長距離を移動する新幹線では、座席で仕事をしたり睡眠をとったりしながら過ごす人も多い。限られた空間を多くの乗客が共有するからこそ、周囲へのちょっとした配慮が必要だ。
しかし、自分の行動が周囲にどのような影響を与えるのか、あまり気にしない乗客に遭遇することもある——。
 今回は、迷惑な乗客に困惑したという2人のエピソードを紹介する。

突然倒れてきた前の座席にパソコンの画面がぶつかり…

「もうすぐ終わるから」…新幹線で“大声通話”を続ける男性に、...の画像はこちら >>
 東京から新大阪へ向かう新幹線に乗っていた高橋美咲さん(仮名・20代)。新幹線での移動自体は好きだというが、以前から気になっていることがあった。

「座席を、後ろを確認しないで勢いよく倒されるのが苦手なんです。一声かけてほしいとまでは思わないですけど、せめてゆっくり倒してほしいですね」

 その日、高橋さんの前には40~50代くらいのスーツ姿の男性が座っていた。乗車して間もなく、その男性が突然、勢いよく座席のリクライニングを倒したという。

「ガツンという感じでした。膝の上でノートパソコンを使っていたのですが、画面が前の座席の背面テーブルにぶつかってしまったんです」

 思わず「うわっ」と声を出した高橋さん。しかし、男性が振り返る様子はなかった。パソコンが壊れる可能性もあったため、男性に「すみません。急に倒されると困るんですが……」と声をかけた。

 ところが、男性は高橋さんのほうを見ることもなく、舌打ちをしただけだった。
その後も、何事もなかったようにスマートフォンを見ていたようだ。

「私が困っていると伝えたのにその態度だったので、余計に腹が立ちました。それからしばらく、ずっとモヤモヤしていましたね」

荷物を取り出そうとした瞬間、バッグの中身が通路へ

 それから1時間ほどが経過し、新幹線は京都駅を出発。新大阪駅へ近づいたころだった。

 車内に到着を知らせるアナウンスが流れると、前に座っていた男性が立ちあがり、荷物棚からボストンバッグを取り出そうとしたという。

「ただ、隣に置かれていた大きな荷物に引っかかったみたいで、なかなか取れなかったんです。男性は、また舌打ちをしながら、力任せに引っ張っていました」

 すると次の瞬間、ボストンバッグのファスナーが開き、中に入っていた荷物が通路へ飛び出してしまった。書類とともに転がり出したのは、ガラス瓶に入ったお酒だった。

「何本かが割れてしまって、車内にお酒のニオイが広がりました。男性の革靴やスーツの裾にもかかっていました」

 男性は、「うわっ、嘘だろ」と声を上げ、床に散らばった書類を慌てて拾い始めたそうだ。

「あんなに横柄な態度だったのに、今度は自分が大慌てしている姿を見ていたら、それまでのイライラが少し収まりましたね」

新幹線内で始まった大声での電話

「もうすぐ終わるから」…新幹線で“大声通話”を続ける男性に、車掌が告げた“毅然とした一言”
※この画像は生成AIによるイメージです
 中村健太郎さん(仮名・30代)は、仕事のため新幹線を利用していた。その日は、窓側の席に座り、乗車後は仕事の資料を確認しながら過ごしていた。

「平日だったので、パソコンで仕事をしている人も多かったです。比較的静かな車内でした」

 乗車して10分ほどが経ったころ、通路を挟んだ斜め前に座っていた男性のスマートフォンが鳴った。
男性はその場で電話に出ると、「お世話になっています」と大きな声で話し始めたという。

「すぐ終わると思っていました。でも、会社名や取引先の名前を口にしながら、商談のような話を続けていたんです」

 周囲の乗客も、次第に男性へ視線を向けるようになった。

 中村さんの前方には、乗車したときからリクライニングを倒し、目を閉じて眠っているように見えた女性がいた。その女性も、電話の声が大きくなると目を開け、困ったような様子を見せていたそうだ。

 しかし、男性は周囲の反応を気にする様子もなかった。

「途中から、『そちらのミスでしょう!』などと、さらに大きな声になっていました。私も自分の資料に集中できなくなっていました」

 中村さんは、「通話するなら場所を移動してほしい」と思ったものの、直接声をかけてトラブルになることを避け、我慢していたという。

車掌から注意されても「もうすぐ終わるから」

 通話が始まって5分ほど経ったころ、車内を巡回していた車掌が男性の前で足を止めた。そして、男性に対して客室内での通話をやめ、デッキへ移動するよう、丁寧に促したそうだ。

「これで終わるだろうと思ったんですが、男性は電話を耳に当てたまま、『もうすぐ終わるから』と不機嫌そうに言ったんです」

 それでも車掌は、その場を離れなかった。そして毅然とした態度で「時間の長さに関係なく、ほかのお客様のご迷惑になります。
今すぐ通話をおやめいただくか、デッキへご移動ください」と言い放った。

 すると男性は急に気まずそうになり、「わかりました」と返事をするとデッキへ向かった。

「前にいた女性も車掌さんに軽く頭を下げていました。ほかの乗客も同じように困っていたんだなと思いましたね」

 中村さん自身、直接注意することはできなかったが、周囲の状況を見て車掌がきちんと対応してくれたことに安心したという。

「誰も言えずに我慢しているなかで、車掌さんがはっきり伝えてくれてよかったです。男性も最終的にはデッキへ移動したので、ようやく落ち着いて仕事に戻れました」

 自分にとっては「少しくらい」と思える行動でも、周囲には大きな迷惑となることがある。多くの人が利用する新幹線だからこそ、一人ひとりが配慮を忘れないようにしたいものだ。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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