
茶産地育成事業では、各地の茶農家に伊藤園の求める茶葉を栽培してもらう契約栽培のほか、荒廃農地などを茶園の造園・維持・拡大に取り組む新産地事業があり、市町村や事業者をサポートしている。
茶産地育成事業の展開面積は年々拡大し2023年に2512ha、2030年に2800haを計画する。
契約栽培の好例の1つが、静岡県・牧之原の農家からお茶を仕入れて伊藤園に出荷しているJAハイナン(静岡県牧之原市)とJAハイナン管内にある吉田町・牧之原市・御前崎市の茶生産者による三者契約栽培事業。
2015年に5haで契約栽培を開始し、11年目となる現在は、開始当初から60倍に拡大し300haに達している。
牧之原の茶畑でJAハイナンの立石善也常務理事 5月15日、牧之原に広がる40haの茶畑で清飲記者会の視察取材会に応じたJAハイナンの立石善也常務理事は「茶農家から茶葉を全量買い取っていただける契約栽培は、本当に産地維持と経営安定につながり非常に有益な事業。今後も引き続き契約栽培を推進していきたい」と意欲をのぞかせる。
JAハイナン管内の茶園は茶価の低迷や後継者不足で減少傾向にあり現在1300ha。このうちの300haが伊藤園との契約栽培茶園、100haがJAハイナン独自の取り組みとなるブランド茶「望(のぞみ)」用の茶園となる。
JAハイナン管内には、約800軒の生産者と130の荒茶工場が点在する。

3者契約では、生産者が伊藤園の基準を満たした品質の茶葉の安定生産に取り組み、JAハイナンが生産者への生産指導や製品の集出荷を行う。
JAハイナンでは現在、2020年に設立した貯蔵容量1000トンの伊藤園専用冷蔵庫で生産者から集荷した茶葉を保管している。
後継者不足が茶産業全体の大きな課題となる中、3者契約の枠組みの中では、後継者が少しずつ育ちつつあるという。

JAハイナン管内での今年の一番茶は前年比1,2割減を見込む。昨年の猛暑による水分不足がチャノキにダメージを与えた。
「暑すぎて水分を持っていかれてしまうと、お茶の樹も疲れてしまい、一番茶の元となる葉があまり広がらずに小さくなってしまい芽伸びが悪くなってしまう」と語る。

「生産者が少なくなっていくと、茶畑をきれいに整備しようとする動きは今後ますます活発化する。整備により作業効率が上がることで生産コストは自ずと下がっていく」とみている。
単価アップの試みとして、有機栽培や抹茶原料の碾茶(てんちゃ)の栽培にも挑む。
「有機栽培はまだ技術が確立されていない。ウンカ(害虫)への有効な手立てがなく研究中。牧之原は他の産地と比べて害虫が多く、地球温暖化の影響で虫の世代交代が一世代分余計に起こり10月も多く発生するようになった」と述べる。

碾茶との違いについては「お茶の樹に黒いネットを被せる被覆日数が異なる。被覆茶が1週間程度であるのに対し、碾茶は2~3週間。長く被せるほどテアニンが分泌される反面、お茶の樹がえらがる(苦しむ)」と説明する。
疲弊・老化したチャノキには台切り更新を行っている。
「3年か4年に1回のペースで面積の4分の1程度を対象に実施している。一番茶の収穫時期に葉を全部刈り取ってしまうことで、二番茶は摘めなくなるが、翌年に元気な一番茶を収穫することができる」という。
