4月30日、にしなの新曲「weekly」がリリースされた。4月12日に東京国際フォーラム(ホールA)で行われたワンマンライブ「MUSICK」のアンコールで初披露されたこの曲は、私たち一人ひとりが生きる日常をテーマとしたカラフルなポップナンバー。
軽やかなフィーリングが全編に滲む中において、「be alright」「its OK」という肯定の言葉がたくましい響きを放っていて、今、にしなが、リスナーやライブの観客に向けて、音楽を通して何を伝えたいか、何を届けたいのかが、ありありと伝わってくる一曲だと感じた。

【画像】にしな、東京国際フォーラムワンマン(全35枚)

ワンマンライブ「MUSICK」について振り返りつつ、この曲が生まれるまでの経緯を聞いていった。にしなの活動において、曲作りと、リスナーとの直接的なコミュニケーションの場であるライブが、豊かなサイクルとして分かちがたく結び付いていることがはっきりと分かるインタビューになったと思う。

ー新曲のお話を聞かせて頂く前に、まずは、先日のワンマンライブ「MUSICK」について振り返らせてください。公演のタイトルは、単なる「MUSIC」ではなく、「MUSIC」と「SICK」を掛け合わせて「MUSICK」となっていましたが、ここにはどのような想いが込められていたのでしょうか。

最初にライブのタイトルを考えるにあたって、今までの流れを含めて、今回は潔くシンプルにしたいなっていうのがすごくありました。いい音楽があればそれが全てだなって思ったので、まずは「MUSIC」っていうシンプルな一言が思い付いて。で、ずっと一緒にやってきているバンドメンバーたちとも立てるステージだったので、もちろん、私を観に来てくださるお客さんが多いと思うんですけど、すごい自慢のバンドのそれぞれのプレイヤーのかっこいいところを観てほしかったです。何かに夢中になるって、病的な面もあるけど、それを突き詰めていくと、すごいクールな、最高にかっこいいものになるなって思っていて、各メンバーがそういう部分をすごく持ってるなって思ったので、音楽に対して、ある種の病のように夢中になっていく姿勢を感じられる造語のタイトルにしました。お客さんも含めて、その場でお互いにそういうふうにのめり込んでいけたらなって思って。

ー開演前のスクリーンには、「MUSICK」「NISHINA」「Sorry, too sick to make music」の文字によって象られた笑顔の顔文字が映し出されていましたね。

ここは悩んだんですけど、にっこりしてるデザインの中で、なんかちょっと「風邪引いたから曲作りさぼります」みたいなテンションで。
にっこり、「学校休んじゃうよ」ぐらいのニュアンスでつけました。

ーとても広いステージではありましたが、今回は凝ったステージセットがなくて、また、ライブ中の映像演出もありませんでした。にしなさんとバンドメンバーとお客さんが一緒になって、まっすぐに音楽に向かっていく。その潔さ、ひたむきさが、とても美しいと感じました。

ありがとうございます。演出も含めて削ぎ落としていこう、シンプルにしようっていうのが、まず最初の軸としてありました。元々アコースティックコーナーはやりたいなって思ってて。っていうのも、ライブをする時ってイヤモニをしてクリックに支配されるんですけど、バンドメンバーと一緒に過ごした時間が長くなってきた中で、もうみんなの関係性ができあがってるから、クリックをなくす時間も作りたいなって思って。ちゃんとお互いのフィーリングで音楽をできる瞬間。そう考えた時に、よりアコースティックのほうがそれをやりやすいので、そのコーナーは絶対入れたいなって。

ーアコースティックコーナーでは、「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」「ランデブー」「It's a piece of cake」の3曲が届けられましたが、実際にやってみていかがでしたか?

本当に、すごく楽しいっていうのがまず一番にあって。アコースティックだと、メンバーと顔を合わせた時に、なんかなんだろう、みんなのお茶目さがいつも以上に出る。
「お前もやれんのか」みたいな顔で見てくるのがすごく面白かったし、自分もそこに対して応えていく。なんかその相乗効果がすごく楽しくて。で、「It's a piece of cake」はお客さんも歌ってくれる曲だったので、みんなも応えてくれて、それをすごく肌で感じれて。みんなと遊べたというか、なんかお茶目な時間だったなと思います。

ー5人だけではなくて、あの場にいた全員で一緒に音楽をつくっている感覚を、特に色濃く感じる一幕でした。また、ライブ全編を通して、にしなさんが、「みなさんの力が必要です」「みんなで今日1日つくり上げていきましょう」というように、何度もお客さんに呼びかけていたのがすごく印象的でした。みんなと言うとあたかも一括りのように思う人もいるかもしれないですけど、にしなさんが言う「みんなで」「みんなで一緒に」には、にしなさんらしい特別なニュアンスがあるよう思っていて。いわゆる一体感とは違うニュアンス。一人ひとりが一人ひとりの輪郭を保ったまま、「みんな」である。同じ方向に向かっているんだけど、一人ひとりが個別である。一人ひとりが、音楽を中心にして、巡り合ったり、散ったり、また集まったり、そういったニュアンスを、今回のライブでは特に強く感じました。これは僕の仮説なんですけど、にしなさんの中で、観客、もしくはリスナーに対する信頼の度合い、信じて託す度合いが、かつてと比べてとても大きくなっているのではないかと思います。


本当そのとおりだなって思ってて、信頼してみんなそれぞれに託しています。ライブでちゃんと一人ひとりに届けたいのであれば、「あなた」って言ったほうがいいのかもしれないと思うこともあるんですけど、でも、「あなた」って言うのは恥ずかしくて。「あなた」に置き換わる言葉が自分の中で見つかったらいいんですけど。なんか、「あなた」、いや、ちょっと違うな、みたいな(笑)。

ー現実的には難しいですけど、本当は一人ひとりの名前を呼べたらいいのかもしれないですね。

そうですね。でも、思ってるんです、心で。今おっしゃってくださった、「みんな」の中にある一人ひとりに対するイメージが私の中ですごくあるので、それが伝わってるのはすごく嬉しいです。あと、お客さんに対しての信頼度で言うと、本当、お客さんの前でステージに立ってる身というより、お友達みたいな気持ちがすごくあって。私は昔からけっこう自分のハードル設定を低くして生きていきたいタイプで。なんて言うんですかね、みんなから期待はされないほうがいい。むしろ、みんなが助けてくれるほうがやりやすいので。
みんなが助けてくれると思ってステージに立ってます。そういう意味ですごく信頼してます。ちょっとこれ、誤解を招きたくないけど、失敗しても許してくれるって思ってるっていうか。もちろん全部を完璧に楽しませたいって気持ちもありますけど、お客さんが全部を楽しんでくれるだろうという信頼があります。来てくださってる方の声がなかったら、たぶん私もうまくできないし。やっぱ、一緒につくるものだなって思ってます。

ーご自身の中のその感覚、もしくは確信は、ライブを重ねるごとに深まっていったのか、もしくは、あるターニングポイントがこの数年の間にあったのか、でいうと、どちらに近いですか?

ライブをやるごとに深まってる気がしますね。私もシャイで、たぶんお客さんもどちらかというとシャイな子が多くて、最初はうまくいかないことも多くて。どのライブにも初めて来てくださった方も多くはいると思うんですけど、ただ、ライブをやるごとに、どんどんどんどん、一緒に曲を成長させたり、にしなのライブの形を一緒につくっていってるなって気がしています。

ーありがとうございます。フォーラムのライブの後、SNSを見ていたら、「にしなも私と同じ一人の人間なんだ」「きっと大変なこともたくさんあるかもしれないけど、今日もステージに立ってくれて嬉しかった。ありがとう」というような投稿をされている方を見つけたんですよ。
先ほど、にしなさんは、ハードル設定を低くして生きていきたいとおっしゃっていましたが、僕はこの投稿を見て、にしなさんの等身大の一面が、しっかりとお客さんに伝わっているんだろうなと感じました。ステージの上に立つアーティストという職業ではあるかもしれないけど、その前に、私たち一人ひとりと同じ日常を生きている市井の人である、という。

もちろん、どんな時もお金を払って来て頂いているので、ちゃんと自分の精一杯でステージに立つんですけど、フォーラムの日は、本番前に、心が折れてしまうような出来事があって。結局アンコールの時、お客さんの前で、実は本番前、今日は歌えないかもしれないと思っていたことを明かして、それでよかったのかなって自分の中で反省する部分もあったんですけど。でも、そうやってお客さんに自分のことをちゃんと伝えた上で、ライブパフォーマンスとして伝わるものがあったのであれば、全てひっくるめてよかったんだなって思って。やっぱり、結局みんなにもらうもののほうがすごく多いなって感じるので、また次のステージで返していきたいなって。今のお話を聞いて、すごく思わせてくれました。

にしなが語る、私とあなたが大丈夫だと思える“みんなの歌”

Photo by Yukitaka Amemiya, Hair & Make-up by Eriko Yamaguchi, Styling by hao

新曲「weekly」が生まれたきっかけ

ーそして、そのアンコールの2曲目で、初めて披露されたのが、今回の新曲「weekly」でした。この曲を歌う前に、にしなさんは、「みんなと一緒に歌える曲になったらいいなと思って作りました」とおっしゃっていましたが、この曲が生まれるきっかけを教えてください。

曲作りの最初の段階では、みんなで歌えるようにっていう構想はまだなかったんです。さっきの話と通ずるかもしれないんですけど、私も本当にただの一人の人間で。だいたいみんな、学生時代があって、その後、働き始めて、そういうずっと続いていく日常のサイクルの中で、やっぱだいたい月曜日はめんどくさいっていう、私自身も含めて、みんな、その曜日のサイクルの中で生きてるじゃないですか。
そのサイクルを、気持ちが上がったり下がったりを含めて楽しめたら、めんどくさい日々に対して「(笑)」みたいになれたらいいなと思って、曲を書き始めました。方向性を作ってく中で、最終的にはやっぱパカっと開けて前向きなところに辿り着きたい、みんなで「あはははっ」みたいになれたらいいなって思って、みんなで歌えるコーラスパートを作る方向性に転がっていった感じです。

ー実際、この曲をライブで初披露してみて、どのようなことを感じましたか?

まだ世に出てない曲をやるので、お客さんはきっとポカンとしてしまうかなって思っていたので、とりあえず、まずは届けようって気持ちで歌ったんですけど、みんなの声はまだそこにないけど、でもいつか歌えるようになるなっていう雰囲気と、みんながニコニコしてくれる楽しさが届いてきて、すごいポジティブな時間だし、次に繋がる時間だったなって思いました。今後のライブを通して、きっと絶対よくなるだろうな、すごく育ってくれるんだろうなって感じてます。

ーこれまでの他の曲もそうであったように、今回の曲も、ライブを重ねていく中で「みんな」の歌になっていくんだろうと、僕自身もすごく思いました。遡ると、昨年12月にリリースした「わをん」では愛、今年2月にリリースした「つくし」では命や生命が歌われていて、とても壮大なテーマに向き合った2曲が続いたと思っています。今回の「weekly」は、そうした壮大なテーマの延長線上としての日常を歌ってるのか、もしくは、全く違うマインドで作った曲なのかでいうと、どうでしょうか。

けっこう違った感じかもしれないですね。「つくし」は、それこそ精神的に作るというか、綺麗にやってたんですけど、「weekly」に関しては、変な意味じゃないんですけど、綺麗なことするの飽きた、みたいな。もちろん心を込めて作るんですけど、幼児に戻ろう、みたいな。それで、なんか月曜日ってだるいなっていう。なので、前の2曲とは全然違うベクトルで。

ーこれまでのにしなさんの歩みを振り返ると、ご自身がかつておっしゃっていたように天邪鬼というか、こっちに行ったら次はこっち、というように進んできたと思っていて、今のお話を聞いて、改めて、今回は、等身大な一面がそのままストレートに出ているように感じました。

そうですね。なんだろう、今回は、パズル遊び的な感じで取り組んでました。

ー歌詞の中で、「be alright」「its OK」という肯定の言葉が出てきて、それがすごくたくましく響いているなと感じます。もしかしたら、歌う側からしたら、無責任には歌えないというか、何かしらの責任感を伴う言葉かもしれない。でも、にしなさんは、この曲の中で軽やかに「be alright」「its OK」と歌っているように感じます。

肯定は絶対したいっていうのはすごくありました。自分に言い聞かせるのもあるかもしれないですけど。例えば、「うわやばい、明日テスト、終わった」とか、「失恋した、終わった」とか、「もう最悪!」みたいなことも、結局時間が経ったら、面白かったなと思えるし、全部含めて今だなって。たぶん私以外のどんな年齢の方々もあると思うんですけど、振り返ると、多くの出来事は肯定に変わっていくんじゃないかなと思います。最悪の渦中でも、めっちゃいい時でも、どうにかなるっしょ、みたいなところに思考を持っていけたらいいなっていうふうに自分自身思っていますし、もしみんなが嫌なところにいる時にもそう思えたらいいんじゃないかなって。自然と言えば自然なのかもしれないですけど、意識的に肯定していきたかったっていうのはすごくあります。

ーにしなさんがリスナーやライブの観客に届けている言葉でもあり、同時に、ご自身にも言い聞かせているような言葉でもある。今のお話を聞いて、そうした二重性を感じました。

そうですね。「its OK」「大丈夫!」だとみんなにも自分にも言いたかったし、みんなにも言って欲しかったです。ライブで一緒に歌う時、全員の「大丈夫!」という声で大丈夫になれると思って、歌詞にしました。

ー一人ひとりが、それぞれ違う人生を生きていて、もしかしたら、一人ひとりがそれぞれの生きづらさを抱えているかもしれない。でも、いやだからこそ、みんなでそれぞれの声を合わせて「be alright」「its OK」と歌うことにすごく大きな意味があると思いますし、それぞれの差異を越えて、そういった空間、時間を分かち合うことができるのは、やっぱり音楽だからこそだと思うんですよね。6月には、全国のライブハウスを周るツアー「MUSICK 2」の開催を控えていますが、今後のライブでこの曲がどのように輝いていくか、とても楽しみです。

ありがとうございます。自分が不安を抱えてる時にも、一緒に歌えたら大丈夫だって思わせてくれます。みんなにとってもそういう時間にもなれるかもしれないし。ポジティブなものを得られる時間になりそうです。

にしなが語る、私とあなたが大丈夫だと思える“みんなの歌”

Photo by Yukitaka Amemiya, Hair & Make-up by Eriko Yamaguchi, Styling by hao
シャツ¥38,500/DAIRIKU(info@dairiku-cinema.com)ブーツ¥22,000/Timberland(VF ジャパン TEL 0120-558-647)その他スタイリスト私物

にしなが語る、私とあなたが大丈夫だと思える“みんなの歌”

「weekly」
にしな
ワーナーミュージック・ジャパン
配信中
https://nishina.lnk.to/weekly

にしな ワンマンツアー「MUSICK 2」
2025年06月02日(月) 香川 高松オリーブホール
2025年06月04日(水) 熊本 熊本 B.9 V1
2025年06月06日(金) 福岡 福岡 DRUM LOGOS
2025年06月10日(火) 大阪 大阪 BIGCAT
2025年06月12日(木) 愛知 名古屋 ダイアモンドホール
2025年06月14日(土) 石川 金沢 REDSUN
2025年06月17日(火) 札幌 札幌 PENNY LANE 24
2025年06月19日(木) 宮城 仙台 Rensa
2025年06月24日(火) 岡山 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2025年06月26日(木) 東京 Spotify O-EAST

オフィシャル先行:2025年4月21日(月) 12:00 -5月6日(火) 23:59
最終先行:2025年5月7日(水) 12:00-5月18日(日) 23:59
編集部おすすめ