今季はバットが好調で、両リーグで断トツとなる21本のホームランを放っている佐藤輝(阪神)
MLBでは日本時間7月16日、プロ野球では7月23、24日に開催される夢の祭典。日米の野球に精通する野球評論家のお股ニキ氏が注目選手や注目対決を一挙紹介!
■ファン投票と選手間投票のギャップ
今年のプロ野球オールスターファン投票全体1位は約78万票の森下翔太(阪神)だったが、昨年、万波中正(まんなみ・ちゅうせい/日本ハム)が17年ぶりに果たした「100万票」には届かなかった。
四半世紀前にはイチロー(当時オリックス)や松井秀喜(当時巨人)、金本知憲(当時阪神)らが100万票超を獲得し、大きな盛り上がりを見せていたが、その頃と比べると隔世の感がある。
「今は空前の打低時代で、打者は飛び抜けた成績を残しにくい。また、大谷翔平(ドジャース)や鈴木誠也(カブス)らのように、NPBで別格の存在になればMLBへ挑戦する流れがあり、その点で物足りなさを感じるのもしょうがないと言えます」
こう語るのは本誌おなじみの野球評論家のお股ニキ氏だ。現役選手も指導するピッチングデザイナーは今年の投票結果をどう見るのか?
セ・リーグの先発部門では、ファン投票で村上頌樹(しょうき/阪神)が1位。選手間投票で山﨑伊織(巨人)が1位と評価を分け合う形となった。
「私から見ても、セの先発陣で抜けた存在と言えるのがこのふたりです。どちらも制球力があり、速球、変化球共に球速以上にビシッと来る。変化球もひと通り投げられるので、配球がしっかりしていれば、ほとんど打たれません。
ただ、選手間で山﨑が村上にダブルスコア近い差をつけたのは意外でした。4月の月間防御率0.00の印象が強いのでしょうか」
一方、パ・リーグの先発部門では、宮城大弥(ひろや/オリックス)がファン投票1位。今井達也(西武)が選手間投票で圧倒的1位に輝いた。
「パの先発では今井、宮城とともにリバン・モイネロ(ソフトバンク)、隅田知一郎(西武)、伊藤大海(ひろみ/日本ハム)が〝五皇〟として並び称されています。ただ、今季投げている球の質では今井が別格。
お股ニキ氏が「あまり実情を反映できていないかも」と語るのは、パ・リーグ救援陣のファン投票結果についてだ。
「中継ぎで選ばれた甲斐野央(西武)は6月にだいぶ成績を落としています。数字的には松本裕樹(ソフトバンク)かルイス・ペルドモ(オリックス)が妥当。同様に抑え部門の田中正義(日本ハム)は今は中継ぎに配置転換と、タイムラグを感じます」
捕手では、セが甲斐拓也(巨人)、パは若月健矢(オリックス)が共にファン&選手間投票で1位を獲得した。
「経験豊富な甲斐の選出は順当。若月も守備は申し分なく、侍ジャパン入りしてもおかしくないレベルです。意外だったのは坂本誠志郎(阪神)が選手間投票でランク外だったこと。配球やフレーミング技術は球界屈指の存在ですが、投げた投手にしかわからない良さなのかもしれません」
お股ニキ氏は捕手の選手間投票2位だったセ・パの若手、寺地隆成(ロッテ)と松尾汐恩(DeNA)にも注目する。
「どちらも打撃面を評価されたのでしょう。春先に比べて調子を落とした松尾は落選となりましたが、寺地は監督推薦で初出場。逆方向に飛ばす能力は驚異的で、打球音からしてモノが違います」
ファン&選手間投票のどちらでも選ばれ、お股ニキ氏も「納得の選出」と語るのは、森下、佐藤輝明、近本光司の阪神勢と矢野雅哉(広島)だ。
「矢野は選手間投票で断トツ。

ファン投票で全体1位の約78万票を獲得した森下(阪神)。ルーキー時代に出場したフレッシュ球宴ではMVPに輝いた
一方、ソフトバンク勢がファン投票で32年ぶりに選出なしという珍事も話題に。
「ここ数年で甲斐や千賀滉大(現メッツ)ら主軸が次々に移籍したことに加え、今季は柳田悠岐、近藤健介をケガで欠き、選手間投票で選ばれた山川穂高も不調。逆に言えば、それでも野球自体は堅実で交流戦も優勝するのだから大したチームです」
■スーパースターは大舞台でこそ輝く
オールスターの楽しみといえば、普段のリーグ戦では実現しない「夢の対決」だろう。今年であれば、お股ニキ氏が「別格」と評した今井とセ・リーグ打者との対戦だ。
「交流戦でも実現しなかった阪神の森下&佐藤輝コンビとの対戦を楽しみにするファンは多いはず。160キロに迫る剛速球の今井と、ホームラン打者として覚醒した佐藤輝との対戦は最大の関心事です」
もうひとり、監督推薦で選ばれた高卒4年目の達孝太(日本ハム)にも注目だ。
「選出時点でわずか7登板。それで選ばれたのも納得の投球を見せています。『面白いことをやりたい』と語るビッグマウスタイプで、やはり佐藤輝との対戦は楽しみです」

すべて先発でデビューから6連勝というプロ野球新記録を打ち立てた達(日本ハム)。監督推薦でオールスターデビューを果たす
ちなみに、今年の第2戦の舞台である横浜スタジアムといえば、佐藤輝が新人時代に場外弾を放った思い出の地。
「歴史的な投高打低だった昨年、オールスターでは両軍の打棒が爆発し、2戦合計12本塁打。2戦目は史上初のセ・パ両軍2桁得点を記録するなど、歴史的乱打戦になりました。
全セを率いた阪神の岡田彰布監督(当時)が試合後、『球宴用のボール。小さく感じた』と発言したことも話題に。真偽は不明ですが、今年も同様の〝調整〟が入れば、場外弾の可能性も高まるかもしれません」
スター性を持つ選手ほど大舞台で輝くもの。代表例が先日亡くなった長嶋茂雄さんだ。
「長嶋さんは公式戦通算打率(.305)より球宴通算打率(.313)のほうが高く、歴代1位。これこそがスーパースターたるゆえんです。現役選手では清宮幸太郎(日本ハム)も3年前の球宴でサヨナラ弾を放ち、MVPに。
今年はファン&選手間投票で選ばれたもののまだ本調子でなく、物足りなさを感じますが、スター性を発揮してほしい」
*成績は日本時間7月8日時点
文/オグマナオト 写真/時事通信社