「カーインライジングってほんまに馬なんか…?」「血液調べたらハイオク流れとるやろ」
 9月6日、香港の“怪物”カーインライジングをめぐり、SNSには冗談とも本気ともつかない声が相次いだ。

単勝支持率97.5%…約17億5000万円が“怪物”に集中

「これ絶対損しなくない?」香港競馬で“全頭を買っても利益が出...の画像はこちら >>
 20連勝中のカーインライジングが迎えた、シャティン競馬場の香港特別行政区行政長官杯(G3、芝1200m)。レース前から目を疑うほどだったのが、香港の怪物に集まった“支持の偏り”だ


 単勝売上は約9003万香港ドル。そのうち約8780万香港ドルがカーインライジングに投じられ、金額ベースの単勝支持率は97.5%に達した。日本円ではそれぞれ約17億9000万円、約17億5000万円に相当する。単勝に使われたお金のほぼすべてが、たった1頭へ向かった計算だ。

 その集中ぶりはオッズにも表れた。10香港ドルの単勝払戻は10.50香港ドルで、日本式にいえば1.05倍。100円なら利益は5円だが、100万円なら5万円になる。これだけの総額が1頭に偏った以上、かなりの金額を投じた購入者が含まれていたとしても不思議ではない。

異例のオッズにより「全頭買いでも損しない」買い方も可能に?

 一方で、2番人気コパートナープランスは107倍まで離れていた。そこでSNSに出てきたのが、こんな発想だった。

「これ絶対損しなくない?」

 日本円に置き換えて考えると、カーインライジングに2万円、残る5頭にはオッズの低い順に200円、200円、100円、100円、100円。投資額は計2万700円になる。最終オッズで計算すると、カーインライジングが勝っても2万1000円が戻り、他の5頭が勝った場合もすべて払戻額が投資額を上回る。
つまり、全6頭を買っても、どの馬が勝っても利益が出る配分が結果的に成立していたのだ

 もちろん、これは締め切り後に確定した最終オッズから逆算した話だ。それでもネット上の思いつきのような“全頭買い”が本当にプラス収支になるほど、カーインライジングへの人気が極端に偏っていたことがわかる。

2着に7馬身3/4差…圧倒的な走りで連勝は「21」に

 そして肝心のレースでも、“怪物”は期待を裏切らなかった。他の5頭が52kg台だったのに対し、カーインライジングは61kg超を背負っての一戦。それでも好スタートから鮮やかに逃げ切り、最後は2着に7馬身3/4差をつけた。

 勝ち時計1分06秒11は、自身が持っていたシャティン芝1200mのコースレコードを約1秒更新。連勝も「21」まで伸ばした。

 ここまでなら、大本命が難なく勝利し、「大本命に大金を託した側が利益を得た」で終わる話である。だが、その前日の日本では、“ほぼ大丈夫”に見えた大本命がまるで逆の結末を迎えていた。

単勝1.2倍の大本命が3着…「複勝なら安心」も通用せず

 9月5日の阪神10R・西宮Sは7頭立て。今年の皐月賞で6着だったサウンドムーブは、単勝1.2倍、複勝オッズ1.1~1.1倍。こちらも圧倒的な1番人気に支持されていた。

 単勝1.2倍は、それだけ「勝つ」と期待された数字だ。
一方の複勝は、単勝より的中条件が広い。勝ち切れなくても上位に入ればいい“守り寄り”の馬券まで1.1~1.1倍だったことは、サウンドムーブの信頼の高さを示していた。

 ところが結果は3着。単勝が外れたのはわかりやすいが、この日は複勝まで“紙くず”になったのだ。

 JRAの複勝は8頭以上なら3着まで的中するが、7頭以下では2着まで。このレースは7頭立てだったため、3着では当たりにならない。同じ3着でも8頭以上なら的中だったが、今回は単勝で勝ち切れず、より的中条件の広い複勝でもハズレとなった。

 2着レディーミコノスとの差は1馬身3/4。サウンドムーブが2着なら複勝の払戻は110円だった。つまり、仮に複勝を100万円買っていれば、2着なら110万円が戻って10万円のプラス。それが3着では払戻0円となり、100万円を丸ごと失う計算だ。

単勝700円より複勝800円…大本命への集中が生んだ珍現象

 しかも、サウンドムーブに人気が偏った裏側で、別の珍現象も起きていた。
勝った単勝2番人気コルレオニスは、単勝の払戻700円に対して複勝は800円。単勝3番人気で2着のレディーミコノスも複勝1230円となり、人気上位馬同士の決着とは思えない高配当になった。

 香港では97.5%もの単勝支持を集めたカーインライジングが、期待通りに圧勝。その前日の日本では、単勝1.2倍の大本命が勝てず、より的中条件の広い複勝でも救われなかった。

 オッズが低いほど「これなら大丈夫」と思いたくなる。わずかな利益でも、元手を大きくすれば金額としては魅力が増す。だが、オッズが1.05倍でも1.1倍でも、外れれば配当は0円だ。

 香港では5%の上積みを狙った馬券が報われ、日本では10%の上積みを狙った“守り”の複勝さえ紙くずになった。“ほぼ大丈夫”に見える数字へ資金が集まった2日間は、低オッズの甘さと怖さを正反対の結果で見せたともいえるだろう。

文/中川大河

【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。
競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。
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