◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 19歳で後の世界王者に敗れてグラブをつるした男が、26歳でリングに帰ってきた。7月15日、7年ぶりの再起戦を1回TKO勝利で飾った稲元純平に、後楽園ホールの薄暗い階段の踊り場で話を聞いた。

「最高でした。めちゃくちゃ気持ちよかった」。デビュー戦を終えた新人のような笑顔には、7年分の思いが詰まっていた。

 中学で全国大会連覇、高校で全国選抜準優勝に輝いたアマエリートだった。しかし、デビュー2連勝で迎えた18年9月、後にWBA世界バンタム級王者となる堤聖也に3回TKO負け。「敗北を受け止めきれずショックだった」。いったん決まった再起戦もコロナ禍で流れ「意気消沈しちゃった」とリングを去った。

 それから4、5年は「完全にボクシングっていうものを遠ざけていた。試合もあえて見ないようにしていた」。未練を吹っ切るように、仕事に集中した。

 ただ「このまま負けて終わり、というのは嫌だった」との思いは残っていた。昨年10月、堤が世界の頂点に立った時も「うれしさ半分、悔しさ半分でした」と苦笑い。

そんな時、同門で40歳の日本ランカー・加藤寿から「腹を決めてやるしかない」と背中を押された。闘志に再び火がついた。

 最後に「堤選手も勝利を喜んでいるのでは?」と聞いた。稲元は「そうだったらうれしいですね」と頬を緩め、「今後はガンガン上を目指していきたい。そうすれば、また(堤と)お話しできる日が来るかも。その時のためにも頑張ります」と力強くうなずいた。

 ほどなくして堤がXを更新した。「純平、おかえり」。2486日ぶりの再出発へ、最高の祝福だった(ボクシング担当・勝田成紀)

 ◆勝田 成紀(かつた・しげき)1998年入社。今年からボクシング担当となり40年以上前の専門誌を断捨離できず。

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