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――中国人はルールについていい加減という指摘もあります。
逆に、日本人はルールについて時には過度に生真面目ですからねえ。民間レベルのこの生真面目さは、よい国民性なんですけど。たとえば生活の場におけるゴミ出しでも、たいていの人が分別のルールを守ります。
ただ、ルールを守らない中国人に接して、日本人は「だから、中国人はいやなのよ」となりがちですよね。一部の中国人がルールを守らない場合はありますよ。ところが、それを中国人全員に当てはめてしまいがちなんじゃないでしょうか。
日本人でもルール違反はあります。ところが「中国人は……」となってしまう。日本人にはどうも、文化の背景が異なる外国人に対しては閉鎖的になる場合があるように思えます。
日本人のまじめさや、周囲の人に対する気配りはよい国民性ですが、それが裏目に出て相互理解や交流の障害になっている面もあります。
それから、法律の適用については、日本にだっておかしな点はあるのですよ。日本人はなんとなく、法律通りに物事を運べると思っているでしょ。ところが実際にはそうでない。法律だけをみると、例えば、会社の設立でも家を建てるのだって、なんでもすぐにできそうに思えます。ところがビジネスの世界では実際には行政が介入してきて、いろいろな制約が生じることもないとは言えません。
中国人が日本の状況、現実を知ると、彼らは彼らで「変だなあ」と思うわけですよ。逆に中国では法規の条文だけをみると、あれもダメ、これもダメなんて思えてきますけど、実際にはかなりのことができてしまうのです。
それから、繰り返しますが、違法なことはだめです。少なくとも私は一切しませんでした。どんな時でも「こちらは正しいことをしている」と、堂々と言えるようにしておくことが大切です。
先ほど、食事や家族ぐるみのお付き合いと言いましたが、あくまでも社会通念の範囲内です。
違法なことをしている中国人はいますよ。でも、日本人がやっちゃダメです。中国に長くいる、中国語が多少できる程度のことで、中国人と同じようにやって大丈夫と思ったら大間違いです。そりゃ、勝負になりませんよ。
道徳面ももちろんですが、純粋に損得だけでもリスクが大きすぎる。違法な行為は選ぶべき選択肢ではないのです。
――怪しげな話を持ちかけられたことはありませんでしたか。
武田:そんな話を持ちかける人物がいたら、その人物を警戒すべきです。まず、本当の実力者なら、そんな話を持ってきません。そもそも、そういう不正な手段を使っても金を儲けたいと思ったら、外国企業ではなく中国企業や中国人を相手にしますよ。
中国社会での“立ち振る舞い”が分かっていない外国企業を相手にしたら、ばれるリスクが高いでしょう。わざわざ日本の企業にその種の話を持ってきたりしません。
私は旧鉄道部(注)の幹部のひとりを知っていました。汚職絡みでつかまってしまった人物ですけどね。私のところに“危ない話”は一切しませんでした。彼が不正なことをしたのは事実ですが、「日本人を相手にやったらリスクが大きすぎる」との判断はしていたのでしょう。
逆に言えば、怪しげな話を持ってくる中国人がいたら、本当に警戒した方がよいということになります。(つづく)
注)
中国で2013年3月まで存在した中央政府の組織。
2013年3月に解体され。行政機能は国家鉄路局、輸送などの事業は国有企業として発足した中国鉄路総公司が引き継いだ。
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【プロフィール】
武田勝年(たけだ・かつとし)
1966年東京大学経済学部卒業、同年三菱商事入社。
1968-1970年、台湾師範大学国語中心(中国語センター)で中国語研修。
1977年初訪中後、1978年には宝山製鉄所第一期工事のプラント受注交渉に参加。
その後、広州事務所長、北京事務所機械部長、上海三菱商事総経理、中国総代表を歴任し、2007年帰国。それまでの中国駐在期間は合計16年に及ぶ。
中国の改革・開放政策による歴史的変化を現場で体験して来た。
2010年8月より日中友好会館に勤務し、2012年4月理事長に就任。
青少年交流を中心に、日中間の各種友好交流事業に注力している。
(聞き手・構成:如月隼人)