日産「新逆襲戦略」の現実度。「AI自動運転」「全固体電池」「...の画像はこちら >>

イバン・エスピノーサ社長の会見では、壇上に新型エクストレイル(右)やジュークEV(左)が並び、日本市場向けとして次期型スカイライン(中央モニター)の投入発表と"チラ見せ"も!

経営再建に取り組む日産が、野心的な長期ビジョンを打ち出した。経営トップの言葉と技術開発の最前線を突き合わせたとき、そこに描かれた「反転攻勢」は現実的な戦略と言えるのか。

現地を取材した専門家の声を交え、その実現性を検証する。

【背水の日産が打ち出す〝長期ビジョン〟】

反転攻勢ののろしか、それとも絵に描いた餅か。

4月14日、日産自動車は本社(神奈川県横浜市)および研究開発拠点(同県厚木市)で、経営再建と商品戦略の長期ビジョンを発表した。

だがその足元で、日産は2年連続の最終赤字に沈もうとしている。2025年度(26年3月期)も、約6500億円の最終赤字が見込まれているのだ。

自動車誌元幹部は苦境の背景をこう説明する。

「電動化分野への先行投資に加え、中国市場での販売不振や北米市場における値引き競争の長期化が重なりました」

赤字が確実視され、リストラを一巡させた直後というタイミングで、日産は長期ビジョンの発表に踏み切った。

会見開始は午前10時。30分前に会場入りすると、すでに多くの報道関係者の姿があった。配布資料をめくりながら、「内容はこれだけです......どう料理しますか」と、スマホを手に困惑した声を漏らす記者もいる。情報量より、読み解き方が試される会見であることは明らかだった。

やがて会見が始まり、昨年トップに就任したイバン・エスピノーサ社長は「業績は想定より早く安定化してきている」と述べ、経営再建が次のフェーズに入ったと強調していたが、数字が示す現実は依然として厳しい。

今回の「新逆襲戦略」会見を週プレ自動車班の隣で見つめていた人物がいた。1980年代から自動車メーカーの盛衰を取材してきた自動車評論家、国沢光宏氏である。

この日、会場には国内外の報道陣や取引先など800人以上が詰めかけていた。国沢氏は会見全体をこう評する。

「『日産は元気です』と対外的に示すための場だったのでしょう。世界に向けた広告効果を考えれば、発表会にかけるコストは高くない。そう判断したのだと思います」

今回の長期ビジョンの中核に据えられたのが、商品戦略の抜本的な見直しだ。車種数は現行の56から45へ削減。さらに、開発期間も従来の50ヵ月超から、約30ヵ月へと大幅に短縮するという。

会見では「中国で開発した新型車は24ヵ月しかかからなかった」という事例も紹介されたが、そのスピードを支える体制や具体策は示されなかった。自動車誌幹部は言う。

「開発プロセスの標準化とスピード向上は、日産にとって避けて通れない課題です」

また、AIを活用した運転支援機能を、将来的に約9割の車種へ展開する構想も打ち出された。

だが国沢氏は苦笑いを浮かべながら言う。

「『新型エルグランドにAI自動運転を搭載』と報じるメディアもありますが、実態はADAS(先進運転支援システム)です。アイズオフが可能な、国際基準でいう自動運転レベル3以上とは明確に違う。新技術や新型車という点で、目新しさはないですね」

日産「新逆襲戦略」の現実度。「AI自動運転」「全固体電池」「スカイライン&GT-R」で崖っぷちから脱却できる?
今夏登場予定の新型エルグランド。1.5Lターボの第3世代e-POWERを採用し、来年度からAIを活用した運転支援技術の搭載も予定。価格設定によっては、市場での評価が割れる可能性を指摘する声も

今夏登場予定の新型エルグランド。1.5Lターボの第3世代e-POWERを採用し、来年度からAIを活用した運転支援技術の搭載も予定。価格設定によっては、市場での評価が割れる可能性を指摘する声も

さらに、経営サイドへの懸念も口にする。

「先日エスピノーサ社長にインタビューしましたが、情報収集力には疑問を感じました。今回の会見でも、現場と経営陣の距離を感じさせる発言が目立つ。耳の痛い進言ができる側近がいるのか、日本市場の実態が経営陣に届いているのか。不安は拭えません」

国沢氏が特に問題視するのが、国内ライバルメーカーの動向である。

「スバルは日産のプロパイロットと競合するアイサイトを磨き、より現実的な価格帯で展開しようとしています。加えて日産が全固体電池を掲げる一方、トヨタはLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池を活用した次世代EVやPHEVの投入を控えている。

日産にとって日本は、復活ののろしを上げる上で極めて重要な市場のはずですが、情報収集しているのかなと」

【販売現場が欲しい〝現実のクルマ〟】

会場には新型エクストレイルやジュークEVが展示され、日本市場向けとして次期型スカイラインの投入も予告された。ネット上では歓迎の声が上がる一方で、「今の日本市場でセダンに実需はあるのかね」という冷静な突っ込みも出ていた。

さらに、日産の象徴とも言えるGT-Rの復活も宣言され、クルマ好きの間では「借金してでも欲しい」「残クレ確定」といった声が飛び交った。ただし、象徴的なモデルが話題を呼ぶことと、経営再建が前に進むことは別の話だ。

首都圏の日産販売店で働く50代の営業マンはこう話す。

「スカイラインやGT-Rの復活は大歓迎ですが、販売開始はかなり先でしょう。短期的に販売台数が動くとは思えません。本当に欲しいのは、5ナンバーサイズのスライドドア車です。懐事情もあると思うのでOEM(他社ブランド生産)でも構わない」

具体的に名前が挙がるのは、トヨタ・シエンタ、ルーミー、ホンダ・フリードといった車種だ。いずれも国内の新車販売ランキングで上位の常連で〝今、確実に売れるクルマ〟である。

国沢氏もうなずく。

「国内のボリュームゾーンは200万~300万円台です。

その層をどう取りにいくのかが見えてこない。日産が本当に母国市場を重視しているのか、疑問が残る。経営再建に近道はありません。トップが現場の声に真摯に耳を傾け、一台ずつ積み上げるしかない」

日産の世界販売台数は、17年度の約577万台をピークに減少を続け、25年は約320万台まで落ち込む見込み(同社決算資料、暦年ベース)。最盛期の6割を下回る水準で、縮小局面に入っている。

日本専用車に開発資源を割けない事情は理解できる。しかし、今も熱烈なファンが支えている母国市場の現実に向き合わない限り、華やかな逆襲戦略を掲げても、それは絵に描いた餅に過ぎない。

取材・文・撮影/週プレ自動車班

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