市川團十郎(47)が、同級生の尾上菊之助改め8代目尾上菊五郎(47)の襲名披露公演を盛り上げようと奮闘している。5月の歌舞伎座では「勧進帳」「口上」「弁天娘女男白浪」に出演。

17日連続で新たなエピソードを披露して注目された「口上」は「8代目への愛です」と語り、令和の團菊新時代に向けて「運命ですね。手を取り合って、歌舞伎の未来を考えていきたい」と意欲を見せた。6月も「暫」「口上」に出演している。(有野 博幸)

 同い年の團十郎と菊五郎が誕生するのは史上初。それを「運命」と捉える團十郎は、自身の襲名披露の経験を踏まえて、精神的支柱として8代目菊五郎に寄り添っている。

 「5月は彼を見て、一進一退という苦しみを感じて過ごしていると思いました。だから自分も一進一退だと追い込んで、そばにいて話し相手となり、理解し合えるように心掛けました。彼が『一人じゃない。時間と思いを共有している仲間がいるんだ』と感じてくれたなら、少しでもお役に立てたのかなと思いますね」

 親交は幼少期から約45年。同じ学校に通い、同じ稽古場で汗を流した。「小学校2、3年くらいかな。放課後、稽古場に行く時には、だいたい僕が遊んでいて時間を忘れている。

あいつが『何やってんだよ!』みたいな顔で待っていて、僕が『和康(菊五郎の本名)、ごめ~ん』って駆け寄ってバスに乗る。六本木6丁目のバス停で降りたら、薬局でオロナミンCかファイブミニを買って、踊りの稽古は2~3時間。終わったらラーメンを食べて家に帰る」。まるで昨日のことのように覚えている。

 「歌舞伎界のことは、昔からよく話し合ってました。彼は今よりハッキリと物を言うタイプだったので」。父親同士の仲が良かったこともあり、家族ぐるみの親交があった。「7代目菊五郎のおじさんに誘われて、家族旅行に参加させてもらったり、うちの旅行に8代目(菊五郎)が遊びに来たことも。とにかく、よく遊んでました」

 口上では同級生ならではのエピソードを披露している。父の12代目團十郎から生前に「口上を毎日、変える技量があれば、大したものだよ」と言われたことを思い返し、「家で娘の麗禾(市川ぼたん)に『あの時はどうだったの?』と質問してもらって、思い出しながら考えました。お祝いの気持ちを伝えたかったんですよね。5月に17日連続で内容を変えたのは彼への愛です」。

心温まる言葉は観客からも好評だった。

 7代目菊五郎からは「お前、よく覚えられるな。すごいよ!」と褒められ、7代目夫人の富司純子からも「たかちゃん(團十郎)、今まで怒ったりして、ごめんね」とねぎらわれた。「口上のおかげで、普段できないような会話ができたので、やって良かった」と表情を緩めた。

 「勧進帳」では團十郎の弁慶、8代目菊五郎の富樫という立役同士で共演した。今後は「助六由縁江戸桜」の助六と揚巻など、立役と女形としての共演も期待される。「彼は立役も素晴らしいけど、ベースには女形がある。立役だけではもったいない。来年以降の團菊祭は層が厚くなりそうです」と声を弾ませた。

 お互い、満を持して大名跡を背負う立場になった。「感慨深いですね?」と問い掛けると「なるべくしてなったんです」と語気を強めた。「まだスタートラインに立っただけ。

感傷に浸っている場合ではない」と気を引き締めているのだろう。令和の團菊新時代は幕を開けたばかりだ。

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