「外国人が、日本の組織で働くのってやっぱり大変なの?」
以前、アメリカ人の友人から真顔でこう尋ねられたことがあった。

習慣や文化が異なる海外の組織で働くのは容易ではない。
「メールで済むのに電話する」「会議が長い」といった日本特有のビジネス習慣は、合理性を重んじるアメリカ人の目にどう映るのか。日本人には“当たり前”の日常が、彼らには奇妙に映るケースも少なくない。

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今回、日本企業で働いた経験があり、独特の職場環境をよく知るアメリカ人たちにインタビューを敢行。現場で目撃した驚きや戸惑い、そしてリアルな本音に迫る。

無口な昭和上司の恐怖の洗礼

日本企業で働くアメリカ人が困惑した“日本特有の職場文化”。「大事な会議中でも電話を優先」に驚き
数々のカルチャーショックを経験しながらも、日本の職場でキャリアを重ねてきたビルさん
ビルさん(仮名)は、一般企業から非営利団体、政府機関、学校まで、あらゆる日本の組織を渡り歩いてきた、まさに「日本の働く習慣を知り尽くす」アメリカ人だ。

彼が最初に日本で働き始めたのは約35年前、まだEメールが一般に普及していなかった時代だ。当時から日本語を流暢に操っていたビルさんは、言葉の面で困ることは特になかったというが、職場環境には度肝を抜かれたという。

「当時はまだ、完全に『昭和モード』でした(笑)。オフィスの机でみんながタバコを吸っていて、周りからは給料や体重など、今なら完全にアウトなプライベートの質問をバンバン投げかけられました。それが普通だと思って受け入れていましたが……」

そう笑うビルさんだが、初めての日本での勤務は、驚きとカルチャーショックの連続だった。

特に頭を悩ませたのが、最初の職場の上司だ。とにかく無口なタイプで、自分が何を考えているかを周囲に話さず、組織の方針も全く共有しない、管理者としては「最悪」のタイプだったという。ビルさんは決定事項をいつも後から知らされ、その不透明さに何度もフラストレーションを溜めた。
だが、その上司の行動で最も驚愕したのは、情報伝達の遅さではなかった。

「当時、上司が若い部下に資料のコピーを頼むのは日常茶飯事でした。しかし後になって知ったんですが、その上司は、コピーを頼まれた部下が『資料をこそっと盗み読むこと』を最初から想定していたんです。そして、その部下が資料をどう読み込み、いかに内容を社内に広めるかを見極めて、人事評価を下していたそうなんです。それを聞いた時は、さすがにゾッとしましたね」

「メールの後にすぐ電話」と「エアコン会議」が象徴する非効率性

それからしばらく経ち、ビルさんはいくつかの日本企業を渡り歩いた。日本式の環境にも慣れ、楽しく充実した日々を過ごしながら、「根回し」や「飲みニケーション」といった独自文化にも適応していった。

だが、それでもどうしても不思議に思う慣習が「電話」と「会議」についてだったという。

上司にEメールで連絡した直後に、すぐさま電話がかかってくることが頻繁にあったそうで、ビルさんは苦笑する。

「メールの返信はメールでいいですよね。わざわざ電話がかかってきたら、合理性を重んじるアメリカ人は驚きますよ」

さらに、ビルさんが最後まで理解に苦しんだのが「電話の優先順位の高さ」だ。

「上司と大事な会議をしている最中でも、全然関係のない電話がかかってくると、上司はそっちを優先して席を外してしまう。目の前にいる相手や進行中の案件よりも、かかってきた電話の優先順位が圧倒的に高すぎるのは、アメリカ人の感覚からは奇妙に映りましたね」

一方で、まったく「大事ではない会議」の長さにも辟易した。ある時、オフィスのエアコンが故障し、新品に買い替えるための会議が開かれた。
どのメーカーの機種を何台購入するかという話し合いが、何時間も延々と続いたのだ。ビルさんは「これは完全な時間の無駄じゃないか」と呆れ果てたという。

アメリカ流の信頼が裏目に出た瞬間

そんな数々のカルチャーショックを乗り越えながらも、ビルさんは現在も日本で働き続けている。今では日本人部下も増え、日本企業の中堅を担う頼もしい存在だ。時代は変わり、「飲みニケーション」は減り、電話を最優先する慣習も以前ほどではなくなったという。

今では、日本の職場環境の「良さ」にもたくさん気づいている。組織として一度方針を決めたら、その目標に向かって全員で突き進む一体感もその一つだ。

「それまで反対意見があっても、一度決定したなら全員でやるという集団的行動は、日本社会の強みだと思います。アメリカ人だと、やっぱり途中で『やーめた』って放り出す人もいますからね(笑)」

日本で働く環境の良し悪しを熟知した今、ビルさんは上司としてどのように部下と接しているのだろうか。

「僕は、部下に『最初は自分で考えて決めてほしい』と思っています。困った時は僕や他の上司に相談すればいい。もし間違った判断をしてクライアントに迷惑をかけたら、僕が謝りに行けばいい。部下には自由にいろいろ考えてほしいんです。
そうやって経験を積んでいけば、ちゃんと自分で判断できるようになる」

だが、この「アメリカ流の信頼」が、思わぬドラマを生む。

ある時、ビルさんは日本人部下に大泣きされ、こう訴えられたことがあったという。

「どうして私のことをほっといて何も教えてくれないんですか!午前中はこれ、午後はこれをやってくれという、具体的で細かい指示が欲しいんです」

一方で、アメリカ人の部下からは「部下に時間を与えすぎて決断が遅い」と指摘された。それに対してビルさんは、「決断が早すぎると、それを嫌がる(日本の)人もいるから」と、必死になだめる羽目になったという。日米の板挟みにあうビルさんの苦労は絶えない。

ある時、アメリカ人部下が別の日本人上司にEメールを送ったところ、すぐに電話で返事があって戸惑っていた。ビルさんは、こう説明してなだめたという。

「メールでは形式的に連絡事項を伝えるけど、電話なら、その人が本当にどう思っているかを確認できるんだよ」

アメリカ人が日本で働くことやその習慣に慣れるにはどうすればいいのか。ビルさんは、「日本では状況に応じて、ある程度『自分を抑え込む』必要があります。アメリカ人はそれが結構苦手ですが、それができるか次第ですね」と笑った。

「ジェンダーギャップ」が存在する職場

日本企業で働くアメリカ人が困惑した“日本特有の職場文化”。「大事な会議中でも電話を優先」に驚き
日米両方の職場で多様な経験をしてきたナタリーさん
日本国内の会社と、アメリカに進出している日系企業の「両方」で勤務経験があるナタリーさん(仮名)も、日本組織の独特の働く習慣に直面した一人だ。

日本で働いていた当時は、遅くまで働き、飲みに行くのもほとんどが会社の同僚という文字通り会社中心の生活サイクルだったという。

一方で、アメリカの日系企業で働いた時には、ワークライフバランスが日本にいた頃よりもかなりいいと感じたそうだ。


ナタリーさんは、日系企業で、日本から派遣されてくる駐在員たちと、日本語と英語を使い分けながら会話したり会議に出席していた。

日本の会議といえば「長さ」が代名詞だが、彼女は現場である仮説を抱くようになった。「上司は、意図的に会議を長引かせているのではないか」ということだ。

「会議が長引けば長引くほど、進行役である上司は『自分がその場をコントロールしている』という全能感に浸れるのではないか、と思えてならなかったんです」

そんな彼女に、これまで見てきた中で「優秀な駐在員」の共通点を聞くと、こう返ってきた。

「現地の言語や文化を懸命に学ぼうとする人です。そして、もし先入観を持っていたとしても、実は違うと知った時に、それを受け入れられる柔軟でオープンな心でいる人です」

一方で、日系企業の職場では「ジェンダーギャップ」に戸惑うことも少なくなかった。それは決してあからさまな差別ではなく、微々たる、しかし確実に存在する違和感だったという。

「自分がどれだけ上司に提案をしても、年上の男性同僚の意見ほどには真剣に聞いてもらえないと感じたことがありました」

さらにナタリーさんは、物理的なオフィス環境への配慮不足も指摘する。

「オフィスの構造そのものが、男性の生活や働き方に合わせて最適化されていると気づかされるのです。例えば、男性社員が体調不良のときに共有スペースのソファーで、周囲の目を気にせず横になっている姿をよく見かけました。でも、私が体調を崩しても、男性の目がある中で同じように休むことは簡単ではありません。人目を避けて安心して横になれる休憩室がないといった、女性ならではのニーズへの配慮が欠けていると感じることが多かったのです」

ナタリーさんは、その上でこう付け加える。


「こうした地味な問題こそ、もっと真剣に努力して取り組まなければならない状況だと思います」

アメリカの日系企業一筋数十年のベテラン

日本企業で働くアメリカ人が困惑した“日本特有の職場文化”。「大事な会議中でも電話を優先」に驚き
アメリカの日系企業で数十年勤務し、日本組織の良し悪しを知り尽くすブライアンさん
一方で、「アメリカの日系企業一筋数十年」というアメリカ人もいる。海外の日本組織の表も裏も知り尽くすブライアンさん(仮名)だ。もともと大の日本文化好きだった彼は、採用が決まった当時の喜びをこう振り返る。

「周りの友人たちからは、『喜びのあまり道でスキップしていたぞ』とからかわれたほど嬉しかったのを覚えています(笑)」

勤務先は、日本人の駐在員が数人で、アメリカ人は彼だけという極めて小規模な事務所だった。駐在員たちとの会話は「基本は英語で、時々日本語」という環境だ。彼も多くの日本人駐在員の交代劇を見届けてきたが、最も困惑したのは「駐在員同士の仲が冷え切っている時」だったという。

「小さな事務所内でお互いに口をきこうとしないんです。私を間に挟んで『彼にあれを伝えておいてくれ』と伝言ゲームを頼まれたことが何度もあって、あれは本当にやりづらかったですね」

そんな経験をしたブライアンさんだが、最も嬉しかった思い出は、彼が怪我を負い、病院に緊急搬送された時のことだという。

「後から知って本当に感動したのですが、私のことを心配した事務所の駐在員が全員、病院の待合室に駆けつけ、治療が終わるまでずっと待っていてくれたんです。アメリカ人の上司なら、間違いなくこんなことはしません。彼らの家族のような温かさは、今でも忘れられません」

そしてもう一つ、ブライアンさんには密かに嬉しかったことがあったそうだ。

「この会社には、昔から『職場の付き合いでのカラオケは禁止』という伝統があったんです。
それを聞いた時は、心の底からホッとしました。だって私、カラオケが大嫌いなんです(笑)」

<取材・文/阿部貴晃>

【阿部貴晃(海外書き人クラブ)】
アメリカ在住のジャーナリスト。日系メディアのワシントン支局で20年以上、国際関係を中心に報道し、ホワイトハウスや米国の政治・社会、国際情勢を取材。2025年4月よりワシントンDCを拠点にフリージャーナリストとして活動。日米関係やワシントンDCから見たアメリカについて執筆している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員
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