佐藤輝明選手。大谷翔平も参考に打撃が進化し、前半戦でキャリアハイの25本塁打をマーク!
前半戦を終えて25本塁打、64打点を記録する阪神・佐藤輝明をお股ニキ氏(野球評論家/ピッチングデザイナー)が直撃!
大谷翔平も参考に進化を続けるバッティング、甲子園名物の〝浜風〟に対する違和感、サイ・ヤング賞左腕から豪快弾を放った後の後日談など、今季、乗りに乗っている〝虎の4番〟が独占告白する――――。
■たどり着いた7~8割の力感
――初めまして。野球評論家、ピッチングデザイナーとして活動しているお股ニキです。今日はよろしくお願いします。僕のこと、ご存じですか?
佐藤 ツイッター(現X)で見させてもらったことがありますよ。今日はよろしくお願いします。
――光栄です。早速お話を伺っていきます。今季の前半戦は個人としてもチームとしても結果が出ていますが、特にバッティングに関してはいかがでしょうか?
佐藤 周りからは「1年目に似ている」と言われることもありますけど、自分の中では技術的な部分で全然違うと思っていて。今は自分の打ち方をつかんだ上で、相手のことまで考えられています。1年目はがむしゃらに振っていただけで、ここまでしっかりと考えられてはいなかったです。
――数年前にドライブライン(アメリカのトレーニング施設)へ行かれたり、昨秋から小谷野栄一1軍打撃チーフコーチの指導を受けて打球速度を意識されたりしていますが、技術的に一番進化したのはどんなところですか?
佐藤 ひとつではなく、いろいろあるので難しいですけど、個人的には体の使い方がわかってきたのが大きいと思います。いいときと悪いときの細かい違いや差が年々わかるようになってきました。
――確かに以前はスランプになると復調するまで長くかかっていた印象もありました。
佐藤 今までは自分の打ち方をつかみきれていなかったんだと思います。それがだんだんわかってきました。
――今年は以前より少し前傾で構えていて、手の位置も顔に近づき、コンパクトに回転して打てていますよね。
佐藤 無駄のないスイングでボールをとらえることを意識しているので、それができつつあるのかなと。連動性のあるスイングに取り組んできましたけど、今は体で打つイメージをしっかり持てています。
――佐藤選手は変化球を片手で合わせるのがすごくうまい印象があります。今は変化球も拾えて、ストレートもさばける完璧な状態ですよね。
佐藤 ありがとうございます。

リーグトップの本塁打と打点が目を引くが、打率もトップとわずか8厘差。三冠王も視野に入るほどバットが止まらない!
――今季前半戦で個人的に印象に残ったのは、7月4日のDeNA戦、8回表1死満塁、伊勢大夢投手から犠牲フライを放った打席です。2ストライクと追い込まれてから際どいフォークを見切り、その後もファウルで粘って最終的にレフトへ犠牲フライ。勝負強さを感じました。
佐藤 あのときは正直そこまで感覚が良かったわけではなく、なんとか犠牲フライにできました。今までだと悪いときはずっと悪かったですけど、悪いなりに結果が出ているのは自分としても成長を感じます。
――スイングの力感に関して、今は何割くらいの力で振っていますか?
佐藤 体調にもよりますし、その時々ですけど、1年目が10割だとしたら、今は7~8割で振っている感覚ですね。
――なるほど。ピッチャーでたとえると、MAX160キロだけど、153キロくらいに抑えることで精度や制球が良くなる、みたいな感覚ですね。
佐藤 そうですね。何をするにも全力でやるより軽い力でやったほうが、結果的に出力は高くなるというか。そういうところは年々気づいてきてはいるかなと思います。
■昨季は例年と異なる〝浜風〟に苦戦
――甲子園はライト側からレフトに向かって吹く〝浜風〟の影響も大きいですよね。引っ張っても打球が押し戻されてしまうため、左打者がホームランを打つのは難しい球場として有名ですが、昨季は特に左打者の柵越えが少なかった。
佐藤 甲子園は浜風が強く吹きますし、もともと左打者はものすごく不利ですけど、特に去年は厳しかったですね。
――聞いた話では、季節によって風向きが少し変わるそうですが、実際はどうですか?
佐藤 入団してからの3年間は9月や10月の秋口になると、逆方向の風が吹くこともあったんですけど、去年はまったく吹かなかったです。
――佐藤選手のパワーをもってしても、それではさすがに厳しいですよね。
佐藤 きつかったですね。去年は確か他球団の左打者だと3人しかホームランを打っていなかったと思います。個人的にあまり風のことは考えないようにしていますが、引っ張るとどうしても押し戻されるので、難しさはありますね。
――今年はセンター方向にもかなり打てていますよね。
佐藤 はい。風は関係なく、センターに打ちたいという気持ちはあるので。
――甲子園とより相性が良くなってきましたね。センターや左中間方向へのイメージを持って打席に入りますか?
佐藤 そうですね。引っ張りだけじゃなく、広角に打てるようなイメージはしています。
――ちなみに、球場によって打席での景色はやはり違うものですか?
佐藤 違いますね。壁の色とか、マウンドとか、看板があるかないかとか。自分の中でもまだわかっていないですけど、確かに違いはあります。
――甲子園はどうですか? 神宮球場もよく打っているイメージがありますけど。
佐藤 甲子園は見やすいですね。神宮はとにかく圧倒的に狭いので、見え方の問題なのかどうかわからないです。
■打ちにくいのは「中日の中継ぎ陣」
――佐藤選手にとってはどのようなタイプの投手が苦手ですか? 先ほど名前を挙げた伊勢投手は伸びるストレートと落ちる球を駆使しますが、そういう投手はやはり打ちにくいですか?
佐藤 そうですね。抑えられているという意味では、中日の中継ぎ陣もけっこう苦手なイメージがあります。
――なるほど。松山晋也投手や清水達也投手は速球が伸びてフォークもありますね。
佐藤 しかも変化量がすごいというか、落ち球が真っすぐ下に落ちるんですよね。腕の振りもちょっと縦気味で、そういうタイプは打ちにくいです。まあ僕だけじゃなくて、みんな苦手だと思いますけど。
――ということは、相手投手のトラックマンの数値なども見ているんですね。「あの投手とこの投手の球が似ているから、こう打とう」とか「この投手は少しマッスラ気味だから、いつもよりスイング軌道を変えよう」みたいな調整もしていますか?
佐藤 はい。データを使ってそういう見方をすることもあります。

佐藤輝明
――面白いですね。ちなみに、守備位置によるバッティングへの影響はありますか? 今年は三塁だけでなく、ライトとレフトも守っていますが、三塁を守っているときが一番打撃成績は良いんですよね。三塁守備時には、お尻を後ろに突き出しながら股関節を蝶番(ヒンジ)のように折り畳む動作をしますが、これがバッティングにも好影響なのかなと個人的に思っています。
佐藤 もしかしたら関係あるのかもしれないですね。
――やっぱり外野のほうが体への負担は大きいですか?
佐藤 サードに比べてベンチからの移動距離も遠くなりますし、ほかのポジションのカバーにも入るので、守備時の運動量は圧倒的に増えます。1ヵ月守って、体への負担はライトのほうが大きいと改めて感じました。もちろん技術的なところは三塁のほうが難しい部分もあるんですけど。
――チームのオプションになるならどっちでもやるぞ、ということですもんね。
佐藤 もちろんです。両方できたほうがいいですから。
――今年は三塁の守備や送球もかなり成長していますよね。
佐藤 自分の中でも今は自信を持ってできていますね。
――暑さ対策はどうですか? 屋外の甲子園でこの酷暑はかなりきついと思いますが。
佐藤 めちゃくちゃ暑いですよ。でも、今年から練習時の短パンの着用が解禁されて楽になりました。
――佐藤選手ほどのフィジカルでも、この暑さは厳しいですか?
佐藤 いや、フィジカルは関係ないでしょ(笑)。暑すぎますから。コーチと相談して、練習量を調整しながらやっています。
■〝反動〟が大きかったスネルからの一発
――開幕前にドジャース、カブスと対戦しましたが、佐藤選手はサイ・ヤング賞受賞左腕のブレイク・スネル投手(ドジャース)から豪快なスリーランを放ちました。あの一打は自信になりましたか?
佐藤 使用していたボールも投手の球質もまったく違うので、それにうまく対応できたことは自信になりました。でも、正直そっちに合わせすぎて、バッティングが一度崩れてしまったんですよ。
――開幕直後の4試合くらいですね。
佐藤 少し打ち方が変わってしまって。向こうの投手のイメージが頭に残っていました。
――そうだったんですね。MLBから日本球界に戻ってくると、投手のモーションのタイミングなどが違うから打てなくなると聞きますが、そんな感覚ですか?
佐藤 そうですね。打ちたいと思っていたので、向こうの投手をかなりイメージして練習していた分、その感覚がしばらく残ってしまっていて。まあ、結果が出たのは良かったんですけど、開幕直後はそれで少し崩れましたね。
――MLBもよく見られていると思いますが、参考にしている打者はいますか?
佐藤 やっぱり大谷翔平選手(ドジャース)の映像はよく見ますし、参考にしていますね。同じ右投げ左打ちというのも大きいです。左投げ左打ちだと、感覚的にどうしても違ってくるので。
――確かにちょっと似てきた感じはしますね。右手のフォロースルーの感じとか。
佐藤 もちろん体も違うので、すべてではないんですけど。参考にさせていただいている部分はあります。今一番見ている選手ですね。
――具体的にどのあたりを参考にしているんですか?
佐藤 下半身の使い方ですかね。日本ハム時代と比べて見ることもあります。なんでノーステップになったんだろうとか、自分なりにいろいろ考えていて。直接聞いてみたい気持ちはありますね。
――開幕シリーズではあまり話せなかったですか?
佐藤 話せるタイミングがなかったんですよね。
――来春にはWBCもあります。スネル投手から放ったホームランが象徴的ですが、佐藤選手の対応力なら国際試合にもうまくアジャストできると思います。
佐藤 もちろん出たい気持ちはあります。ただ、今できるのはシーズンで頑張るだけなので。頑張るしかないです。
■歴史的に価値のある「40本」への挑戦
――最後に後半戦に向けたお話を伺いたいです。現在、阪神はセ・リーグ首位を独走中ですが、今のお気持ちは?
佐藤 個人個人がやるべきことをしっかりやって成績を残せば、チームとしての結果もしっかり出るので。うちはいい選手がいっぱいいますし、勝てる自信はあります。とにかく自分のやるべきことをしっかりやりたいです。
――個人としても、現在、25本塁打でホームラン王争いのトップを独走中。何本打ちたいという目標はありますか?
佐藤 全然ないです。一本一本打つことだけ考えています。
――歴史的な投高打低の環境下、なおかつ甲子園を主戦場とする左打者で40本打ったら、ものすごい傑出度です。個人的には金本知憲(ともあき)さん以来の大台超えを期待しています。
佐藤 少しでも近づけるように頑張ります。
――ちなみに、3番と4番だと、どちらのほうが打ちやすいですか?
佐藤 あんまりどちらがいいとかはないですね。ただ、4番を打つようになって、ノーアウトの先頭打者で打席に入ることが圧倒的に増えました。4番はそういう難しさがあるので、もしかしたら3番のほうがいいかもしれないですけど、チームスポーツなので、あまり気にしていません。
――佐藤選手が後ろにいることで、森下翔太選手も打ちやすいでしょうね。
佐藤 それはそれでいい効果だと思います。まあ、チームが勝てればなんでもいいです。
――2年ぶりの日本一、そして自身初のホームラン王へ。後半戦も応援しています!
*成績は7月22日時点
●佐藤輝明(さとう・てるあき)
1999年生まれ、兵庫県西宮市出身。2021年、4球団競合の末ドラフト1位で阪神タイガース入団。NPBにおける新人左打者最多本塁打記録保持者(24本)であり、NPB史上初めて新人から3年連続20本塁打を達成した左打者
撮影/うちだとよひこ 写真/時事通信社