第107回全国高校野球選手権大会(8月5日から18日間・甲子園)の出場校を決める地方大会は、近畿地区でも29日開幕の兵庫からスタートする。スポーツ報知では「球児の万博」と題し、近畿の注目校、注目選手を「WEST Hochi」で随時紹介。

第1回は、昨年11月にイチロー氏(51)=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター=が指導した大阪・大冠(おおかんむり)を取り上げる。

 大冠が悲願の甲子園出場を狙う。春の府大会は3回戦で敗退したものの、8強の東海大大阪仰星に3―4と善戦した。7月12日の初戦(2回戦)で常翔学園と対戦することが決まり、東山宏司監督(63)は「元々、能力の高い学年」と期待を高める。機動力のある打線に、投手陣は左腕が4人。ひと冬を越え、強豪私立にも引けを取らない力を付けてきた。

 大阪の公立勢で夏を制したのは、中村紀洋(元近鉄など)を擁した1990年の渋谷が最後。何かを変えようと、昨年度の2、3年生が便せん3枚ほどに各自の思いを詰め込み、イチロー氏に送った。中には、3日間かけて書き上げた選手もいた。「『強豪私立を倒す』という目標を掲げる公立校の本気度を厳しい目で見てみたい」。熱意は届き、昨年11月、グラウンドにレジェンドが訪れた。

 「(強豪私立を)強烈に意識しているよね? 一方で、相手がどう思っているか考えてほしい。

僕は愛工大名電でやっていて、愛知4強と言われていて。この立場からすると、16強のチーム、眼中にないんですよ」。イチロー氏はあいさつから耳が痛い言葉を並べたが、選手らも「意識されていない」という自覚はあった。

 濃密な時間となった2日間。多くの学びは、紙にまとめて部室の扉に貼り付けている。「しんどい時は厳しい言葉を思い出して、『よっしゃ、乗り越えたろ』ってやっています」と山本拓明(ひろみつ)内野手(3年)。冬の練習も、いつも以上に熱が入った。

 イチロー氏の指導を希望する学校は多く、決定までに関係者が7回ほど訪れ、練習や試合風景を撮影したという。「聞いた話ですけど、純白のユニホームが気に入ったのが決め手の一つになった」と東山監督。10年以上前に早期敗退が続き、原点に帰ろうと上下を真っ白に変えた。

 そこから不思議と勝ち始め、2017年夏には公立勢として19年ぶりに決勝の舞台に立った。それ以降、大阪で公立勢の4強入りはない。

「最後、イチローさんに『見てるよ』と言ってもらった。勝利で恩返しをしたい」と加藤日向主将(3年)。レジェンドの言葉を力に、再び強豪私立の壁に挑む。(瀬川 楓花)

 ◆大冠(高槻市)1986年に大阪府立島上高校の分校として開校し、95年に独立校化。生徒数は884人(うち女子は462人)。野球部は86年創部。最高成績は17年夏の準優勝。14年春、15年夏に4強。部員70人(うちマネジャー2人)。主な卒業生は楽天・松田啄磨、元ヤクルト・吉田大喜(現東邦ガス)。お笑いコンビ・シャンプーハットの恋さん。

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