あおり運転は、単なる「マナーの悪いドライバー」によるものだけではありません。時には、正常な判断能力を失った「極めて危険な存在」がハンドルを握っていることもあります。

こうした事案に直面した際、私たちが真っ先に捨てるべきは「正論」です。「悪いのは相手だ」「話せばわかる」という常識が通用しない相手に対して、正義感を振りかざすことは、自らを守る防壁を崩すことになりかねないからです。

今回は、あおり運転に遭い、その後の展開に“もしものこと”を考えるとゾッとしたという2人の、過去に大反響だった実録エピソードを紹介します。

一つ目は、信号待ちで突如追突してきた男の車から漂った「異臭」の正体。そして二つ目は、執拗な追跡を「ある場所」へ逃げ込むことで回避した女性の決断です。

記事の後半では、最新の罰則データとともに、万が一の際に「逃げ込むべき場所」と「絶対にしてはいけない対応」を解説。人生を壊さない、壊させないための護身術を考えます。

【エピソード1】衝突してきた白い箱バン


“あおり運転”してきた白い箱バンが後ろから追突、若い男性の運...の画像はこちら >>
 日野真理さん(仮名・30代)は、通い慣れた田舎の一本道を車で走っていた。バックミラーを見ると、後ろの車が蛇行運転をしていたという。

「白い箱バンで、運転手は若い男性でした。センターラインがオレンジなので、私を抜かせなくてイライラしているのか、車間距離を詰めたり離したりしてきました」

 日野さんの前方には他の車もおり、たとえ日野さんが道を譲ったとしても状況は変わらない。そんな中、白い車は、わざと蛇行運転を繰り返した。

 いくつかの交差点を抜け、“ギリギリ赤になる手前”で走り抜けると、白い車は赤信号で止まったそうだ。
しかし、日野さんも次の信号が赤だったため、止まる羽目になってしまった。すると……。

「白い車があっという間に追いついてきて、私の車にぶつかってきたんです」

 驚いた日野さんは、衝突の衝撃で運転席のガラスに頭を打ちつけてしまったという。

2人だった警察官が7人に増えて…


 日野さんは車を脇に止め、警察に連絡したうえで白い車のドアを叩いた。あおり運転の運転手は、

「すみません、大丈夫すか?」

 と聞いてきた。

「私が、『何とか』と答えて、“警察を呼んだこと”を伝えると、意外にも素直に謝ってくれたんです。ハンドルを握ったら性格が変わるタイプなんだろうと思いながら、車から降りて確認すると、運転席側の後部がタイヤにめり込んで、ドアが変形していました」

 日野さんは、「よく車が動いたな」と感心したと同時に、もし助手席側だったらガソリンタンクがどうなっていたのか……とゾッとした。

 警察官2人が到着し事情を説明したのだが、「相手の車も一緒に確認してほしい」と言われ、車に近づいていくと……。

「車の中からシンナーのニオイがしました。ふと気づくと、警察官が7人に増えていたんです。そして、警察官たちは、男性を取り囲んでやり取りをしていました」

 警察官が「ねえ、やった? 何かやってるよね?」と尋ねると、「何もやってないっすよ」と返していたのだとか。

 その後、男性の車はレッカー車で運ばれ、男性自身も警察へ連れていかれたという。

「私はというと、事故後30分くらいしてから頭が痛くなったんです。
念のために救急外来に行き、その後は数カ月間、整形外科に通うことになりました」

【エピソード2】何気なく抜いた車が後ろにピッタリとついてきて…


“あおり運転”してきた白い箱バンが後ろから追突、若い男性の運転手が警察に捕まるまで。「正論」は無意味? 異常なドライバーから身を守る護身術も
警察
 田中美雨さん(仮名・40代)は、片側一車線の道路を走っていたときに“あおり運転”に遭遇した。

「いつものように穏やかなペースで運転をしていましたが、前の車が急に止まってしまいました。『何かあったのかな?』と思いながらも、その車を追い抜いたんです」

 何気なく追い抜いた田中さんだったが、その瞬間から車が後ろにピッタリとくっついてきた。

「最初は偶然だと思っていました。だんだんとその車の距離が縮まり、気づけば完全に“あおられている”とわかったんです」

 その車は、車間距離をギリギリまで詰め、何度もクラクションを鳴らしてきたという。途中、周囲に車や人がいないことを確認しながら、田中さんはウィンカーを出さずに右折や左折を繰り返した。

「ダメなことはわかっていたんですが、あおり運転の車を振り切るにはその方法しか思いつきませんでした。でも、その車はずっとついてきて、完全に“ターゲット”にされていることを確信しました」

 自分があおり運転されるとは思ってもみなかった田中さん。次第に恐怖がわいてきた。

「10分くらいあおられたと思います」

 すると、信号待ちをしていた際に、田中さんは“あること”に気づいた。

“もしも警察署がなかったら”と思うとゾッ


「ナビを確認したら、近くに警察署があることがわかりました。何かがあってからでは遅いので、思い切って警察に連絡して、あおり運転のことを報告したんです」

 警察からは、「駐車場で待機するので、そこに入ってきてほしい」と言われたそうだ。その言葉を聞き、田中さんは警察署に急いで向かったという。しかし……。


「あおり運転の車は警察署を通り過ぎていきました。私は警察に車のナンバーを伝えました」

 警察署の敷地内には、3人の警察官が待機してくれていた。田中さんは状況を報告し、やっと落ち着くことができたようだ。

「警察署に逃げ込んだことで、あおり運転から逃れられましたけど、警察署が近くになかったらと思うと“ゾッ”とします」

“あおり運転”してきた白い箱バンが後ろから追突、若い男性の運転手が警察に捕まるまで。「正論」は無意味? 異常なドライバーから身を守る護身術も
※画像はイメージです。 画像生成にAIを利用しています
 この出来事を通じて、「危険な事態に遭遇しても冷静に対応することが大切だ」と改めて感じたという。

 自己中心的な運転が思わぬ事故につながってしまうのだ。私たち一人ひとりが交通ルールを守り、周囲に配慮して運転する必要がある。

■ 誰もが安心してハンドルを握れる毎日のために

今回紹介したエピソードは、決して他人事ではありません。特にエピソード1のように、相手が正常な判断が難しい状態にある場合、こちらの常識や配慮は一切通用しない怖さがあります。

もし万が一、あなたが「あおり運転」のターゲットにされてしまったら、まずはご自身の安全を最優先に考え、以下の対応を徹底してください。

・人のいる場所へ避難する: 警察署だけでなく、コンビニやガソリンスタンドなど、第三者の目がある場所へ迷わず入りましょう。
・車外に出ない: ドアをロックし、窓を閉め切り、車内で警察の到着を待つのが最も安全です。
・早めの通報を: 110番通報をすることは、決して大げさなことではありません。


また、被害を最小限に抑えるために「絶対にしてはいけない対応」も覚えておいてください。

・相手の車に近づかない: 怒鳴られたり追突されたりしても、相手の車に近づいたり、ドアを叩いたりしてはいけません。相手が興奮状態にある場合、さらなる暴行に発展する恐れがあります。
・その場で話し合おうとしない: 「正論」で相手を説得しようとするのは逆効果です。窓を数センチ開けるだけでも、凶器を差し込まれるなどのリスクが生じます。

【あおり運転(妨害運転罪)の主な罰則】

・罰則: 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金
(※著しい危険を生じさせた場合は5年以下の懲役 または 100万円以下の罰金)
・行政処分: 免許取消(欠格期間2年)

ハンドルを握る時間は、本来、自由で楽しいものであるはずです。それなのに、一瞬の感情や無責任な行動で、誰かの日常が脅かされてしまうのは、本当にやりきれないことだと感じます。

警察庁の統計でも示されている通り、悪質なあおり運転はいまだ身近な道で起きています。

怒りに付き合わず、冷静にプロの手(警察)を借りる。

その一歩が、結果として自分や大切な人の生活を守ることにつながるのかもしれません。

いつか、こうしたトラブルの報告がなくなり、誰もが心穏やかにドライブを楽しめる。そんな優しい道路環境になればいいですね。


<取材・文/chimi86 再構成/日刊SPA!編集部>
(出典:「令和7年版 警察白書・交通統計」、警視庁統計資料より)

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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