インドネシアのスシ・プジアストゥティ海洋水産相は20日、インドネシア側が当局が違法操業を理由に中国漁船を検挙・曳航(えいこう)していたところ、中国公船が体当たりするなど暴力的手段で同漁船を奪ったとして、中国に抗議した。中国政府・外交部の華春瑩報道官は21日の記者会見で、事件が発生した海域は中国の伝統的な漁場であり、インドネシア領海ではなかったと主張。
すでにインドネシアが拘束している漁船乗組員の即時釈放を求めたという。

 中国漁船が摘発されたのは、南シナ海南端のインドネシア領ナトゥナ諸島沖。インドネシアの排他的経済水域(EEZ)であると同時に、一部が中国が管轄権を主張する南シナ海の「九段線」内側の海域と重なる。

 スシ海洋水産相によると、海洋水産省の監視船が19日午後、同国EEZ内で違法操業していた中国漁船を発見し、職員が乗り移って乗組員8人を拘束し、漁船を押収して自国に向けての曳航を始めた。しかし20日未明に中国の監視船から体当たりを受け、さらにもう1隻の中国公船が駆けつけ、漁船を奪い取られたという。

 華報道官は、中国漁船がインドネシアの武装船に襲撃されたため、中国の海警船(海上警備船)が援護に向かったが、インドネシア領海には入っていないと説明。「中国は(情報を把握すると)ただちに、インドネシア側に対して、中国人漁民を即時釈放と安全を保障することを要求した」、「インドネシア側が(中国と同国の)両国関係の大局を出発点として、この件を妥当に処理することを望む」と述べた。

 華報道官はさらに、「インドネシアは中国の南沙諸島について領有権の要求をしていない。ナトゥナ諸島はインドネシア領であり、中国はこのことについて異議がない。双方は海上(における権利を有する水域)について分岐があるが、2国間の交渉で妥当に解決すべきだ」と主張した。

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◆解説◆
 九段線は、中国が南シナ海全域にわたる権利を主張して、地図上に引いている線。ベトナムやインドネシア、フィリピンの沖合い部分に断続的に9本の線を設けていることから「九段線」と呼ばれる。
中国本土から南方に垂れ下がった形状から「中国の赤い舌」との呼ばれる。

 中国以外の専門家は、九段線が国際海洋法条約などの海洋法規則に抵触しているとする見方が一般的。

 インドネシアは南沙諸島の島々に領有権を主張しておらず、中国とベトナムやフィリピンの間の領有権をめぐる対立にも中立の立場だ。ただし、「遅かれ早かれ中国の脅威に直面する」との認識にもとづき、ナトゥナ諸島での海空軍の基地建設に力を入れている。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)


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