なんて軽やかで、しなやかで、そして自由なのだろう。Chilli Beans.の5th EP『the outside wind』を聴いて、そう強く感じた。
Chilli Beans.は、バンド結成当初からこれまでずっと、自由なスタンスを貫き、自由であることを高らかに謳歌し続けてきたが、今作に収録されている4曲は、自由さに加えて、風通しの良さも感じさせる。迷いのなさ、潔さ、と言い換えてもいいかもしれない。それは、今、Chilli Beans.が、かつてないほどに最良のモ―ドに突入している証左なのだと思う。

今回のインタビュ―では、メンバ―3人に全4曲の制作過程を振り返ってもらった。最新のEPをテ―マにした取材ではあるが、結果として、バンドの真髄、つまり、Chilli Beans.がChilli Beans.たる理由に迫ることができたインタビュ―になったと思う。

―今回のEPを聴いて、それぞれの曲から、抜けの良さや軽やかさ、自由なフィ―リングを感じて、今皆さんがバンドとして、とても風通しのよい自然体なモ―ドであると想像しました。タイトルになっている「the outside wind」という言葉は、いつ頃出てきたものなのでしょうか。

Moto(Vo):曲が全部出てきた時に、サウンド感もそうだし、すごい爽やかに感じて。外の風とか、そういうことを意識して作ってたわけじゃないけど、総じて、そういうこと言ってたりとか、サウンド面でも今まで多かった音数がシンプルになってる感じがすごいして。それで、無意識でぽって出てきたんだと思います。

―お二人は、モニ(Moto)さんから、「the outside wind」っていう言葉を最初に受け取った時のことって覚えていますか?

Maika:覚えてます。3人でZepp Hanedaにグレイシー・エイブラムスのライブを観に行った時に、みんなでご飯食べて、その時にEPの話になって。
タイトルどうする?みたいな。その時にモニが、「あのね! 考えてきた! 思いついたの!」って、「the outside wind」っていう言葉を言ってくれたんですけど、聞いた時にすごいピッタリだなと思って。居心地のいい感じもするし、軽やかな感じもするし。すごいいいじゃんってなりました。

Lily:モニが感じたことをポンって言ってくれるのが、すごく自然で、すごく好きなので、それがChilli Beans.っぽいなってすごい思うから、今回はそういう言葉が出てきたんだって思いました。モニはすごい感覚的に言葉にするから、なんか鏡みたい。自分たちを見てるみたいな感じがしました。素敵でした。

Moto&Maika:(笑)

Moto:今の自分たちのことをすごい意識してたとかではなくて、たぶん曲の節々にみんなの考え方とか感情が出てて。全部集まったやつを通してそう感じたんだと思います。外の風を感じたいし、感じられるようになってきてる。

―「the outside wind」を感じられるようになってきているってのは、バンドにとって大きなタ―ニングポイントですか。


Lily:その感じもあるかも。空気の入れ替えみたいな感じしました。

Moto:素敵~。

全員:(笑)

Moto:すごいいろいろ、ぐるぐる考えたりとか、悩んだりとか、落ち込んだりとかして、その結果を何回か見て、なんかもうちょっとシンプルで、爽やかな感じで、ちょっと楽しんでみたり、面白がってみたりとか、そうしたら、曲とかもそうだけど、そもそもの自分とか、自分たちの人生もいいものになりそうって思いました。切羽詰まっていろいろ考えて、ぐるぐるなるっていうより、風を感じて生きてたほうが、そういう隙間があったらいいんじゃないでしょうか、と思いました。

―時系列で言うと、最初にできたのはどの曲ですか。

Moto:「just try it」かな。

―ギタ―の音、めっちゃいいですよね。

Lily:ああ~、ありがとうございますっ。

―ギタ―のト―ンが、本当に惚れ惚れするぐらい美しいと思いました。コ―ドワ―クなども、すごくこだわっている部分が多いと思います。

Lily:これは、いろいろ曲が必要だっていう時に作った中の1個なんですけど。
疾走感があるけど、その疾走感もちょっとキラキラして見える、みたいな、そういうサウンドの全体像から作りました。イントロの、コ―ラスがかかってる音で弾いてるアルペジオを最初に思いついて、なんかいいなと思って、それから広げました。

―モニさんは、Lilyさんのデモを受け取った時のことは覚えていますか?

Moto:うん、覚えてます。なんか、感動しました。なんて言うんだろう。初めて聞いた時に、心が揺れました。そのキラキラして見えるっていう部分が、すごい儚い感じ。なんか、全部幻なんじゃないか、そういうキラキラした感じが、すごいしました。

―今回の4曲の中で、歌詞とサウンドの関係性という意味で一番ハッとさせられたのが、サビの〈もし今この瞬間に ここを飛び降りたら 見たことのない綺麗な世界が広がってるかな〉というラインでした。歌詞だけ文字で読むと、すごいショッキングじゃないですか。でも、メロディ―に、サウンドに乗ると、そういう悲劇的なニュアンスよりも、身体性からの自由を想うニュアンスが生まれて、言葉の響き方が大きく変わる。この言葉は、Lilyさんのサウンドから誘発されたものなのでしょうか。


Moto:聴きながら浮かんだものです、全部。サウンドを聴いて、そう聴こえた。そういうニュアンスに聴こえたというか、そういう日本語に聴こえたというか。

―この曲に限らずですけど、Lilyさんとしても、歌詞が乗ることによる感動はきっと相当大きかったんじゃないですか?

Lily:もちろんです。いつも思います。モニの歌詞が入って、本当に、サウンドにも生命が宿るみたいな感じで。すごい、いつもびっくりします。

―今回のEPの中から最初にリリ―スされたのが、「tragedy」で、この曲は、モ―ド学園のCMソングとして書き下ろしたものですよね。モード学園のCMといえば、これまでいろいろな名曲が起用されてきた歴史があります。

Lily:すごい好きな曲が多かったっていうのもあって、ドキッと、なんか心のこの辺(左胸に両手を当てながら)で思ってました。あんまり考えないようにしながら。

―その系譜に自分たちが連なるわけですもんね。
ちなみに、歴代のタイアップソングの中で、どの曲が特に好きだったのでしょうか。

Lily:木村カエラさんの「TREE CLIMBERS」がずっと耳に残ってて。すごいかっこいい、って。サウンドがすごく歪んでて、サビとかも、がっつりサビっていうよりかは、洋楽っぽい。自然に掻き立てられる曲で、それが特に好きでした。

―「tragedy」を作っている時も、この曲は脳裏に浮かんでいましたか。

Lily:ありました。めっちゃあった。候補となる曲を何曲か作ってたんですけど、「tragedy」は、その中の、締め切りギリギリで一番最後に作った曲で、もう自分たちが好きなサウンドをぶつけてみようかなって思って作ったんですけど。歪んでる感じとかやっぱり好きだから、そういうのを詰め込んだみたいな感じです。

―モニさんは、この曲を受け取った時のファーストインプレッションって覚えてますか?

Moto:覚えてます。最初にサウンド聴いた時は、軽やか、ポップだなってすごい思いました。
かわいらしいって。歌詞は、Lilyが作った時点で、こういうことが言いたい、伝えたいっていうイメ―ジがLilyの中にあって、それが自分ともすごい重なる部分で。Lilyが、問いかけてるって言ってて、なるほどって思った。あとは、人のものが羨ましかったりとか、夢を持つことは幸せなことだけど、そのぶん苦しい時もあったりとか、そういう話を聞いて。で、それと自分が重なる部分をイメージして歌詞を書いていきました。

―〈自由になっていいよ〉という歌詞もあるように、タイアップ曲ではありますが、結果的に今回のEPのとても大切なピースの一つになっていると思います。「pain」も、ギタ―ががっつり歪んでいて、自由さ、さらにいえば、かつてないほどの大胆不敵さを感じます。

Maika:「tragedy」と同時期に作っていた時に、地面を這ってるイメージが湧いてきて。すごい、喉が乾いてる感じ。っていうところから、最初のギタ―の歪んだリフが思いついて、そこからワンコーラス作っていきました。

―〈怖いものばっかりでも そんな弱くないでしょ Lets move on〉という歌詞が最も象徴的なように、これまでのチリビの曲の中でも、メッセージ性が一際強い曲だと思いました。この曲の歌詞も、Maikaさんのサウンドに感化されて導き出されたものなのでしょうか。

Moto:これも感化されました。でも、この曲を聴いてこういう感情になったっていうよりは、もともと自分の中にあった感情が、このサウンドを聴いて引き上げられた、っていう。さらに言うと、これは、自分が感じたっていうよりは、Chilli Beans.の2人のことも見て、考えて書きました。自分が立って言ってるっていうよりは、チリビが3人で並んで言ってるっていう感じ。落ちてる時とか、怒りとか、強さとか、弱さとか、そういうことを言ってみました。

―一つお聞きしたいなと思ったのが、この曲も他の曲もしかりですけど、曲を作る時って、今自分たちが自由に作りたいものを作りたいという感覚と、一方、リスナーに受け取ってほしい、こう感じてほしい、という感覚の両方があると思うのですが、皆さんは、そのバランスを意識していたりするのでしょうか。

Moto:うん、でも、とにかく自分たちが、ワクワクするかとか、楽しめるかとか、っていうのが最初にあって、それを聴いてくれる人も、なんか、共感? 面白いな、とか、こういうこと思ってもいいんだ、とか、おもしろ、みたいな、そういうことでお互い楽しめたらいいなって。

―今のお話に続けてもう一つお聞きしたいのですが、1人で、もしくは3人で作る音楽の向こうに、リスナーがいる、という感覚は、ご自身の中に強いものとしてありますか?

Moto:でも、聴いてくれる人がいるとか、ライブを観て感じてくれる人がいるとか、身近な人とかでも、すごく意識してるっていうよりは、潜在意識の中である、みたいな感じ。まず自分が何かを作ったり表現したりした時に、受け取ってくれる人は絶対2人は必ずいるじゃないですか。そういうところで、まず先に意識が行くというか。

―チリビの歌であり歌詞を、一番最初に聴くのがお二人ですもんね。

Moto:はい。(照)

全員:(笑)

―Lilyさん、Maikaさんは、モニさんの歌詞の書き方について、これまでの活動を通して変化があるかないかでいうと、どう考えていますか?

Moto:恥ずかしいね、これ。あってもなくても(笑)。

全員:(笑)

Maika:でもなんだろう、音を聴いて、その音から広がる世界の中で歌詞を書くっていう点は、変わらずあるところなのかなと思う。いつも曲を聴いて、わって思い浮かんだこととかをその場で伝えてくれたりとかする、その世界の広がり方が私はすごい好きだから。ちょっとぼやけてた景色が一気にこう、細かくなる、解像度がすごく高くなるっていう、その書き方は変わってないような気もします。

Lily:すごい変わってるっていうことではなさそうな感じ。でもたしかに「pain」に関しては、これまではあんまり外に向けて何か訴えるみたいな歌詞を書いてるイメ―ジじゃないから、たしかにそれは変化かもしれないですね。

Moto:外に向けたっていうのは、怒ったからなんですかね。

―怒り、ですか。

Moto:はい。いつもは、それが悲しいっていう感情や皮肉に変わったりするんですけど。でも「pain」の時は、まいぴん(Maika)の話とか、Lilyの話とか、この曲についてとかじゃなくて、日々の中で思うことを聞いたりして。そういうので、怒りの部分をまっすぐに、怒りだけではないので難しいんですけど、人生を生きてる3人として出してみた。だから、けっこう歌詞が印象に残るのかなと今思いました。

―曲作りをする時、これほどまでにまっすぐ感情をぶつけたのは初めてですか。

Moto:そうですね。パンって言ってる感じは、たしかに。なんか直接的ですよね。消えないでちゃんと立ってるんだよって。いろんなことがあるけど、それはそんな弱くないからでしょ、っていう。

―この曲をライブで聴いて、奮い立たされる人は多いんだろうと思います。4曲目の「pineapple!」についても聞かせてください。この曲が最後にあることで、今回のEPの自由さや軽やかさが特に強調されているように感じます。

Maika:先に3曲入る曲が決まっていて、最後の1曲どうしようってなった時に、やっぱライブで楽しめる曲を入れたいよねみたいな話になって。っていう中で作った曲ですね。

―ファンキ―であり、ラテンの要素もガンガン入ってきている。音楽的に、とにかく自由さが爆発している。

Maika:音楽を楽しみたいという気持ちが大きかったかもしれないです。インタビューの最初に今のバンドのモードの話をされてたと思うんですけど、個人的には、いろいろ削ぎ落として、結局なんで音楽やりたいのかな、楽しいからやりたいんだよね、みたいなことをちょうど考えてる時で。楽しかったらよくない?みたいな、すごいそういう気持ちになって。じゃあ最後の1曲どうしようって中で、夏だな、みたいな。夏、私すごい好きなんですけど、サンセットを見るの好きだなってなって。あと他に何が好きかなってなった時に、私はパイナップルがすごい好きなので、パイナップルいいなって。そういうふうにすごいラフに自分が好きなものをかき集めていった時に、最終的に、君と見るサンセットが私の大好きなパイナップルに見えるっていう、ちょっとシュールで不思議な光景が思い浮かんで。そこからサウンドを作り始めてみました。ライフセーバーに怒られたりとか。ぴーって。

―ホイッスルがガンガン鳴ってますね。

Maika:あとは、そのビーチの音が聞こえたりとか。

―歌詞についても、すごいロマンチックで。もはや言葉で後から何かを説明するのが野暮になってしまうくらい、とにかく自由で。

Moto:とにかく面白い。

―今作を経て、これからチリビはどのようなフェーズに突入していくのか、気になっている人は多いと思います。今、皆さんの中に、何か予感のようなものはありますか?

Moto:どうなっちゃうんですかね。でもやっぱり、本当にいろんな曲があるなと思います、バラバラな感じ。その時のモードでみんな作ったりとかしてると思うから。不思議な話ですよ。例えば、1人がすごいダークな気持ち、もう閉ざしてる、もう私無理!、そういう曲ができたとして、でもそこで終わらない。サウンドとか歌詞とかで、ちょっと光の要素が加わったりとか、もしくは、もっと本来の気持ちに寄り添ってもうガチガチにそういう感情で固めたりとか。それをそうしたいって思うのはその時で、将来の感情は本当にもう誰にも分からない(笑)。

Lily:みんながありのままの感情を持ち続けていられる場所?になったら、それで、それぞれがその時々の音楽を作って、みんなで作り上げる、みたいなのができたら、楽しいんじゃないでしょうか。ぜひ、その場所にさしていただきたい。(頭を下げながら)

Moto&Maika:(無言で、両手でハートマークをつくる)

Lily:(両手でハートマークをつくる)

Lily:お願いします。

Maika:こちらこそ?

―バンド結成して、もう6年ぐらい経ちますか。

Maika:19年結成なんで、そうですね。

―今Lilyさんが話してくださった、Chilli Beans.が、3人それぞれにとっての大切なホームであるという感覚って、やっぱり年を経るごとに大きくなっているものですか?

Maika:そう思います。そう思うし、これからもそうであり続けるんだろうなっていう気持ちです、今。あんまり疑いがないかも、そこに。今回作品作って思いました。みんながそれぞれ自分らしくいれて、風が吹いてて、あとは、凝り固まることなく、みたいな。本当にその時々の、己たちで作っていくんだろうなっていう。これから先のChilli Beans.も、今は想像つかないような形になっちゃうかもしんないけど、その時々の己で。

Moto&Lily:(爆笑)

Maika:その時々の己たちでやっていくんだなっていう先が見えます。

―己っていう一人称はバンドの中でよく出るんですか。

全員:(爆笑)

Moto:まいぴんは、闘ってるから、いつも。

Maika:最近ちょっとおかしい。己とかわしとか、ちょっとおかしいんですよね。

Moto:たちっていうのがやばい、己たち。(笑)

―6月に全国ツアー「upside down tour」を終えた7月には、WurtS × Chilli Beans. × PEOPLE 1 による3マンイベント「UPDATE」の開催が控えていますね。そちらもとても楽しみです。

Maika:すごい思うのは、やっぱ音楽がなかったら繋がれなかった人たちとも繋がってるなっていうことで。音楽って本当に不思議で、こうやって言葉にすると堅かったり痛かったりするものが、音に乗ると急にすっと心の中に入ってきたりするじゃないですか。そういうコミュニケーションも、音楽を通してしてるんだろうなって。それによって、なんだろう、音楽で会話してる? それこそWurtS君とかPEOPLE 1が、Chilli Beans.の曲をいいって思ってくれたりとか、逆もしかりだし、それは本当に音楽を通して会話してるからだと思うので。たぶんこれからもそうやって音楽を通して会話していくんだと思います。それを通してでしか伝え合えないものだったりとか、伝えられないものとかもあるなって、すごい最近思ってるから。そうですね、まず「UPDATE」はすごい楽しみです。

<リリ―ス情報>

Chilli Beans.が語る、バンドの真髄、ありのままの感情を持ち続けられる場所


Chilli Beans.
5th EP『the outside wind』
2025年6月25日リリース
=収録曲=
1. just try it
2. tragedy
3. pain
4. pineapple!

HP https://chilli-beans.com/
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