中国共産党の習近平総書記(国家主席、中央軍事委員会主席)は21日、北京市内で開催された中国人民政治協商会議の成立65周年大会で演説し、「人民政治協商会議は人民民主主義の重要な形式だ」、「全社会の願いと要求の最大公約数を探しあてることが、人民民主の最重要点だ」などと述べた。中国新聞社などが報じた。


 中国共産党は国民党との抗争期、「打倒蒋介石」の目的を共有できる政党との協力体制を構築した。いわゆる「統一戦線」だ。統一戦線の制度化として発足したのが中国人民政治協商会議で、統一戦線に参加した8政党や各団体、各界の代表で構成される。なお、中国語の「協商」は協議の意だ。

 中国人民政治協商会議は1949年9月21日に北京(当時は北平)で第1回大会を開き、臨時憲法「中国人民政治協商会議共同綱領」の採択、中央人民政府主席に毛沢東を選出、北平を北京と改名して首都に定めるなどを決めた。同決定を受け、毛沢東が同年10月1日に中華人民共和国の成立を宣言した。

 その後、全国人民代表大会全人代)が「国家」の最高権力機関とされた。政治協商会議は政治における「提言機関」となり、政治的影響力は相対的に低下した。さらに、「共産党が政府を指導」と定められたため、中国の政治は実際には共産党上層部の意向で決まるようになった。全人代が長期間にわたり機能しない事態も発生した。

 改革開放の本格化した1990年代以降、政治協商会議は「統一戦線」という性格から比較的早くから財界(民間の大企業経営者)を受け入れたため、実質的地位は再びやや向上した。

 習近平共産党総書記は21日の大会で、「政治協商会議は、国家統治の体系と統治能力の現代化の要求に適応せねばならない。
改革と刷新の精神を堅持し、人民政治協商の理論を刷新、制度の刷新、作業の刷新、民主形式を豊富にすること、民衆のパイプの通りをよくすることをせねばならない」などと表明。

 中国の体制については「社会主義協議民主」と表現し、中国の体制は「社会主義民主政治の特有の形式と独特な優位さ」であり「共産党の大衆路線の政治分野における重要な具現化」を持つと主張した。

 さらに、中国の現状を「社会主義制度のもとで、問題があれば相談する。多くの人に関係することは多くの人で相談する」と説明し、「全社会の願いと要求の最大公約数を探しあてることが、人民民主の最重要点だ」と論じた。

**********

◆解説◆
 中国などで採用されている「人民民主主義」は、いわゆる西側国家の「議会制民主主義」とは異なる。議会制民主主義の場合には、国会議員や国のすぐ下に位置する地方自治体の首長など、かなり広範囲にわたって普通選挙が実施される。国家元首が全国選挙で選ばれる場合もある(大統領制。米国など)。政権党(与党)を反対党(野党)が公然と批判することも、広く認められている。選挙結果の結果では、与党が下野し、それまでの野党が与党になる場合もある。

 人民民主主義では、政権党が政権を掌握していることが国家体制の大原則とされる。それ以外の政党の存在が認められる場合もあるが、「野党」としてではなく、政権党に協力する「衛星党」としての存在であり、政権交代は想定されていない。
「普通選挙」が行われても、形式的である場合がほとんどだ。

 人民民主主義の場合、政権党が有能であり、良心的であれば、政治的目標を迅速かつ強力に実現できる場合がある。中国で1990年代に本格化した開放改革がよい例だ。さまざまな深刻なひずみを発生させることにはなったが、「とにかく経済を成長させねば、国がもたない」という切迫した状況は打開することができた。

 逆に、政権党の問題が、是正されにくいという欠陥も否定できない。政権党が絶対的に権力を握っているため、政権党の問題がそのまま国家全体の大きな問題になる。

 人民民主主義の体制が持つ問題は、議会制民主主義の国とは異なり、「野党との対決があり、問題があればいやが応でも自己改革せねば、政党として存続も危うくなる」との“物理的に切迫した状況”が出現しにくいために発生しやすいと解釈できる。総じて言えば、議会制民主主義は、政権党あるいは政権担当者に対する「性悪説」が根底にあり、人民民主主義は「性善説」が根底にある体制と分析できる。

 現在、統一戦線を構築した上での人民民主主義を採用している国としては中国、北朝鮮、ラオスがある。シリアも、社会主義ではないが、形式的に同様の体制をとっている。

**********

 習近平総書記の演説は、中国共産党の綱領からは、微妙にずれている部分がある。共産党などのいわゆる「革命政党」はもともと、自らこそが新たな社会を切り開く「前衛勢力」と意識することが多かった。
「自らの信念は完全に正しいが、それを理解しない人々がいる。旧体制で利益を得てきた勢力も多い」との考えだ。そのため、大衆に対する宣伝活動に力を入れ、「社会に残る敵を打倒する」ことに力を入れた。

 中国共産党の現行の綱領の冒頭にも「中国共産党は中国プロレタリアートの先鋒隊(前衛部隊)であり、同時に中国人民の先鋒隊である」と、自らが「前衛勢力」であると強く意識する表現が並べられている。

 習総書記は21日の演説で、「全社会の願いと要求の最大公約数を探しあてることが、人民民主の最重要点だ」と述べており、「前衛としての意識や使命感」はみられない。共産党として「とにかく、民意を尊重」との考え方を強調したとも、「民意が離反している」との危機感のあらわれとも解釈できる。(編集担当:如月隼人)


【関連記事】
「ごみ投げ散らかすな」、「人様の自然荒らすな」・・・モルジブ訪問中の中国・習近平主席が自国民に注文
習近平総書記も「国民党は台湾情勢について事実と異なるメッセージ送っていた」と発言=台湾台南・頼清徳市長
中国共産党・政府、腐敗問題で「まずは組織トップの責任追及を」・・・毛沢東語録も踏襲
習近平体制の中国共産党、内部では「抵抗勢力の結束」深刻か・・・人民日報が批判記事
買収に1000万円も使ったのに落選!・・・その場で気絶する候補者、中国「腐敗選挙」の実態明らかに
編集部おすすめ