この政策の内容についての詳細はここでは述べないが、筆者の観点から注目に値することは、かつての「3大3小2微」政策を彷彿させる「4大4小」再編政策が提起されたことである(注2)。もっとも、前者はその8つの工場に乗用車生産を集約させる政策であったが、今回の政策はこの8つの大型企業集団に生産を集約する方向で再編を促すことを狙ったもので、その内容は異なっている。具体的には、全国的再編の中心的企業集団となる4大には一汽、東風、上汽、長安が、地域的再編の核となる4小には北汽、広汽、奇瑞、重汽が選ばれた。
もっとも、こうした中国政府の思惑が実現するかどうかは、筆者には疑問である。市場競争を通じた優勝劣敗のプロセスを経て、企業は競争優位を備えた企業として勝ち残るのであり、政府が誘導を通じて特定の企業への集中、再編を促すことで強い体質を持つ企業ができあがるわけではない。
しかし、この間に示された中国の自動車産業政策は一定程度有効であるとも思われる。マクロ経済的には、中国は「8%成長」を目指して、3月13日に閉幕した全国人民代表大会(全人代)で4兆元の景気刺激策と新規銀行貸出を5兆円以上実施することが確認されており、さらに追加的措置をも厭わないという強い意図を政府は有している。既に中国は2008年一人あたりGDPが3266ドルに達したといわれており、少なくとも豊かな都市部ではモータリゼーションの開始に伴い、消費者の自動車に対する強い購入意欲がある。
しかも、これまでの自動車販売の中心は都市部であったが、政府は農村部の消費拡大を促す措置を採っており、都市から農村へ、一級都市から二級都市、三級都市へと自動車の購買層は拡大していくであろう。 その際には、自動車販売の中心は従来の高級車主体から、小型車、低価格車へと移行していくことになろう。
現在の中国政府の自動車産業政策は、そうした趨勢に合致したものである。
また、これまで家電を農村に普及させることを狙った「家電下郷」制度がとられていたが、自動車についても、3月1日から年末まで、三輪自動車や低速貨車を小型トラックや排気量1.3リットル以下のマイクロバスに買い換える際に、総額50億元の補助金を支給することになった。こうした措置は、政府が自主ブランド車や自主革新の新エネルギー車の購買を促進させる措置と相俟って、民族系メーカーに対する支援策ともなっている。
先週1週間、中国を訪問したが、今後の中国自動車市場の先行きについて、楽観的な見解を多く聞いたことが印象的であった。事実、2月の自動車販売台数は82万7600台と前年同月比25%の増加となり、1月に続いて世界最大の自動車販売国の地位を維持した。日系メーカーには、こうした中国の状況を的確に把握した上で、適切な投入車種戦略を立案することが必要であると感じられた。(執筆者:上山邦雄 城西大学経済学部教授)
(注1)インターネットより。
(注2)中国自動車産業のこれまでの動向については、上山邦雄編著『調整期突入!巨大化する中国自動車産業』日刊自動車新聞社、2009年を参照。
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