「最大ボリュームの10を超えて11まで行くぜ」という映画『スパイナル・タップ』に登場する有名なジョークのように、2023年のベスト・メタル・アルバムとして、ヘッドバンギングの伝統を継承する11枚が選ばれた。
11位『To Be Cruel』カネイト(Khanate)

チーチ&チョンはかつて、ブラック・サバスを78回転で再生すると神が見える、とジョークを飛ばした。カネイトは逆に、ブラック・サバスを16回転で再生して悪魔を再現しているようだ。アルバム『To Be Cruel』は、アヴァンギャルドなダウナー・メタル・バンドによる14年ぶりのアルバムだった。今回のアルバムもまた、忍耐こそ美徳という、バンドがこれまで貫いてきた信念が伝わってくる。アルバムに収録された各20分前後の3つの楽曲では、スティーブン・オマリーのギターとジェームズ・プロトキンのベースが延々と同じ調子でうなり続け、ティム・ウィスキダのドラムは1分間に数回しか鳴らない。そして轟音の合間にボーカルのアラン・デュビンが、サミュエル・ベケットの作品に出てくる煉獄に囚われたキャラクターのごとく、泥沼の底から自分の不幸を呪うかのような叫び声を上げる。恐ろしく不穏な作品だ。78回転で再生したらいったい何が起こるかなど、知りたくもない。
10位『Dethalbum IV』デスクロック(Dethklok)

10年以上ぶりにリリースされたデスクロックのアルバムは、完全に野蛮な作品だが、10年も待った甲斐があった。今回の作品でも、ギター兼ボーカルでアニメ番組『メタロカリプス』のクリエイターも務めるブレンドン・スモールと、ダブルキック・ドラムの名手ジーン・ホグランが、世界最高の架空のデスメタル・バンドへ見事に命を吹き込んだ。アニメ『メタロカリプス』の痛快なユーモアのセンスは、「Gardener of Vengeance」、「Poisoned by Food」、「Mutilation on a Saturday Night」といった激しい楽曲の中にも生きている。しかし、作品の荘厳さを引き立てているのは、スモールとホグランのテクニックの高さ(とウルリッヒ・ワイルドの完璧なプロデュース)によるところが大きい。モッシュ・ピットへ飛び込んでいくのに、いちいちジョークの意味など理解する必要はない。(D.E.)
9位 『The Above』コード・オレンジ(Code Orange)

コード・オレンジの最新アルバム『The Above』では、ハードコアなギターリフとボーカルが複雑なメロディーに絡み合い、タイムリーかつタイムレスに耳に飛び込んでくる。ビリー・コーガンが参加したコラボ曲「Take Shape」では、コード・オレンジのメロディックなカオスをバックに、コーガンがヴァンパイア的なボーカルを放っている。まるで90年代から現在まで、ワームホールを真っ直ぐに通過してきたようだ。オープニング曲「Never Far Apart」と2曲目の「Theatre of Cruelty」から、フロントマンのジャミ・モーガンによる悪魔の唸り声を思わせるスラッシーなボーカルと、教会音楽を彷彿させるシンガー兼ギタリストのリーバ・マイヤーズのメローで甘い歌声が、アルバム全体(パンプキンを除く)を通じてコントラストを維持している。楽曲それぞれに特徴的な色を感じるのは、エリック・”シェイド”・バルデローズによる動きの激しいキーボードによるところが大きい。結果、2023年に良い意味で最も期待を裏切る素晴らしいアルバムの1枚が生まれた。(B.E.)
8位『American Gothic』ウェイフェラー(Wayfarer)

デンバー出身の4人組バンド、ウェイフェラーの5枚目となるアルバム。
7位『Life Is but a Dream …』アヴェンジド・セヴンフォールド(Avenged Sevenfold)

アヴェンジド・セヴンフォールド(通称A7X)の、7年ぶりのスタジオ・アルバム。過去の最も野心的な作品ですら大人しくモノクロームに見えるほどに、ものすごく巨大な爆弾を炸裂させた。シニスター・ゲイツの秀逸なギター、M・シャドウズのダイナミックな声帯、ブルックス・ワッカーマンの激しいドラムのおかげで、メタルという形は残しつつ目まぐるしく展開しながらも、心に刺さるアルバムに仕上がっている。ジャズ・フュージョン、エレクトロ・ポップ、アンビエント・サウンドスケープを交えながら、次々とさまざまな音楽の世界を荒々しく疾走する。「Game Over」、「Mattel」、「We Love」といったストレートなメタル曲でも、曲中でリスナーに息を整えさせ、それから突然また激しいヘッドバンギングに突入する。(D.E.)
6位『Agriculture』アグリカルチャー(Agriculture)

「エクスタティック・ブラック・メタル」を自称するアグリカルチャーは、2022年にデビューした新しいバンドだが、メンバーはエクスペリメンタル・ミュージックの世界に深いルーツを持つ。
5位『Chaos Horrific』カンニバル・コープス(Cannibal Corpse)

アルバム『Chaos Horrific』はフロリダ出身のデスメタル・バンドの16枚目のアルバムで、エリック・ルータン(元モービッド・エンジェル)をリードギタリスト兼プロデューサーに迎えて2枚目の作品となる。ジョージ・”コープスグラインダー”・フィッシャーのグルーミーなシャウトとルータンの魔術師のようなギターテクが、「Blood Blind」、「Pitchfork Impalement」、「Pestilential Rictus」といった凶悪な楽曲に、どこか心地よい嫌悪感をもたらす。『Chaos Horrific』は、リスナーの感覚をノンストップで攻撃してくる。バンド(やジャンル)にとって新境地を切り開く作品ではないかもしれないが、デビューから30年以上経つ今なお、カンニバル・コープスが骨を揺さぶり内蔵をえぐり続けているのが嬉しい。(D.E.)
4位『… So Unknown』ジーザス・ピース(Jesus Piece)

辛辣な楽しさと目眩がするほどのラウドさを兼ね備えた最新作は、モッシュ・ピット受けすると同時に、驚くほどの優しさも感じる。
3位『Desolations Flower』ラガーナ(Ragana)

『Desolations Flower』は、ラガーナの4枚目のアルバム。マルチインストゥルメンタリストのコーリーとマリアの二人が、ドラムとギターとヴォーカルを交互に担当し、ユニークで反ファシスト的な歌詞を誇らしげに歌い上げる。一見静かに思える楽曲「DTA」や力強さと脆さを兼ね備えた「Winters Light Pt. 2」には、ラガーナのパワフルなパトスが表現されている。彼女たちのアプローチに生来備わったシンクロニシティーは、ブラック・メタル、ドゥーム・メタル、シューゲイザー、クラスト・パンクの何層にも重なったヘヴィでアトモスフェリックなタペストリーを編み出す。そして、溶け出す氷河のような危うい美しさと共に、満ちては引いていく。(K.K.)
2位『Purge』ゴッドフレッシュ(Godflesh)

ゴッドフレッシュのアルバム『Purge』のハイライトとも言える曲「Army of Non」は、まるでラジオの局から局へと周波数を合わせているように、ギターのチューニングの音や、90年代のヒップホップのブレイクビートや、トランシーバーに向かって怒りをぶつけるトラック運転手の怒鳴り声などが入り混じる。しかし不協和音が重なることで、全体として華やかで儚い世界を描き出す。インダストリアル・メタルの雄であるゴッドフレッシュは、1992年のヒット・アルバム『Pure』でも同様のやり方を採用した。
1位『72 Seasons』メタリカ(Metallica)

『72 Seasons』というタイトルは、人生の最初の18年間を指すように思うかもしれない。しかしメタリカは、バンドとして12枚目となるアルバムで、その後の人生の生き方を示したのだ。ジェイムズ・ヘットフィールドは2023年に60歳を迎えたが、他のメンバーも同世代だ。ミスフィッツ風の楽曲「Too Far Gone?」では「もう手遅れか? 何とか今日を乗り切れるように手を貸してくれ」と助けを求める。そして「Lux Æterna」では、昔の曲でも使った「フルスピードで行くしかない」というフレーズを再び歌っている。平均的な人々が隠居生活に入る年齢に近づくにつれて、歌詞の聴こえ方も少し変わってくる。しかしメタリカは、平均とは相当かけ離れている。『72 Seasons』では、バンドのアイデンティティーを(そしてもちろん、首が折れるほどのテンポも)維持しながら、自分たちのサウンドをさらに突き詰めた。「You Must Burn!」には、ロバート・トゥルヒーヨ(ベース)による不気味なまでにエフェクトをかけたバッキング・ボーカルがフィーチャーされている。
From Rolling Stone US.