◆プロボクシング ▽WBA世界バンタム級(53・5キロ以下)タイトルマッチ12回戦 △王者アントニオ・バルガス―同級2位・比嘉大吾△(7月30日、横浜BUNTAI)

 WBA世界バンタム級2位の比嘉大吾(29)=志成=が同級王者アントニオ・バルガス(28)=米国=と引き分け、2階級制覇と国内最長ブランクとなる7年3か月ぶりの世界王座返り咲きを逃した。世界でも珍しい日本初の3戦連続世界挑戦は2戦連続の引き分けで終戦し、試合後に引退を宣言した。

 試合終了のゴングまで残り43秒。比嘉は前のめりに攻勢をかけたところに右アッパーを合わされ、キャンバスをはわされた。4回に左フックでダウンを奪い、11回終了時の採点はジャッジ3者とも105―103で比嘉を支持。最終回も左フックで攻勢をかけたが、土壇場でまさかの落とし穴が待っていた。「負けたら引退」を背負って挑んだ結果は、ジャッジ3者とも113―113の引き分け。「王者の防衛なので負け。自分の中でも終わりだと思っている。引退します」と潔く引退を宣言した。

 昨年9月、WBO世界バンタム級王者・武居由樹(29)=大橋=に挑戦し僅差の判定負け。今年2月に堤に挑むも、9回にダウンを奪った後に奪い返されて引き分けた。日本史上初、世界でも異例の3戦連続での世界挑戦だった。「二度あることは三度ある。

これが比嘉さんなのかな。あとちょっとのところで…」と自嘲気味に笑った。

 天国と地獄を味わってきた。無敗のまま、17年5月にWBC世界フライ級王者に上り詰めた。しかし18年4月の3度目の防衛戦で計量に失敗して王座を剥奪(はくだつ)され、9回TKO負け。連続KO勝利も日本タイ記録の15で途絶え、ライセンス無期停止処分を科された。武居戦後も、一度は引退を決めた。何度も失意の底に沈んだが、高校卒業時からコンビを組む野木丈司トレーナー(65)と二人三脚ではい上がった。野木トレーナーは、比嘉の引退に「大吾を尊重したい。こんな選手と一緒に生きてこられて幸せでした」。

 最終回は、会場の「ダイゴ」コールに押されるように前に出た。「あそこで行かないより、行って倒されたのも自分らしいかな」。

比嘉は、雌伏の日々を乗り越えてきた11年間を振り返った。「いろいろあったけど、ここまで応援されると思っていなかった。いつもカネのためにやっていると言っていた。うそではないが、やっぱりそれだけのためではない。みんなのおかげです。楽しいボクシング人生でしたね」。タオルで何度も目頭を押さえながら、言葉を絞り出した。目は真っ赤だった。(勝田 成紀)

 【山中慎介Point】 本当にもったいない試合だった。比嘉選手は最終ラウンドでダウンさえしなければ勝っていただけに言葉にならない。ただ、比嘉選手らしい試合だったと言えば、そうだろう。3戦連続で世界挑戦のチャンスをものにできなかったが、すべての試合が紙一重という内容だった。

もう一度言わせてもらうが、比嘉選手には、もったいないという言葉しか、みつからない。(元WBC世界バンタム級王者・山中 慎介)

 ◆比嘉 大吾(ひが・だいご)1995年8月9日、沖縄・浦添市生まれ。29歳。沖縄・宮古工高でボクシングを始める。2014年6月、プロデビュー。15年7月にWBC世界ユース・フライ級王座、16年7月に東洋太平洋同級王座、17年5月にWBC同級王座獲得。デビューから15連続KO勝利の日本タイ記録樹立も、18年4月のWBC王座3度目の防衛戦で計量に失敗し王座剥奪。20年12月、WBOアジアパシフィック・バンタム級王座獲得。身長161センチの右ボクサーファイター。

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