2019年箱根駅伝で初優勝した東海大の6区を担った中島怜利(れいり)さん(27)は現在、ジュニア指導者とユーチューバーの“二刀流”で活躍している。千葉・松戸市で妻・智美ムセンビさん(25、旧姓・高松)と共に「トリガーJRC(ジュニアランニングクラブ)」を運営し、小中学生を指導。

ユーチューブ「レイリーチャンネル」では、陸上界への提言や走ることの楽しさなどの動画をアップ。箱根路を沸かせた山下りのスペシャリストが過去、現在、未来を語った。(取材・構成=竹内 達朗)

 19年1月2、3日。第95回箱根駅伝で東海大が悲願の初優勝を果たした。「黄金世代」と呼ばれた逸材たちが3年生の時だった。その一人の中島さんは6区を2位と好走。歴史的なVメンバーに名を連ねた。

 「入学した時、僕は同期の中で格下でしたけど、箱根は10区間もある。チャンスはあると思っていました。3年目の箱根で優勝して『夢はかなうんだ』ということを実感しました」

 しかし、4年目は箱根を走ることなく卒業した。

 「後悔はしていません。それまで陸上の世界しか知りませんでしたが、大学4年の時に視野が広がった。

結果的に、その時に勉強したプログラミングが今、とても役立っています」

 20年3月に卒業し、実業団の大阪ガスに進んだが、21年1月に退社した。

 「消化試合のような感じがしてしまいました。だったら、新しいことをしてみよう、と思いました」

 退社後、合同会社クラブトリガーを設立。24年には小中学生を対象としたトリガーJRCをたちあげた。

 「今、僕が一番力を入れている活動がトリガーJRCでの指導です。無理な練習はせず、正しい動き作りを教えています。本人や保護者に『全国大会で入賞を狙うような練習はしません』と伝えています。一番大事なことは走ることを好きになってもらうこと」

 単調な長距離走という競技は好きでなければ続かない。妻と明るく指導し、小中学生は楽しそうに走る。

 「将来、大学や実業団で活躍してほしい。伸びしろを残すというより伸びしろを作って高校に送り出したい。今、トリガーJRCで走っている子が何年後か箱根で走る姿を見たい」

 ユーチューブでも走ることの楽しさを伝えている。

その一方、日本陸上界に忖度なしの提言も行っている。

 「高校、大学、実業団での経験を生かし、思ったことを自由に発言してます」

 母校に対しても遠慮なく語る。22年以降、箱根でシード権(10位以内)を逃し、昨年は予選会で敗退した。

 「僕らの世代は皆『東海大で走りたい』と思って集まりましたが今、トリガーJRCで『東海大に行きたい』と言っている子は一人もいない。また、小中高生が『東海大に行きたい』と言うような魅力あるチームになってほしい。僕は今、東海大の大ファンなので応援しています」

 陸上界や母校を厳しく語ることもあるが、その根底には、愛情と熱意がある。

 ◆中島 怜利(なかしま・れいり)1997年11月7日、兵庫・姫路市生まれ。27歳。16年に岡山・倉敷高から東海大入学。箱根駅伝では1年から3年連続で6区を走り8位、2位、2位と活躍。20年に卒業し、大阪ガス入社。21年に退社。

同年からランニングクラブを運営。23年に日本選手権女子1500メートル優勝や名城大で全日本大学女子駅伝4連覇などの実績を持つ高松智美ムセンビさんと結婚。自己ベストは5000メートル13分53秒93、1万メートル29分15秒38。160センチ、49キロ。

 ◆東海大の「黄金世代」 15年の全国高校駅伝でエース区間の1区で上位6人中5人が翌16年に東海大に入学。倉敷の中島さんは同駅伝で6区を走り2位だった。黄金世代が2年時に出雲、3年時に箱根、4年時に全日本を制した。両角速監督(59)は中島さんについて「勉強は苦手だったけど、頭は良かった。我々、指導者に主張することは多かったですが、その主張は理論的でした」と懐かしそうに振り返った。

 ◆主な箱根駅伝OBユーチューバー 18年箱根駅伝に出場した帝京大OB田村丈哉さんの「たむじょーYouTube」はチャンネル登録者数約16万人の人気を誇る。青学大時代に「3代目・山の神」と呼ばれた神野大地M&Aベストパートナーズ選手兼監督のチャンネル登録者数は約5万8000人。駒大OBで1万メートル日本歴代10位(27分28秒13)の小林歩は現役トップランナーとして異例の「こばやんちゃんねる」を展開も、今年3月末にチームの移籍に伴い、ユーチューバー引退を宣言した。

編集部おすすめ