―[アメリカ発・AIが先に見せる未来レポート~未来はすでにβ(ベータ)版]―

 はじめまして、福原たまねぎと申します。普段は米国シアトルのテック企業で働いていますが、個人ではAIや働き方に関する発信をして、本を書いたりしています。
この連載では、僕がアメリカで触れた「AIが世の中をどう変えるのか」という未来予測をお伝えしていきます。
prediction~今週の予測

AI気象予報の進化で、’30年代の天気予報は“絶対外れない情報”になる

 さて、初回はグーグル・ディープマインドが作った「AI気象予測モデル」についてです。科学誌『ネイチャー』に論文が載りましたが、台風やハリケーンがどこを通り、どれくらい強くなり、暴風域がどこまで広がるか……という、これまで使われてきたモデルと同じ精度の予報を、平均して1日分早く出せるようになったという話です。しかもこのモデルは、誰でも使える形で公開されました。

 1日というのは、地味に聞こえてかなり大きい数字です。昨年ジャマイカを襲ったハリケーン・メリッサでは、このAIが5日前の時点で、最強のカテゴリー5のまま上陸する確率を8割と示しました。3日前にはその確率がほぼ100%まで上がり、アメリカの国立ハリケーンセンターは史上初めて、まだ勢力の弱い段階の嵐がカテゴリー5に達すると予報したのです。天気予報の世界では、この1日の差は、過去およそ10年分の進歩に相当します。

 これまで天気予報は、ときには外れるものでした。だから僕たちは、予報を見ながら最後は自分で行動を決めていました。傘を持つかどうかも、旅行に行くかどうかも、決めたのは自分です。台風の被害に遭った人がいたとき、僕たちはその人を、運が悪かった人として見ていました。

 しかし、予測が確実に当たるようになればどうなるか。
3日前に自分の家が暴風域に入る確率が8割だと表示されていたのに、対処しなかった人は、もう運が悪かった人ではありません。言われたのに動かなかった人になります。

 たとえば会社が、台風の日に出社させたとします。これまでなら「予報が外れることもあるのだから仕方がない」でしたが、これからは「3日前に数字が出ていたのになぜ休みにしなかったのか」と問われます。学校の休校も、イベントの決行も、保険の支払いも同じです。数字が先にある以上、その数字に反する決定をした人には、必ず説明が求められます。

予測の精度が上がるほど、選べる範囲は狭くなっていく

 ’30年代には、台風が来る何日も前から、自分の住む町がどうなるかを数字で知らされているでしょう。たしかに安全性は高まります。ただ同時に、これは「判断の余地がなくなる」ことにもなります。正解が先に表示されている世界では、そこから外れて動く人は勇気のある人ではありません。“ただの愚か者”として扱われます。予測の精度が上がるほど、僕らが選べる範囲は狭くなっていきます。


 そして、これは台風だけの話ではありません。「この病気になる確率は7割です」「この学校に受かる確率は2割です」「この会社を辞めたら5年後の年収が下がる確率が6割です」。そんな数字が、決める前に目の前に並ぶようになったとき、皆さんはどう振る舞うでしょうか。たぶん、たいていは数字に従います。従ったほうが安全だし、誰にも責められないからです。

 AIは、僕たちの安全性を高めてくれます。その代わりに、「間違える権利」を少しずつ取り上げていきます。台風で家をやられた人が「3日前に数字が出ていたのに、なぜ対処しなかったのか」と問われるように、絶対に当たる予測は、被害を不運ではなく落ち度に変えてしまいます。

 この連載で追いかけたいのは、「AIがすごい」という話ではありません。AIが僕たちの社会の“当たり前”をどう書き換えていくのか、です。「被害に遭った人を責めない」という当たり前が静かに終わろうとしているように。

AIが天気を「絶対に外さない」時代へ…予測に従わない人は“愚...の画像はこちら >>
<文/福原たまねぎ 写真/Adobe Stock>

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【福原たまねぎ】
シアトル在住。
外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。初著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)が発売中。X:@fukutamanegi
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