(写真は11月に江蘇省蘇州市でオークションに出された明代の琴「無底古琴」。5800万元(約7億2200万円)で落札した)
「琴(きん)」は孔子や李白なども愛した、由緒ある楽器。日本の「お琴(おこと)」とは異なり弦は7本。琴柱(ことじ)はなく左手で弦を押さえることなどで、音高を作る。日本ではそれほど知られていないが、世界的には「中国を代表する楽器」と認識されており、世界遺産にも登録された。漢詩などに登場する「琴」は、「こと」ではなく「きん」を指す。
上流階級に愛された楽器であるため、中国大陸では文化大革命期などに「批判の対象」となった。台湾や香港、海外華僑などの間では一貫して重視されており、古い名器が高額で取り引きされていた。中国大陸でも1980年代ごろから再評価されることになり、琴を求める裕福な人が増えたことで、価格が跳ね上がった。1980年代には中国大陸では数万円で取り引きされたレベルの楽器が、現在では1000万円でも入手が困難なケースがあるという。
バイオリンでは、伝説的な製作者として知られるストラスバリウスが手がけた楽器「ハンメル」が2006年、米ニューヨークで開催されたオークションで、354万ドル(約4億円)で落札された。「松石間意」の落札価格は、「ハンメル」を大きく上回り、楽器として世界最高額とされる。オークションにおける落札者の名は非公開だ。
「松石間意」は1120年の製作。文人皇帝として知られる宋・徽宗の御物であり、清・乾隆帝の銘があることで、さらに人気を呼んだ。宋代の琴は現在でも十分に演奏でき、むしろ後世に作られた楽器よりも「演奏効果」がよいものが多い。
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◆解説◆
「琴」は、他の楽器との区別を分かりやすくするため「古琴」、「七弦琴」と呼ばれることも多い。遣唐使などにより日本にも伝わり、源氏物語にも登場する。日本では忘れられ、江戸時代に儒学との関係で一部の武士などが愛好したが、一般に定着するには至らなかった。
一方、日本で「お琴(おこと)」と呼ばれる楽器は、中国から伝わった「筝(そう)」の系統の弦楽器。古い日本語では、弦楽器全体を「こと」と総称した、源氏物語では「琴(きん)」が「きむのこと(琴のこと)」、筝は「そうのこと」、琵琶は「びわのこと」と書かれている。日本では「琴(きん)」が知られなくなった影響で、「筝」も「琴」の文字であらわし、「こと」と読むようになった。
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