソウルが感じられれば、それはソウルミュージックだ」っていう、まったくその通りなことを言おうと思っていたところだ。どこで生まれたかは関係ない。当たり前だけど、音楽のジャンル名がそれを示している。

アリ:僕らの音楽にはソウルのコアの部分があって、制作のプロセスやサウンド面では、イギリスのプロデューサーたちの影響が大きいと思う。ビートルズローリング・ストーンズもそうだし、デヴィッド・ボウイが出てきてから、アメリカとイギリスのブレンドは各所で起こっていたと思うよ。ルーサー・ヴァンドロスがデヴィッド・ボウイとアルバム制作をして、バック・ボーカルから新しいキャリアを築いていったようにね。そういった面でのブレンドは興味深い。ただ、根底にあるのは、やっぱりアメリカのソウルだ。ブリティッシュソウルは、確実にアメリカのソウルミュージックの影響下にあると思う。

ライアン:エイミー・ワインハウスがエタ・ジェイムズにかなり影響を受けていたようにね。

アリ:そうそう。彼女(エイミー)は60年代のフィル・スペクターのグループ、ザ・ロネッツとかにも影響を受けていたんじゃないかな。詳しいことはわからないけど。

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ジェイコブ・ラスク(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

Gabrielsが語るソウルへの深い愛情、ティナ・ターナーやケンドリック・ラマーとの繋がり

ライアン・ホープ(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

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アリ・バロウジアン(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

—アメリカのシンガーで好きな人は?

ジェイコブ:数えきれない。アレサ・フランクリンに、ティナ・ターナー。

ライアン:スプリームス。

アリ:ニーナ・シモン。

ジェイコブ:山ほどいるよね。ナット・キング・コール、フランク・シナトラもそう。彼らはジャズシンガーだと言われているけど、僕にとってはソウルでもある。

アリ:それからバーバラ・ストライサンド。僕らもさっき彼女の曲を歌ったんだ。オリジナルのバージョンでね。

「The Way We Were」ですよね。

アリ:ああ、いろんなバージョンで歌われ続けてるね。

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Photo by Masato Yokoyama

—『Angels & Queens』は二部構成の大作アルバムとなりましたが、どのような手応えを感じていますか?

ジェイコブ:とても満足しているよ。制作にかなりの時間を費やしたし、僕らを知ってもらうのにぴったりな作品ができたんだ。これ以上のものは生まれないってくらい。かなり気に入っているよ。

アリ:ああ、誇りに思っている。

ジェイコブ:ここには僕らのハート、パーソナルな経験、家族とのストーリーが詰まっているんだ。

ライアン:それが『Angels & Queens』と名付けた理由でもある。このアルバムは、僕らに気づきを与え、サポートしてくれるエンジェルやクイーン(Angels & Queens)たちとのストーリーが元になってる。当時は気づかなかったけど、今では教訓になっている会話の数々とかね。だから、アルバムのインサートやアートワークにも、『Angels & Queens』のモチーフとなった人々の写真を使っている。このアルバムは、とてもパーソナルでディープなものなんだ。完成までに5~6年かかった。僕ら3人にとっての、リアルでディープなスナップショットだね。

—アルバムのリード曲「Glory」はライブアンセムの一つとして盛り上がっていましたね。この曲の背景を聞かせてください。

ジェイコブ:(別の収録曲)「One and Only」をレコーディングしたあと、2人は「最高だ、これは気に入った!」と言ってたんだよ。でも「Glory」ができたら、「やっぱり、こっちの方がいい」って言い出したんだ。

一同:(笑)

ジェイコブ:僕は俄然「One and Only」推しだから、断固として「いいや、それは違う」と言ってきたけど(笑)。

ライアン:「One and Only」は僕の仕事だな。

ジェイコブ:「One and Only」がベストだ、それ以上はない(笑)。そうそう、「Glory」についてだよね。僕の友達が 『Pバレー:ストリッパーの道』っていう、ストリップクラブのダンサーたちの生活を描いたテレビドラマに出演していて、その彼女とセックスワーカーの仕事現場を見学する機会があったんだ。その時に、セックスワーカーの実状を知ることになった。それから、ティナ・ターナーのドキュメンタリーを観たんだ(HBO制作の『TINA』だと思われる)。そのあとに曲を書きはじめた。”Let me tell you a story / Of a girl up in Glory”っていう歌詞は、ティナのことでもあるし、栄光(Glory)に輝くすべての女性たちのこと。一方で、彼女たちは、何度も傷つき、悲しんでいる。ドキュメンタリーの中で、ティナ・ターナーは「良い日々は、悪い日々の比にもならない」と言っていた。僕からすれば、彼女は、スイスの海沿いに家も持っているような成功者だ。そんな彼女でさえ、重々しいものを抱えながら生きていた。そういったことを知って、この曲に取り組んだんだ。栄光に満ち溢れ、誰からも愛されている女性でも、困難を抱えながら生きているってことをね。それで曲を書き始めて、サビ(の歌詞)が仕上がったとき……僕は怒り狂った。

一同:(笑)

ジェイコブ:あのときは2人を罵倒してしまったよ。「僕が間違ってると言いたいのか?」って。でも、後になって焦った。だって彼らは正しかったんだ。”I might be down right now but ~”ってサビを歌い始めて、僕はこう思ったーー。

ライアン:「最高だ」って。

一同:(笑)

ジェイコブ:内心では「僕が間違っていたのか、くそっ!」と思った。僕はありったけの言葉で罵倒してしまったのに、彼らの選択は正しかったんだ。

ティナは今年5月に亡くなりましたよね。

ジェイコブ:うん。今のは彼女が亡くなる前の話だよ。

アリ:ティナはサウンド面でも、ソウルとロックンロールを融合したオリジナルのサウンドを作っていた。僕にとって、彼女は最初のロックスターだ。

ジェイコブ:彼女には、容赦のない炎のようなパワーがあった。

ライアン:ティナ・ターナーがミック・ジャガーにダンスを教えたっていう話を聞いたことがあるよ。

アリ:それはすごいね。当時、黒人女性でロックンロールをやる人はいなかった。そういうことも関係しているんじゃないかな。ロックシンガーはみんな彼女のファンだよね。デヴィッド・ボウイも尊敬してたし。

エルトン・ジョンとの共演、ケンドリック・ラマーとの繋がり

—レジェンドにまつわる話といえば、今年のグラストンベリー・フェスでエルトン・ジョンとジェイコブの共演が実現しましたよね。私も現地で見てましたが、あんなにたくさんのお客さんが集まったライブは人生で初めてでした。ゲイブリエルズにとっても特別な一日になったと思いますが、振り返っていかがですか?

ジェイコブ:あれは人生が変わる瞬間だった。

ライアン:もう泣かずにはいられなかったよ。僕らは、たった2年前に初ライブをしたばかり。そんな僕らを、信じられないくらい大勢の観客が観てるんだ。そして、ジョンが過去最大の観客を集めた。その光景が一体どんなものかなんて想像できないだろう?

ジェイコブ:素晴らしかったよ。まるで現実の出来事とは思えなかった。「誰かが僕を引きずりおろして、歌わせてくれないんじゃないか? 僕ってこの場にふさわしいのか? いや、ふさわしくないよな……」なんて考えていたら、彼に名前をコールされた。「おっと、僕の出番が来たみたいだ」ってステージに向かったよ。そのときになってようやく、「どうやらこれは、実際に起こってるようだ」って理解した(笑)。今でも信じられない。20万人ものオーディエンスが集まっていたんだから。

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—自分たちでフェスを開催するとしたら、どんなアーティストに出演してほしいですか?

ライアン:デヴィッド・ボウイ。

ジェイコブ:ティナ・ターナー、マイケル・ジャクソン

アリ:ニーナ・シモン。

—みなさん故人ですね。

ジェイコブ:ビヨンセも呼ぼう。あと、ケンドリック・ラマーも。

—ジェイコブはコンプトンの出身ですよね、同郷のケンドリック・ラマーはやはりお好きですか?

ジェイコブ:今まで話したことがなかったけど、彼とは高校の同級生なんだ。卒業の年に同じクラスだったんだよ。

—へえ! そういえば同い年ですよね(共に1987年6月生まれ)。

ジェイコブ:ああ。誰にも言ってなかったけど、一緒にレコーディングしたから(話しても)問題ないはず。高校時代に友達だったんだ。嘘じゃないよ!

アリ:僕らが(プロデューサーの)サウンウェイヴと一緒に制作した時に、彼がサポートをしてくれてたんだ。ケンドリックが来てくれて嬉しかった。

ジェイコブ:彼はとてもいい奴なんだ。僕らの音楽を聴いてサポートしてくれる存在がいて、とても光栄だよ!

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Photo by Masato Yokoyama