競泳の世界選手権(シンガポール)男子200メートル(M)平泳ぎ決勝で、渡辺一平(トヨタ自動車)が2分7秒70をマークして2位。わずかに金メダルを逃したが、自身初の銀メダルとなった。

女子50Mバタフライは、池江璃花子(横浜ゴム)と平井瑞希(TOKIOインカラミ)がともに準決勝敗退。五輪3大会連続メダリストでスポーツ報知評論家の松田丈志氏がレースを分析すると共に、2028年ロス五輪でメダル獲得を目指す池江らへ、時間をかけた「試し」の重要性を説いた。

 

 渡辺選手はこれまでに2度、世界水泳ではメダルを獲得した選手。予選から落ち着いた試合運びで、経験が生きた印象だ。常に世界のメダル争いができる実力者であり、ここからロス五輪に向けては、どこに伸び代があるかを考えることが重要だろう。

 決勝を振り返ると、優勝した覃海洋(中国)選手がレース展開で一枚上手だった。2人のラップタイムを比較してみる。

 覃=2分7秒41(28秒58―32秒34―33秒14―33秒35)

 渡辺=2分7秒70(28秒56―33秒04―32秒25―33秒85)

 覃海洋選手はうまくタイムを刻んだ印象。一方で渡辺選手は、100~150Mで急にタイムが上がり、最後の50Mは大きく落としている。100Mから無意識に勝負をかけにいったのかもしれないが、競泳のセオリーからすると、急なペースの上げ下げはエネルギーロスにつながる。ここが敗因とみられ、金メダル獲得には少しもったいないレースだった。

 男子200M平泳ぎは今大会、全体的にレベルは高くない。

27年の世界選手権や28年ロス五輪はよりハイレベルとなり、メダル争いが難しくなっていくと予想される。渡辺選手も28歳とベテランの域。国内でも、7月に16歳の大橋信選手が2分6秒91をマークするなど、若手が台頭している。ロス五輪での勝負を見据え、年単位での強化策を練っていく必要があるだろう。

 池江選手はこの大会、珍しく「メダル」という言葉を口にしていた。私も可能性を十分に感じていたし、彼女も手応えがあったからこそ、メダルを意識していたと思う。ところが準決勝敗退という結果。悔しいというよりも、ショックという感情が大きかったのではないだろうか。

 準決勝から決勝にかけては、水中からの浮き上がりをより早くした様に見えた。遅れを取るスタートからの水中動作を減らし、得意な泳ぎの部分を増やそうとしたと推測するが、最後の3Mでバテた印象だ。ラスト3ストロークで泳ぎが小さくなり、タッチが合わなかった。無呼吸で50Mを泳いだことも、最後に疲れた要因かもしれない。

 50Mで五輪のメダル獲得を目指す池江選手も、渡辺選手と同様に、しっかりと今後の強化プランを練る必要がある。100Mの強化を並行することで50Mのスタミナ強化につながるという利点がある一方、男子自由形のマケボイ選手(豪州)のように、完全特化型で50Mに専念する選択肢もある。ただそのための体作りや必要な筋肉、伴う技術、泳ぎ方の習得など、試行錯誤はやはり年単位で時間がかかる。ロス五輪までと考えれば、チャンスはあと2シーズン。1シーズンをかけての「お試し」を、腰を据えてやっていかなければならない。

 ロス五輪では自由形以外の50M種目も正式に採用され、今後競泳界は、レースの高速化が進むだろう。この流れに日本もついていく必要があるが、逆に離されてしまっている印象はある。50Mのスピードが磨かれれば100Mにつながり、200Mにも好影響を与えると予想される。遅れを取らないよう、強化を進めなければならない。(北京、ロンドン、リオ五輪3大会連続メダリスト)

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