俳優のベンガル(73)は、来年結成50周年を迎える「劇団東京乾電池」の旗揚げメンバー。舘ひろし、柴田恭兵がダブル主演した人気シリーズ、日本テレビ系「あぶない刑事」の“落としのナカさん”としても知られる。

半世紀に及ぶキャリアを振り返り、役者になったきっかけや今、芽生えている思い、今後への思いなどを聞いた。(瀬戸 花音)

 「たばこを吸ってる姿はあんまり人に見られたくないんだよね」。遠慮がちにたばこに火を付け、一服。「あぶない刑事」の中で見せるギャグ満載のアドリブのイメージとは裏腹に、シャイな一面が垣間見えた。

 現在、73歳。半生を振り返る取材だと伝えれば、「もう半生どころじゃないですよ。140歳まで生きるつもりはないですからね、僕は(笑)」と瞬時にツッコミが飛んできた。

 役者になるきっかけは、日大商学部在学中まで遡る。「僕の親戚は税理士ばっかり。僕も、もうちょっと頭の良い大学に受かりたかったんだけど、全部ダメで日大にひっかかったのね。ちょっと勉強すれば税理士になれるかと思っていたんだけど、入学しても全然勉強しないで、学校にもほとんどいかない。アルバイトばっかりしていたんですよ」

 そんな時、本屋で演劇雑誌「テアトロ」の裏表紙に掲載されていた「舞台芸術学院生徒募集」の告知を立ち読みした。

ひかれたのは「夜の部試験なし」の文字。「学費だけアルバイトでためて、入りました。演劇をやってみたら、はまっちゃって。こんな世界があったんだって。お母さんが保険会社で働きながら、女手ひとつで育てられたもんだから、就職しなきゃって思いもあったんだけど…」

 母とは「とりあえず3年だけやらせてください」と約束し、演劇の道を選んだ。「そうしたら、その間に母親が再婚してね。本当によかったなと。そういうのもあって、3年の約束はうやむやになって、ズルズルとここまで来たんだよね」

 1976年、柄本明(76)や綾田俊樹(75)と「劇団東京乾電池」を結成した。ともに旗揚げした柄本のことを「ひと言で言うと真面目ですね」と評した。「あの人は努力を人に見せない。本当にものすごいですね。あの人がちょっと偉い人と対談するって言ったら、もうその人のことをすごく研究するんです。

でも、その努力を一切出さない。役者としては芯が低いところにあって、ズッシリとしている。彼は怖いですよ。その一方で面白いことも好きですからね。彼はすごいですよ」

 86年には、タカ(舘)とユージ(柴田)の共演で話題の連続ドラマ「あぶない刑事」で演じた“落としのナカさん”こと田中文男刑事が当たり役となった。以後、シリーズ最新作「帰ってきた あぶない刑事」(2024年)までコミカルに同役を演じてきた。

 「本当はね、ナカさんはもっと暗ーい役だったんだけど、周りの影響でどんどんあんな感じに(明るく)なっちゃった。ほとんどは恭兵さんのせいだろうね。彼も舞台出身だから、どんどんアドリブをかけあっちゃって、エスカレートしていったんだね。『あぶ刑事』はドラマというよりバラエティーでしたね。現場はとっても楽しかったですよ」

 同い年の柴田のことは「僕と一緒で根暗で、陰でこそこそ考えているタイプ」といい、舘は「『俺は何も考えてないよ』っていう陽のタイプ」という。「陰と陽のタイプの二人が主演だったから『あぶ刑事』はよかったんだと思いますよ」と分析した。

 舘とは、希有(けう)な縁を感じたエピソードもある。だいぶ昔のことだが、ベンガルは一時期、肺がんを患って入院していた。都内の大学病院のベッドで寝ていたベンガルのもとに、担当医とともに現れた若手の医者の名札を見て、驚いた。「『舘』って書いてあったんですよ。そのお医者さんの顔を見たら、向こうから近づいてきて、『おじさんがいつもお世話になっております』って。舘さんのおいっ子だったんですよね。僕の担当医のお弟子さんみたいな感じで。舘さんに言ったら『おーっ、そうなんだよ』って。舘さんの一族はお医者さんの家系ですからね。すごいですよ。たまたまですからね、驚きましたね」

 名バイプレーヤーとして、近年も大河ドラマや民放ドラマに数多く出演。来年には映画公開も控えている。

 これからやりたい役を聞けば、「すごく悪いやつがいいね。なかなかそういう役はこないんだけど。善人って面白くないよ。悪人の方が面白いからね」と回答。そこから、演技への思いがあふれた。「やっぱりね、自分を完全に離れることはもうないんですよ。変に役を作ったりすると、見ていても冷めちゃうでしょ。役者っていうのは、衣装を着てセットに立つと、もう8割はできちゃってると思う。そこから無理に作っちゃうと5割とかに落ちていっちゃう。あとは自分をちょっと延長させるとか、そんなぐらいなんですよ」

 言葉の重みは増していく。「年を取ると、みんなだんだん芝居をしなくなる。経験っていうのはそういうことなんじゃないかな。

『演技する力がもうなくなった』って見方をする人もいるかもしれないけど、でも、年を取っていい俳優さんってみんな『ただそこにいるだけでOK』なんだよね。僕も、そういう役者になれればいいなと思う」

 自身の活動のベースとなる「劇団東京乾電池」は来年、結成50周年を迎える。「50周年だから、何かやらないわけにはいかないでしょうね」と意欲に燃えている。「昔だったら50歳なんて死んでもおかしくない歳ですよ。それが(「劇団東京乾電池」所属だった)高田純次は今、78ですよ。それであんだけ元気なの、信じられないですよね。(同学年の)恭兵さんにしても、三浦友和さんにしても、みんな一線で活躍してらっしゃるから。やっぱり僕ももう一度、頑張りたいなっていう気はしています」。ベンガルの瞳は鋭く柔らかく笑う。生涯現役の炎が宿っていた。

 ◆ベンガル 1951年8月17日、東京都出身。73歳。

日大商学部卒。自由劇場を経て、76年「劇団東京乾電池」を結成。主な出演作にNHK連続テレビ小説「オードリー」、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」など多数。26年公開予定の映画「仏師」に出演する。血液型AB。

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