2021年からソロプロジェクトとなったKIRINJIの現在地、25周年ライブの舞台裏、ニューアルバムの展望について堀込高樹に語ってもらった。聞き手は音楽ライターの油納将志。
「ライブの年」2024年を振り返る
─2024年は国内のライブも、フェスや海外公演もあったじゃないですか。そういうライブの幅がある1年でしたけど、ちょっと振り返ってみてもらおうかなという。
堀込:年明けはLAGHEADSの曲(「どうして髭を? feat. KIRINJI」)の作詞と歌唱をやって。それと併せて新曲も書いてたんです。そうこうしてたら(メジャーデビュー25周年ライブが)5月なので、3月ぐらいにはもう準備を始めなきゃいけなかった。で、どういうライブにしようかとか、セットリストとか、あと、ホーンアレンジをMELRAWと一緒に考えたんですけど、そのやり取りもそれなりに時間を取ってやったので、本当にすぐ5月になって。あとは昔の曲、「かどわかされて」とか「イカロスの末裔」については、ストリングスの打ち込みを新たにしたりして、そのデータを作ったりしてたら、わりとすぐ時間が経ってしまいました。
そこから、フェスとか各地を色々回る間にもちょこちょこ(曲を)作ったりしていたら、夏になっちゃって。台湾のワンマンがあって(8月)、インドネシアのフェスに出演したりして(LaLaLa Festival 2024:8月)、弾き語りツアーも始まって(9月~11月)。
2024年のKIRINJIの活動を振り返る(配信アーカイブ)
─ニューアルバムを作る時間なんてなかったですね(笑)。
堀込:そう、作んなきゃいけなかったんだけど。いや、本当は2024年中に1曲出そうと思って、9月にリズムを録って年内にがんばってリリースしようとしたんですがダメでしたね。
─それは「再会」のようなスタンドアローンの音源というよりは、ニューアルバムからの先行シングルを想定していたのでしょうか?
堀込:シングルの意識でした。とにかく何か曲を出そうというか。まだアルバムの曲数は揃っていないので。ひとまず何かを出しとかないと寂しいよねって、忘れられてしまうよねって思ったんですよ。でも、そういう状況じゃなかったんですよね。このBlu-rayの制作も編集やらミックスやらで時間がかかって。結構な分数ですからね。
─全31曲、約165分ですからね。
堀込:ミックスもエディットも、やってもやっても終わんない(笑)。いつものライブは2時間弱くらいなので、単純にボリュームがあるってだけでこんなに大変なのかって。そんな1年でした。

Photo by 藤井拓
─でも、ここ数年はレコーディング・アーティストというイメージを払拭するように、ライブ・バンドとしての筋肉作りみたいな感じでライブに取り組んでいたような感じもするんですが、ライブを重ねることで何か変わってきたことはありますか。
堀込:まず、弾き語りをやるようになったことですよね。新型コロナウイルスの影響でバンド形態でのライブが難しくなって、ひとりなら各地を回れるかなと思って始めたんですけど、やっていると表現力とか、歌う体力っていうのかな、そういうのもついていった。あと、単純に人前に出る、ステージに上がることに対して、前ほど臆病にならなくなりましたね。
─以前は歌うことに臆病だった?
堀込:緊張するというか、早く歌って早く帰りたいみたいな、まだ2曲目か~って感じだったんですけど(笑)、だんだん余裕が出てきたというか、楽しめるようになってきましたね。ライブでのバンドも小田(朋美)さんとシン(リズム)くんがいて、というようにメンバーがほぼ固まってきていて、そのあたりの安心感も曲に込められている気もします。あとはイベントやフェスに出ませんか、というお声がけをいただくのも大きい気がしますね。状況が許せばなるべく出演させてもらっているんですが、兄弟時代は曲作りをすると決めた期間にライブのオファーをいただいてもお断りすることが多かった。でも、バンド編成になってからはそういうルーティンを崩さないと変化していかないと思って、なるべくライブをするようになっていきましたね。

左から千ヶ崎学(Ba, Contrabass)、小田朋美(Vo, Piano, Synth)、伊吹文裕(Dr, Cho)、宮川純(Key)、堀込高樹(Vo, Gt)、シンリズム(Gt, Cho)、MELRAW(Sax, Flute) Photo by 藤井拓
─Blu-rayの映像を観ていても、歌に余力を残したような安定感があるし、ニュアンスも深くなっていると感じました。そうした高樹さんのボーカリストとしての成長ぶりが、メジャーデビュー25周年を記念した作品に刻まれているのは感慨深いですね。
堀込:出来はともかく、最近は45分くらいのフェスとかだったら、わりとすっと出て行って、すっと終われるようになってきましたね。歌うのが恥ずかしくなくなったっていうのもありますが、フェスでもお客さんが優しいというか。KIRINJI目当てで来てくれているお客さんだけでなく、初めて観るというお客さんも好意的に観てくれているのが感じられるから安心してステージに立てる。
─海外ではどうでしたか?
堀込:海外もすごくホットでしたね。一昨年の韓国は昔からキリンジ~KIRINJIを聴いてくれていて、独特なのぼり旗が掲げられたり。台北は会場の前の方が着席で、後ろがスタンディングというおもしろい構成で、前はわりとおとなしめで、後ろが若い人が多くて盛り上がってくれました。日本と似てるかも。インドネシアはすごくハッピーな感じで、こちらも若い人が多かった。それぞれお国柄がありましたね。
─tiny desk concerts JAPANへの出演も含めて、海外への広がりも目立ってきましたね。
堀込:そうなんですかね。ズバーンではないけど、じわじわっていう感じはしています。意外というか、スペイン語圏からの反応がけっこうありましたね。特にチリ。ライブやりに来てって言われてもなかなかいけない(笑)。あと、モーリシャスのJ-POPチャートで1位になったり。
─サブスク時代ならではのエピソードですね。モーリシャスからも……。
堀込:そっちも行くのが難しい(笑)。
25周年ライブの舞台裏、選曲に込めた意図
─ここからはBlu-rayについてお聞きしていきますが、この日のライブはお祭り的な内容というよりも、弾き語りやコンボでのアコースティックな第1部とバンド編成の第2部にわたる構成で、最新型のKIRINJIをすべて見せるような内容でした。ライブのMCで25周年という感慨にふけるよりも通過点的なことおっしゃっていましたが、まさにそんな姿勢が表れていたと思います。
堀込:25年を総括しますという気持ちでやると、どうしてもあの人を呼ぼう、この人を呼ぼうみたいな感じになってしまって、来てもらったら1曲だけでお帰りいただくというのも悪いので、ゲストの方の曲をもう1曲となると色々ブレるなと思って、自分たちだけにしたんです。
─オープニングでまず弾き語り、それからコンボという流れでした。アコースティック・セットというのは弾き語りが中盤に挟まれることが多い気がしますが、頭に持ってきたのは新鮮でしたね。
堀込:中盤にしようかと思ったんですけれど、だんだん人数が増えていく方が音圧が上がっていくし、背後にフルバンドセットの楽器がわんさかある中でひとりで演奏するのはあまり美しくないような気がして頭にしました。

堀込高樹、千ヶ崎学、小田朋美、伊吹文裕によるアコースティックコンボ Photo by 藤井拓

Photo by 藤井拓
─静かに始まっていき、だんだんにぎやかに、華やかになっていく祝祭感が出ていましたね。この日は全31曲演奏しましたが、曲を選ぶのも大変だったのでは?
堀込:エレクトリック・バンドのコーナーに関しては、ここ最近ずっとやってる曲ばっかりになりがちだったんですよ。これは良くないな、と。だから何か工夫をしないといけないなと思って、管楽器も入るし、そのブラスをフィーチャーする感じの曲を考えて「イカロスの末裔」だったり「かどわかされて」といった初期の曲を盛り込んだり、もともと管楽器が入ってなかった「Pizza VS Hamburger」に新たにホーンアレンジをしたりしました。基本は押さえつつアレンジを結構変えたのと、いちおうアニバーサリーなのでしばらくやっていなかった曲も選んだんです。

Photo by 藤井拓
─「Drifter」を演奏したのはKIRINJI名義では初でしたね。
堀込:そうそう、あれは初でした。
─以前、歌詞が深刻なタッチであんまり今の心境では取り上げたくないみたいなことをインタビューで語られてましたが、このタイミングで取り上げたのは?
堀込:そういう曲ではあるんですが、このタイミングでやらないわけにはいかないなって思って(笑)。結果として、この日のライブが終わってから、弾き語りツアーの方でずっとやってるんですけどね。
─あらためてこの曲と向き合ってみていかがでしたか?
堀込:あんまり印象は変わらないですね。大袈裟だなみたいな感じはあるけど、メロディは綺麗だなという。
─「かどわかされて」もイントロが流れ出した瞬間に大きな歓声が沸き起こっていましたね。
堀込:昔は演奏にすごく苦労したんですよ。ちょっと難しい。でも、今のバンドでやったら結構ハマるだろうなと思って。みんな上手なんで、難なくできていましたね。

Photo by 藤井拓
ニューアルバムに向けて、現在のモードを語る
─一方、「再会」はアレンジがアップデートされたところに華やかなホーンも入ってきたりして、25年というキャリアを持つバンドだけれど、新人や若手と肩を並べてシーンの先頭を走り続けている感じがすごくしました。
堀込:ありがとうございます。あの曲、なんかすごく前に作った感じがするんですよね。4年前か。
─そのことを踏まえて、高樹さんはサブリナ・カーペンターやチャーリーXCXが盛り上げている今のポップ・シーンについてはどう感じていますか。
堀込:好きですし、聴くといいなと思うんだけど、自分がやりたいという風には思わないようになってきたんですよね。「再会」は小森(雅仁)さんによるかっこいいミックスで、その頃は現代的なミックスにすごく興味が向いていたんですけど、ここ最近はアコースティックというか、もうちょっとアナログっぽい感じに興味の対象が向いてきている。そうなってきているのは弾き語りツアーを経て制作モードに入ったからで、ずっとガットギターを弾いていたからなんです。その感触のままアレンジの作業に入るから、今作っている曲はガットギターがアレンジの中心にあるんですよね。だからコンテンポラリーなポップとはちょっと違った感じの音像になるかなって気がしてます。
─これまでとは少し違った路線のアルバムになりそうでしょうか。
堀込:ひとまず曲を作ってみて、そこから考えようって感じなんですけど。前みたいに正確なグルーヴがあって、音圧が高くてというところからはちょっと気持ちが離れているかもしれない。もうちょっと、生身、生っぽいっていうか、アコースティックな感じですかね。

Photo by 藤井拓
─弾き語りツアーをやる前は、次はどこに向かおうかなというようなモードだったんでしょうか。
堀込:どうなんですかね。『cherish』が終わった後ぐらいの頃は、曲の音像や打ち出し方に関して言えば、あれもできる、これもできるみたいな感じにはなっていたかもしれません。ソロプロジェクトになりましたし。ひとまず思いついたものを作る、みたいな感じだったかもしれない。だから、迷うということはなかったけれど、自分の中の選択肢が多かったということですね。
─Blu-rayでの第1部の雰囲気に近そうと想像してしまいますが。
堀込:エレキベースやシンセも使ってるので、あそこまでアコースティックじゃないんですけど。ギターのストロークがアンサンブルの中心にある音楽って、世の中にはいっぱいあるんですけど、自分の曲ではあんまりなかったから、単純にそれだけで新鮮なんですよね。気持ち的にはドラム、ベース、ガットギターがあって、歌があるという、まずこの4ピースを中心にして、背景にいろんなミュージシャンがいる、みたいな成り立ちにしたいなとは思っているところです。
─新しいモードのKIRINJIが次に見れそうな予感がします。
堀込:ギターをアンサンブルの中心にするって、ちょっとおもしろいなって思えて。普通なんですけど、自分にとってはすごく新しく感じる。どうしてもシンセとエレピを用いがちで、まずエレピから入っちゃうんですよね。だから、それを1回やめてみようと。取りかかる最初のアプローチをギターにするという意識をもって取り組んでいます。
─では、25周年を経て、2025年はニューアルバムの年ということで期待しています。
堀込:そうですね。まず、シングルを出して、それからアルバム。いつ出せそうかはまだ見えていませんが。なるべく、とんとんとんと出せればいいですね。

アンコールの最後、「進水式」を弾き語りで披露した時の写真 Photo by 藤井拓

LIVE Blu-ray『KIRINJI 25th ANNIVERSARY LIVE』
発売中
価格:¥11,000(税込)
仕様:Blu-ray 1枚/ライブフォトブック36P/三方背ケース
収録内容:全31曲 収録時間:約165分
購入:https://starsmall.jp/shops/KIRINJI
KIRINJIオフィシャルサイト
https://www.kirinji-official.com/
syncokinオフィシャルサイト
https://syncokin.com/