大谷翔平を中心とした多くのスター選手を擁するドジャースにあって、今や山本由伸はチームの屋台骨といっていい存在だ。メジャー3年目の今季は打線の援護に恵まれない試合も多い中、大崩れすることなく試合をつくってきた。

ドジャースを支える山本由伸の現在地

 特に前回の登板はまさに圧巻の一言だった。ホワイトソックス打線を相手に8回2死までパーフェクト投球を披露。9回に一発を浴びてノーヒッターの夢はついえたが、前の試合から45人の打者を連続で凡退に打ち取った。

 ブレーク・スネルとタイラー・グラスノーという2人のローテーション投手が負傷で離脱する中、大谷翔平と双璧の活躍を見せており、昨季逃したサイヤング賞も十分狙える位置にいる。

 山本が現在進行形で進化を続ける背景にあるのが、向上心の高さだろう。メジャー移籍後に2度施した投球フォームの変更を見てもそれは明らかだ。

 1度目の修正は昨季途中で、右脚を少し上げるフォームに微修正を加えた。そして今季はその右脚をさらにしっかりと上げるフォームにバージョンアップ。変化を嫌う一流選手も少なくない中、山本は常に進化するための最善の道を探っている。自己分析に長けた印象もあり、それが若くから第一線で活躍している秘訣なのではないだろうか。

投球フォーム改良で制球力が劇的向上?

 投球フォームが影響しているかは定かではないが、今季は制球力が大幅に改善している。もともとコーナーを突く丁寧な投球が持ち味の一つだが、メジャー2年目の昨季は与四球率が3.06と、山本らしくない制球難が露呈していた。

 オリックス時代の後期3シーズンは与四球率1点台を維持し、メジャー1年目も2.20と上々の数字を残していたにもかかわらず、昨季は6つの四球を与えた試合もあったほどだ。それが今季はここまで1.58と昨季の半分近くまで大きく改善している。


 チームメートの大谷や佐々木朗希のような160キロ台の剛速球を持っていない山本にとって制球力は球威や変化球と並ぶ重要な武器の一つ。それだけに与四球率の大幅改善は今季の安定感を支える大きな要因となっている。

奪三振率減少でも成績向上の理由とは

 一方で、奪三振率は数字を下げている。1年目からの奪三振率を並べると、10.50→10.42→8.40と推移。これだけ低下しているにもかかわらず、防御率や投球内容はむしろ向上しているが、これは山本が「空振りを奪う投手」から「打者に正解を与えない投手」へと進化していることを示している。

 球種割合の変化を見ると、その理由が見えてくる。

【山本由伸、過去2年の球種割合(Baseball Savantより)】

<2025年>
フォーシーム 35.2%
スプリット 25.5%
カーブ 17.6%
カット 11.2%
シンカー 7.8%
スライダー 2.8%
スイーパー 0.0%

<2026年>
フォーシーム 28.2%
スプリット 26.9%
カット 13.6%
カーブ 13.1%
シンカー 11.8%
スライダー 6.5%

 2025年に1球だけ投じたとされるスイーパーを除けば全6球種は同じだが、その割合は微妙に変化している。30%を超えていたフォーシームは28%台に減少したが、フォーシームの平均球速と回転数は上昇しており、その威力は決して悪化しているわけではない。

 逆に、フォーシームの「Whiff%」(スイングに対する空振り率)は19.2%から31.3%に大幅良化を果たしている。

 つまり、フォーシームの投球割合は下がったが、空振り率は大幅に向上しているのだ。これは球威そのものの向上に加え、打者がフォーシームを待ちづらくなっていることを示唆しているのではないだろうか。

スプリットを生かすカットボールの存在

 続いて変化球の割合の推移を見ると、カット、シンカー、スライダーという横に変化する球が多くなっている。今季特に目立つのが、決め球のスプリットを最大限生かす役割を果たしているカットボールだ。

 カットボール自体の被打率は.310と決して優秀とはいえない。
この球種の価値は被打率だけでは測れない。山本の投球に幅をもたらし、打者の球種予測を難しくしているのではないだろうか。

 伝家の宝刀とも呼ばれるスプリットとこのカットボールの今季の平均球速を比べると、前者が91.4マイル(約147.1キロ)で、後者は91.3マイル(約146.9キロ)とほぼ同じ。しかし、両球種の軌道は全く異なる。

 山本自身、メジャー1年目はカットボールを6.1%しか投じていなかったが2年目に11.2%と大幅増。さらに今季はその割合を増やしている。あくまでも仮説だが、この球種がスプリットとの見極めを難しくする役割を担っているのかもしれない。

打者に明確な正解を与えない投手へ進化

 オリックス時代から完成度の高い投球を見せていた山本もメジャー3年目を迎えて充実一途。フォーシームの空振り率向上、与四球率の改善、そして球種配分の最適化。フォーシームを待てばスプリットが沈み、スプリットを意識すればカットボールが食い込む。

 今季の山本は、打者に明確な正解を与えない投手へと進化した。その結果として生まれているのが、かつてないレベルの安定感なのだ。


文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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