―[今野忍の政治裏読みガイド 永田町[壁耳]ノート]―

朝日新聞で20年以上、政治取材に携わってきた今野忍氏が、永田町の表舞台だけでは見えない「政治のリアル」に迫る。今回は、海外視察や現金授受疑惑に揺れる福岡県議会から、地方政治に巣食う“腐敗の構造”を読み解く。

福岡県議会「ガラパゴス」の実態

海外視察3.6億円、質問は役所が代筆…福岡県議会の“ガラパゴ...の画像はこちら >>
今年1月に朝日新聞を辞めた。政治部で20年以上働き、政治のことはひと通りわかっているつもりでいた。でも、フリーになって、勘違いだったと思い知った。私が「政治」だと思って書いてきたものは氷山の一角でしかなかった。

だから本連載では、より政治の実態を深掘りしたい。まず、取り上げるテーマは「政治とカネ」。永田町にフォーカスを当てる前に、福岡に触れたい。

西日本新聞が全国の県議会にアンケートをかけた。公費による海外視察は福岡県議会が4年間で31回、総額3.6億円。回数も金額も、回答した議会のなかで最多だ。東京と大阪は4年間でゼロ。財政難だから自粛したそうだ。

人口も予算も桁違いの東京がゼロで、福岡が3億円超。
明らかにおかしい。しかも、ハワイの常連である。昨年1月は県議4人・3泊5日の視察で1人あたり約300万円。会見でこれを問われた蔵内勇夫議長は、「海外“旅行”は続けます」と言い間違えた。

そこに議長・副議長ポストを巡るカネの話が乗っかった。議長になる前、自民会派の幹部から約2000万円を要求されて払った——そう告発したのが吉松源昭県議だ。幹部側は全否定し、言い分は真っ向から衝突したが、7月24日に突如、当事者の一人である中尾正幸副議長が議員辞職した。辞職を伝えた中尾氏が「トカゲの尻尾切りと言われるかも」と口にすると、蔵内議長はこう返したという。

「君は並のトカゲじゃないよ。ガラパゴスに生存する、進化しないオオトカゲだ」

言わせてほしい。進化していないのは中尾氏だけじゃない。福岡県議会がガラパゴスだ。
なぜか? 私がゾッとしたのはハワイでもカネでもない。県の執行部が県議に代わって議会の質問を作っていた、という話のほうだ。

議会は行政をチェックするためにある。だから、知事も議員も別々に選挙で選ばれる。これを二元代表制という。だが、県議の質問を監視される側の役所が書いていた。答える人が問題まで作っていたなら、あの議場で行われていたのは台本の読み合わせだ。

腐敗を生む「選挙で落ちない」構造

私は‘06年から2年間、朝日新聞の秋田総局にいた。その秋田には、今も語り継がれる事件がある。1994年度からの3年間で、不適正な公金支出が約43億6600万円にも上ったのだ。食糧費や旅費の名目で飲み食いやカラ出張に消えていた。職員514人が処分され、返還額は約28億9900万円にも達した。


最終的に知事が辞職に追い込まれたが、居酒屋チェーンで割り勘で飲むと、「10年前なら君を料亭で接待できたのに」と懐かしむ幹部もいた。反省、してないでしょ。

富山もある。‘16年に地元のチューリップテレビが自民重鎮の政務活動費の不正をスクープし、半年で14人の市議が辞めた。その一部始終を追った映画『はりぼて』は、騙されたと思って観てほしい。ゲラゲラ笑える。そして最後に、自分の街の議員の顔を思い出して、笑えなくなる。

福岡も秋田も富山も、共通するのは、腐敗を生む要因だ。要するに、選挙で落ちない。蔵内議長の地元・筑後市選挙区は定数1。‘07~’19年まで、4期連続で無投票だった。候補が蔵内氏だけだったからだ。
筑後市の有権者は県議を「選ぶ」機会がなかったわけだ。

‘23年、20年ぶりの選挙戦が繰り広げられた。相手は無所属新人の前副市長。蔵内氏は勝った。ただし、差は1652票。自民党公認、県連会長も務めた10期の重鎮、党本部の選対委員長まで応援に入って、これだけの票差である。

本音はたいてい、言い間違いに表れる。蔵内議長が「海外旅行は続けます」と間違うなら、こちらも言おう。来年の統一地方選で落とします——失礼、選び直します。

文/今野忍

海外視察3.6億円、質問は役所が代筆…福岡県議会の“ガラパゴスな腐敗”を元朝日新聞記者が暴く
今野忍 撮影/初沢亜利
「壁耳」とは?
政治記者が稀に行う、壁に耳を押し当てて非公開の会議・会合の内容を探る取材手法。「聴診器を使う先輩もいた」(今野氏)という

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【今野忍】
1975年生まれ。アクセンチュアを経て、朝日新聞記者に。
'09年に政治部配属となり、菅義偉氏や岸田文雄氏の番記者などを経験。’26年に独立
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