5度目のアジアカップ制覇を期待されながら、ベトナム、イラクとの2戦が終わって1勝1敗の勝ち点3という不本意なスタートを強いられている日本代表。前回王者のカタールが3連勝、オーストラリアやイラン、サウジアラビアなどが2連勝しているのを見れば、出遅れ感は否めない。


 2戦終了時点でグループ突破が決まっていれば、24日のインドネシア戦での大胆なターンオーバーも可能だったが、それも微妙になってきた。

 しかしながら、ここから一気に浮上して2月10日のファイナルまで戦い抜くこと視野に入れれば、ここまで出番の少ない面々をピッチに送り出すことが重要ではないか。森保一監督の判断が待たれるところだ。

 こうした中、攻撃の軸を担うと見られるの“背番号10”堂安律だ。

「ここまで9連勝していた中で、絶対いつか止まるなと。僕はその覚悟をしながら臨んでいました。
ずっと良いわけはないので。悪くなった時にどれだけチームにリーダーがいるのか。うまい選手だけでは勝てないというのは全員がヨーロッパで戦っている中でわかっていましたし、チームの中にリーダーが多ければ多いほど、立て直す力があるチームだと思っている。“うまいチーム”から“強いチーム”に変わっていくために、いい試練が来ているんじゃないかと思います」と、いかにも“らしい”物言いで目をギラつかせたのだ。

 FIFAワールドカップカタール2022の日本代表を振り返っても、コスタリカ戦で苦杯を喫し、ドイツ戦で勝利したにも関わらず、追い込まれた。生きるか死ぬかと言っても過言ではない状況で迎えたスペイン戦。
日本は前半のうちに失点し、絶体絶命の危機に瀕したが、そこでチームを救い出したのが堂安だ。彼の右サイドからの左足強烈弾が決まり、息を吹き返すと、試合をひっくり返した。ドイツ戦に続く得点で、ワールドカップ1大会の複数得点者としても稲本潤一本田圭佑乾貴士に続いた。その強心臓ぶりを今こそピッチで存分に表現し、チームを勝利へと導くべきだ。

 伊東純也と菅原由勢がイエローカードを1枚もらっていることを考えると、次は先発回避となるだろう。となれば、堂安は毎熊晟矢と縦関係を形成するだろう。
2人のコンビは2023年9月のトルコ戦、11月のミャンマー戦でもスタートから見られたが、前者では2人が絡んで伊藤敦樹の先制点をお膳立てし、後者でも上田綺世の3点目を演出。トップ下に入ると考えられる久保建英も含めて、効果的なコンビネーションが期待される。

 イラク戦で先発した久保は「もっと僕がボールを受けてチャンスを作るべきだった」と反省。「次、出ることがあれば、前半の15分ぐらいは無理やり下がってでもボールを受けて、シリア戦、トルコ戦のようなことをやりながら、チーム全体を僕が押し上げていきたい」とも語っており、トルコ戦のいいイメージを持ち込む覚悟だ。

 そこに堂安、毎熊も連動できれば、日本は右サイドから迫力ある崩しができるはず。これまで伊東純也の推進力に依存していた攻撃パターンからも脱皮できるし、新たな色合いをもたらせる。


「今まで僕らの強みだったサイドでの1対1を抑えられるとシュートまで行けないというのが全て。もう1つのオプションをチームとして持てなかったというか、仕掛けるのではなく、中で絡んでとか臨機応変にやっていくことが大事」とイラク戦後、堂安は自分がやるべきことを明確に描いていた。

 その上で、左サイドで先発が予想される中村敬斗がゴール前に侵入して代表7戦7発を現実にできれば理想的。もちろん堂安自身が中に持ち込んでパンチ力あるシュートを決めてくれれば、なおいい。

 分厚い攻めで相手を混乱に陥れることができれば、日本代表は必ず停滞感を払拭できる。そうなるように、メンタルモンスターの25歳のリーダーにはグイグイとチームをけん引してほしい。


「こういう短いトーナメントというのは下を向いている時間がない。それはわかっています。“史上最強”と言われている中で、調子乗るなと言われているような感じもするので、僕たちも調子に乗らずにやらないといけない。それは選手自身が感じていますし、集中して挑みたい。こういう時こそ、日本が力を発揮するんじゃないかと思います」

 不敵な笑みを浮かべた背番号10はとにかく逆境に強い。そのタフさとアグレッシブさが今の日本には一番必要だ。
ここで異彩を放つことができれば、アジアカップ制覇を果たしてきた名波浩、中村俊輔香川真司らと肩を並べることも可能になる。

 今こそ堂安律の底力を存分に発揮すべき時だ。

取材・文=元川悦子