前回、「フィルタリングソフトについては次回に」と書いた。ご存じの方も多いと思うが、中国政府が7月1日から導入を予定している有害サイト検閲ソフトのことだ。
中国語では「緑ba 花季護航」(baは土へんに覇、英文名はGreen Dam Youth Escort)という名称で、その名のごとく、青少年を有害サイトから守る、いわば日本の携帯のフィルタリングソフトと同様の目的で導入すると当局は説明している。

 このソフトを7月1日以降中国国内で発売されるPCにプリインストールことが義務づけられたことから、中国国内では大論争が起きており、海外からも反対の声が上がっている。だが一方で中国のネット「宅男」(おたく)の間ではこのソフトを擬人化した「緑ba娘」という“萌えキャラ”が大ブームなのである。

 「緑ba娘」(写真)の特徴は次の通りだ。(1)蟹のマークの帽子をかぶっている(2)「風紀」と書いた腕章をしている(3)手にはウサギを抱えている(4)背負ったカバンの中に、有害サイトを記録した巻紙を入れている(5)手に醤油の壷をさげている―などだが、さらには鎖につないだ「草泥馬」(本コラム3回目参照)を引き連れていたり、またがっていたりする。

関連写真:中国検閲ソフト“萌えキャラ”-緑ba娘の写真

 添付したイラストには次のような文字がある。翻訳すると「私は4000万の価値のあるお嬢様よ!有害情報なんて大嫌い!」横の草泥馬は「ぼくはただのアルパカなのに…」とぼやいている。

 蟹は以前紹介した「河蟹」のことであり、緑baは“有害”サイトを河蟹(封鎖)するのが目的なので、河蟹の帽子をかぶり、そして河蟹すべき草泥馬を鎖につないでいるのだ。「4000万の価値」とは、このソフトウェアの開発費に4000万元(約5億6000万円)もかかったことを指すが、「あまりにも高額だ」「当局と開発業者がつるんでいる」といった批判も出ているという。ウサギはこのソフトのメニュー画面に出てくるが、一方で中国ではウサギは性的なイメージがあるとのことで、その関連もあるかもしれない。「醤油」は昨年から中国で流行している「打醤油」の意味(「打醤油」は「自分には関係ない」「ノーコメント」などの意味で使われる、詳しくはネットで検索してください)。

 日本のウェブサイトでも既に「緑ba娘」は紹介され、「日本のゲームのキャラクターにそっくりだ」といった指摘が出ているが、それはさておき、緑ba娘はさまざまなバージョンが出現し、検索サイト「百度」で画像を検索すると1万6500件もヒットした。
「緑ba娘の歌」というのもあって、ユーチューブにも登録されているが、これもオリジナルは日本のアニメソングらしい。

 さて、日本のあるサイトで緑ba娘について、「中国のネットユーザーは検閲ソフトを擬人化することで、これを受け入れた」との見解があったが、私はむしろ、草泥馬と同様、緑baというネットユーザーの敵とも言えるソフトをパロディー化することで、当局のネット規制に対する特殊な批判、抵抗をしたのだと受け止めたい。正面から批判したのでは「河蟹」される。にっくき対象を“萌え”系のかわいらしい少女に擬人化した結果、当局も取り締まりにくく、ネットで急速に盛り上がったのだと思う。

 中国の報道によれば、「70後(70年代生まれ)は(BBSやブログなどの)書き込みを好み、80後はマンガを書くのが好きだ。緑baという共通の脅威に直面し、80後は自らの世代の声を上げた。80後の才能に敬意を表する」といった声がネットで出ているという。(「都市時報」6月18日報道による)

 この原稿が出るころには、すでに導入が予定されている7月になり、緑ba問題に新たな展開が出ているだろう。事態の推移を見ながら、できれば反対運動など、ネットの動向をお伝えしたい。

 それにしても、中国の「宅男」の日本のアニメ、ゲームに対する知識には驚いた。日中の若者がこういった“萌えキャラ”をテーマに交流すれば、相互理解のきっかけになるのではと考える。(執筆者:内藤康 中国ウォッチャー)

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